ケンガンアシュラ
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――いつかオーロラが見たいな、煌々の銀世界で。ね、連れてってよ。
スニーカーのような履き心地かと思っていたスケートシューズは、案外硬さがあって。自身の足にぴたと
「結構、その紐、固いのね」
『柔いと簡単に取れて駄目だ、硬さがねえと すぐ解けて怪我しちまう』
「全部任せきりになっちゃってごめんね」
『俺が誘ったんだよ』
前もって帽子と手袋を準備していたのだが、いざ持って来た物を見せると 手袋が薄いと言われ、結局、靴は勿論。手袋もレンタルする事となってしまった。彼と言えば、使い古されるも、大事と扱うマイシューズを持参していて、既、目にも止まらぬ速さで滑る準備を整えるのだから、流石と言える。対し私は、自分で履けるから、と一度はこの手でシューズの紐を結ぶも、これが固くて固くて仕方がなかった。準備に戸惑う私に気づいた彼は、特に笑う事なくその場へ
『よし、出来たぜハニー。滑りに行こう』
「緊張する、わ……もう既に歩き辛い」
『すぐ慣れるさ』
ベンチから腰を浮かせ膝を伸ばせば、シューズの底に付属するブレードがぐらつき歩行が難しい。まるで生まれたての子鹿だ。氷の上でないのにも関わらず ここまで歩き辛いなんて。実際滑った時の様子を想像するだけで気が重たくなって来る。きっと、周りには壁伝いでも上手く滑る子供や、プロ並に宙を舞う大人だって居る事だろう。せいぜい彼の隣に居て 恥を晒さないようにしたい物だが。そうして引かれた掌に掴まり、姿勢の曲がるこの身を。氷の世界へ繋がる扉の向こうへ預けると。
「――…凄い、広い」
独特の冷たさが、頬を滑らかに過ぎ去ってゆく。予め、ライトアウターと、他にも厚めのアウターを持って来るよう促された為、寒さは肌に届かない。風を通さない手袋のお陰もあり、これなら長時間楽しめそうな気がした。ふと、ある事へ気が付く。
「ねえ、アダム。今日ってたまたま空いてるのかしら、祝日だし混んでると思ったんだけど」
始めに想像していた雰囲気とはまるで異なる。楽し気な子供の笑い声や、カップル、家族の喋り声すら響かぬ静寂。周りを見渡しても、どうやら今日は私たち二人だけらしい。すると すっかり言い忘れていた、そんな表情を覗かせて。次の彼の言葉へは、思わず耳を疑ってしまうほど。
『ああ、今日は一日貸し切りだ』
「え……、貸し切り」
『元々、この屋内リンクはボスバーガーで持ってる
話によれば、此処はロナルドが運営するスケートリンク上らしく 多少無理を言って一日貸し切りとして貰ったらしい。多くは語らぬも、きっと。転びが前提である初めての雪遊び、私が周りの視線を気にせず遊べるよう、彼が配慮してくれたに違いない。それでも、貸し切りは少々行き過ぎな気もするが。
「ありがとう、これで心置きなく転べそう」
『おお、どんどん転びな。あ、でも顔に傷だけは作んなよ、プリンセス』
「善処いたしますわ、王子様」
「ね、アダム」
『あ? 休憩かい』
「ううん。私、壁伝いて歩いて遊べるから、アダムは思いっ切り滑って来ていいわよ」
『いいよ俺は。一人で走るより、名前と一緒がいいんだ』
「それは嬉しいけど、私だって。あなたが滑る所、見てみたいし」
“氷の上の格闘技”と称されるアイスホッケー。暗黙のルールで選手同士による接触からの殴り合い、乱闘すら許容される危険を伴う競技。彼もまた、するすると滑りやすい氷上で烈しな経験を積んで来たのだから、当たり前にも滑りのプロである。玄人の走りを見れる機会など滅多に無い物だ、貴重な光景をこの目に収めて置きたい。
『しょうがねえな』
すると、何故だろう、身体が急に宙へ浮く。
「…きゃ…!……まっ、待っ、」
飛び出した悲鳴などはまるで
「わ……、す、凄い…!…」
伝い滑りでは感じる事の出来ない風。記憶が正しければ アイスホッケー選手の試合時の時速は約四十から六十キロ、今なら車と並走する事だって可能な速さだ。氷が細かく削れる音と、肌を駆け抜けていく冷たな風が、なんて心地良い。
『どうだい、プリンセス、初めてのスケートは』
「し…、…心臓、心臓止まっちゃいそう…、凄い、こんなの初めて…!…連れて来てくれてありがとう、アダム!」
自分が車と同じような速度で走っているなんて、想像も付かない。想像も付かないお陰もあり、いつの間にか怖さは何処かへ消えていた。もう何周しただろう、猛スピードで氷を流れる身は、次第、穏やかな風になり。切れるよう頬を刺激していたそれが、ほぼ無風になった頃。
『よし、下ろすぜ、足元気を付けろよ』
「ん、ありがとう」
未だ興奮冷めやらぬ私は、何だかこのまま、自分でも滑れそうな気がして。そんな事を口にすると、彼はおかしそうに吹き出して笑うのだった。煌々、煌々、削れた氷が風に流れ、空中を舞い、柔らかに肌へ落ちてくる。さながら、銀世界、空を煌めく小さな星の光が ゆるり溢れてくるような幸せ。
「アダム………」
十分、もう十分幸せなはずなのに。本当にこの人は。私の心臓をいくつ奪って行くつもりなのだろう。氷上、気が緩めば直にでも転んでしまいそうなこの場所で。彼は片膝で
『Can
「あなたが傍に居てくれるなら、オーロラなんて要らないわよ」
分厚い手袋を外すと同時。左手の薬指に、銀世界から、星の音が落ちて来た。