ケンガンアシュラ
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
丁度シャンプーとトリートメントが無くなった事もあり、買い足しに行った薬局で購入したのは いつも使っている物とは別の匂い。以前のシャンプーはどうやら彼のお気に入りらしく、度々、指先で髪を
『もう、入ってええ?』
毎回、毎回、不要だと言っても生える面倒な産毛の処理も。洗顔のあと、少しと値が張る泥タイプのパックだって、きちんとした。身体の隅々まで入念に流し終えた矢先、その声は、早速と曇ガラスに肌色を映して居る。
「早いってば、身体流したら呼ぶって言ったでしょう」
買い足したシャンプーをレジへ持って行った時だ。レジのすぐ横に、金木犀の香りがする入浴剤がばら売りされて居て。いつも互いにシャワーで済ましてしまう事が多いのだが、今日は特に冷えるし、湯船に浸かるもの良い、と会計前に慌しくも その一つを摘んでは
『いや、待ちきれんと脱いでもたて』
「……もう」
以前だ。立っているだけで汗をかくような、暑い暑い夏が終わり、湯船へ浸かりたくなる季節となった頃。彼から前述と同様、風呂へ誘われた事があった。体躯の良い彼だ、波々と張った湯の殆どを 湯船から放り出す形で身を置いて、その
「あと十秒だけ待ってくれない、泡、流しちゃうから」
『へいへい。じゅーう、さーん、にーい』
「飛ばさないでよ」
慌ててシャワーで全身の泡を洗い流し、濡れた髪を絞っては、この身を湯船へ落とし込む。瞬間、それと同時と言っていい程。全裸の彼が、堂々と風呂場のドアを開け 浴室へ足を踏み入れるのだった。
『お待たせしました、あなたの、ナオヤ・オオクボです』
「全然待ってないし、むしろ来るの早すぎよ」
『ええやん。早く来た方が、長く一緒に居れるやろ』
無意識の口説き文句に、湯の熱さの
『ほな、失礼』
意外に、電気を消しても暗闇に瞳が慣れてしまえば 互いの肌は容易に見える物。恥ずかさもあり彼に背を向ければ、私の背中を覆うよう、固い筋肉が肌に充っていく。少しでも彼が窮屈にならないようにと、身を縮めて居れば、途端、太い指先に肩を掴まれて。
『身体、預けとき、その方が楽やろ』
「……ん、ありがとう」
予め、湯量を少なめにしたのにも関わらず 彼が入れば熱い湯が滝のように浴槽外へ飛び出していく。次からは、もう少し湯を減らさねば。――…固い、固い、胸板は、私の背を
『匂い、変えた』
「そう。直也、前のシャンプーの香り気に入ってくれてたけど、売り切れで」
新しいのにしたの、と応えば、その匂いを確かめるよう深く何度も息を吸う。せっかく、彼が褒めてくれていたお気に入りの香りだったのに、もしも今回、余り好みの香りで無かったら、私がへこんでしまいそうな気がする。すると、気の
『うわ、むっちゃええ匂い』
「そう、かな」
『まあ俺は、名前ちゃんの匂いなら何でも好きやけど』
「………」
――……そんなの、初めて聞いたし、今まで言われた事など無い。するり、垂れた髪の毛を 太い指先が耳へと掛けてくれる。晒された首筋には埋まるよう、彼の唇が静かと触れていくのだった。
『なに、俺好みの匂いにしよう思て、ずっとそのシャンプーにしとったん』
「……、内緒」
『へえ』
肌に付いた水滴を
「……なお、……っ、直也、」
『ん』
「あ……、充たってる」
『充ててんの』
気になるん、と問われれば。当たり前に首を縦に振る他なくて。やはり、以前同様、この流れで 浴槽を汚す程に烈しく繋がり求めるのだ。掌を壁に付いて、後ろから もう入り切らない場所まで酷く
『んじゃ、温まったし、俺 先上がるわ』
「……え、」
急な置き去りの意。今まで吐息を荒くして、首筋に舌を這わせていた挙げ句、その芯に熱を灯していたはずが。一体、何が起こったのかと、まるで考えが及ばず、下腹部の違和感だけがそこに在る。普段の冗談と思いきや、どうやら言葉に嘘はないらしい。彼が立ち上がり、湯に波を作ったあとだ、焦燥に駆られた私は 咄嗟にその太い腕を掴む。
「直也、……待って、」
どうして、何で。やはり、以前の香りの方が良かった、産毛の処理が甘かった、漏らした声が可愛くなかった、頭に
「――…しないの」
放った声は、浴槽だからか、良く響く。こんな事を言うなんて。
『…ええの』
「……“ええの”…って」
これまで、駄目な理由でもあったろうか。私は彼の声に首を傾げると、その頬は。湯の所為か、はたまた別の訳か。薄く紅潮を見せていて。
『…いや、昨日もしたやん、一昨日だって』
「……したけど」
『なんか、いい年こいて盛ってる思われるん、格好悪いかなって……思たんやけど』
「なに、それ」
何なのだ、その思考は。その思考回路はどこから来たのだ。急にも急で、
「――…焦らさないで抱いてよ、馬鹿直也」
『ああ、馬鹿言うたな』
「良いから、もう早くベッド連れてって」
半ば焼けになり、大きく両手を伸ばして見せれば、彼の腕によって身体を拾われ。『随分、気い強いお姫様やな』と軽々、容易に抱き上げられるのだ。短い悲鳴を漏らすと、瞬間に、それは彼の唇で塞がれる。
『ほな、明日も、遠慮なく』
抱かれた胸に頭を寄せる。ふと、香るのは、先に浴槽へ入れた金木犀の入浴剤のそれと、仄かに漂う、彼の匂い。私も彼同様、特定の匂いじゃなくて。“彼自身”の匂いが好みなのだと知る。