ケンガンアシュラ
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身体が重い。いや、元々身体は重いのだ、身長、体重共に一九三センチ、一九三キロと誰もが驚愕する特異体質なのだから。しかし、それにしたって、重い。ふと、この身体を支える特注のソファに身を預けながら 思い当たる節を探ってみる。辿った記憶で、鮮明に思い出せるのは せいぜい三日前まで。――…三日前、連日と続いた仕合の疲労が尾を引いて居るのか、はたまた一昨日。関林と野球観戦をしながら明け方まで飲んだ
『どれも、
確かに。連日と仕合が続けば、さすが、この身体へも高負荷が掛かるが、そんな事を感じる
『あ、やべ』
その際だ、コンビニで摘んだ、表紙からして卑猥な本を 奴の部屋のプロレス誌へ挟んだままにしていた事を今になって思い出す。まあ、特に好みの本ではなかったし、奴も良いように使うか処分してくれるだろう。全くを
『……ん、腹』
ふい、自身の腹に掌を充てると、急に胃腸が動き出したよう、聞いた事のない悲鳴を上げる。――…そうだ、腹だ。そうして現在進行系、キッチンでいそいそと飯を
「お腹空いちゃった」
『まあ、死しそうなくらいには』
その言葉に彼女は目を丸くしたあと、おかしそうに笑って。「もうすぐだからね」と苦笑混じり、優しく宥められては、まるで童心に返ってしまいそうな程。ついでと言ったらなんだが、少しくらい甘えて見ても良い気がした。
「ご飯にしよっか」
可愛気なエプロンを離したあと、味噌汁の良い香りがして。より一層と腹の虫が
「どうしたの、お腹空いたんでしょう」
『いや、まあ…なんだ、とりあえず膝枕』
居酒屋じゃあるまい、とりあえずビール、のような乗りで口走ってしまったそれは。頭に糖分が足らない所為だと自分に言い聞かせたい。普段言い慣れない言葉を口にした為、酷く笑われるとも思ったが、案外驚きは少ないようで。「いいわよ」と、ソファへ腰を下ろした彼女の膝へ、重たな頭を乗せるのであった。寄せたスカートの薄生地から伝わる、仄かな体温。先の味噌汁の匂いも良いが、肌の匂いもまた。食欲ではない、何かをそそられるには十分過ぎるほどに。
「珍しいわね、どうしたの」
『何となく』
「甘えたくなった」
『……そんな所だ』
詰まらせかけた声に、彼女は嬉しそうと口角を上げ。ふと何か思い出したかのよう、柔らかな声で呟く。
「ねえ、他には」
『…ん?』
「ないの、他にして欲しい事」
きっと、膝枕を頼んだ俺を珍しがったのだろう。普段言わないような事を聞いてみたい、そんな興味を覗かせて。下りてくる長い睫毛と瞳を重ね、途端、視線が捉えるは、膝元から見上げた彼女の濡れた唇。言う所、彼女の問に対しての答え。それは勿論“ある”一択。正直、あんな事をして欲しければ、こんな事だってして欲しい。欲望塗れの脳内は、食欲と似ている。喰っても喰っても、喰い足りない、そんな様。しかし、脳内の事柄を直接口に出来る程、肝は座って居ないのも事実。
『…そうだな…なら。頭を……その』
情けないが、これくらいが精一杯。彼女は吹き出しそうになる手前の口元を指先で覆い、「よしよし、して欲しいのね」と半ば面白そうに その指を髪へと絡めていく。細い指先が髪を
「今日は甘えたい日なんだ」
『……デケェ図体で、なに甘えてんだって思ってんだろ』
「そんな訳ない。若槻さん、あんまり甘えたりしないでしょう、何だか嬉しいし、可愛い」
可愛い、なんて言われ慣れないし、そもそも言われた試しがない。それでも、何故か嬉しくなってしまうのは、宝物を扱うよう、
『じゃあ、もう一つ』
だから、居酒屋じゃないのだ。見上げると、瞳を丸くした彼女が首を傾いでこちらを覗いていた。きちんと視線を合わせれば、きっと照れて肌が赤くなってしまうだろう。何となくそれが恥ずかしくて、若干に反らしながら声を届かせる。
『……俺が、悦びそうな事、言ってみてくれ』
まだ身体にアルコールすら入っていないというに、何を馬鹿言ってるんだ。こんな事なら、ソファに寝転がる前に軽く酒を煽るか、晩酌でもしていれば良かった、と今更ながら後悔する。例えばそう、幽体離脱した状態で自身の甘える姿を見るとしよう。非常に耐え難い情景だ。しかし、彼女曰く、甘える俺の姿を見て“嬉しい”“可愛い”と言う。調子に乗るのは良くない、良くないのだが、次が欲しくなるのは当然の事と思える。
「本当に、甘えたい日なのね」
『気持ち悪いとか、思ったろ』
「まさか、本当に可愛いわよ」
待て、もしかして、何でもかんでも「可愛い、可愛い」と言うタイプじゃないだろうな。日本じゃ、大体、可愛いと言って置けば 困難な状況を乗り切れる事が多い。するり、半ば疑いの視線、そう流し目を送ってみれば。彼女は少しの間を開けたあと。背を丸め、俺の耳元へと唇を近づけるのだ。
『おい、可愛い、は無しだぞ』
「もう言わないってば」
そうして、微かな笑みが溢れたと同時。耳元に、落ちてくるは、温かな吐息。
「若槻さんの、好きにして良いよ」
気分は、空腹の胃に、ボディブローが直撃したよう。下腹部に感じる痛みと特有の重みは、吐息に紛れた言葉を
『名前、ベッドへ行こう』
「え、待って、ご飯は」
『俺の好きにして良いんだろ』
「言ってみてくれって言われたから、言っただけ、って……きゃ、」
情事が終わる頃、俺は極限成る空腹の所為で
『あと、一時間くらいでいいんだ、このまま少し甘えさせてくれ』
甘えついでだ、肌が絡んだあとの飯は。『あーんしてくれ』とか言ったらやってくれるだろうか。いや、さすがにそれは……やり過ぎか。