ケンガンアシュラ
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
――…手にするビニール袋を覗けば 今夜の夕飯の一部である、鶏のつくねがちらちら瞳の端に映り込む。
日に日に、冬特有の肌を刺す冷たい風が 頬をすり抜けるようになって来た。身体に
そうして事は、冷蔵庫に買い出しの食材を入れている途中の出来事である。急に短い悲鳴を上げた物だから、何事かと思いきや。「鶏のつくね、買い忘れちゃった」と涙目にこちらを振り返るのだ。別に無くてもさして問題ないと言い聞かせるも、「もう一度スーパーへ買いに行く」と頑なに利かない。鼻の頭を赤くさせ、
『ただいま。つくね、買ってきたぞ』
鶏のつくねだけでも良かったが、隣の海老つくねとも目が合い ついでにそれもかごへ入れて居た。種類は多い方が楽しめそうで良いだろう。
『……おい、』
どうした物か、彼女の返事が聞こえない。スーパーへ行って不在にしたこの短時間で具合が悪くなったとは考え難い。それに、もし具合が悪ければ そもそも今晩泊まりになど来ない事だ。自分の家と言うのに、何故か緊張を持ちリビングへ足を進めれば。床に腰を置く彼女の後ろ姿が見え、ほっと胸を撫で下ろす。
『名前、ったく、ビビるじゃねえか。返事くらいちゃんと……し…』
束の間だったのだ。ゆるり振り返った彼女が、震えた手先で持つ物。月刊誌、週刊誌、プロレスのありとあらゆる雑誌に埋もれていたそれは、派手な表紙のただ一冊。
「関さん、ごめんね。見るつもりはなかったの…」
分が悪いよう彼女は
「散らばってた雑誌が気になって、
“たまたま出て来た物”、それは
『ち、違うぜ、名前。これは俺のじゃねえ。前にほら、若槻と宅呑みしたって話したろ、そん時にアイツが持って来てよ…』
こんなにも剥き出しに焦れば、むしろ一層怪しまれそうな気がした。別に自分の物ではないのだから、堂々としていればいい物を。頭と身体は全く別だと思い知らされる、平然を装いたい脳に逆らい、手汗が湧いては止まらない。しかし、言葉の最後を千切るよう、彼女はおかしそうに眉を八の字にして吹き出すのだった。
「…もう、関さんったら、焦り過ぎよ」
『……む』
「えっちな本くらい、あるのは当たり前じゃない」
『あ…いや、そりゃ本当に俺のじゃなくてだな』
「“ギャルハメ即パコ大特集”?」
『………………勘弁してください』
顔に登った熱をそのまま、鶏つくねと 海老つくねが入ったビニール袋を手に頭を下げる。彼女は困り顔で笑い、今度こそ腹を抱え。目尻に浮かんだ涙を指先で擦るのだった。――…一体これは何の稽古だ、何と言う名の修行なのだ、自分の部屋だと言うのに何処かへ逃げ出したくて仕方がない。
「本当に、気にしないわよ。“そう言うの”って、生理現象でしょう。えっちな本やDVDを持ってるくらいで騒ぐ程 私も若くないから、ね」
本日三度目の溜め息が漏れる。自己の物ではないにしろ 生理現象の際、処理をしているのは事実。
『咎めないんだな』
「勿論」
首を立てに振る彼女は、もう思いっきり笑い終わったのだろう、目尻の涙は消えていた。何だか勘違いされて居そうな気がするが、そもそも“その本”で処理などしていない。彼女が見つけるまで、雑誌の存在すら記憶の彼方だったのだから。――…声に出して言う物ではない、処理の際。雑誌やDVDなど必要とした事はないのだ、いつだって頭の中に在るのは彼女ただ一人だと。そう、伝えてしまいたい。
『……俺は嫌、だな』
「え…」
『いくら生理現象でも…』
手に提げたビニールから つくねを取り出し、冷蔵庫のチルドへ入れて行く。背を向け声だけにしたのは、顔の熱が未だ冷め切らないような気がしたからだ。
『…名前が……、他の野郎考えて、一人でするっつうのは、……その』
「……」
『…妬ける』
意外と重いと思われるだろうか。声にしたは良いが、言わない方が良かったのではと 慌て取り
「ねえ、関さんに恥ずかしい思いさせちゃったから。今から言う事で、おあいこにするね」
『……』
回された腕に力が籠もると、暫くの沈黙のあと。それは今にも切れそうな糸のよう、細い声で呟かれるのだった。
「……一人でする時は、あなたを想ってしてる」
内緒よ、と恥ずかし気に伝えられるが、本人を前に内緒も何もないだろう。しかし、心臓の躍動がこんなにも駆け足になるのは何故だろう。彼女が傍に居るからか、彼女と同じ気で居るからか、彼女の声が背に響くからか。考えるだけ無駄だ、もう、どれもこれも全てが要因でしかない。そうして、腹に在る細い手に 自分のそれをそっと重ねた。
『ありがとう、名前。俺はいつまでも、お前に夢中だ』
ちゃんこを作るか、と声を掛ければ それは明るい声で。「私、関さんのちゃんこが世界一好き」と言う物だから。そこは俺が世界一ではないんだな、と思わず肩が落ちる。――…落とした肩の真意は、今度こそ恥ずかしい為、内緒としておこう。