ケンガンアシュラ
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傷跡に香水の同世界線。ガオラン ルートver.
拳願絶命トーナメント一回戦目も、終盤に差し当たった所だ。次は確か、英と坂東の仕合だった気がする。ショルダーバッグへ入れていた携帯を取り出して、トーナメント表を確認すれば。やはり、彼らの仕合で間違いはなかった。勝負事であるからして、どんな戦い方をするのかこの目で観る事も重要である。短い仕合時間の中で、勝ち上がる相手の特徴を捕えておく必要があるからだ。しかし、そんな事は恐らく私がせずとも 彼の視界に収めれば容易。ただに仕合を眺めて居れば良いと、願流島へ足を着いたのち、既に何度かため息を着かれている。
「次の仕合まで、意外と時間あるのよね」
会場設営か何かは知らないが、流れるよう次の仕合へは続かない。もどかしさを覚えるも、それもまた一興。こんな上げ膳据え膳で設備も豪華な場所へ来る機会など、今後はなかなか無いだろう。味わえるうちに味わって置くのが良い。既に綺羅 びやかでなお、仰々 しい仕合会場は先程あとにしていた。あそこにいると何となく、雰囲気に飲まれ緊張してしまう。島には人工だろうが、せっかく緑の芝生が張られている。殺しと言ってもいい戦いの合間、掠 れる心を落ち着かせるには 自然と戯れるのがいい事だ。――天気も良好。足元を抜けていく、さらさらと音を鳴らす芝生を歩いていれば。
「………猫」
猫だ。まさか島に野生の猫が居たなんて。柔らかな芝生を気まぐれに歩く猫に、自然と口角が緩む。近づくと人懐く、殆ど警戒心なく触らせてくれた。何度か撫でるうち、高い声を出しては仰向けに寝転がる。所謂 “へそ天”は、猫を飼っていなくとも分かる。これは相当安心しているそれ。
「わ、どうしよう、なんて可愛いの…」
もう毛が服に付くなどお構い無し。両手を使って撫でくり回せば、甘えた声にこちらも有頂天が必至。ふと、芝生に一つの影が溢れる、背後に誰かが立っているのだ。そうして柔らかな毛並みから手を離して、後ろを振り返れば。
「初見さん」
「よう、名前ちゃん。愉しんでるかい」
丁度先の仕合で、千葉と一戦交えた男。乃木グループの闘技者、初見が 緩やかな笑みを浮かばせそこに居た。ありきたりな言葉で繕 おうとしたが、恐らくは見抜かれてしまう事。彼の前で嘘など意味を持たない物だ。
「…正直、愉しむ余裕は私には……。死人が出るかもしれませんし」
曇った声で呟くと、彼は少し驚いたあと。呆気に取られた様子で高らかに笑う。
「違えよ、今よ、今」
「え、今」
彼が、視線を落としたのは私の膝元でぐるぐると喉を鳴らす愛らしい猫の姿。やっと合致が行き、思わず吹き出す。
「…はい。楽しんでます、とても」
そう答えると初見は膝を折り、より私の近くへと腰を下ろす。そして自身もその柔らかな毛並みへ触れようとしたのだろう。彼が少しと指先を動かした時だ。今の今まで、穏やかに瞳を閉じていた猫は毛を逆立たせ。勢い良く開いた瞳は臨戦態勢そのもの。あっという間に後ろ足を蹴り飛ばし、私の膝元から凄まじい事に駆けていく。
「あれまあ、逃げられちったよ」
「もう、初見さんが怖がらせるからよ。……せっかく楽しんでたのに」
わざとらしくため息を着いて見せ、ちらと初見へ目を配る。何故だろう、気付けば不敵な笑みを浮かべているのは。するり、先ほどまで猫を撫でていた私の手に初見の指が触れる。固い指だ。捉えられた腕を辿り、彼の瞳を覗けば。――…一体どんな感情なのだ、不思議な事に、瞳の奥から何一つとして真意を読み取る事が出来ない。視線を合わせ何度目かの呼吸のあと。風に乗るよう初見が声が、静かに囁くのだ。
「なら代わりに。俺が愉しませてやろうか」
「…」
「猫に可愛い声出させるの、得意なんだ、俺」
問いは無意味だ。離れようと距離を取ろうも掴まれた腕はぴくりとも動かない。あるいは、首を立て振らない限り。
「――初見さん、冗談はよして」
瞬間だ。後ろから肩を引き寄せられたと同時、初見と繋がっていたその手は いとも簡単に解ける。あれだけびくともしなかった物がどうして。何が起きたのか、そう背中の温かな感触に振り向けば。
「ガオラン…」
瞳を丸くした私を他所 。彼が見つめる先は、目の前に居て。払われた手を少しばかり赤に染めた初見は 曲げた膝を伸ばし立ち上がる。そうして面白気に鼻を鳴らしてみせるのだった。
「へえ。まるで騎士 気取りじゃねえか」
すれ違い様と掛けられた初見の言葉に、彼は低く声を押す。瞳は光を寄せ付けず、ただに黒く据わっていた。
『生憎』
初見が彼の言葉を聞き取ったかは定かでない。しかし、どうだろう。抱かれた腕に籠もる体温を伝って、私の熱を上昇させるのは。
『“気取り”は余計だ』
彼の声のあとに続き、初見の高い口笛が空に鳴る。
_______________
『俺の居ぬ間に外へ出るな』
「ただ外の空気を吸いに来ただけよ」
きっとどんな返事をしても良い顔はしないだろう。事実か定かでないが、この島に刺客が送られている事は耳に届いていた。彼もまた、その疑念を捨てられずこうして後を追って来たに違いない。ふと、彼の腕が伸びれば。先程まで初見に握られていた手首を無造作に掬 われる。痛みは殆どないが、良く見なければ分からない赤い引っ掻き傷がそこにはあって。
『奴か』
「違うわ、初見さんはそんな乱暴しないもの。猫よ、猫」
『………まあいい。どの道決勝で、猫のよう頼りない鳴き声で命乞いをさせてやる』
「だから猫だって言ってるのに」
表情こそあまり変わらず居るものの、声色で分かる 何だか面白くなさ気な姿。どことなく眉間の皺は深く、唇もつんと尖っていて。その様子に、名案とは程遠いが一つ彼へと提案を試みる。
「あ、ねえ。ガオラン、一緒に猫を探さない。さっきまで居た猫、本当に可愛いったら」
すると 最後の言葉を待たずして、彼は私の声を遮った。
『猫を探すくらいなら、貴様を探している方が幾分良いだろう』
「…」
『俺は、そちらの方が愉しめそうだが』
太い指先で、手首に付いた引っ掻き傷へ触れられる。それはまるで、猫を撫でるかの如く優しく柔らかに。視線を上げれば、絡まるは直線の瞳。ただにある黒い瞳の奥には、頬を少し紅潮させた私が映っていた。吸い込まれてしまいそうな黒へ、喉奥に埋まる私の声もまた。自然と溢れては吸い寄せられる。
「……そんなに見つめたら、穴が空きそうよ」
何故だろう、細く流れる瞳を少しばかり丸くしたあと。割れ物を扱うよう温かな視線が下りて来る。いつの間にか、先程までの不機嫌など何処 。この短い間に何か良い事でもあったろうか。
『丁度いい』
――握られた手首は。彼の体温を緩やかに広げ全身へと巡っていく。
『傷物にしておけば、他に貰い手も無くなる』
拳願絶命トーナメント一回戦目も、終盤に差し当たった所だ。次は確か、英と坂東の仕合だった気がする。ショルダーバッグへ入れていた携帯を取り出して、トーナメント表を確認すれば。やはり、彼らの仕合で間違いはなかった。勝負事であるからして、どんな戦い方をするのかこの目で観る事も重要である。短い仕合時間の中で、勝ち上がる相手の特徴を捕えておく必要があるからだ。しかし、そんな事は恐らく私がせずとも 彼の視界に収めれば容易。ただに仕合を眺めて居れば良いと、願流島へ足を着いたのち、既に何度かため息を着かれている。
「次の仕合まで、意外と時間あるのよね」
会場設営か何かは知らないが、流れるよう次の仕合へは続かない。もどかしさを覚えるも、それもまた一興。こんな上げ膳据え膳で設備も豪華な場所へ来る機会など、今後はなかなか無いだろう。味わえるうちに味わって置くのが良い。既に
「………猫」
猫だ。まさか島に野生の猫が居たなんて。柔らかな芝生を気まぐれに歩く猫に、自然と口角が緩む。近づくと人懐く、殆ど警戒心なく触らせてくれた。何度か撫でるうち、高い声を出しては仰向けに寝転がる。
「わ、どうしよう、なんて可愛いの…」
もう毛が服に付くなどお構い無し。両手を使って撫でくり回せば、甘えた声にこちらも有頂天が必至。ふと、芝生に一つの影が溢れる、背後に誰かが立っているのだ。そうして柔らかな毛並みから手を離して、後ろを振り返れば。
「初見さん」
「よう、名前ちゃん。愉しんでるかい」
丁度先の仕合で、千葉と一戦交えた男。乃木グループの闘技者、初見が 緩やかな笑みを浮かばせそこに居た。ありきたりな言葉で
「…正直、愉しむ余裕は私には……。死人が出るかもしれませんし」
曇った声で呟くと、彼は少し驚いたあと。呆気に取られた様子で高らかに笑う。
「違えよ、今よ、今」
「え、今」
彼が、視線を落としたのは私の膝元でぐるぐると喉を鳴らす愛らしい猫の姿。やっと合致が行き、思わず吹き出す。
「…はい。楽しんでます、とても」
そう答えると初見は膝を折り、より私の近くへと腰を下ろす。そして自身もその柔らかな毛並みへ触れようとしたのだろう。彼が少しと指先を動かした時だ。今の今まで、穏やかに瞳を閉じていた猫は毛を逆立たせ。勢い良く開いた瞳は臨戦態勢そのもの。あっという間に後ろ足を蹴り飛ばし、私の膝元から凄まじい事に駆けていく。
「あれまあ、逃げられちったよ」
「もう、初見さんが怖がらせるからよ。……せっかく楽しんでたのに」
わざとらしくため息を着いて見せ、ちらと初見へ目を配る。何故だろう、気付けば不敵な笑みを浮かべているのは。するり、先ほどまで猫を撫でていた私の手に初見の指が触れる。固い指だ。捉えられた腕を辿り、彼の瞳を覗けば。――…一体どんな感情なのだ、不思議な事に、瞳の奥から何一つとして真意を読み取る事が出来ない。視線を合わせ何度目かの呼吸のあと。風に乗るよう初見が声が、静かに囁くのだ。
「なら代わりに。俺が愉しませてやろうか」
「…」
「猫に可愛い声出させるの、得意なんだ、俺」
問いは無意味だ。離れようと距離を取ろうも掴まれた腕はぴくりとも動かない。あるいは、首を立て振らない限り。
「――初見さん、冗談はよして」
瞬間だ。後ろから肩を引き寄せられたと同時、初見と繋がっていたその手は いとも簡単に解ける。あれだけびくともしなかった物がどうして。何が起きたのか、そう背中の温かな感触に振り向けば。
「ガオラン…」
瞳を丸くした私を
「へえ。まるで
すれ違い様と掛けられた初見の言葉に、彼は低く声を押す。瞳は光を寄せ付けず、ただに黒く据わっていた。
『生憎』
初見が彼の言葉を聞き取ったかは定かでない。しかし、どうだろう。抱かれた腕に籠もる体温を伝って、私の熱を上昇させるのは。
『“気取り”は余計だ』
彼の声のあとに続き、初見の高い口笛が空に鳴る。
_______________
『俺の居ぬ間に外へ出るな』
「ただ外の空気を吸いに来ただけよ」
きっとどんな返事をしても良い顔はしないだろう。事実か定かでないが、この島に刺客が送られている事は耳に届いていた。彼もまた、その疑念を捨てられずこうして後を追って来たに違いない。ふと、彼の腕が伸びれば。先程まで初見に握られていた手首を無造作に
『奴か』
「違うわ、初見さんはそんな乱暴しないもの。猫よ、猫」
『………まあいい。どの道決勝で、猫のよう頼りない鳴き声で命乞いをさせてやる』
「だから猫だって言ってるのに」
表情こそあまり変わらず居るものの、声色で分かる 何だか面白くなさ気な姿。どことなく眉間の皺は深く、唇もつんと尖っていて。その様子に、名案とは程遠いが一つ彼へと提案を試みる。
「あ、ねえ。ガオラン、一緒に猫を探さない。さっきまで居た猫、本当に可愛いったら」
すると 最後の言葉を待たずして、彼は私の声を遮った。
『猫を探すくらいなら、貴様を探している方が幾分良いだろう』
「…」
『俺は、そちらの方が愉しめそうだが』
太い指先で、手首に付いた引っ掻き傷へ触れられる。それはまるで、猫を撫でるかの如く優しく柔らかに。視線を上げれば、絡まるは直線の瞳。ただにある黒い瞳の奥には、頬を少し紅潮させた私が映っていた。吸い込まれてしまいそうな黒へ、喉奥に埋まる私の声もまた。自然と溢れては吸い寄せられる。
「……そんなに見つめたら、穴が空きそうよ」
何故だろう、細く流れる瞳を少しばかり丸くしたあと。割れ物を扱うよう温かな視線が下りて来る。いつの間にか、先程までの不機嫌など
『丁度いい』
――握られた手首は。彼の体温を緩やかに広げ全身へと巡っていく。
『傷物にしておけば、他に貰い手も無くなる』