バクテン!!
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『こりゃマジで何か出そうだな』
「な、何かって…なに」
シロ高との合宿後。暗くなった校舎内で、月雪の提案による謎のかくれんぼ勝負が始まっていた。
『確か、トイレの…えーと。花子さん?佳代子さん?貴子さん?道子さん?それから』
「し、七ヶ浜くん、ちょっと。やめてよ…って…しかもそれ、一体 何人居るの」
月雪が言うには、各高から一人ずつ鬼を決め、より多く隠れた人を見つけた鬼が勝ちらしい。一回目のかくれんぼの鬼は、七ヶ浜と、シロ高キャプテンの高瀬だったが、決着が付かず、二回目のかくれんぼに突入した所だった。
しかし、暗く静かな校舎。日中の明るい学校とは比べ物にならない不気味さを醸しだしている。これは、もはや かくれんぼではなく、肝試しではないだろうか。
『なあ、二回目の鬼って』
「美里くんと、月雪くん」
『ほう。名取四中コンビな。あいつら、どっちが多く見つけられるか』
この不気味な校舎を 楽しそうに堂々と歩ける七ヶ浜の肝の据わり用には頼もしさを覚える。私は、そんな彼と行動を共にしていた。
「とにかく、早くどこかに隠れよう」
『そうだな。んー。おっ、あそこはどうだ』
「ん?」
七ヶ浜が指差す先は、“保健室”だった。模型の骸骨や 良く分からない薬品だらけの部屋は出来れば入りたくない。
「ええ〜、嫌よ。保健室なんて一番不気味よ。他の所にしようよ」
『こんだけ暗けりゃ どこも一緒だろ』
ずんずん前へと進む七ヶ浜の服を引っ張るが、体格も力も 全く比べ物にならないため、逆に私が彼に引きづられる形になっている。保健室を隠れ場にしようとする七ヶ浜を何とか止めようと躍起になっていると、静かな校内に 少し遠くの方で、美里と月雪の声が響く。
「みさぽん、絶対僕の方がたくさん 見つけちゃうからね」
「…どっちでもいい」
「みさぽん、つまんなあ〜い」
「真白、もう少し小さい声で喋れ。俺たちが近くに来た事が知れたら捕まえずらいだろ」
「ふふ。無意識で燃えちゃう みさぽん。やっぱ面白い」
いけない。早速見つかってしまう。
私と七ヶ浜は顔を見合わせ、パタパタと一番近くにある保健室へと入った。
ドアを閉め、保健室の中で どこか隠れる所を探す。
『クソ…見つかるわけには行かねえ…!あのリンゴリラに負けるのを想像しただけで腹が立つ…!』
一体どこまで張り合うつもりなのか。きっと、今頃 高瀬も同じような事を考えているに違いない。
ふと、美里と真白の声が だんだんと近くなっている事に気付いた。
『やべえ、美里達、もうすぐそこまで来てやがる…。名前! とりあえず、この中に隠れるぞ』
「えッ…ちょ」
手首を掴まれ、私は七ヶ浜に引っ張られる。瞬間、白い布を被せられ、彼との距離が一気に縮まった。
「七ヶ浜くん、嘘でしょ…」
『隠れる所、ここしかなかったんだ、しょうがねえだろ』
隠れた場所は、保健室にあるベッド。もちろん学校にあるベッドの為、簡易的で少しでも動くと ギシギシと音を立て軋むシングルベッドだ。こんなに彼に近づいたのは初めてで、何故か変に意識してしまう。
『美里達の声、少し遠ざかったか?』
「…どう…かな」
七ヶ浜の問いに、正直それどころではない私は、空返事しか出来ず。静かな保健室で心臓の音が聞こえないよう必死に深呼吸をした。
目の前にあるのは、ジャージ越しでも分かる 七ヶ浜の鍛えられた胸筋。ベッドから落ちないよう、私の身体を支える力強い腕。
次第に顔が熱くなっていくのを感じた。このままでは、暗がりでも赤面しているのがバレてしまう…恥ずかしさに耐えれなくなった私は、とうとう。
「美里くんたち、行ったんじゃないかな。声、もう聞こえないし。…し、七ヶ浜くん。ね、もうベッドから出よう?」
彼の服を二、三度引っ張りながら そう促すと、七ヶ浜と狭いベッドの中で ふいに目が合う。強い目ぢからが、私の瞳を覗いていた。近すぎるその距離は、今にも唇が触れてしまいそう。
『…!…名前…その。悪い…さすがに ち、近づきすぎた』
「…う、うん」
高瀬に負けまいとするあまり、私との距離を意識していなかったらしい。
七ヶ浜は自分で私を ベッドに引き寄せておきながら、今頃わたわたと顔を赤くした。
私の心臓の音なのか、七ヶ浜の心臓の音なのか、分からない程 鼓動は静かな保健室に響いている。顔を真っ赤にする彼につられ、私も身体が熱くなってくる。
誰も見てない、誰も聞いてない。
七ヶ浜しかいない保健室。身体の熱に浮かされ、私は思い切って 小さな嘘を付いた。
「七ヶ浜くん」
『なんだ、どうした?』
「美里くんたちの声、まだ近くに聞こえるかも」
『マジか。仕方ねえから もうちょいしたら出るか…』
耳を澄ます彼だが、もちろん美里たちの声など とっくに聞こえなくなっている。私は彼のジャージの裾を引っ張った。
「ね…。ベッド狭いから落ちちゃいそう…」
『…!悪い。落ちたら危ねえから……え、えっと。支えていいか?』
大きな身体とは反対に、おずおずと腕を伸ばす七ヶ浜。私は小さく頷いた。
そうして彼の力強い腕が、優しく私の身体を包み、互いの身体がぴたりとくっついた。
『……俺、汗臭くねえかな』
「ちょっと匂うかも」
『…嘘!』
「嘘」
『お前なあ…』
私がクスクス笑うと、七ヶ浜は細いため息を着き、ふと思い出したかのように続けた。
『なあ、美里達の声、本当に聞こえるか? 俺には全然聞こねえんだけど…。…名前、まさか嘘ついて…』
ハッとした表情を見せる七ヶ浜に、私は彼の胸元に顔を埋めながら呟く。
「…………嘘なら…離しちゃう…?」
しん、と静まり返る保健室。部屋には時計の秒針の音しか聞こえない。
すると私を優しく抱いていた 七ヶ浜の腕に力が入った。
『…離さねえ。離さねえよ』
力いっぱい抱きしめられ、苦しさすら覚える。ふと埋めていた 逞しい胸元から顔を離す。彼を見上げる目が合ったのが合図と言わんばかり。
かくれんぼの途中だと言う事も忘れ、どちらからともなく 私達はそっと触れるだけのキスをした。