バクテン!!
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「なに、それ」
太陽と柔軟剤の温かな匂い。柔軟剤の種類を変えたからだろうか、より肌触りの良くなった洗濯物を彼の部屋へ持って行った時だ。ユニフォーム、部屋着、フェイスタオルに靴下。どれもこれも、奇麗と畳んだに関わらず 瞳に映した光景は、驚きと動揺に溢れてしまい。両手に抱えていた洗濯物は、この手から崩れ床へと散らばっていく。慌て固まった私の姿を目にした彼は、瞬間、その瞳を丸くするも すぐに。自慢気と胸を張って見せるのであった。
『どうだ』
「どうって、その服…」
『うんうん、分かる、罪深いよな。めっちゃ似合っちゃってるもんな、俺』
一人満足と大きく頷く彼の声へ被せるよう「ねえってば」と遮ると。視線をそのままに、
「……――“ご当選おめでとうございます”」
表題の下にはつらつらと詳細が記されていて、細かな字を追っていくと。何でも、以前行われた空港主催の懸賞キャンペーンに見事当選したらしい。本人は、応募した事すら忘れていたと言うのだから流石と言える。懸賞品の一等は、往復の国内線航空チケット。景品にしてはまるで豪華過ぎるほど。もしも当たったのならば、驚きで二度見、三度見しても、まだ疑ってしまう事だろう。そんな一等に続く二等こそ、彼が当てた物らしいが、これは一体全体。
「コス、プレ?」
『な、凄えリアルだろ、ハンドラーだってよ、ハンドラー』
主に空港や港、そして国際郵便局に属する 麻薬探知犬。その訓練を行う職業が、麻薬探知犬ハンドラーだ。麻薬探知犬は、麻薬類の入国を事前に防ぐよう重要な役割を成す仕事。空港であればハンドラーと共、入国検査場や、ソーティング場などで見けたり。まあ何故、二等がコスプレなのかは置くとして。確かに、彼が袖を通した上下、黒色の引き締まった制服は さながら本物のハンドラーのよう。ふと、ビニールからもう一つ何かとを取り出したかと思えば。
『へへん、帽子もセットなんだぜ、凄くね』
「本物みたい、びっくりしちゃった」
『だろ、だろ』
光る金髪に、深く
「わんちゃんが付いて来たら大変よ、寮じゃ飼えないでしょう。誰が面倒見るのよ」
『で、どう』
会話に追いつけず、控え目に首を傾いだ。視線は未だ、私の瞳を捉えて離さない。ふい、先程、彼の姿に驚き洗濯物を零した時を遡る。恐らくは、冒頭で 身に付けるその服についての感想を求められているに相違ない事。いつもとは がらり雰囲気が様変わりした彼の姿は確かに新鮮で、見慣れなくて、緊張して。それでも、この早まる躍動はただの緊張だけの事だろうか、否。穴が開いてしまう程 長く向けられた視線に、頬の熱が上がっていく。これは器用と、意識的に止められる物ではない。
『――惚れちゃいそ?』
熱く、黒い瞳に呼び掛けられれば自然。首を縦に振ってしまいそう。一呼吸置いた後、ようやく喉奥から出て来た声は、ただに意地を張った可愛気のない言葉で。
「……すぐ、調子乗る」
『少しくらい乗らしてよ』
な、と短く問われては。今度は頬だけじゃなく、頭の天辺から足の爪先まで。痛いほどに体温が広がる感覚に、肌が痺れる。堪らず瞳を反らした、そうでもしなければ視線の先に居る、この体温を上げる熱源から逃れられそうにない。――…反らした瞳の端に揺れ
『名前ちゃん、知ってる』
「なに、」
日々鍛え上げられる身体、余分な脂肪など無い腕が するり伸びては。畳み掛けの洗濯物を手にする私の指先を そっと捕まえるのだ。触れた指を辿り、視線を登らせると、重なったその瞳の熱は 先程より大に燃ゆる気がして。そうして優しくも、確かな意思を以て引かれた指先は、流れるよう、彼の頬へと連れられる。瞬間、息を呑むと今まで焦燥していた心臓の躍動が、止まってしまいそうになる。乾いた口内から、次の言葉を続けようとした矢先、それは彼の声で制されるのだった。
『――…黒と黄色の配色、どう言う意味か』
黒の帽子から垂れる、黄色の髪。皮膚に埋まる心臓が、躍動する意は もしかすると。
「……警、告色」
『正解』
否、この躍動の意は、何故か違う物のような気がする。他にも、色の。色の意味が合ったはず。それなのに、火照って頭が働かないのは、この手が 彼の肌へ触れている所為なのだろうか。ふい、彼は、空いたもう一つの指先で、黄色の髪の毛を覆い隠す 帽子を外していく。掻き上げられた前髪に覗くピンク色に、――…思い出す。
『簡単に、野郎部屋で二人きりになんなよ、警戒してくんねえと、俺が困る』
喰われても文句言えねえぞ、と付け加えられると、今度こそ確信に
「どうせ手なんか、出せない癖に」
『ええ、それ、言っちゃう』
参ったな、と眉を八の字にした彼の頬が、私と少し、お揃いになった気がした。