バクテン!!
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
この状況を打破するには 一体どうした物か。
「本当、どうにかならないのかな。このドア」
事の始まりは 約四十分程前に遡る。この日 県大会を控えた私達、アオ高の選手と青森代表であるシロ高の選抜選手たちとで合同合宿をする事になっていた。予定していた合宿の一日前に宮城へ足を運んだシロ高の選手達は、片付けも間もない我が 新体操部寮へやって来て。……正直、そこまでは良い。早く来ようが部屋がうんと散らかっている訳ではないし、少しの手間で すぐ案内出来る程度の物だ。しかし、肝心の寝泊まりして貰う予定の部屋で その事態は起きた。
『押して駄目なら引いて見ろってのは、良く言ったもんだが』
案内した寝床へ シロ高のキャプテンである高瀬を案内するや否や 元から建て付けの良く無かったドアの機嫌が一層悪くなったようで。体重を掛けて押すも ドアノブを回してみても、ギイギイと低い音を響かせるばかり。慌てる私の様子に吹き出しながら、『お前でも 人をからかったりするんだな』と 半ば面白半分な素振りを見せた彼だが、ドアノブに手を掛けたあと、その固い感触に『冗談だろ』と目を丸くした。その後何度か試みるが、体躯の良い彼の身体を持ってしても ぴくり動く様子もなく。途方に暮れた私達は、外から扉を開けて貰うまで しばらく待とうと言う事になり。
『俺の体重掛けても びくともしねえんだ。ジタバタしねえで諦めろ』
「…でも」
そうは言われても、狭い部屋で男子と二人きりというのは 中々落ち着かない物がある。開かないと分かっているドアノブに手を掛ける私に彼は 携帯を取り出して見せた。
『ほら、さっき陸奥にも連絡しておいた。気付いたら来てくれんだろ。お前も一応、笹かま野郎に連絡しとけ。笹かまみてえに ふにゃふにゃしてやがるが、あれでも少しは頼りになるだろうよ』
こんな状況でも 七ヶ浜キャプテンを上げたり下げたり。相変わらず落ち着いている彼の肝の座り具合は、やはり常勝シロ高の名を背負うに相応 しいのだと頷かせられる。
「七ヶ浜キャプテンには もう連絡してるよ。外からドア開けてって」
『……だったら 何そんなに焦ってんだ』
そうして少し考えたあと、ハッと何か思い出したかのか。彼は閉じ込められた時よりずっと慌てた様子で手を大振りした。
『…っ…馬鹿!…勘違いするなよっ…密室で女と二人きりだからって。…て…手え出したりする訳ねえだろう…!』
想像の斜め上を行く考えに、思わず ぽかんと口が空いてしまう。
「…わ、私 高瀬くんを そんな風に思って」
ない、そう言いかけるも 次の私の言葉は彼に制された。
『ま…まあ、なんつうか? たまに会った時 まあまあ意識しちゃったりはするが…! なんだ…その…あ、安心しろ! 俺は結構、順番を踏んでいくタイプの男だ!』
力強い瞳で“どうだ”と自慢気に問われる。なんだか告白まがいな言葉も入り混じっていたような気がするも、情報量が多過ぎて 頭の整理が追いつかない。しかし一つ確かに分かった事は、この状況に平常心でないのは私だけではないと言う事。
「……なる、ほど…」
全く成る程ではないのだが、咄嗟の返事はこれで精一杯。私はもう一度携帯を開き、七ヶ浜キャプテンへ 早く来て欲しい、と綴った二通目のメールを送信した。これ以上一緒に居たら、変に意識してしまいそうになる。
『……………それにしたって ちと暑いな』
目を配ると、彼は長袖ジャージの胸元を掴み、はたはたと扇 いでいて。外は夏前の爽やかな気候だが、晴れれば室内の温度は上がる。元々倉庫として使っていた空き部屋だ、天井上近くに埋め込みの 小さな硝子窓しかない。私と言えば 特に暑苦しさは感じないのだが、日頃から激しい運動をしている彼の事だ、そもそもの基礎代謝量が違う。少し気温も上がれば 不快に感じるのも合致がいった。
「そうだよね。でも、どうしよう。窓も開けられないし…」
私の言葉に彼は 戸惑いの表情のあと、おずおずと小さな声で呟いた。
『なあ、悪い。上 一枚脱いでいいか』
「えっ」
『いや、この長袖のジャージだけだ。中は ちゃんと半袖も着ている』
私が驚いたのは、ジャージを脱ぐ 脱がない以前に、それに対して許可を求めて来た事。身体の割に繊細な性格が少しギャップで 無意識にも声が出てしまった。
『勿論、お前が 嫌なら脱がねえ』
「ううん、平気。熱いんでしょう、脱いでいいよ」
すると、安堵した様子で首襟を掴み、ジャージを脱げば 今まで隠れていた隆々と盛り上がる上腕が露 わになる。日々鍛えられいる筋肉質な腕、服を着ていても はっきりと浮き彫りになる厚い胸板に わずかだが心臓の躍動が早まった。
「……それにしても。律儀だね」
『何がだ』
「何も許可なんて要らないのに。暑いなら 勝手に脱いでいいんだよ」
私の言葉に彼は眉を潜 め、あからさまに怪訝 な表情を覗かせた。
『女が居るってのに、そうそう脱げる訳ねえだろ』
「そうなんだ。うちの七ヶ浜キャプテンは勿論なんだけど、女川くんも亘理くんも。私が居る事なんて関係なく、目の前でユニフォームに着替えたりするから。なんか許可取られたのが新鮮で びっくりしちゃった」
『…な…!…あんの笹かま野郎共…なんつう破廉恥しやがる』
「私は特に気にしてないから良いんだけど」
『良い訳あるか。…ったく、本当に。デリカシーもクソもねえ野郎共め』
そうして深くため息をついた矢先、おもむろに彼は私の目の前に立った。演技中は勿論マットの外から彼らを見守る。離れて見ていても、彼の人一倍 大胆で、大きな姿には目を見張る物があるのだが。今にも触れてしまいそうな程の距離で、目の前に立ち尽くされると窮屈な圧迫感に ごくりと喉が鳴った。
――こんなに、大きいんだ…。
「高瀬くん…」
背の高い彼を見上げる。すると、先程の暑さで脱いだジャージを目一杯 広げたと思いきや、何故かそれは私の腰へと巻かれるのだった。袖はきつく腹下へと結ばれ 苦しさに思わず短い声が喉奥から漏れる。
「ん……。ね、高瀬くん、どうしたの」
『身体には触ってねえから 安心しろ』
「そうじゃなくて…」
『いいから、こいつ巻いとけ』
「…えと………私」
そんなに寒そうに見える? そう口を開きかけたその時。ドア外から少し くぐもった高い声が聞こえた。
「高瀬、名前ちゃん、いるかな」
声の主は、閉じ込められたあと 高瀬が連絡をしてくれた陸奥だ。あんなに固く、びくともしなかったドアは どう言うからくりか、いとも簡単に外から開いたようで。
「連絡、気付くの遅くなってごめんね。二人とも平気かな」
『おお、助かったぞ陸奥。名前、部屋の案内サンキュー。悪いが汗がやべえ。洗面所借りて顔洗ってくる』
「あ、うん。どういたしまして。洗面所、お風呂のすぐそばだから」
そう伝えると、彼は半袖のTシャツを はたはたと手で靡 かせ 振り返りもせず洗面所へと向かって行った。取り残された私と陸奥だが。
「……あ、陸奥くん。ドア、開けてくれて本当にありがとう。急に開かなくなったから焦っちゃった」
『いいえ、こちらこそ』
相変わらず読めない表情をする男だ。何を考えているかさっぱり分からない。陸奥は何か言いた気に私の腰に巻かれたジャージを瞳に映す。
「高瀬に借りたんだね、ジャージ。良かったよ」
「え? どういう事」
聞き返せば、少々申し訳なさそうな表情を覗かせ。
「名前ちゃんが高瀬に 部屋の案内をしてくれる後ろ姿が見えたんだけどね。………その」
歯切れが悪いのは、余程言いにくい事なのだろうか。そうして一呼吸置いたあと、陸奥は私にしか聞こえないような静かな声で呟いた。
「名前ちゃんのスカートが、ほつれて破けそうになっててね…………下着が…」
「え、嘘…」
思わずお尻を抑えてしまう。そんな恥ずかしい格好で シロ高の皆を出迎え、平気で部屋を案内していたのかと思うと 途端に顔から火を吹きそうになった。
「僕も 後ろ姿を見た時に気付いたんだけど、もう高瀬と部屋に入って行っちゃったから、伝えそびれちゃって」
ふと、つい数分前の出来事を想い出す。特に暑くもない部屋でジャージを脱ぎ、理由もなく私の腰に巻きつけられたこれ は。きっと、私が恥ずかしい思いをしないよう、そしてそれを悟られないように 十分彼が気を回してくれたに違いなかったのだ。
「…わ…私、替えの服に着替えてくるね…」
「うん、そうしな。……あ、そうだ名前ちゃん」
スカートが捲 れないよう、ジャージごと手で抑え 陸奥の元をあとにしようとした瞬間。背中から優しくも何か含みを抱いた声が響いた。
「うちの高瀬、結構良い男でしょ」
「――っ……。き、替えて来る…!」
陸奥の悪戯な問いかけに、赤面しているであろう顔を伏せながら歩き出した。ふと視線を下に降ろせば、彼が巻いてくれた腰元のジャージと目が合う。未だこれでもかと言う程 締め付けの固いジャージの袖は、間違っても落ちて来ないように、との事なのだろう。――ジャージは洗って返そう。柔軟剤は 女子らしさが目立たないような、甘さの少ない石鹸の香りを使おうかな。ぐるぐると頭の中で考えを巡らせて居ると、次第に頬に熱を帯びていくのを感じた。
「…待って。どうしよう……。どんな顔で返せば良いの……」
ジャージの袖を軽く掴むと、まるで彼の手に触れたような気がして。増々 変に意識してしまった。
______________________
――四十分前。
「ねえ、むっち」
「おや。ましろ、どうしたんだい」
「どうして、さっきから空き部屋のドアに もたれ掛かってるのお?」
「一応キューピット役をしてるんだよ。多少 強引な状況くらいが丁度良いと思ってね。……何か起きれば良いけど、この感じじゃ無理そうかな?」
「………良く分かんないけど………む、むっち、悪い顔してる……」
「何言ったかなあ、ましろ?」
「ヒイッ…!何でもなっ…あ、……ありませぇん!」
「本当、どうにかならないのかな。このドア」
事の始まりは 約四十分程前に遡る。この日 県大会を控えた私達、アオ高の選手と青森代表であるシロ高の選抜選手たちとで合同合宿をする事になっていた。予定していた合宿の一日前に宮城へ足を運んだシロ高の選手達は、片付けも間もない我が 新体操部寮へやって来て。……正直、そこまでは良い。早く来ようが部屋がうんと散らかっている訳ではないし、少しの手間で すぐ案内出来る程度の物だ。しかし、肝心の寝泊まりして貰う予定の部屋で その事態は起きた。
『押して駄目なら引いて見ろってのは、良く言ったもんだが』
案内した寝床へ シロ高のキャプテンである高瀬を案内するや否や 元から建て付けの良く無かったドアの機嫌が一層悪くなったようで。体重を掛けて押すも ドアノブを回してみても、ギイギイと低い音を響かせるばかり。慌てる私の様子に吹き出しながら、『お前でも 人をからかったりするんだな』と 半ば面白半分な素振りを見せた彼だが、ドアノブに手を掛けたあと、その固い感触に『冗談だろ』と目を丸くした。その後何度か試みるが、体躯の良い彼の身体を持ってしても ぴくり動く様子もなく。途方に暮れた私達は、外から扉を開けて貰うまで しばらく待とうと言う事になり。
『俺の体重掛けても びくともしねえんだ。ジタバタしねえで諦めろ』
「…でも」
そうは言われても、狭い部屋で男子と二人きりというのは 中々落ち着かない物がある。開かないと分かっているドアノブに手を掛ける私に彼は 携帯を取り出して見せた。
『ほら、さっき陸奥にも連絡しておいた。気付いたら来てくれんだろ。お前も一応、笹かま野郎に連絡しとけ。笹かまみてえに ふにゃふにゃしてやがるが、あれでも少しは頼りになるだろうよ』
こんな状況でも 七ヶ浜キャプテンを上げたり下げたり。相変わらず落ち着いている彼の肝の座り具合は、やはり常勝シロ高の名を背負うに
「七ヶ浜キャプテンには もう連絡してるよ。外からドア開けてって」
『……だったら 何そんなに焦ってんだ』
そうして少し考えたあと、ハッと何か思い出したかのか。彼は閉じ込められた時よりずっと慌てた様子で手を大振りした。
『…っ…馬鹿!…勘違いするなよっ…密室で女と二人きりだからって。…て…手え出したりする訳ねえだろう…!』
想像の斜め上を行く考えに、思わず ぽかんと口が空いてしまう。
「…わ、私 高瀬くんを そんな風に思って」
ない、そう言いかけるも 次の私の言葉は彼に制された。
『ま…まあ、なんつうか? たまに会った時 まあまあ意識しちゃったりはするが…! なんだ…その…あ、安心しろ! 俺は結構、順番を踏んでいくタイプの男だ!』
力強い瞳で“どうだ”と自慢気に問われる。なんだか告白まがいな言葉も入り混じっていたような気がするも、情報量が多過ぎて 頭の整理が追いつかない。しかし一つ確かに分かった事は、この状況に平常心でないのは私だけではないと言う事。
「……なる、ほど…」
全く成る程ではないのだが、咄嗟の返事はこれで精一杯。私はもう一度携帯を開き、七ヶ浜キャプテンへ 早く来て欲しい、と綴った二通目のメールを送信した。これ以上一緒に居たら、変に意識してしまいそうになる。
『……………それにしたって ちと暑いな』
目を配ると、彼は長袖ジャージの胸元を掴み、はたはたと
「そうだよね。でも、どうしよう。窓も開けられないし…」
私の言葉に彼は 戸惑いの表情のあと、おずおずと小さな声で呟いた。
『なあ、悪い。上 一枚脱いでいいか』
「えっ」
『いや、この長袖のジャージだけだ。中は ちゃんと半袖も着ている』
私が驚いたのは、ジャージを脱ぐ 脱がない以前に、それに対して許可を求めて来た事。身体の割に繊細な性格が少しギャップで 無意識にも声が出てしまった。
『勿論、お前が 嫌なら脱がねえ』
「ううん、平気。熱いんでしょう、脱いでいいよ」
すると、安堵した様子で首襟を掴み、ジャージを脱げば 今まで隠れていた隆々と盛り上がる上腕が
「……それにしても。律儀だね」
『何がだ』
「何も許可なんて要らないのに。暑いなら 勝手に脱いでいいんだよ」
私の言葉に彼は眉を
『女が居るってのに、そうそう脱げる訳ねえだろ』
「そうなんだ。うちの七ヶ浜キャプテンは勿論なんだけど、女川くんも亘理くんも。私が居る事なんて関係なく、目の前でユニフォームに着替えたりするから。なんか許可取られたのが新鮮で びっくりしちゃった」
『…な…!…あんの笹かま野郎共…なんつう破廉恥しやがる』
「私は特に気にしてないから良いんだけど」
『良い訳あるか。…ったく、本当に。デリカシーもクソもねえ野郎共め』
そうして深くため息をついた矢先、おもむろに彼は私の目の前に立った。演技中は勿論マットの外から彼らを見守る。離れて見ていても、彼の人一倍 大胆で、大きな姿には目を見張る物があるのだが。今にも触れてしまいそうな程の距離で、目の前に立ち尽くされると窮屈な圧迫感に ごくりと喉が鳴った。
――こんなに、大きいんだ…。
「高瀬くん…」
背の高い彼を見上げる。すると、先程の暑さで脱いだジャージを目一杯 広げたと思いきや、何故かそれは私の腰へと巻かれるのだった。袖はきつく腹下へと結ばれ 苦しさに思わず短い声が喉奥から漏れる。
「ん……。ね、高瀬くん、どうしたの」
『身体には触ってねえから 安心しろ』
「そうじゃなくて…」
『いいから、こいつ巻いとけ』
「…えと………私」
そんなに寒そうに見える? そう口を開きかけたその時。ドア外から少し くぐもった高い声が聞こえた。
「高瀬、名前ちゃん、いるかな」
声の主は、閉じ込められたあと 高瀬が連絡をしてくれた陸奥だ。あんなに固く、びくともしなかったドアは どう言うからくりか、いとも簡単に外から開いたようで。
「連絡、気付くの遅くなってごめんね。二人とも平気かな」
『おお、助かったぞ陸奥。名前、部屋の案内サンキュー。悪いが汗がやべえ。洗面所借りて顔洗ってくる』
「あ、うん。どういたしまして。洗面所、お風呂のすぐそばだから」
そう伝えると、彼は半袖のTシャツを はたはたと手で
「……あ、陸奥くん。ドア、開けてくれて本当にありがとう。急に開かなくなったから焦っちゃった」
『いいえ、こちらこそ』
相変わらず読めない表情をする男だ。何を考えているかさっぱり分からない。陸奥は何か言いた気に私の腰に巻かれたジャージを瞳に映す。
「高瀬に借りたんだね、ジャージ。良かったよ」
「え? どういう事」
聞き返せば、少々申し訳なさそうな表情を覗かせ。
「名前ちゃんが高瀬に 部屋の案内をしてくれる後ろ姿が見えたんだけどね。………その」
歯切れが悪いのは、余程言いにくい事なのだろうか。そうして一呼吸置いたあと、陸奥は私にしか聞こえないような静かな声で呟いた。
「名前ちゃんのスカートが、ほつれて破けそうになっててね…………下着が…」
「え、嘘…」
思わずお尻を抑えてしまう。そんな恥ずかしい格好で シロ高の皆を出迎え、平気で部屋を案内していたのかと思うと 途端に顔から火を吹きそうになった。
「僕も 後ろ姿を見た時に気付いたんだけど、もう高瀬と部屋に入って行っちゃったから、伝えそびれちゃって」
ふと、つい数分前の出来事を想い出す。特に暑くもない部屋でジャージを脱ぎ、理由もなく私の腰に巻きつけられた
「…わ…私、替えの服に着替えてくるね…」
「うん、そうしな。……あ、そうだ名前ちゃん」
スカートが
「うちの高瀬、結構良い男でしょ」
「――っ……。き、替えて来る…!」
陸奥の悪戯な問いかけに、赤面しているであろう顔を伏せながら歩き出した。ふと視線を下に降ろせば、彼が巻いてくれた腰元のジャージと目が合う。未だこれでもかと言う程 締め付けの固いジャージの袖は、間違っても落ちて来ないように、との事なのだろう。――ジャージは洗って返そう。柔軟剤は 女子らしさが目立たないような、甘さの少ない石鹸の香りを使おうかな。ぐるぐると頭の中で考えを巡らせて居ると、次第に頬に熱を帯びていくのを感じた。
「…待って。どうしよう……。どんな顔で返せば良いの……」
ジャージの袖を軽く掴むと、まるで彼の手に触れたような気がして。増々 変に意識してしまった。
______________________
――四十分前。
「ねえ、むっち」
「おや。ましろ、どうしたんだい」
「どうして、さっきから空き部屋のドアに もたれ掛かってるのお?」
「一応キューピット役をしてるんだよ。多少 強引な状況くらいが丁度良いと思ってね。……何か起きれば良いけど、この感じじゃ無理そうかな?」
「………良く分かんないけど………む、むっち、悪い顔してる……」
「何言ったかなあ、ましろ?」
「ヒイッ…!何でもなっ…あ、……ありませぇん!」