弱虫ペダル
name change
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「拓斗、これあげるね」
柔らかな太陽が降る昼休み、校舎近くのベンチで。鞄から取り出したストラップの紐を指で摘み、丁度顔の間近で揺らしてみせる。失敗、余りにも近過ぎた、揺れるストラップ同様に、彼の瞳の黒色もゆらゆら揺れてしまっている。寄り目になったり、時計の振り子のよう動いたり、そんな可愛らしい瞳をもう少し眺めて居たくもあったが。楽しくなって執拗に遊んでしまうと常、『意地悪しないでよ』と 頬を膨らませてしまう、一旦、この辺で止めておこう。そうして、少し離してからもう一度。今度はその視線に捉えられるよう 瞳の前に
『わあ、可愛い、ありがとう名前ちゃん』
手渡したストラップは、昨日。友人とたまたまゲームセンターへプリクラを撮りに行った時だ。隣りにあったUFOキャッチャーに目を配ると、ガラス張りの中で静かにお持ち帰りされるのを待っている ぬいぐるみと視線が重なった。アニメの事は詳しくないが、今流行りのキャラクターだと友人から聞いて。ぬいぐるみは割と大きさもあり、値段が張る。財布の小銭を数えてから 何度目かのチャレンジで手にしたのは、ぬいぐるみの隣のレーンにあった、これまた可愛いのか可愛くないのか、良く分からないストラップ。
『ペダポンだよね、俺、これ欲しかったんだ』
「キャラクターは分からないんだけど…ほら、拓斗ってば、良く携帯無くすでしょう、ストラップでも付けたら無くさないかなって」
『確かに、連絡取れなくなると困るからね、早速付けるよ』
喜んでくれるか多少不安だったが、屈託ない笑みを覗かせる彼に肩を下ろし安堵した。たかだかニ、三百円を何回かで取った安物。それでも こんな表情をしてくれるのなら、なかなか良い買い物だったと言える。そして、その繊細な指先で、ストラップの紐を結ぶ最中だ。まるで。
『ずっと、大切にするね』
向けられた瞳は、煌々と。――…それはさながら、神聖で、特別で、重たな鐘が鳴る場所で。永遠、愛を誓うように言う物だから、そんな解釈をしてしまえば、途端に上がる体温を意識で止めるには難しい。
『……何か、顔赤いね、熱でもあるの』
「無いわよ、平気」
紅潮した肌を覗かれ、恥ずかしくなり顔を反らす。少しと首を傾いだ彼だったが、今は私よりストラップに興味があるようで。携帯にぶら下がり何とも言えない表情で不規則にゆらゆら揺れるそれは、彼の瞳にとって 芸術か何かに見えているに違いない。ふと、何かに気付いたよう、短く声をあげる物だから。熱が冷め始めた肌と共、視線を重ねて聞き返す。
『せっかくだから、名前ちゃんとお揃いが良かったな、これ』
「私、拓斗みたいに携帯無くさないもの」
『そう言うんじゃないじゃん、無くす、無くなさいじゃなくて、お揃いが良かったって話し』
言いたい事は理解出来る。私だって、良く分からないキャラクターであっても 出来れば彼とお揃いにしたかったし、二人で揺らすストラップを 友人や彼のチームメイト達に茶化されるのも、満更でもないと考えていたのだから。しかし情けなくも私と、私の財布事情とで意見が噛み合わず、手に出来たのは一つだけ。それでも、そんな事を気にさせては優しい彼の事だ。必死となってゲームセンターのUFOキャッチャーと格闘するだろう。息抜きは大切だが、今はゲームセンターより自転車、インターハイへと目を向けて居て欲しい。
「なら。別の物をお揃いにしよ、それなら良いでしょ、ね」
頬を膨らます彼を
『ほら皺寄ってるよ、跡付いちゃう、そんな顔しないで笑って』
「だって、全然、思い浮かばないんだもの…」
きっと、私だけじゃない、恋人との“お揃い”は誰しも憧れる特別な物。財布の小銭に余裕があれば 今頃私の携帯にも、お揃いのストラップがぶら下がっていただろう、不甲斐ない。細いため息を一つ溢した、そんな時だった。
『名前、』
普段、愛称を
「拓…、斗」
『誰も居ないから、平気だよ』
「そう言う問題じゃな、……ん、」
唇の端だけを
「待って、駄目、ここ学校よ」
『さすがに、しないって』
這わせた舌で何を言うのだ。触れ方が、あからさまと言っていい程 夜を思うに絶えない。私が意識し過ぎて居ると言われればそれまでだが、情事前のそれに近いよう触れ方では、身体が火照って言う事を利かなくなってしまう。ふと、外された制服のボタンの間、胸元付近へ小さな痛みが走るのだ。
「――っ…」
強く、きつく残されたそれは、赤い、赤い跡。昼休み 誰が来るか分からない場所。声を漏らしてはいけないと、自身の口元を掌で塞ぐ。すると、赤い跡から唇を離した彼と 視線が合わさった。静かさの中に在るは、赤い、赤い、情熱。上がった体温と、幾分乱れてしまった吐息を溢す私へ、彼はいつものよう、柔らかな声で呟くのだった。
『ほら、これでお揃い』
「……」
乱れた制服の胸元を覗くと、重なるように付けられた跡が二つ。何だか見覚えのあるその形は、まるで。
『俺の
余りにも器用過ぎではないだろうか。それでも、これではストラップのよう、見せびらかして 友人やチームメイトに茶化される
『名前、俺さ、これ』
「……」
『一生、お揃いにしたいんだけど、駄目かな』
「…………真剣な顔、…
付いた跡は、きっと数日で消え、お揃いでは無くなってしまうだろう。そうなった際は、また。恥ずかしながらも、彼に付けて貰う事としよう。私だって、お揃いなら、一生 お揃いが良いのだから。