弱虫ペダル
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掃除ブラシを握り締め、別に汚れてもいない床を磨いて暫く経つ。二年に上がれば、何かが変わると 輪郭のない
『…クソ、真波の野郎。これが分かっててサボったんじゃねえだろうな』
ようやくと掃除が終わり、二度目の溜め息のあと舌打ちが漏れる。それでも、物に当たるなど乱暴はしたくはない為、ブラシは静かとロッカーへ放った。そんな矢先だ。部室の扉が勢い良く空いた音に 反射で声が出る。
『……真波、遅せえぞ!もう、掃除終わっちまったじゃねえか、この前も黒田さんから散々言われて…』
大声で始めた言葉の最後は、徐々に
「…び……くりした」
『……名前さん、…す、すいません、俺。真波かと思って』
「あ、真波くん、今日もさぼりなのね。後で泉田くんに報告しないと」
そう頬を膨らませた彼女の制服は、先に降り出した雨の
『そう言えば、名前さん。さっき塾があるって言って、帰ってませんでした』
一つ上の彼女とは、一年の夏頃から付き合い始めていた。去年、惜しくもインターハイへの出場を逃し、その際のトレーニングをサポートして貰う途中で惹かれ合い、こう言った流れとなったのだ。
「そうなんだけど、講師の先生が体調を崩したって塾から連絡があってね。そのまま家に帰ろうと思ったんだけど、……急に降り出すから」
と、窓の外を指差す。外は 先程より強い雨が地面を叩いていた。恐らく、自宅へ帰るより 部室へ戻った方が距離として近かったのだろう。今日は元々 一日快晴の予定だったし、傘を持っている者の方が少ない事だ。
『俺も、傘持ってないんで。雨が止んだら家まで送りますよ』
「ありがとう」
瞳を細める彼女の優しい笑みが好きだ。いつぶりだろう、こうして二人きりになれるのは。思い返せば、最近は殆ど部活に明け暮れていて、彼女もまた。マネージャー業と受験の為の塾通いもあり、部活以外で空間に二人となる事が珍しく思えた。
「ね、銅橋くん」
『はい』
「………ごめんね、嘘、ついちゃった」
小さな声だった。意識しなければ、雨音にさえ掻き消されてしまいそうな程、小さな声。前述の“嘘”を云い辛そうにする彼女の眉は八の字に。苦笑が浮んでいる。
『……何がすか』
問えば矢先。濡れた制服の彼女が歩みを寄せ、立ち尽くす俺の目の前へ。そっと見上げられた瞳は、それも雨の所為なのだろうか。そうして、するり。細く白い腕が、背に周る、胸に感じるのは彼女の頬の、柔らかな感触。
『……名前さん…』
「塾、さぼりなの」
真波くんみたいな事しちゃった、怒る?と埋めた胸に問われるが、何せ急な事。暫く触れていない彼女の体温を
「…………銅橋くんと、二人になりたくて」
心臓を何かで殴られたような気がした。言葉を頭の中で何度か
『…俺も。ずっと……こうしたかった』
受験と俺、天秤に掛けるなら間違いなく前者に傾くはずなのに。どうしたって、嘘など付いて俺の胸に居る彼女が、堪らなく愛おしい。腕を伸ばし 彼女を包み込むよう、きつく抱き締める。感じるのは、俺だけが知る彼女の匂いと、雨特有のそれ。
『時間、全然取れなくてすいません』
「ううん、私の方こそ。塾に通い出したら、思ったよりすれ違いが多くなっちゃって。……それに…会えない間、銅橋くんが、他の子に目移りしたら嫌だなって…」
胸に目を落とせば、耳を赤く染めた彼女が居る。この位置からは見えないが、きっと。その柔らかな頬も染めてくれているに違いないのだ。――嬉しすぎて、どうにかなりそうな気がした。
『そんな訳ないです。俺、あとにも先にも、名前さん以外、考えてませんし、考えられません』
少々声が大になってしまった事に自分でも驚く。でも、それが事実に変わりはない。出会いがあれば別れもある、とは良く言うが。彼女が嫌と声にするその時まで、俺の方からの別れは無い、そう言い切れてしまう。
「……それ、本当」
『漢に二言はないです』
胸元に肌を埋めていた彼女が、ふと顔を上げる。重なった視線は直線に、暫く互いの瞳の奥を覗いたあと。それは自然と、どちらかともなく触れてゆく。抱き締めるのも、キスも、本当に暫くで、触れた途端に余裕は何処かへと消えてしまっていた。唇に舌先を充てれば、応えるよう薄く口を開け、それを受け入れてくれる様子に 頭が沸きそうになる。
「……ん、銅、橋くっ……」
『名前さん、好きです…、凄え好きです…、…』
甘い彼女の舌を追い、片時も離れず絡め合わせる。触れた身体が離れて行かぬよう、背に回した腕には力を込め、擦れる肌の体温を感じていた。――そこら辺の男より、自制は出来ると自負がある。しかし、背に触れた彼女の制服とスカートの間から 直に伝わる皮膚の温度に、理性の難しさを知った。そうして指先が、彼女の肌に触れた瞬間、その小さな身体が抱き締める腕の中でぴくり跳ねるのだ。
「……あっ、…」
耳に届く、か弱い声は 下半身に熱を回すには十分過ぎる程。
「……っ、銅橋くん、や、待って…、」
いつも「待て」と言われれば それは従順な犬のよう、彼女に合わせているのだが。今に限っては無理そうと、芯から燃える熱が主張している。だってそうだろう、大切な塾を後回しにしてまで自身へ会いに来てくれたのだ。「待て」が出来るほど、今日は利口と出来そうにない。
『名前さん、制服の中、肌。濡れてません』
「……雨に、当てられたから」
『そのままだと風邪引きます』
あとに続く言葉を理解したのか、彼女の頬と耳は、やはり赤く染まっていた。そっと、制服に手を掛ける。「待って」と言って置きながらも、
「………ね、お願い。電気だけ消して」
懇願するような瞳で問いかけられるが、その小さな声に対して首を横に振る。
『嫌です、久しぶりなんで、ちゃんと。名前さんの全部を見たい』
肌も、肌に浮かぶホクロの位置も、触れた時に唇から漏れる甘い声も。緩やかに動いた時に見せる切ない表情も、激しさの中で揺れる濡れた瞳も、全部、全部。全部を余すことなく焼き付けたいのだ。
『それと、先に言って置きます』
太い指を 白い背に。下着の金具を跳ねるよう外しては。困り顔の彼女を きつく抱えて押し倒す。
『今日は、お利口出来ません』
何か言いかけた彼女の唇に。今度は噛み付くキスをした。