弱虫ペダル
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耳に響く蝉の声が、より一層と体温を上昇させる気がした。真夏の太陽は何故こんなにも痛みを感じるのだろう。アスファルトの照り返しで頬がジリジリと焼けるのを感じていく。休日の部活中、いつ休憩の声掛けがあるのだろうと手嶋さんに何度も視線を配っていると、さすがに気付いたようで 眉を八の字にし笑われた。
「なんだあ? へばったのかよ、鏑木」
『……はあ? 俺がへばるとか、あり得ないんすけど! 今からだって全然余裕で 五十…いや、百キロくらいは走れますし!』
その言葉に手嶋さんは未だ涼しい顔をして「馬鹿だな」と吹き出した。一年生のウェルカムレースも終わり、夏のインターハイに向け レギュラー陣はより本格的なメニューをこなすようになっていた。初めは“俺が入って総北を強くしてやろう”なんて大股で歩き ふんぞり返っていたのだが。楽勝だと高 を括 っていた練習も、気付けば追いつくのがやっとになっていて、正直焦りを覚える事もしばしば。
「よし、一旦休憩だ。各自水分補給しとけ」
手嶋さんは号令と共に、近くのコンビニにを指差した。助かった、ここら辺で休憩を挟んで置かないと 本当にへばってしまう所だった。安堵した俺は愛車のFELTを駐輪場へ停める。太陽光で熱くなったヘルメットを外し、蒸れた頭を乱暴に掻いた。きっとコンビニの中はうんと涼しいに決まっている。キンキンに冷えた冷房が 熱の籠 もった身体を一瞬で冷やしてくれるに違いない。浮足でコンビニに入ろうとしたその時、一台のバンがコンビニの駐車場へ停まった。エンジン音が切れると、助手席からは。
『あ、名前!』
手嶋さんや青八木と同い年。二つ上のマネージャー、名前が 寒咲さんの運転するバンから 降りてきた。
「こーら、鏑木くん。私は部員じゃないけど 一応先輩なんだから。“さん”を付けてよね」
頬を膨らますも、当然怒っているようには見えなくて。「もう」と苦笑しながら、短いため息を着いている。
『あっ、さーせん。……あれ? でもどうして名前がここに居るんすか。学校で待機してると思ったんすけど』
「また呼び捨てして……まあ、いいか。あのね。今日、天気予報でこの夏一番の酷暑だって言ってて。心配だから、皆の具合を確認して置きたいって寒咲さんに相談したら 車を出してくれたの。周回コースも手嶋くんから聞いてたから 皆がスタートしてから追い掛けて来たんだ」
『ああ、なるほど』
確かに。今日は 昨日や一昨日と比べ物にならない暑さだ。通りで体力の消耗が激しい訳で。天才の俺がこんな練習メニューでへばるなんて、なんだかおかしいと思っていた所だ。そうか、夏の暑さのせいか。一瞬、“練習について行けないのは実力不足なのでは”なんて思ってしまったが。俺に限ってそんな事などあるはずがない。
『ないない!そう、俺は天才だから!』
「なんの話?」
調子を取り戻した俺は、なんだか気分が良くなり。
『そうだ、名前。今から休憩なんですよ、一緒に何か食いません?』
「うん? 良いけど」
『じゃ、ほら。早く早く! 俺もう暑くて、コンビニで涼みたいんで』
「きゃ、ちょっと…鏑木くっ…」
細い手首を引くと、俺の力が強いのか 彼女の体重が軽いのか。一気に距離が縮まった。引っ張った事で体勢を崩した彼女の冷たい手のひらが、俺の熱い胸元に触れる。ふわり、香る彼女の甘い匂いに 心臓がぴくりと跳ねた。
『…!…悪い、こ、こんなに軽いと思わなくて。大丈夫すか』
「平気平気、私こそごめんね」
見上げられると余計に鼓動が早まる気がするのは何故だろう。汗だくの胸元から、彼女の手のひらが離れると 何事も無かったかのように「行こ?」とコンビニの入口を指差され。俺は熱を持った頬を両手で叩き、彼女の後ろ姿へと続いていく。叩いた頬がじんじんと痛んだ。
________________
レジで会計をした袋の中を覗くと思わず笑みが溢れる。夏の暑さで火照った身体を冷ますには丁度良い物だ。近くの日陰に腰掛け、早速中身を取り出す。
「ふふ、凄く悩んでたみたいだけど。結局カルピス味にしたんだね、パペコ」
同じく隣に腰を下ろした彼女が、おかしそうにクスクスと笑っていて。
『ストロベリーかカルピスで悩んだんすけど、ストロベリーはこの前食べたんで、カルピスにしました。はんぶんこで いいすか』
「いいよ」
袋を破り、一つに繋がっているキンキンのパペコを半分こにして彼女へ手渡す。「ありがとう」と目を細めた彼女の笑顔に 無意識にも釘づけになりそうで 咄嗟に視線を外した。
「頂きます、冷た…美味しい」
キンキンに冷えていたと思ったアイスは 外気温が高いせいで思ったよりも早く溶け出していく。木陰で涼み、冷たいアイスで身体を冷やそうと思ったのに…何故だろう。さっきから、身体は冷えるどころか 火照りが増していく気がする。
「鏑木くん、食べないの?」
ふと気付けば、綺麗な瞳で覗かれる。俺は焦りを隠すようにアイスを手のひらで強く搾り 喉奥へと一気に流し込んだ。心臓が煩 くて、堪 らない。ふいに真隣でアイスを頬張る彼女を見張ると 溶け出したアイスが口の端から垂れそうになっている事が目に止まる。
『あ、ちょっ、馬鹿っ。制服汚れる』
「え?」
『暑いからアイス溶けてんすよ、ちんたら食ってねえで…』
彼女が振り向けば ぴたり、視線が重なる。しっとり汗をかいたうなじ。黒々とした長いまつ毛。そうして口元からは カルピス味…溶け出した白色のアイスが唇から細く垂れていて。なんだかイケない物を眺めているようで思わず赤面してしまう。
『は…やく。口元拭ってくださいよ、んな ベタベタ溢して。子供じゃあるまいし』
「子供って。…私一応 二歳年上なんだからね。…ひどいんだから」
“ひどいんだから”はこっちの台詞だ。人の気も知らないで。彼女は制服のポケットへ手を伸ばし 取り出したハンカチで口元を拭った。すると、思い出したかのように 俺の足元に置いているコンビニの袋を指差す。
「あれ、他に何買ったんだっけ」
『…え? ああ。ドーナツ買いました。食います?』
「うん、食べたい」
『名前って…結構、食いますよね』
「ええ、どういう意味。お菓子は別腹でしょ。あ、チョコ味だ。やった」
アイスを食べ終わった彼女はドーナツに手を伸ばす。袋を切ると、丸いドーナツの穴から くりくりの瞳を覗かせ 悪戯気に俺を見つめた。
「見て、穴から鏑木くん発見」
『じ、じょっ…女子が簡単に 穴とか言わないで下さいよっ…!…もう』
「…?」
駄目だ。これも夏の暑さのせいなのか。それとも、距離が近いせいなのか。いずれにしても、いつもより彼女を意識してしまい、気が気でなくなっていく。悟られないよう、曲げた膝を伸ばし立ち上がった。
「まだ 休憩時間、残ってるよ。ドーナツ食べないの?」
不思議そうに 首を傾げ見上げられる。
『要らないっす。全部名前にやります。俺、もう走りに行くんで』
水分の他に胃に何か物を入れて置きたかったが、これ以上彼女といたら 暑さ以上に無駄に 体力を消耗してしまいそうだ。背を向けて歩き出す。木陰から出るとまた ジリジリと焼けるような太陽が肌を刺激した。
「鏑木くん」
ふいに呼び止められ 振り返る。すると、ドーナツをひと齧 りした彼女が 含んだ笑みで俺を見つめていた。そうして、少しの沈黙のあと 彼女は俺にしか聞こえない小さな声で そっと呟くのだ。
「皆の所に戻る前に。その えっちな顔、どうにかしていきなね」
『――っ……!……』
途端に身体に全体が熱くなる。言葉に詰まれば 彼女は立ち上がり、ドーナツを片手に 寒咲さんの運転して来たバンへと向かって行った。離れて行く背中に向かって 俺は声を大にする。
『……じ、じょ、女子がっ、えっちとか、い、言わないでくださいっ…!』
俺の言葉に振り向きもせず、バンの助手席へ乗り込むと 同時にエンジン音が鳴り、コンビニの駐車場を後にして行く。躍動する心臓を抑えようと深呼吸を繰り返えすと、ユニフォームの後ろポケットが震えるのを感じた。バイブレーションする携帯を取り出すと、送り主は たった今まで隣に居た彼女から。
――ご馳走様。
『くそ、さっきのレシートどこいった。ご馳走してねえよ、帰ったら一円単位で 割り勘してやる……!……』
辺りを探していると、遠くから手嶋さんが集合の号令をかける声がする。レシートは諦め 皆の元に駆けようとするも ふと、彼女が口にした言葉が蘇った。――脳内に響く声に、無意識にも身体の隅々まで 熱が帯びていく。
悶える俺は、手嶋さんに許可を貰い 悔しいがコンビニのトイレで頬の熱を冷ます事にした。
続きはR18です→悶えるスイートの苦悩
「なんだあ? へばったのかよ、鏑木」
『……はあ? 俺がへばるとか、あり得ないんすけど! 今からだって全然余裕で 五十…いや、百キロくらいは走れますし!』
その言葉に手嶋さんは未だ涼しい顔をして「馬鹿だな」と吹き出した。一年生のウェルカムレースも終わり、夏のインターハイに向け レギュラー陣はより本格的なメニューをこなすようになっていた。初めは“俺が入って総北を強くしてやろう”なんて大股で歩き ふんぞり返っていたのだが。楽勝だと
「よし、一旦休憩だ。各自水分補給しとけ」
手嶋さんは号令と共に、近くのコンビニにを指差した。助かった、ここら辺で休憩を挟んで置かないと 本当にへばってしまう所だった。安堵した俺は愛車のFELTを駐輪場へ停める。太陽光で熱くなったヘルメットを外し、蒸れた頭を乱暴に掻いた。きっとコンビニの中はうんと涼しいに決まっている。キンキンに冷えた冷房が 熱の
『あ、名前!』
手嶋さんや青八木と同い年。二つ上のマネージャー、名前が 寒咲さんの運転するバンから 降りてきた。
「こーら、鏑木くん。私は部員じゃないけど 一応先輩なんだから。“さん”を付けてよね」
頬を膨らますも、当然怒っているようには見えなくて。「もう」と苦笑しながら、短いため息を着いている。
『あっ、さーせん。……あれ? でもどうして名前がここに居るんすか。学校で待機してると思ったんすけど』
「また呼び捨てして……まあ、いいか。あのね。今日、天気予報でこの夏一番の酷暑だって言ってて。心配だから、皆の具合を確認して置きたいって寒咲さんに相談したら 車を出してくれたの。周回コースも手嶋くんから聞いてたから 皆がスタートしてから追い掛けて来たんだ」
『ああ、なるほど』
確かに。今日は 昨日や一昨日と比べ物にならない暑さだ。通りで体力の消耗が激しい訳で。天才の俺がこんな練習メニューでへばるなんて、なんだかおかしいと思っていた所だ。そうか、夏の暑さのせいか。一瞬、“練習について行けないのは実力不足なのでは”なんて思ってしまったが。俺に限ってそんな事などあるはずがない。
『ないない!そう、俺は天才だから!』
「なんの話?」
調子を取り戻した俺は、なんだか気分が良くなり。
『そうだ、名前。今から休憩なんですよ、一緒に何か食いません?』
「うん? 良いけど」
『じゃ、ほら。早く早く! 俺もう暑くて、コンビニで涼みたいんで』
「きゃ、ちょっと…鏑木くっ…」
細い手首を引くと、俺の力が強いのか 彼女の体重が軽いのか。一気に距離が縮まった。引っ張った事で体勢を崩した彼女の冷たい手のひらが、俺の熱い胸元に触れる。ふわり、香る彼女の甘い匂いに 心臓がぴくりと跳ねた。
『…!…悪い、こ、こんなに軽いと思わなくて。大丈夫すか』
「平気平気、私こそごめんね」
見上げられると余計に鼓動が早まる気がするのは何故だろう。汗だくの胸元から、彼女の手のひらが離れると 何事も無かったかのように「行こ?」とコンビニの入口を指差され。俺は熱を持った頬を両手で叩き、彼女の後ろ姿へと続いていく。叩いた頬がじんじんと痛んだ。
________________
レジで会計をした袋の中を覗くと思わず笑みが溢れる。夏の暑さで火照った身体を冷ますには丁度良い物だ。近くの日陰に腰掛け、早速中身を取り出す。
「ふふ、凄く悩んでたみたいだけど。結局カルピス味にしたんだね、パペコ」
同じく隣に腰を下ろした彼女が、おかしそうにクスクスと笑っていて。
『ストロベリーかカルピスで悩んだんすけど、ストロベリーはこの前食べたんで、カルピスにしました。はんぶんこで いいすか』
「いいよ」
袋を破り、一つに繋がっているキンキンのパペコを半分こにして彼女へ手渡す。「ありがとう」と目を細めた彼女の笑顔に 無意識にも釘づけになりそうで 咄嗟に視線を外した。
「頂きます、冷た…美味しい」
キンキンに冷えていたと思ったアイスは 外気温が高いせいで思ったよりも早く溶け出していく。木陰で涼み、冷たいアイスで身体を冷やそうと思ったのに…何故だろう。さっきから、身体は冷えるどころか 火照りが増していく気がする。
「鏑木くん、食べないの?」
ふと気付けば、綺麗な瞳で覗かれる。俺は焦りを隠すようにアイスを手のひらで強く搾り 喉奥へと一気に流し込んだ。心臓が
『あ、ちょっ、馬鹿っ。制服汚れる』
「え?」
『暑いからアイス溶けてんすよ、ちんたら食ってねえで…』
彼女が振り向けば ぴたり、視線が重なる。しっとり汗をかいたうなじ。黒々とした長いまつ毛。そうして口元からは カルピス味…溶け出した白色のアイスが唇から細く垂れていて。なんだかイケない物を眺めているようで思わず赤面してしまう。
『は…やく。口元拭ってくださいよ、んな ベタベタ溢して。子供じゃあるまいし』
「子供って。…私一応 二歳年上なんだからね。…ひどいんだから」
“ひどいんだから”はこっちの台詞だ。人の気も知らないで。彼女は制服のポケットへ手を伸ばし 取り出したハンカチで口元を拭った。すると、思い出したかのように 俺の足元に置いているコンビニの袋を指差す。
「あれ、他に何買ったんだっけ」
『…え? ああ。ドーナツ買いました。食います?』
「うん、食べたい」
『名前って…結構、食いますよね』
「ええ、どういう意味。お菓子は別腹でしょ。あ、チョコ味だ。やった」
アイスを食べ終わった彼女はドーナツに手を伸ばす。袋を切ると、丸いドーナツの穴から くりくりの瞳を覗かせ 悪戯気に俺を見つめた。
「見て、穴から鏑木くん発見」
『じ、じょっ…女子が簡単に 穴とか言わないで下さいよっ…!…もう』
「…?」
駄目だ。これも夏の暑さのせいなのか。それとも、距離が近いせいなのか。いずれにしても、いつもより彼女を意識してしまい、気が気でなくなっていく。悟られないよう、曲げた膝を伸ばし立ち上がった。
「まだ 休憩時間、残ってるよ。ドーナツ食べないの?」
不思議そうに 首を傾げ見上げられる。
『要らないっす。全部名前にやります。俺、もう走りに行くんで』
水分の他に胃に何か物を入れて置きたかったが、これ以上彼女といたら 暑さ以上に無駄に 体力を消耗してしまいそうだ。背を向けて歩き出す。木陰から出るとまた ジリジリと焼けるような太陽が肌を刺激した。
「鏑木くん」
ふいに呼び止められ 振り返る。すると、ドーナツをひと
「皆の所に戻る前に。その えっちな顔、どうにかしていきなね」
『――っ……!……』
途端に身体に全体が熱くなる。言葉に詰まれば 彼女は立ち上がり、ドーナツを片手に 寒咲さんの運転して来たバンへと向かって行った。離れて行く背中に向かって 俺は声を大にする。
『……じ、じょ、女子がっ、えっちとか、い、言わないでくださいっ…!』
俺の言葉に振り向きもせず、バンの助手席へ乗り込むと 同時にエンジン音が鳴り、コンビニの駐車場を後にして行く。躍動する心臓を抑えようと深呼吸を繰り返えすと、ユニフォームの後ろポケットが震えるのを感じた。バイブレーションする携帯を取り出すと、送り主は たった今まで隣に居た彼女から。
――ご馳走様。
『くそ、さっきのレシートどこいった。ご馳走してねえよ、帰ったら一円単位で 割り勘してやる……!……』
辺りを探していると、遠くから手嶋さんが集合の号令をかける声がする。レシートは諦め 皆の元に駆けようとするも ふと、彼女が口にした言葉が蘇った。――脳内に響く声に、無意識にも身体の隅々まで 熱が帯びていく。
悶える俺は、手嶋さんに許可を貰い 悔しいがコンビニのトイレで頬の熱を冷ます事にした。
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