弱虫ペダル
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お目覚めの白雪姫で二度目のキスをしたあと 真波が部室へ戻るまでの間のお話。
顔が近づき ふわり、彼の前髪が私の額に触れる。緑の上で仰向けになっている私の両手首を掴むゴツゴツした大きな手は、見た目に反してとても軽く。それは「いつでも逃げてどうぞ」そんな風に感じさせる力加減。こそばゆく触れた前髪は 彼のシャンプーと ほのかな汗の匂い。見上げる彼の喉仏が ごくりと小さく動いたのが見え、途端に身体が熱くなる。
『名前先輩』
名前を呼ばれたと同時に、唇が落ちてきて。この日 二度目のキスをした。離れた唇が また触れ合い、その度に全身に電気が流れるような感覚に襲われる。
「さ、山…岳っ、待って……」
『だから“待った”はナシだよ』
「…人が、来ちゃう…っ…」
『こんな河川敷、誰も来ないって』
確かに。ここは、いつだって真波以外に人が居る所を見た事がない。綺麗に舗装された道でもないし、これと言った遊具もない。その為 散歩に来る人も 駆け出して遊ぶ子供すら来る事がない場所なのだ。真波は赤面する私の顔を覗き、少し考えたあと 上に羽織っている箱根学園と書かれた長袖のジャージを脱ぎ始めた。
『それなら』
そうして、ジャージを自身の背中に被せ、そのまま私に覆い被さった。真波の匂いのするジャージに囲われ、距離が一層近くなり 服越しに互いの身体が擦れ合う。
『はい、これで人が来ても大丈夫』
そう言う問題じゃない、伝えようとするも 開きかけた口は彼の唇で塞がれる。
「…ん…っ…さん…がく」
『それに、こうすれば。今、名前先輩と世界でふたりっきりになれるでしょ』
そう言い、もう一度唇が重なる。密着し、身体が擦れる部分が熱い。覆いかぶさる彼の片膝が 私の制服のスカートを通り越し、内ももに触れると ぴくりと身体が反応した。気付けば触れ合っているだけのキスが 徐々に舌を絡ませる濃厚なキスになっていて。
「山岳…っ、ダメ、舌…っ…」
『どうして』
「……っ……どうしても……」
黒く深い瞳に覗かれる。唇を離すと互いの体液が細く繋がり、彼はそれを薄い舌で ぺろりと舐めた。
『理由がないなら、それは俺が“ダメ”かな』
「……―ッ」
『ね、先輩』
ああ、駄目だ。この男の優しく甘い声に私は 到底逆らえない。
『本当にダメなら、教えて。それまでは俺とこうして ふたりっきりでいよ……ね?』
そう軽く首を傾げられた。必死に“ダメ”な理由を探すも 既に熱を持った頭では理由を探す事なんて出来なくて。私は返事の代わりに、静かに瞬きをして見せた。そうして、互いの感触と熱を確かめるよう ゆっくりと唇を触れ合わせる。薄い彼の舌が いとも簡単に私の口内を侵食、翻弄…。頭の中は「真波山岳」と言う男で既に一杯になっていた。
――触れたい。
唇を交 わす中。ジリジリとくすぶり、湧き出た感情を閉じ込めておく事は容易ではなくて。両手首を極 優しい力で掴む彼の手から するりと抜け出した。
『……嫌に、なっちゃった?』
眉を八の字にし 苦笑する彼の頬に そっと触れる。柔らかな感触と そこから伝わる熱。
「…ううん……少しだけ………触れてもいい?」
その言葉に驚いた様子の彼だったが、すぐに目を細め微笑み返す。そうして頬に乗せた私の手に、その大きな手を そっと重ねた。
『先輩なら、いくらでも』
どちらかともなく 触れた片手を絡ませ合い、今度は離れないよう 強く握る。彼はもう一つの腕で、仰向けになる私を抱き締めた。
『名前先輩、俺から離れないで』
「…山岳…」
力強い腕に抱かれる。もう頭のてっぺんから足の爪先まで火照る身体をただ預ける事しか出来ない。互いを求めるようなキスの最中、彼の吐息も段々に荒くなっていくのを肌で感じた。合間に、唇が離れ ふと視線が重なると、それは私の知らない“男の人の顔”。そうして 唇が離れたあと、そのまま私の首筋に降りてきて。
「……や…さ、…山、岳っ……」
薄い皮膚を ぬるりとした感触が這っていく。荒い呼吸を首元で感じ、身体が反射的にぴくりと跳ねた。
『先輩の肌、甘いや』
「…ま、待って…っ…ねえ、山岳……んっ…」
そうして感じたのは、僅かな痛み。
「…!…ダメ、山岳……跡付けないで…っ……」
『………さっき。俺から離れないでって言ったよね。それがどういう意味か、本当に分からなかった?』
「……――ッ」
『俺、先輩の』
瞬間、開きかけた次の言葉は 私の携帯のバイブレーションで遮られた。
「…!…」
彼は何を言いかけたのだろう。私は早まる鼓動を抑えながら、慌てて 彼を押し退ける。ポケットから震える携帯を取り出すと、送り主は福富で、その内容は至ってシンプルだった。“真波は見つかったか”たったそれだけ。いや、それだけで十分だ。短い文字から 福富が眉間に皺を寄せている事が簡単想像出来てしまう。
「さ、山岳…!早く学校に戻って」
『えっ……、と。えへへ、いやあ…今はちょっと』
「何 言ってるの。福富くんから連絡があったの。あなたを呼び戻すように言われてたから。ほら早く」
『ちょ、先輩』
先程まで抱き締められていた 彼の腕を引っ張ると、ああ、と思い出したかのように 私の首元を指差しながら。
『名前先輩、首。ちゃんと冷やしてから行かなきゃダメだよ』
「…え?」
彼の言葉を不思議に思い、スカートのポケットに入っている小さな鏡で首元を照らした。よく見ると、そこには先程 彼が付けた跡が残っていて。
「〜〜ッ…、山岳っ、跡付けないでって言ったのに…」
『すみませえん』
いつもそうだ。こうしてヘラヘラと、どこか掴めないような笑い方をする。
「ど、どうしよう…見つかったら…」
『大丈夫大丈夫、虫刺されって事にすればいいよ』
「む、虫刺されって…。こんなの、狼仕様の荒北くんの鼻で嗅がれたら、すぐに虫刺されなんかじゃないってバレちゃう…」
『ええ?案外 大丈夫だと思うけどなあ』
「も、もういい…!…ちょっと山岳、このジャージ借りるね、あ、跡…見えちゃうから羽織って学校の保健室まで行く」
『はあい』
「山岳も、お願いだから すぐ来てよね。あ、ジャージは洗って返すから」
『洗わなくていいからねえ』
背中に聞こえる呑気な声。私は、未だに緑の上に座っている彼を置いて 一足先に学校へと向かった。
_________________
名前先輩の背中が遠く見えなくなっていく。俺は安堵のため息をついた。あの時 腕を引っ張られても、膝を伸ばして立つ訳にはいかなかったのだ。
『こんなの、見せられないじゃん』
苦笑し、視線をジャージの下に落とす。レーシングパンを履いていなくて良かった。厚地のパットが入ってはいるが、あれでは立っても座っても彼女の目には “これ”が映ってしまっていただろう。
『余裕ないとこ見せるの、格好悪いし』
早く戻るよう言われたが、仕方がない。少し遅れるが、落ち着くまで 暫くここで熱を冷まそう。俺は彼女が寝ていた緑の上に 仰向けに寝転がった。広がる静かな空も下、心臓の躍動は続いている。大きな鼓動は鼓膜を震えさせ、脳にまで響いた。
『心臓、煩 ……』
――生きてるって感じがした。
顔が近づき ふわり、彼の前髪が私の額に触れる。緑の上で仰向けになっている私の両手首を掴むゴツゴツした大きな手は、見た目に反してとても軽く。それは「いつでも逃げてどうぞ」そんな風に感じさせる力加減。こそばゆく触れた前髪は 彼のシャンプーと ほのかな汗の匂い。見上げる彼の喉仏が ごくりと小さく動いたのが見え、途端に身体が熱くなる。
『名前先輩』
名前を呼ばれたと同時に、唇が落ちてきて。この日 二度目のキスをした。離れた唇が また触れ合い、その度に全身に電気が流れるような感覚に襲われる。
「さ、山…岳っ、待って……」
『だから“待った”はナシだよ』
「…人が、来ちゃう…っ…」
『こんな河川敷、誰も来ないって』
確かに。ここは、いつだって真波以外に人が居る所を見た事がない。綺麗に舗装された道でもないし、これと言った遊具もない。その為 散歩に来る人も 駆け出して遊ぶ子供すら来る事がない場所なのだ。真波は赤面する私の顔を覗き、少し考えたあと 上に羽織っている箱根学園と書かれた長袖のジャージを脱ぎ始めた。
『それなら』
そうして、ジャージを自身の背中に被せ、そのまま私に覆い被さった。真波の匂いのするジャージに囲われ、距離が一層近くなり 服越しに互いの身体が擦れ合う。
『はい、これで人が来ても大丈夫』
そう言う問題じゃない、伝えようとするも 開きかけた口は彼の唇で塞がれる。
「…ん…っ…さん…がく」
『それに、こうすれば。今、名前先輩と世界でふたりっきりになれるでしょ』
そう言い、もう一度唇が重なる。密着し、身体が擦れる部分が熱い。覆いかぶさる彼の片膝が 私の制服のスカートを通り越し、内ももに触れると ぴくりと身体が反応した。気付けば触れ合っているだけのキスが 徐々に舌を絡ませる濃厚なキスになっていて。
「山岳…っ、ダメ、舌…っ…」
『どうして』
「……っ……どうしても……」
黒く深い瞳に覗かれる。唇を離すと互いの体液が細く繋がり、彼はそれを薄い舌で ぺろりと舐めた。
『理由がないなら、それは俺が“ダメ”かな』
「……―ッ」
『ね、先輩』
ああ、駄目だ。この男の優しく甘い声に私は 到底逆らえない。
『本当にダメなら、教えて。それまでは俺とこうして ふたりっきりでいよ……ね?』
そう軽く首を傾げられた。必死に“ダメ”な理由を探すも 既に熱を持った頭では理由を探す事なんて出来なくて。私は返事の代わりに、静かに瞬きをして見せた。そうして、互いの感触と熱を確かめるよう ゆっくりと唇を触れ合わせる。薄い彼の舌が いとも簡単に私の口内を侵食、翻弄…。頭の中は「真波山岳」と言う男で既に一杯になっていた。
――触れたい。
唇を
『……嫌に、なっちゃった?』
眉を八の字にし 苦笑する彼の頬に そっと触れる。柔らかな感触と そこから伝わる熱。
「…ううん……少しだけ………触れてもいい?」
その言葉に驚いた様子の彼だったが、すぐに目を細め微笑み返す。そうして頬に乗せた私の手に、その大きな手を そっと重ねた。
『先輩なら、いくらでも』
どちらかともなく 触れた片手を絡ませ合い、今度は離れないよう 強く握る。彼はもう一つの腕で、仰向けになる私を抱き締めた。
『名前先輩、俺から離れないで』
「…山岳…」
力強い腕に抱かれる。もう頭のてっぺんから足の爪先まで火照る身体をただ預ける事しか出来ない。互いを求めるようなキスの最中、彼の吐息も段々に荒くなっていくのを肌で感じた。合間に、唇が離れ ふと視線が重なると、それは私の知らない“男の人の顔”。そうして 唇が離れたあと、そのまま私の首筋に降りてきて。
「……や…さ、…山、岳っ……」
薄い皮膚を ぬるりとした感触が這っていく。荒い呼吸を首元で感じ、身体が反射的にぴくりと跳ねた。
『先輩の肌、甘いや』
「…ま、待って…っ…ねえ、山岳……んっ…」
そうして感じたのは、僅かな痛み。
「…!…ダメ、山岳……跡付けないで…っ……」
『………さっき。俺から離れないでって言ったよね。それがどういう意味か、本当に分からなかった?』
「……――ッ」
『俺、先輩の』
瞬間、開きかけた次の言葉は 私の携帯のバイブレーションで遮られた。
「…!…」
彼は何を言いかけたのだろう。私は早まる鼓動を抑えながら、慌てて 彼を押し退ける。ポケットから震える携帯を取り出すと、送り主は福富で、その内容は至ってシンプルだった。“真波は見つかったか”たったそれだけ。いや、それだけで十分だ。短い文字から 福富が眉間に皺を寄せている事が簡単想像出来てしまう。
「さ、山岳…!早く学校に戻って」
『えっ……、と。えへへ、いやあ…今はちょっと』
「何 言ってるの。福富くんから連絡があったの。あなたを呼び戻すように言われてたから。ほら早く」
『ちょ、先輩』
先程まで抱き締められていた 彼の腕を引っ張ると、ああ、と思い出したかのように 私の首元を指差しながら。
『名前先輩、首。ちゃんと冷やしてから行かなきゃダメだよ』
「…え?」
彼の言葉を不思議に思い、スカートのポケットに入っている小さな鏡で首元を照らした。よく見ると、そこには先程 彼が付けた跡が残っていて。
「〜〜ッ…、山岳っ、跡付けないでって言ったのに…」
『すみませえん』
いつもそうだ。こうしてヘラヘラと、どこか掴めないような笑い方をする。
「ど、どうしよう…見つかったら…」
『大丈夫大丈夫、虫刺されって事にすればいいよ』
「む、虫刺されって…。こんなの、狼仕様の荒北くんの鼻で嗅がれたら、すぐに虫刺されなんかじゃないってバレちゃう…」
『ええ?案外 大丈夫だと思うけどなあ』
「も、もういい…!…ちょっと山岳、このジャージ借りるね、あ、跡…見えちゃうから羽織って学校の保健室まで行く」
『はあい』
「山岳も、お願いだから すぐ来てよね。あ、ジャージは洗って返すから」
『洗わなくていいからねえ』
背中に聞こえる呑気な声。私は、未だに緑の上に座っている彼を置いて 一足先に学校へと向かった。
_________________
名前先輩の背中が遠く見えなくなっていく。俺は安堵のため息をついた。あの時 腕を引っ張られても、膝を伸ばして立つ訳にはいかなかったのだ。
『こんなの、見せられないじゃん』
苦笑し、視線をジャージの下に落とす。レーシングパンを履いていなくて良かった。厚地のパットが入ってはいるが、あれでは立っても座っても彼女の目には “これ”が映ってしまっていただろう。
『余裕ないとこ見せるの、格好悪いし』
早く戻るよう言われたが、仕方がない。少し遅れるが、落ち着くまで 暫くここで熱を冷まそう。俺は彼女が寝ていた緑の上に 仰向けに寝転がった。広がる静かな空も下、心臓の躍動は続いている。大きな鼓動は鼓膜を震えさせ、脳にまで響いた。
『心臓、
――生きてるって感じがした。