弱虫ペダル
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「福富主将、取材陣が見えました。レギュラーは全員集合するようにと、監督から伝言です」
三本ローラーを回すトレーニングルームへ 緊張した面持ちの後輩が伝言を伝えにやって来た。無理もない、福富を始めとするレギュラー陣が五人も揃っているのだ。重たい威圧感、立っているだけで部が引き締まる雰囲気、そして圧倒的存在感。その全てが、気高き“王者箱学”を物語っている。
「分かった。レギュラーは全員 ジャージに着替えて十分以内に集合しろ。時間厳守だ」
福富がローラーから降り、汗を拭いながら点呼を始めた。
「荒北」
「へーい」
「東堂」
「うむ」
「新開」
「オーケー寿一」
「泉田」
「アブ!」
「真波」
途端にトレーニングルームが しん、と静まり返る。これまで綺麗に続いた点呼が止まり、福富は太い眉をぴくりと動かした。
「真波」
周りを見渡すが……おかしい。先程まで目の前でローラーを回していたはずの真波が まるで手品のように消えている。呆れた様子でため息をつくレギュラー陣に続き 私は慌てた。すると、取材の予定を伝えに来ていた後輩が 言い辛そうに眉を八の字にし口を開いた。
「あ、あの…。真波なら…ここへ来る途中、すぐそこですれ違いました。風が呼んでるとか言って……」
その言葉に 荒北の怒涛にも似る声が響いた。
「…ッざけんなアっ!あンの不思議チャン!ついさっき 取材あるから大人しくしてろッつったばっかじゃねえか!」
そうして細くギラついた 野性動物のような目が私に向けられる。
「おい、名前チャン!ちゃんと真波 監視しとけっつったよな」
「ご、ごめん。目の前でローラー回してる所 ちゃんと見てたはずなんだけど…。ぱって、いつの間にか消えてて…!」
「…ッバァカチャンかよ!手品じゃねえんだ、んな訳あるかアッ!福チャンが時間厳守っつってんだ、ヘラヘラしながら遅刻して取材に来てみろ、何が王者だって笑われるに決まってる!」
先程まで真波が回していた三本ローラーを指差し、苛立ち抑えきれない荒北に 福富はそれを片手で制した。
「荒北、もういい。黒田」
「はい」
「すぐジャージに着替えろ」
「分かりました」
福富は 不在の真波に代わり、取材陣の前には黒田をと考えたのだろう。言われた通り黒田はジャージに着替えに更衣室へ向かって行くが、その表情は苛立ちを隠しきれていない。続いてレギュラー陣も 汗を拭いながら更衣室へと向かっていく。私はトレーニングルームをあとにする福富に向かって頭を下げた。
「ご、ごめんなさい、福富くん。マネージャーの私の失態で」
「いや、いい。誰が奴を見ていたとしても、こうなっていた」
「…でも」
代々続いていく 王者箱学の威厳。顔を俯かせる私に福富は口を開いた。
「取材後、各々通常通りのメニューに入る。それまでに真波を連れて来い」
そう言うと、大きな背中を見せ 福富はトレーニングルームをあとにした。
___________________
爽やかな風が吹く河川敷。さらさらと緑が生い茂る細かな草の音が、耳を静かに刺激した。とても気分が良くなる場所。そして、逃げ出した張本人、真波山岳が居る場所。
「やっぱり ここに居た」
ため息混じりで見つけた彼の姿は、それはもう気持ち良さそうに 緑の上に転がっていて。愛車のLOOKを隣に停め、そのすぐ脇で細い寝息をたてている。草と共に さらさらの髪が風になびくその姿は、まるで絵に描いたように美しくて、起こす事が勿体ない程。しかし、主将の福富に 取材が終わるまで真波を連れて来るよう言われているのだ。福富は鉄仮面と言われているものの どことなく優しさ伝わるが、問題は荒北だ。同じような失態をして また荒北に大声を上げられるのは たまったものじゃない。
「山岳、こら、起きて」
寝ている彼のそばに立ち、見下ろしながら声を掛けるも寝息は一定のリズムを保ったままだ。
「ねえ、早く起きて。あなたが戻らないと、荒北くんにまた怒られちゃうから……。ねえってば」
ふと、真波の手のひらに小さなビニールのような物が握られている事に気付く。
「……何だろう、これ」
私は緑の上に腰をおろした。彼の寝息がより近くで聞こえる距離。二つ歳下でも、やはり男性なのだ…血管が浮き出し、大きくゴツゴツした手。少し緊張しながら、私は彼の手に触れる。瞬間、寝ている彼の手が反射的にぴくりと動いたような気がした。そうっと 手のひらに握られている物が何なのか、確かめるよう ゆっくりと指を一本ずつ開いていく。そこには。
「“アップルムースのモンブラン”……?…」
プラスチックの薄いパッケージには雑に貼られたコンビニのシール。ここへ来る途中、一軒だけコンビニがあるのを思い出した。よく見ると、赤い文字で目立つように“新発売”とプリントされていた。きっとそれに釣られて買ってしまったのだろう。そうして、くるりと裏を見ると。
「…わ…結構カロリーあるな…。ふふ、見つけたのが、東堂くんじゃなくて私で良かったね」
東堂の事だ。買い食いしている姿を目にしたら、「スポーツマンに余計な脂肪はいらん」「もう少し栄養バランスを考えんか」と説教が始まるに違いない。運動すれば誰だってお腹が空くのは当たり前だ。スイーツくらい たまにはいいだろう。しかし、例えゴミでも見つかってしまったら大変だ。私は真波が食べた証拠を隠滅する為、ゴミを自分のポケットへとしまった。ふと 隣で眠る真波に目を落とすと、口元に何が付いているようだった。すん、と確かめるように匂いを嗅ぐと微かに林檎の香りがして。先程食べたのであろうスイーツのクリームだと合致がいった。
「……どれだけ急いで食べたの…」
小さな笑いが込み上げてきた。一応、東堂の説教を回避する考えはあるらしく、バレないよう 人目を盗んで急いで食べたのだろう。しかし口元にクリームなど付けていては「美味しい物を食べました」と自ら告白しているようなもの。
「…ふふ。林檎を食べて眠っちゃうなんで、おとぎ話の 白雪姫みたい。……山岳、クリーム、付いてるよ」
そっと 手を伸ばすが、彼の唇直前で 伸ばした腕を引っ込めた。綺麗で整った顔。それに反した細くも逞しい筋肉質な身体。心臓の高鳴りが耳に響き、自分の頬が熱くなっているのを感じる。
「…まだ………。寝てて、ね。」
周りに誰も居ない事を確認し、私は彼に顔を近づけた。彼の静かな息遣いを肌で感じる。そうして 寝息を立てる薄い唇に私は 触れるだけのキスをした。
一瞬の出来事。すぐに唇を離したものの、自分でしたにも関わらず、心臓が壊れてしまいそうなくらい煩くなって。あまりにも大きく躍動するので、眠っている彼に聞こえてしまうのではないかと思ってしまう。
唇を離したが、何故か彼のそばから離れる事が出来なくて。息遣いを感じる近い距離で 暫く顔を見つめていたい…そんな事を考えていると。
『名前先輩、唇柔らかいんだね』
そう言って目の前で 瞬間に ぱち、と大きな瞳が開き 私の視線と重なった。それはあまりに突然な目覚め。驚きで声すら出ず、ただ慌てて口をぱくぱく動かす私に、彼は笑った。
『自分からしておいて、何でそんなに顔赤くなってるの?』
「え、……えっと…!…それはっ……」
全身が途端に熱くなる。言い訳なんて思い浮かぶはずがなかった。
『ねえ。先輩』
腕が伸びて来たと思った矢先。彼は勢いよく 草に横たわった身体を反転させ、隣にいる私の手首を掴む。
「…っきゃ…!…」
身体がぐらつく…何が起こったのだろう。私は先程まで真波が寝転んでいた緑に仰向けになっていて、彼が私に覆いかぶさるように上にいる。
「……山、岳……。あのっ…違うの…あれは…!…」
言い終わる前に 次の言葉は真波に遮られた。
『名前先輩、俺の唇。どうだった?』
深く黒い瞳で見つめられる。これ以上見つめられたら、私の身体に穴が開いてしまいそうだったので、正直に答える事にした。
「…あ…甘……かったかな…」
赤面しながらそう答えると、真波の顔が近づいてきた。キスをする素振りだ。
「…ま、待って山岳…!…」
『なんで? その気にさせたのは名前先輩でしょ』
「…っ……」
彼に両手首を掴まれているが、それは極 優しい力。抜け出そうと思えば抜け出せるはずなのに、何故か身体が動かない。
『だから、“待った”はナシだと思うんだけど。違う?』
「…さん…がく…」
私が彼を押しのけず、否定しない事を感じ取ったのか。彼は少し悪戯な笑みのあと、静かに唇を近づけた。
『それに、知ってると思うけど』
「…」
『キスで目覚めた“白雪姫”は、“王子”と恋に落ちるんだって』
二度目のキスは、ただ触れるだけの優しいキスなんて生易しい物じゃなかった。
____________________
『一年 真波、只今戻りました〜。すいませえん、遅くなって。取材ですよね、今から間に合います?』
「……真波、テメ。どこほっつきやがってたんだァッ!? 取材なんてとっくの昔に終わってんだよ、このバァカチャンが!」
『あれ〜、そうだったんですね』
「そうだったんですね〜、じゃねエ!つうか、名前チャンは?」
『ああ。俺の事 呼びに来てくれましたよ』
「イヤだから!その名前チャンはどしたって聞いてんだけどオッ!?」
『ああ! 名前先輩なら、なんか物っ凄い大きな虫に刺されたみたいで。保健室に寄って来るそうです』
「ふうん。まあ、夏だしネ。居るよな 虫の一匹や二匹」
『一応 数え方は“匹”じゃなくて“人”なんですけど』
「ハア?」
『何でもありませえん、えへへへ』
「ッたく。いい加減にしろよな、この不思議チャンがァ」
真波が部室に戻るまでの二人のお話二度目のキスのその間
三本ローラーを回すトレーニングルームへ 緊張した面持ちの後輩が伝言を伝えにやって来た。無理もない、福富を始めとするレギュラー陣が五人も揃っているのだ。重たい威圧感、立っているだけで部が引き締まる雰囲気、そして圧倒的存在感。その全てが、気高き“王者箱学”を物語っている。
「分かった。レギュラーは全員 ジャージに着替えて十分以内に集合しろ。時間厳守だ」
福富がローラーから降り、汗を拭いながら点呼を始めた。
「荒北」
「へーい」
「東堂」
「うむ」
「新開」
「オーケー寿一」
「泉田」
「アブ!」
「真波」
途端にトレーニングルームが しん、と静まり返る。これまで綺麗に続いた点呼が止まり、福富は太い眉をぴくりと動かした。
「真波」
周りを見渡すが……おかしい。先程まで目の前でローラーを回していたはずの真波が まるで手品のように消えている。呆れた様子でため息をつくレギュラー陣に続き 私は慌てた。すると、取材の予定を伝えに来ていた後輩が 言い辛そうに眉を八の字にし口を開いた。
「あ、あの…。真波なら…ここへ来る途中、すぐそこですれ違いました。風が呼んでるとか言って……」
その言葉に 荒北の怒涛にも似る声が響いた。
「…ッざけんなアっ!あンの不思議チャン!ついさっき 取材あるから大人しくしてろッつったばっかじゃねえか!」
そうして細くギラついた 野性動物のような目が私に向けられる。
「おい、名前チャン!ちゃんと真波 監視しとけっつったよな」
「ご、ごめん。目の前でローラー回してる所 ちゃんと見てたはずなんだけど…。ぱって、いつの間にか消えてて…!」
「…ッバァカチャンかよ!手品じゃねえんだ、んな訳あるかアッ!福チャンが時間厳守っつってんだ、ヘラヘラしながら遅刻して取材に来てみろ、何が王者だって笑われるに決まってる!」
先程まで真波が回していた三本ローラーを指差し、苛立ち抑えきれない荒北に 福富はそれを片手で制した。
「荒北、もういい。黒田」
「はい」
「すぐジャージに着替えろ」
「分かりました」
福富は 不在の真波に代わり、取材陣の前には黒田をと考えたのだろう。言われた通り黒田はジャージに着替えに更衣室へ向かって行くが、その表情は苛立ちを隠しきれていない。続いてレギュラー陣も 汗を拭いながら更衣室へと向かっていく。私はトレーニングルームをあとにする福富に向かって頭を下げた。
「ご、ごめんなさい、福富くん。マネージャーの私の失態で」
「いや、いい。誰が奴を見ていたとしても、こうなっていた」
「…でも」
代々続いていく 王者箱学の威厳。顔を俯かせる私に福富は口を開いた。
「取材後、各々通常通りのメニューに入る。それまでに真波を連れて来い」
そう言うと、大きな背中を見せ 福富はトレーニングルームをあとにした。
___________________
爽やかな風が吹く河川敷。さらさらと緑が生い茂る細かな草の音が、耳を静かに刺激した。とても気分が良くなる場所。そして、逃げ出した張本人、真波山岳が居る場所。
「やっぱり ここに居た」
ため息混じりで見つけた彼の姿は、それはもう気持ち良さそうに 緑の上に転がっていて。愛車のLOOKを隣に停め、そのすぐ脇で細い寝息をたてている。草と共に さらさらの髪が風になびくその姿は、まるで絵に描いたように美しくて、起こす事が勿体ない程。しかし、主将の福富に 取材が終わるまで真波を連れて来るよう言われているのだ。福富は鉄仮面と言われているものの どことなく優しさ伝わるが、問題は荒北だ。同じような失態をして また荒北に大声を上げられるのは たまったものじゃない。
「山岳、こら、起きて」
寝ている彼のそばに立ち、見下ろしながら声を掛けるも寝息は一定のリズムを保ったままだ。
「ねえ、早く起きて。あなたが戻らないと、荒北くんにまた怒られちゃうから……。ねえってば」
ふと、真波の手のひらに小さなビニールのような物が握られている事に気付く。
「……何だろう、これ」
私は緑の上に腰をおろした。彼の寝息がより近くで聞こえる距離。二つ歳下でも、やはり男性なのだ…血管が浮き出し、大きくゴツゴツした手。少し緊張しながら、私は彼の手に触れる。瞬間、寝ている彼の手が反射的にぴくりと動いたような気がした。そうっと 手のひらに握られている物が何なのか、確かめるよう ゆっくりと指を一本ずつ開いていく。そこには。
「“アップルムースのモンブラン”……?…」
プラスチックの薄いパッケージには雑に貼られたコンビニのシール。ここへ来る途中、一軒だけコンビニがあるのを思い出した。よく見ると、赤い文字で目立つように“新発売”とプリントされていた。きっとそれに釣られて買ってしまったのだろう。そうして、くるりと裏を見ると。
「…わ…結構カロリーあるな…。ふふ、見つけたのが、東堂くんじゃなくて私で良かったね」
東堂の事だ。買い食いしている姿を目にしたら、「スポーツマンに余計な脂肪はいらん」「もう少し栄養バランスを考えんか」と説教が始まるに違いない。運動すれば誰だってお腹が空くのは当たり前だ。スイーツくらい たまにはいいだろう。しかし、例えゴミでも見つかってしまったら大変だ。私は真波が食べた証拠を隠滅する為、ゴミを自分のポケットへとしまった。ふと 隣で眠る真波に目を落とすと、口元に何が付いているようだった。すん、と確かめるように匂いを嗅ぐと微かに林檎の香りがして。先程食べたのであろうスイーツのクリームだと合致がいった。
「……どれだけ急いで食べたの…」
小さな笑いが込み上げてきた。一応、東堂の説教を回避する考えはあるらしく、バレないよう 人目を盗んで急いで食べたのだろう。しかし口元にクリームなど付けていては「美味しい物を食べました」と自ら告白しているようなもの。
「…ふふ。林檎を食べて眠っちゃうなんで、おとぎ話の 白雪姫みたい。……山岳、クリーム、付いてるよ」
そっと 手を伸ばすが、彼の唇直前で 伸ばした腕を引っ込めた。綺麗で整った顔。それに反した細くも逞しい筋肉質な身体。心臓の高鳴りが耳に響き、自分の頬が熱くなっているのを感じる。
「…まだ………。寝てて、ね。」
周りに誰も居ない事を確認し、私は彼に顔を近づけた。彼の静かな息遣いを肌で感じる。そうして 寝息を立てる薄い唇に私は 触れるだけのキスをした。
一瞬の出来事。すぐに唇を離したものの、自分でしたにも関わらず、心臓が壊れてしまいそうなくらい煩くなって。あまりにも大きく躍動するので、眠っている彼に聞こえてしまうのではないかと思ってしまう。
唇を離したが、何故か彼のそばから離れる事が出来なくて。息遣いを感じる近い距離で 暫く顔を見つめていたい…そんな事を考えていると。
『名前先輩、唇柔らかいんだね』
そう言って目の前で 瞬間に ぱち、と大きな瞳が開き 私の視線と重なった。それはあまりに突然な目覚め。驚きで声すら出ず、ただ慌てて口をぱくぱく動かす私に、彼は笑った。
『自分からしておいて、何でそんなに顔赤くなってるの?』
「え、……えっと…!…それはっ……」
全身が途端に熱くなる。言い訳なんて思い浮かぶはずがなかった。
『ねえ。先輩』
腕が伸びて来たと思った矢先。彼は勢いよく 草に横たわった身体を反転させ、隣にいる私の手首を掴む。
「…っきゃ…!…」
身体がぐらつく…何が起こったのだろう。私は先程まで真波が寝転んでいた緑に仰向けになっていて、彼が私に覆いかぶさるように上にいる。
「……山、岳……。あのっ…違うの…あれは…!…」
言い終わる前に 次の言葉は真波に遮られた。
『名前先輩、俺の唇。どうだった?』
深く黒い瞳で見つめられる。これ以上見つめられたら、私の身体に穴が開いてしまいそうだったので、正直に答える事にした。
「…あ…甘……かったかな…」
赤面しながらそう答えると、真波の顔が近づいてきた。キスをする素振りだ。
「…ま、待って山岳…!…」
『なんで? その気にさせたのは名前先輩でしょ』
「…っ……」
彼に両手首を掴まれているが、それは
『だから、“待った”はナシだと思うんだけど。違う?』
「…さん…がく…」
私が彼を押しのけず、否定しない事を感じ取ったのか。彼は少し悪戯な笑みのあと、静かに唇を近づけた。
『それに、知ってると思うけど』
「…」
『キスで目覚めた“白雪姫”は、“王子”と恋に落ちるんだって』
二度目のキスは、ただ触れるだけの優しいキスなんて生易しい物じゃなかった。
____________________
『一年 真波、只今戻りました〜。すいませえん、遅くなって。取材ですよね、今から間に合います?』
「……真波、テメ。どこほっつきやがってたんだァッ!? 取材なんてとっくの昔に終わってんだよ、このバァカチャンが!」
『あれ〜、そうだったんですね』
「そうだったんですね〜、じゃねエ!つうか、名前チャンは?」
『ああ。俺の事 呼びに来てくれましたよ』
「イヤだから!その名前チャンはどしたって聞いてんだけどオッ!?」
『ああ! 名前先輩なら、なんか物っ凄い大きな虫に刺されたみたいで。保健室に寄って来るそうです』
「ふうん。まあ、夏だしネ。居るよな 虫の一匹や二匹」
『一応 数え方は“匹”じゃなくて“人”なんですけど』
「ハア?」
『何でもありませえん、えへへへ』
「ッたく。いい加減にしろよな、この不思議チャンがァ」
真波が部室に戻るまでの二人のお話二度目のキスのその間