弱虫ペダル
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真夏の夜は、陽が落ちても日中と さほど気温は変わらなくて。日差しのない無い、ただの木陰のよう。そんなジメジメと湿気の強い季節に 一瞬だけ、暑さを忘れて楽しめる行事がある。
『ああ!名前ちゃん、お待たせ〜』
「拓斗くん」
この日、私は 付き合って間もない恋人の葦木場と、夏祭りの花火を見に 箱根にある芦ノ湖の祭りに来ていた。
『わあ、名前ちゃん。その浴衣凄く似合ってる、可愛いね!お姫様みたい』
「…本当?ありがとう…でも照れるな」
直球に褒められ、途端に恥ずかしくなり俯いた。葦木場は、天然なのか 歯の浮くような台詞でさえ簡単に口に出来てしまう。
しかし、それが嘘のない本心だと分かると、嬉しくもあるが、やはり恥ずかしさが勝る。
『本当に可愛いよ。こんな可愛い彼女とデート出来るなんて、夢みたい。休み明けに、塔ちゃんとユキちゃんに自慢しようっと』
「拓斗くんてば…」
2m2cmある 大きい身体が嬉しさのあまり ぴょんぴょん跳ねる姿は、傍から見たら少し異様に思えるだろう。それでも、子供のように はしゃぐ葦木場に私も つられて吹き出してしまった。
『そうだ、名前ちゃん。花火って確か20時からだよね?』
「うん、20時から30分間、2500発の花火が一気に打ち上がるんだって」
芦ノ湖の花火は、打ち上がる光の玉が 湖に幻想的に映し出される。きっとロマンチックに違いない。
『じゃあ、まだ時間あるからさ、屋台で何か食べよ』
「うん」
夏祭りはどこも混むのが当たり前だが、屋台のある方へ向かうと、人通りが一層多くなった。すると、右肩に温かい感触を覚える。
気付けば、隣を歩く葦木場の、大きくゴツゴツした手が 私の肩をそっと支えていた。驚いて彼を見上げると、いつも頼りなさ気な葦木場の真剣な横顔に どき、と心臓が跳ねる。
『ん…あ、ごめん。嫌だった?』
「ううん、全然。ただ……びっくりしただけ」
『人混みで 誰かが名前ちゃんにぶつかるの嫌だから。人が はけるまで、このまま歩いていい?』
「…ん」
回された力強い右腕は、宝物を扱うように優しい。
『……て、格好つけちゃったけど、これはユキちゃんから教わったんだ』
「え?」
照れるように眉を八の字にした葦木場が、自分の後ろ髪を掻いた。
『名前ちゃんとデートに行くって言ったら、塔ちゃんと ユキちゃんが色々教えてくれて。ちゃんとリードしろって』
「そうだったんだ」
確かに。いつもらしからぬ葦木場の行動に戸惑ったが、そういう事かと笑みが溢れた。
『うーん。確かに名前ちゃんが ぶつかって怪我とかしちゃうのは嫌なんだけど。正直 何がリードになってるか良く分からないんだよね。ねえ、これ……合ってるのかな?』
「ふふ。合ってる合ってる。拓斗くん、本当 良いお友達に恵まれたね」
その言葉に葦木場は、ぱっと明るい表情をし、にこにこしながら 私の肩に触れ、また歩き出した。
この日の夜は いつも以上に暑く、身体を涼める為にも 私たちは屋台でかき氷を買った。
『美味し〜!名前ちゃん、いちごシロップ、凄い美味しいよ! うっ、頭が』
「キーンってする?」
『うん…わあ 痛いよお…名前ちゃん、俺の頭 痛いの痛いの飛んでけして』
「あんまり効かないと思うけど。いいよ」
クスクス笑いながらが、葦木場の頭を撫でる。山の天気のようにコロコロと表情を変える葦木場と居ると楽しくて仕方がない。
丁度かき氷を食べ終わる頃、花火会場からアナウンスが響いた。
「拓斗くん、もう花火始まっちゃうって」
『じゃあ 行こっか』
葦木場は かき氷のシロップで真っ赤になった舌を ぺろりと出し、また私を笑わせた。
会場には沢山の観客が居て、前列は優先席となっているらしい。予め有料で 席を買うと一番良い眺めを味わえるのだろう。
私たちは有料席ではなく、少し後ろの芝生の上で観覧する事にした。
私が芝生に腰を下ろそうとすると、葦木場はハッとしたように。
『名前ちゃん、待って』
そうしてジーンズの後ろポケットから、ハンカチを取り出すと、芝生の上に敷く。
『ここに座って』
「わ、拓斗くん ありがとう」
『これは塔ちゃんから、教えてもらった』
「ふふ、流石だね」
敷かれた白いハンカチが、皺くちゃなのを見て、彼っぽいなと笑ってしまった。
腰を下ろすと同時に、最初の花火が打ち上がる。鼓膜と身体の芯まで震えるような大きい音を響かせ、晴れた夜空に パッと光の花が咲いていく。
『わあ、凄い、凄いね!名前ちゃん』
「うん、あ。あれ、今のハート型だったよ、拓斗くんのホクロみたい、可愛い」
『じゃあ あれは、星型に 型抜きした人参のカタチだね!あ。俺急に カレー食べたくなっちゃったよ〜』
「そこは素直に星型じゃないんだ」
どこまでもマイペースな彼に きっとこの先も飽きる事はないだろう。毎日こうして笑わせて、私を可愛いと沢山褒めてくれる彼。
「綺麗だね」
ふと、花火を見上げながら ぽつりと呟くと、葦木場が私に 優しい目を向ける。そっと、彼の手が私の頬に触れた。
『名前ちゃんの方が―――だよ』
「え?」
大事な所で、連発した花火が打ち上がり始めた。何を言おうとしてくれたのだろう。聞き返す私に、葦木場は続ける。
『だから、名前ちゃんの方が 何杯も―――だよ!』
「えっ、なんて…?」
綺麗な花火が爆音で葦木場の言葉を邪魔をして、大切な所が全く聞こえない。
すると葦木場は ムッと頬を膨らませ 勢い良く立ち上がり、声を大にした。
――瞬間、花火の音がやむ。
「名前ちゃん!名前ちゃんは、世界一綺麗だよおおーッ!!」
次の花火の準備の合間。静まり返った会場で、葦木場の声がエコーした。
途端に会場が湧き上がり、拍手や口笛が飛んでくる。私は、嬉しさと恥ずかしさで俯いた。葦木場も赤面していて、わたわたと私の手首を握る。
『わっ…やば。大声出して注目されちゃったよ…。ハズカシー。えっと…もう少し遠い所で見よっか?』
「そ…そうだね」
私達は 観客の視線を浴びながら、花火会場を出た。高く上がる花火だ。離れていても遠くから見るには十分。
手を繋ぎ 屋台の道を抜け、芦ノ湖の夏祭り会場から箱根登山鉄道へ向かった。
『さっきはごめんね。俺の声が花火に邪魔されてて 名前ちゃんに届かないから つい。やっぱり俺にリードなんて無理だよ、格好悪くてごめん』
「ううん。そんな事ない。凄くびっくりしたけど…嬉しかった…。あと…格好良かったよ、拓斗くん」
顔を上げ、高い身長の葦木場を見上げる。彼は、いつになく優しい顔をしていて。
ふいに、葦木場は腰を落とし、その高い背を折り曲げた。
「拓斗くん…」
『ね、誰もいないから。……キスしていい?』
その言葉に急に顔の熱が上がる。私は返事の代わりに 小さく首を立てに振った。
瞬間に、ゆっくりと 彼の冷たい唇が 私の唇と重なる。
『名前ちゃん、可愛い。世界一可愛い…大好き…』
「…んッ…た、拓斗くん…」
薄く目を開くと、葦木場と熱い視線が重なった。それは 見たことのない“男の人”の顔。身体が、ピクリと反応する。
触れるだけのキスが、徐々に舌が触れ合い 身体の芯が熱くなる。逃げようとするも 葦木場の舌が私を逃さない。絡み合う舌から 唾液が溢れ始める。彼に身体を委ねて 貪られるようなキスがとても気持ちい。しかし。
「…っ、拓…斗くんっ…待って…。…やっぱり誰か来ちゃうよ…見られたら…恥ずかしい」
『うわっ。そうだね…!いきなりキスしちゃって…ごめんね……お、俺の事 嫌いになってない?』
「なってないよ」
『よ、良かったあ』
ギラついた目から、いつも通りの優しい目になる葦木場に ほっとした。私は葦木場が触れた唇に指先を当てる。まだ彼の感触が残っているみたいで、心臓の高鳴りが収まらない。それにしても、彼があんなキスをするなんて思いもしなかった。
「ね、ねえ。拓斗くん」
『ん?』
「………まかさ…さっきのキス」
――それも二人に教えてもらった訳じゃないよね?
「……まさか、ね」
『何が?』
不思議そうに私の顔を覗く葦木場。
私はそんな彼の手を繋ぎ、駅までの道のりを歩き始める。
今、最後の花火が 打ち上がった音がした。
『ああ!名前ちゃん、お待たせ〜』
「拓斗くん」
この日、私は 付き合って間もない恋人の葦木場と、夏祭りの花火を見に 箱根にある芦ノ湖の祭りに来ていた。
『わあ、名前ちゃん。その浴衣凄く似合ってる、可愛いね!お姫様みたい』
「…本当?ありがとう…でも照れるな」
直球に褒められ、途端に恥ずかしくなり俯いた。葦木場は、天然なのか 歯の浮くような台詞でさえ簡単に口に出来てしまう。
しかし、それが嘘のない本心だと分かると、嬉しくもあるが、やはり恥ずかしさが勝る。
『本当に可愛いよ。こんな可愛い彼女とデート出来るなんて、夢みたい。休み明けに、塔ちゃんとユキちゃんに自慢しようっと』
「拓斗くんてば…」
2m2cmある 大きい身体が嬉しさのあまり ぴょんぴょん跳ねる姿は、傍から見たら少し異様に思えるだろう。それでも、子供のように はしゃぐ葦木場に私も つられて吹き出してしまった。
『そうだ、名前ちゃん。花火って確か20時からだよね?』
「うん、20時から30分間、2500発の花火が一気に打ち上がるんだって」
芦ノ湖の花火は、打ち上がる光の玉が 湖に幻想的に映し出される。きっとロマンチックに違いない。
『じゃあ、まだ時間あるからさ、屋台で何か食べよ』
「うん」
夏祭りはどこも混むのが当たり前だが、屋台のある方へ向かうと、人通りが一層多くなった。すると、右肩に温かい感触を覚える。
気付けば、隣を歩く葦木場の、大きくゴツゴツした手が 私の肩をそっと支えていた。驚いて彼を見上げると、いつも頼りなさ気な葦木場の真剣な横顔に どき、と心臓が跳ねる。
『ん…あ、ごめん。嫌だった?』
「ううん、全然。ただ……びっくりしただけ」
『人混みで 誰かが名前ちゃんにぶつかるの嫌だから。人が はけるまで、このまま歩いていい?』
「…ん」
回された力強い右腕は、宝物を扱うように優しい。
『……て、格好つけちゃったけど、これはユキちゃんから教わったんだ』
「え?」
照れるように眉を八の字にした葦木場が、自分の後ろ髪を掻いた。
『名前ちゃんとデートに行くって言ったら、塔ちゃんと ユキちゃんが色々教えてくれて。ちゃんとリードしろって』
「そうだったんだ」
確かに。いつもらしからぬ葦木場の行動に戸惑ったが、そういう事かと笑みが溢れた。
『うーん。確かに名前ちゃんが ぶつかって怪我とかしちゃうのは嫌なんだけど。正直 何がリードになってるか良く分からないんだよね。ねえ、これ……合ってるのかな?』
「ふふ。合ってる合ってる。拓斗くん、本当 良いお友達に恵まれたね」
その言葉に葦木場は、ぱっと明るい表情をし、にこにこしながら 私の肩に触れ、また歩き出した。
この日の夜は いつも以上に暑く、身体を涼める為にも 私たちは屋台でかき氷を買った。
『美味し〜!名前ちゃん、いちごシロップ、凄い美味しいよ! うっ、頭が』
「キーンってする?」
『うん…わあ 痛いよお…名前ちゃん、俺の頭 痛いの痛いの飛んでけして』
「あんまり効かないと思うけど。いいよ」
クスクス笑いながらが、葦木場の頭を撫でる。山の天気のようにコロコロと表情を変える葦木場と居ると楽しくて仕方がない。
丁度かき氷を食べ終わる頃、花火会場からアナウンスが響いた。
「拓斗くん、もう花火始まっちゃうって」
『じゃあ 行こっか』
葦木場は かき氷のシロップで真っ赤になった舌を ぺろりと出し、また私を笑わせた。
会場には沢山の観客が居て、前列は優先席となっているらしい。予め有料で 席を買うと一番良い眺めを味わえるのだろう。
私たちは有料席ではなく、少し後ろの芝生の上で観覧する事にした。
私が芝生に腰を下ろそうとすると、葦木場はハッとしたように。
『名前ちゃん、待って』
そうしてジーンズの後ろポケットから、ハンカチを取り出すと、芝生の上に敷く。
『ここに座って』
「わ、拓斗くん ありがとう」
『これは塔ちゃんから、教えてもらった』
「ふふ、流石だね」
敷かれた白いハンカチが、皺くちゃなのを見て、彼っぽいなと笑ってしまった。
腰を下ろすと同時に、最初の花火が打ち上がる。鼓膜と身体の芯まで震えるような大きい音を響かせ、晴れた夜空に パッと光の花が咲いていく。
『わあ、凄い、凄いね!名前ちゃん』
「うん、あ。あれ、今のハート型だったよ、拓斗くんのホクロみたい、可愛い」
『じゃあ あれは、星型に 型抜きした人参のカタチだね!あ。俺急に カレー食べたくなっちゃったよ〜』
「そこは素直に星型じゃないんだ」
どこまでもマイペースな彼に きっとこの先も飽きる事はないだろう。毎日こうして笑わせて、私を可愛いと沢山褒めてくれる彼。
「綺麗だね」
ふと、花火を見上げながら ぽつりと呟くと、葦木場が私に 優しい目を向ける。そっと、彼の手が私の頬に触れた。
『名前ちゃんの方が―――だよ』
「え?」
大事な所で、連発した花火が打ち上がり始めた。何を言おうとしてくれたのだろう。聞き返す私に、葦木場は続ける。
『だから、名前ちゃんの方が 何杯も―――だよ!』
「えっ、なんて…?」
綺麗な花火が爆音で葦木場の言葉を邪魔をして、大切な所が全く聞こえない。
すると葦木場は ムッと頬を膨らませ 勢い良く立ち上がり、声を大にした。
――瞬間、花火の音がやむ。
「名前ちゃん!名前ちゃんは、世界一綺麗だよおおーッ!!」
次の花火の準備の合間。静まり返った会場で、葦木場の声がエコーした。
途端に会場が湧き上がり、拍手や口笛が飛んでくる。私は、嬉しさと恥ずかしさで俯いた。葦木場も赤面していて、わたわたと私の手首を握る。
『わっ…やば。大声出して注目されちゃったよ…。ハズカシー。えっと…もう少し遠い所で見よっか?』
「そ…そうだね」
私達は 観客の視線を浴びながら、花火会場を出た。高く上がる花火だ。離れていても遠くから見るには十分。
手を繋ぎ 屋台の道を抜け、芦ノ湖の夏祭り会場から箱根登山鉄道へ向かった。
『さっきはごめんね。俺の声が花火に邪魔されてて 名前ちゃんに届かないから つい。やっぱり俺にリードなんて無理だよ、格好悪くてごめん』
「ううん。そんな事ない。凄くびっくりしたけど…嬉しかった…。あと…格好良かったよ、拓斗くん」
顔を上げ、高い身長の葦木場を見上げる。彼は、いつになく優しい顔をしていて。
ふいに、葦木場は腰を落とし、その高い背を折り曲げた。
「拓斗くん…」
『ね、誰もいないから。……キスしていい?』
その言葉に急に顔の熱が上がる。私は返事の代わりに 小さく首を立てに振った。
瞬間に、ゆっくりと 彼の冷たい唇が 私の唇と重なる。
『名前ちゃん、可愛い。世界一可愛い…大好き…』
「…んッ…た、拓斗くん…」
薄く目を開くと、葦木場と熱い視線が重なった。それは 見たことのない“男の人”の顔。身体が、ピクリと反応する。
触れるだけのキスが、徐々に舌が触れ合い 身体の芯が熱くなる。逃げようとするも 葦木場の舌が私を逃さない。絡み合う舌から 唾液が溢れ始める。彼に身体を委ねて 貪られるようなキスがとても気持ちい。しかし。
「…っ、拓…斗くんっ…待って…。…やっぱり誰か来ちゃうよ…見られたら…恥ずかしい」
『うわっ。そうだね…!いきなりキスしちゃって…ごめんね……お、俺の事 嫌いになってない?』
「なってないよ」
『よ、良かったあ』
ギラついた目から、いつも通りの優しい目になる葦木場に ほっとした。私は葦木場が触れた唇に指先を当てる。まだ彼の感触が残っているみたいで、心臓の高鳴りが収まらない。それにしても、彼があんなキスをするなんて思いもしなかった。
「ね、ねえ。拓斗くん」
『ん?』
「………まかさ…さっきのキス」
――それも二人に教えてもらった訳じゃないよね?
「……まさか、ね」
『何が?』
不思議そうに私の顔を覗く葦木場。
私はそんな彼の手を繋ぎ、駅までの道のりを歩き始める。
今、最後の花火が 打ち上がった音がした。