デフォルト名はマイです。
Emetselch
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古代人の生きていた真なる世界においても、彼女は英雄だった
穏やかで朗らか、基本的に怒らない古代人同士でも衝突してしまうことはあったし
人同士のトラブルはもちろん、その他問題が全く何も起きなかったわけではなかった
イデアの管理局で、作れる人が作ったものを共有とあったことから、
古代人だからといってみんながなんでもできる完璧な人というわけではなかったため
戦える人もいれば、戦えない人もいたし、
物作りが得意な人もいれば、そうでない人もいた
できない何かは、できる誰かが補った
それを意図せずも率先してやったのが彼女だった
各国を転々としながら小さな活躍を積み重ねて、彼女は英雄と呼ばれる存在になっていた
彼女の活躍はアーモロートの市民にとっても注目の的だった
一応、彼女の拠点でもあったアーモロート
その十四人委員会に属する彼女は、報告を兼ねてたまに会議にも顔をだしていた
英雄である彼女は、災厄が起こり始めた時も然り、それこそ世界中を飛び回った
必死に駆け回って、それでも助けられなかった命もたくさんあった
アーモロートでは、星の意思を紡ぐ存在の召喚準備が始まっていた
その召喚には彼女は参加しなかった
理が突然ほつれた原因を、世界中を回っていた彼女は知ってしまったからだ
それでも、皆を救うためと頑なにゾディアーク召喚を謳う委員会と、彼女はついに離別の道を選んだ
「私は、、私は私で、道を探してみようと思う
誰も犠牲にならなくて済む方法があるなら、その方がいいだろう?」
「言い出したら聞かないのは昔からだが、、まったくお前というやつは」
「ハーデス、君ならわかってくれるだろう?」
「!」
真名を呼んだ彼女を、エメトセルクはじっと見つめ返した
「私は、たとえばハーデスがゾディアークの犠牲になると考えたら、耐えられないと思った
そんな思いを、他の誰かがするんだと思ったら、、とても、、賛成はできない」
唇を噛んで俯いた彼女の肩が震えている
「だから、最後の最後まで違う道を探してみたいんだ
そんな方法はないのかもしれない
だから、委員会の決定には賛成できないけど反対もできないと思っている」
犠牲が出たとしても、世界が救われるなら滅ぶよりもいいなんて当然のことだ
「、、最後の最後まで、できることはなんでもやりたいんだ
誰も犠牲にならなくて済むなら、その方がいいに決まってるからね」
それはそうだ
誰も差し出さずに済むのならその方がいいに決まっている
しかし考えなしに、できもしない約束ができるほど、彼女は無責任ではなかったし
それができるような状況でもなかった
他に宛てもないのに、違う道を探そうと言い出せるほどの時間などもう残されてもいなかった
犠牲を出したとしても、世界が救われる道があるのなら、
アテがない以上それを無責任に止めることはできない
だから、ひとり道を探すのだと言う彼女をエメトセルクは止めることができなかった
彼女が安心して道を探せるよう、確実に世界を救う道を確保しておかなくてはならない
「そうか、、」
「だから、私は行くよ
、、このあとすぐにでも発とうと思っているよ」
爺さんに、挨拶してからね
そう付け加えながら肩をすくめて笑ってみせた彼女はいつも通りだった
「ならば、心ゆくまで探してみるがいい
誰もが救われる道を
ただ、、」
「?」
「ただ、その“誰も”にはお前も含まれていることをゆめゆめ忘れるな」
「!」
「必ず、戻ってこい」
嬉しそうに、彼女は頷いた
エメトセルクはハッとその顔を凝視した
いつもの、力強い笑みだったはずなのに
今生の、別れになりそうな気がしたからだった
程なくして、彼女はアーモロートを去っていった
知らず知らず、英勇と呼ばれた彼女に、皆が期待していた
その彼女が選んだ道に、多くの人が困惑の色を浮かべた
(英雄と呼ばれた彼女なら、何か別の道を見つけられるかもしれない)と内心密かに期待していた部分も
(生き残った人の半数を捧げる、なんて、、、その捧げられる誰かが君だったとしたら、、私はそんなの嫌だ耐えられない)
英雄と呼ばれた彼女は友であるエメトセルクを救うために
エメトセルクもまた彼女と、大事な人を救うために
それぞれの信じた道を進んだ
そのほんの数日後
終末は唐突に訪れた
ゾディアークが召喚された
彼女は別の道を見つけることはできなかったようだ
理が紡がれ、星は静けさを取り戻したが
世界は元どおりにはならなかった
当然といえば当然である
一度壊れたものがすっかり元の通りに戻ることはありえない
この静けさは束の間の静けさだった
ここからが、それこそ第四の災厄だった
新たに芽吹いた命を捧げて同胞を取り戻す
それが、ゾディアークへの次の願いだった
しかしそれは負の連鎖の幕開けに過ぎない
失った誰かは、誰かの大事な人だっただろう
しかし、次に捧げ失うのもまた、誰かの大事な人に違いないのだ
救われた世界で
永い時を生きるが故に、不変を願った人々は新たな犠牲を願った
ゾディアークを召喚して、魂を闇に染めた人たちへの感謝の気持ちはあったし、
同胞を取り戻したい気持ちだってあった
それは誰の胸にも等しく抱いていたものだった
しかし、取り戻したいと願うたびに、誰かが誰かを失う
それは、恐ろしいことではないだろうか
生き物というのは、同じことを繰り返せば慣れてしまうものだ
そうして何かを失っては、何かを失うことで取り戻すことに慣れてしまった人々に、
果たして未来が、希望があるだろうか?
それは再び星の崩壊を招く原因とはならないだろうか?
ゾディアークのその後の使い道で、意見の別れた人々は争い、
対なるハイデリンを生み出した
誰かを失う悲しみは、これで終わりにしなければならない
悲しみを繰り返さないために、収められない意見の対立を力で制すことを選んだ
その痛みと責任は今我々がすべて背負うのだと
誰かを捧げて得る平穏を良しとしなかった人々も、命を捧げてハイデリンに未来への力を託した
永い時を生きてきたが故に、
争いは激化する
星を見渡す場所で、ゾディアークとハイデリンは対峙した
闇の加護を受けた人と、光の加護を受けた人同士も、譲れない道を進むために力を行使した
拮抗していた力はやがて、ハイデリンの渾身の一撃により唐突に決着を迎える
結果、すべてのものが14に引き裂かれた
命、大地、エーテル、すべて
世界そのものが、14に分かたれた
ゾディアークすらも、、ーーー
引き裂かれる寸前、戦乱の渦中で再会を果たした二人は、最後に視線を交わした
進んだ道は違えど、それはお互いを救うためだった
それだけは、間違いなく確かな願いだった
互いに向かい合って佇んだまま幾ばくかの時が流れた
複雑な色を湛えた視線が交差する
最後の瞬間、ハイデリンの一撃に気づいた彼女がハイデリンの方を向いた
そして振り返って、微笑んだ
悲しげな、寂しげな、なんともいえない表情だった
一瞬だけ、わずかな隙を見せたエメトセルクに近づくとそのまま前に立ちはだかり、
ハイデリンの一撃を、彼女はその背に直に受けた
ハイデリンの召喚に携わった彼女は光の加護を受けていた
闇に染まったエメトセルクの魂を、光が覆う
闇に染まった魂に相反するはずのその光は、なぜか暖かかった
背後に突然開いた次元の狭間への入り口
そこに向かって、彼女はエメトセルクを力一杯突き飛ばした
ーーーーー!!
思わず、エメトセルクは彼女の名を叫んだ
後ろから誰かの白い腕が、慌てて戻ろうとするエメトセルクを背後から羽交い締めにして引き止めた
振りほどこうともがくが、彼女はもはや閉じかけた闇の向こうだった
物言わず晴れやかな顔で笑った彼女が、閉じていく闇の向こうで真っ白な光に包まれていった
光の加護を受けているとは言っても、大勢の命が託されたハイデリンの渾身の一撃に太刀打ちできる力などなかった
彼女は精一杯の力で抗った
その、命をかけて
長いようで一瞬の出来事だった
まばゆい光に覆われ、世界は光に染まる
大気は歪み、エーテルが乱れ
魂も、大地も、そこに立つ人の輪郭さえも歪んだ
それは一瞬、幾重にも重なったようにも見えた
やがて、何もかもが溶けていくような、
消えていくような、悍ましい光景が広がった
エメトセルクを羽交い締めにしていた白い腕が、不意に消えた
闇が閉じて、呆然と立ちすくんだエメトセルクをずっと掴んでいた腕は、
見慣れた彼女の腕によく似ていた
そうだ、あいつは創造魔法が得意だったな
自分の分身を作り出したのか
消えた腕が、エメトセルクの不安を掻き立てる
魔法で作り出された分身が消えたそれが意味することは、、
はやく、はやくこの次元の狭間をでなければ
次元の狭間を出たエメトセルクの目に映ったのは、妙な世界だった
見慣れているはずのものが、違うものに見えた
どこか中途半端で、歪で、奇妙だった
世界は脆く小さな命で溢れていた
ただ一つ確かなのは、微かに漂うゾディアークのエーテルの残滓が、その敗北を優に物語っていたことだった
この戦いで、多くの同胞やその他大勢が命を落とした
いびつに歪んだ世界で、闇も光も、目の前で儚く消えていく
霧散していくエーテルが、魂が、何もかもが儚く悲しげで
終末をほのかに彩りながら消えていく
その中に、見慣れた輝きを見つけた
ハイデリンの力をまともに受けた彼女もまた、世界と同じように引き裂かれていた
横たわったその体の向こうに、大地が透けて見えている
加護が残っているせいか、淡い光に包まれていた
横たえた体も、閉じたままの瞳も、ピクリとも動かない
愕然とするエメトセルクの前で、エーテルに溶けていく彼女
弱々しく輝く魂が、儚く美しく揺らめいた
ぼやけていく輪郭に、思わず手を伸ばしたところで、彼女は光の中に溶けて消えた
最後に、突き飛ばされた直後、光に飲み込まれる寸前何か言っていたような気もするが
なんと言っていたのか聞こえなかった
それは終末という絶望の渦に飲み込まれたエメトセルクに届くことはなかった
エメトセルクは分かたれた世界を見て呆然と立ち尽くした
蠢く小さな生き物は、人の形をした何かのようで不気味だった
引き裂かれた世界の中で、生き残ったのは3人だけだった
呆然としていた2人に、1人が言った
世界を元に戻そう
顔を上げた2人に、背を向けたまま1人は言葉を続けた
分かたれた世界とゾディアークを統合し、同胞を取り戻すのだ
2人は顔を見合わせて、やがて立ち上がると背を向けたままの1人に頷いた
そうして、3人の長く永い戦いが始まった
それが14人委員会の議長ラハブレア、調停者エリディブス、そしてエメトセルクだった
エメトセルクが、無意識にも延々と守り続けた彼女への約束
ある時代で再び巡り会った懐かしい輝き
あの時死んだ彼女が、生まれ変わってそこにいた
彼女の魂は、割かれても、生まれ変わってもなお、その輝きを失うことはなかった
忘れもしない
彼女特有の不思議な色に輝くその魂は
太古の昔
穏やかだった、日常だったあの日々を、焼け付くほど色鮮やかに思い出させた
1万2千年もの長く永い時を経てもなお
褪せることのない大事な記憶を
“なりそこない”
彼女はあの“英雄”ではない
英雄なんていなかった
冒険は終わる
言い聞かせるように紡いだ言葉は、声に出せば出すほどその絶望を強く実感させた
半分の統合を経てもなお、期待に応えきれない
所詮はなりそこないなのだ
愚かにも、なりそこないなんかに期待してしまった自分に苛立つ
遥か昔、奇跡を期待してしまった自分をも無意識に重ねてーー
目の前で壊れていく彼女
壊れる様をまたこの目で、、
いや、彼女はなりそこないだ
"彼女"ではないーー
ほらみろ、壊れていく
こんななりそこないなんか、彼女(英雄)じゃない
壊れていく体を引きずって
圧倒的な力の差を見せつけられてもなお、
彼女は立ち向かう
大事なものを守るために
あの頃の彼女のようにーー
「馬鹿な、、!
お前、なぜそこに、、!?」
いや、違う
違う
彼女なんかじゃない
「ならば、、
最後の裁定だ
この世界の悪役がどちらか決めようじゃないか!」
彼女は
魔力にしてもその容姿にしても、当時の面影は一切残っていなかったはずの彼女は
記憶こそないものの、紛れもなく彼女だった
英雄は、いたのか
あの時潰えた冒険を、今になってもまだ続けているというのか
彼女はいつも前に進んでいく
止まることなく
振り返ることはしても、決して戻ることなく
希望を胸に、進んでいく
ついに彼女は、どこか悲しげな、寂しげな瞳でエメトセルクを討った
ずっと期待していた
長い永い年月
儚く消えていく人の中で
エメトセルクを苛み続けた孤独と懐古にはもう十分疲れていた
いつか、再びあの世界を
取り戻したところで、元通りの世界が戻るわけじゃない
おそらくどこか、何かが歪に歪んでいるだろう
それでも統合を目指したのは、消えゆく同胞たちを取り戻し
真なる人の最後の愚かな過ちを正すためだった
彼女はいつでも、ひたすら真っ直ぐに道を歩んでいく
いつの時代も、どんな世界でも変わることなく
肉体の枷のない、エーテル剥き出しの姿に亀裂が走る
大きな穴の開いた体を見つめながら、エメトセルクは終わりの時を悟る
フードを脱いで顔を上げると、彼女はまっすぐにこちらを見ていた
複雑な色をたたえた瞳が、少し寂しそうに見えるのは気のせいだろうか
ならば、覚えていろ
不思議なほど、気分は悪くない
むしろまるでこの晴れ渡った空が心地良いと思えるほどに穏やかだった
私たちは、確かに生きていたんだ
想いを託すように
まっすぐと彼女の目を見つめると、彼女はそれを受け取るように強く頷いた
まったく面影がなかったはずの彼女に、あの頃の彼女が重なって見えるような気がした
もしも同じ道を歩んでいたなら、結末は違っただろうか
あの時、違う選択ができていたなら、違う世界が広がっていただろうか
最期に走馬灯のように駆け巡った記憶は、終末を迎える前の、幸せだったあの日々と
この世界で彼女と会って共に過ごした日々だった
やはりどこか寂しそうに見える彼女に笑って見せると、エメトセルクはエーテルに溶けて消えていった
再び日差しと夜の闇を取り戻した第一世界は、少しずつ活気を取り戻していった
暮らしは楽とは言えないが、以前とは比べものにならないほど皆が生き生きとしている
原初世界と第一世界を行き来しながら、彼女は忙しい日々を送っていた
そんなある日、彼女はふとあの幻影の街を思い出した
何か大事な物をなくしてしまった時のような、妙な焦燥に駆られて、
気づけばまだ残っているかもわからないアーモロートへ転送を試みていた
飛んだ先はマカレンサス広場だった
かすかな潮のかおりが鼻をかすめて、
すでに懐かしく感じる記憶を呼び覚ます
アーモロートは、初めて訪れたあの日のまま
そっくりそのまま残っていた
なんて強大な魔力だろうか
何となく落ち着くような、どこか懐かしいような気がするのは、
あの人のせいだろうか
それとも・・・
高い塔のてっぺんで、街並みを眺めながらいつかのあの人の言葉を思い出す
『・・なんて、言ったところで思い出すわけもないか。』
初めて古代の思い出を話してくれたエメトセルクは
とても寂しげな目をしていた
その背に負った重荷はいったいどれだけの物だったろう
エメトセルクの孤独を思うと、とてもいたたまれない気持ちになった
彼を苛んだ孤独は、察するに余りある
アルバートも、1番辛かったのは孤独だと言っていた
闇に魂を侵されながらも人を救い、その果てに全てを失った彼は、
長い永い年月闘い続けてきたのだ
失った同胞を、大事な人を、取り戻すために
やり場のない怒りを抱えたまま、
全てを奪った光から、全てを奪い返すために
戦い続けてきたのだ
そう、文字通り世界を敵に回しながら、必死で抗い続けてきた彼らこそ
漆黒のヴィランズーーーー
天を仰いで目を閉じて
水音が響く街の、在りし日の姿に思いを馳せる
『アーモロートの町並みは壮麗で美しく
高い塔のさらに上、遥かな空から日差しと風が注いでいた』
彼の言葉が脳裏に響く
思い出せたならどんなにかよかっただろう
彼のおそらく大事な人の一人であったろう、
古代人だったころの自分にも思いを馳せて、
結局何も思い出せはしないまま、そっと目を開ける
青い光に包まれた、美しい街並みを見渡して
その景色を胸に刻む
きっと、忘れない
覚えていろ
そう言って、寂しげにほほ笑んだ彼の、最後の願いを
決意と思い出を胸にしまって、英雄は街を後にする
その足取りはしっかりと、新たな冒険へ向かって歩み始めた