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ある日唐突に、小さな造船所のある小さな島で、事件は起こった。
突然大勢の海賊達が上陸してきたのだ。
緑豊かな小さく美しい島に海賊たちの怒号が飛び交い、平和な日常とは一変した島の様子に、集まっていた島民は騒然となり逃げ惑う。
海賊旗はなく、どこの海賊団かは不明だった。
海賊たちの狙いに察しがついた島民は、慌てて目当てと思われる品を隠す。
造船所の地下に作られた隠し倉庫の中で、造船所の親方とそこで働くナナシは密かに言い合いをしていた。
「みんなが殺されてしまう・・!!こんなもの、渡してしまった方が・・」
入り口が1番わかりづらいこの倉庫は、海賊から金品や大事なものを何度も守ってきた。
今回もここでやり過ごすつもりで2人は実を抱えて倉庫に立て篭もったのだが、外の様子を倉庫の端にある装置でのぞいてナナシが言った。
外では島民が追われて捕まり、実の在処を聞き出されているところだった。
「いや、いかん・・!」
「どうして!?」
「とにかく、海賊にだけは絶対に渡しちゃならん!」
「これなんなの!?変な木の実にも見えるけど・・みんなを犠牲にしても守る価値があるものなの!?」
「それは・・」
「・・ミズミズの実だ・・」
「・・・!!??」
言い合いをする2人の背後、倉庫の入り口付近に音もなく突然男が現れた。
見慣れないその男は左手の代わりにある大きな鉤爪を撫でながらそう言った。
「そいつを大人しく渡してもらおうか」
「いかん・・!絶対に、何があってもそれは渡してはならん!」
実を思わず抱き締めたナナシを庇うように親方が立ちはだかるが、男の体が端からサラサラと崩れ出した。
「・・能力者・・!!?」
一瞬の出来事だった。
入り口付近に立っていたはずの男が突然ナナシの目の前に現れた。
顔の中央を真っ直ぐ横切る大きな傷跡が目を引くその男は抵抗するナナシからいとも簡単に実を奪った。
ところが。
「く・・っ!?」
「・・??」
男が突然実を手放して片膝をついた。
「・・チッ・・!」
呆然としていたナナシはハッとしてすぐに実を拾いなおした。
そしてそのまま入り口へ駆け寄る。
その後ろを庇うように追った親方が弾き飛ばされる。
大きな物音を立てて奥の棚にぶつかった親方はそのまま床に倒れた。
「親方・・っ!!」
砂がナナシを取り囲んだ。
恐怖と焦りでナナシは身構える。
「それをよこせ・・」
凄む男の威圧感の何たる強さか。
あまりの圧にナナシは全身に汗が滲むのを感じた。
「それ・・を・・っ渡しては・・ならん・・!!」
先ほどの衝撃がよほどだったのか、棚に捕まって立ち上がりながら言う親方と、目の前に迫る男を交互に見ながらナナシは後ずさる。
「っ黙って渡せ・・!!」
男が手を伸ばした。
奪われてしまうーーー!
ナナシはぎゅっと目を瞑って暫し考えると、意を決したように顔を上げた。
次の瞬間ーーー
「っこの・・!?クソガキが・・!!」
ナナシは実にかぶりついていた。
一気に詰め込んだ実はなかなか飲み込めず、ナナシは口を手で覆う。
ガッと掴まれた腕が引っ張られると同時に、やっとの思いで実を飲み込むナナシ。
その瞬間殴り飛ばされたナナシは、長と同じく倉庫の奥の棚に激突した。
「ナナシ・・!!」
「っう・・っ」
身体中が痛い。
蹲って呻くナナシに、男が歩み寄った。
「小娘・・食っちまったんなら仕方ねェ。一緒に来てもらうぞ」
「っ・・え・・」
男を見上げたナナシの腕を再び掴んだ男は、次の瞬間再び膝をついた。
「・・!!」
「??」
実の能力のせいだった。
ミズミズの実は食べたものに水の力を与えるが、その力はロギア。
つまり能力者自身が水となるため、能力者が触れれば海楼石のような効果をもたらすのだ。
「・・・厄介だな」
どうやら男はナナシに触れられないらしいと言うのを理解し、ナナシは慌てて立ち上がり走り去ろうとした。
しかしそこでナナシは異変を感じる。
突然体が崩れた。
文字通り、崩れた。
「!??」
突如水となり地面にこぼれ落ちてしまったのだ。
地面にできた水溜りは不自然に揺めき蠢いている。
「っナナシ・・!!」
親方は慌てて駆け寄った。
水の塊になってしまったナナシは、水になったままうろうろと動き回っている。
意志を持った水が、まるで生き物のように蠢く様は異様だった。
これが、この実の能力なのかーーー
どうやら、ナナシはもとに戻れずに焦っているようだった。
しかしこのままにはしておけない。
親方は咄嗟に近くにあった瓶を掴んで、ゆらめくだけのナナシに向けると意図が通じたようで、スルスルとビンの中に水が流れていく。
床から瓶のなかへ水が遡る、不思議な光景だった。
「大丈夫だ・・!慣れれば戻れるようになるからな・・!!」
ビンの中のナナシに向かってそう言いながら、大事そうに抱え直す。
「くくくく・・・クハハハハハ!!」
「・・!!?」
突然笑い出した男に気を取られた瞬間ーーー
「っああ!!」
サラサラと砂が流れて、親方に抱えられていた瓶が奪われた。
砂に流され、瓶は男の手に渡ってしまった。
「ナナシを返せ・・!!」
「こいつはいただいていく。」
「まてっ!!」
近くにあるものを手当たり次第に男に投げつけながら、親方は男に掴みかかる。
が、物があたったところにも掴んだところにも手応えはなく、砂が飛び散るだけだった。
それでもなんとか止めようと、握った拳を何度も何度も砂に叩きつけた。
やがて、相手をするのに飽きた男に砂で再び弾き飛ばされ、今度こそ親方は気を失った。
動かなくなった親方に背を向けて、男は歩き出した。
造船所から出てきた男が、入り口付近に待機していた部下に一言何かを告げると、部下はすぐさま島内で大暴れしている者たちに何事か合図を送った。
そうして、目的を遂げた海賊達は嵐のように去っていったのだった。
なす術もなく、瓶の中で揺らめくナナシを連れて。
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