星と宿命と小さな決意
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ナナシは軽く身なりを整えるとまずラオウの元へ向かった。
「おはようございます。」
大きな扉の前で、ひとつ深呼吸をしてから扉を叩き声をかける。
しかし中から返事はなかった。
なんとも分厚そうな扉は沈黙を保ったままだ。
数回、扉を叩いて声をかけることを繰り返した後で、ナナシは思い切って扉の取っ手に手をかけた。
体重をかけて押すと、扉は見た目どおり重そうな音を立ててゆっくりと開いた。
部屋の中は空だった。
ラオウはどうやらもうすでに出かけた後のようだ。
そこは調度品らしい調度品のないなんとも無機質な部屋だった。
部屋の隅に大きなソファと小さなテーブルが置いてある他には入り口の側に大きな棚がひとつあるだけだ。
扉の正面に開ける大きな窓から、風が吹き込んでいる。
奥に扉が見えるから、おそらくその向こうが寝室だろう。
部屋の主の不在を確認すると、ナナシは足早に部屋を後にした。
どうやら上の階には普段はあまり人がいないようだ。
大きな窓が並ぶ長い廊下の途中に、螺旋状の階段を見つけてそのまま階下へ向かう。
ちょうど階段を降りきったところで見つけた誰かの背中に、ナナシは声をかけた。
「あの・・・!」
「・・うん?ああ、君か・・」
振り返ったその人は、昨日ナナシを最初に見つけた兵士だった。
見知らぬ世界。
自分を知る者、自分が知っている者のいない世界での知った顔に、少し安堵する。
「昨日はすまなかったね。まあ、いまだに信じがたい話ではあるが・・」
ナナシが安堵する様子に気づいて、兵士は少々すまなそうに言った。
「いえ、私だって逆の立場だったら同じように信じられなかったと思います。」
首を横に振って、ナナシはそう言った。
実際、自分が異世界に飛ばされるなんてあり得ない話で、ナナシだって最初は驚いた。
これが現実なのだと、飛ばされた本人であるナナシですらいまだに信じられないのだから、この兵士や他の人たちが信じられないのも無理はない。
それを、まさかあのラオウが信じてくれたのだから不思議だ。
なぜ、ラオウは信じてくれたのだろう。
「ラオウは外出されてるようですね・・?」
ナナシは今降りてきた階段を振り返って言うと、兵士は頷いた。
「ああ、制圧に出られている。夕刻には戻られると思うが・・」
「戻られるまで何か私に出来るお仕事はありませんか?」
拾ってもらっておいて何もせずに待つのもなんだか申し訳なくて・・と頭をかきながら笑うナナシの申し出に、兵士は頷くと侍女たちの働く厨房と洗濯房に案内してくれた。
道すがら、兵士は城内の主な部屋のおおまかな位置も簡単に説明してくれた。
石造りの壁は外国の映画の中で見たような古城の壁によく似ている。
廊下や部屋に見られる、開け放たれた木製の窓から入ってくる風には湿り気がなく、砂を含んでいるせいかざらりとした感じのする妙な風だった。
さきほど兵士に会ったあの階段からいろんな部屋を通り過ぎながら歩いてきたが、昨日見上げた城の外観からすると城内はみかけよりもずいぶん広いように感じられた。
兵士はとても親切で、見知らぬ世界にひとり放り出されたナナシをいろいろと気遣ってくれていた。
この世界で知っておくべきこともいくつか教えてくれた。
どうやら城の端にあったらしい厨房に着くと、近くにいた侍女に兵士が事情を説明する。
侍女が承知したのを確認してから、兵士はナナシを侍女に託した。
ナナシが礼を言うと、兵士はふと微笑みがんばれよ!と一言だけ残して去っていった。