日常と予兆
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夜もすっかり更けた頃、城の主人は帰還した。
愛馬を労って、厩舎番がその手綱を引いていくのを見送ると、早々に部屋へ向かう。
ぞろぞろと後に続いていた兵士たちも、各自身につけた鎧を外しながら解散していく。
部屋へ向かう途中で、最近帰還すると必ず駆け寄ってくるようになった小柄な女を思い出して、今日はいないことに小さな違和感を感じる自分を不快に思う。
これはよくない兆候だ。
恐怖政治を強いている自分が、穏やかさにかまけてはいられない。
この世界で、最強の統治者として君臨するためには、いかなる隙も作ることは許されない。
場合によっては、放り出すもやむなし。
そう思いながら部屋の扉を開けたラオウは、そのまま立ち止まった。
何かが、いる。
動く気配はないが、何かが室内にいる気配があった。
月明かりが差し込む室内を見渡してみると、椅子のそばにそれはあった。
一瞬の間の後、ラオウはその何かの傍に立っていた。
瞬間移動にも見えるほどの素早さだった。
ナナシが見ていたなら、実際そう思っただろう。
近付いてみると、それはナナシだった。
うずくまり、体を抱くように丸くなっている。
どうやら眠っているようだが、様子がおかしい。
震えている。
「・・おい・・」
体を揺すると、焦点の合わない目でナナシはラオウを見上げた。
寝ぼけているのか、誰だか分かっていないようだった。
薄手の服越しに、その体の熱さが伝わる。
ナナシは熱にうなされていた。
疲れからなのか、最近の気温の低さに風邪をひいたのか。
鼻を啜ったり咳き込む様子がないことから、おそらく疲れだろう。
この地に現れてからの期間を考えると、ここでの生活に慣れてきたことで小さな油断でも生じたか。
ナナシは起きる気配はなく、そのまま力なく顔を伏せてしまった。
再び寝入ってしまったようだ。
その様子をしばらく見つめると、ラオウは徐にナナシの体を抱き上げた。
そのまま椅子に乗せると、椅子の背にかけてあった外套をナナシの体にかけてやる。
寒かったのか、小さく身じろいで外套の端を無意識に握りしめるナナシ。
少し苦しげに寝息を立てるナナシに、ラオウが背を向けたその時だった。
「 」
背後から聞こえた小さな声に、ラオウは一瞬動きを止めた。
再び振り返ってみると、先ほどと同じ体制で眠っているナナシの姿。
どうやら寝言のようだ。
その様子に、ラオウは眉間にぎゅっと皺を寄せると、再び踵を返した。
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