日常と予兆
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「・・・よ・・・っと!」
ナナシは大量の洗濯物の入った大きなカゴを抱えて、城の外に出た。
晴れとは言えない空模様に小さくため息をつく。
空を覆う雲は雨雲でこそないものの、太陽を覆っているせいで少々暗い色をしている。
室内から見た外は薄暗くて、現代であれば洗濯物を外に干すか中に干すか迷うような色をしていたが、この世界では気持ちよく晴れた空の日がそもそもあまりない。
日々溜まっていく洗濯物を思えば、少しでも洗濯できそうならやっておかないと後で大変なことになりそうだった。
今のこの空模様なら、早めに洗って干しておけば、雨が降り出す前になんとか乾いてくれるだろう。
1人納得したナナシは、小さく頷くと足を踏み出した。
城の中からでも洗濯房へ行くことはできる。
実はその方が近いし、いつもは実際に城の中を通って洗濯房へ向かっている。
しかし今日はその道中にある広間に、先日遠征から戻ってきた兵士達がたむろしているのだ。
そちらを通ってもいいのだが、ほとんど100%に近い確率で兵士に絡まれるのが目に見えている。
遠征に行っていたせいであまり接点のない兵士達にとっては、戻ったばかりで気が立っていることも手伝って、纏う空気があまりにも他と違うナナシは目立ちすぎて気になるのだ。
ここへ来てから最初の1週間、どこを歩いても何をしていてもあまりにも兵士に絡まれるナナシにあの兵士がこっそりとそう教えてくれた。
自分だけが纏う空気感が違うと言われても自分ではさっぱりわからないが、教えてくれた兵士によれば、他の者たちからするとナナシからはとても穏やかな雰囲気を感じるのだという。
ナナシにとってはどこに行っても、どんな場面でも感じる張り詰めたような空気感の中で、穏やかとは言われたもののつまりそういう緩い空気感の人間が1人歩いていると考えればなるほど、確かに少し気に障るかもしれない。
所謂、現代的に言えばKYな存在とでも言おうか。
なんとなくとはいえ理解はできても、だからといって自分も張り詰めた空気感を出そうと思ってそうそう簡単に出せるものでもなく。
現状ではどうにもしようがないのでそんな状態の中で少しでも周囲に不快な思いをさせないようにと、その後はナナシなりに気を使って立ち回ってきているつもりである。
そのおかげか、ここに来た当初から城にいる者たちとは少しずつ打ち解けられている気がするものの、ほとんど接点のない者たちは振り出しと同じである。
最初の頃よろしく絡まれるとなると、作業にかなりの支障をきたすことになる。
同時に命の危険も感じるうえにあの兵士達など、庇ってくれる人たちに再び迷惑をかけてしまうことにもなる。
だから、今は遠回りにはなるが外から向かうのが1番効率が良いのだ。
洗濯物の詰まったカゴを時折抱え直しながら、ナナシは洗濯房までの道を歩いていく。
生い茂ると言えるほどの草木もなく、殺風景な地面が乾いた音を立てる。
先ほどから抱えなおすたびに鼻先をかすめる汗臭さにもすっかり慣れたものだ。