天使が舞い降りた


寒いながらも晴れ渡る冬のある日、スマブラ界・ピーチ城のスマブラファイター達は、いつも通りの平和な日々を送っていた。
明らかにDXメンバーなのは気にしてはいけない。


「ねー、お外に遊びに行こうよー! お家の中ばっかじゃつまんない!」

「カービィは元気だね」


今日は晴れ渡っていて風も無く、体感温度はさして低くないだろう。
カービィの要求に、ピチューとプリン、ピカチュウ、アイスクライマーにネスが応える。
いってきまーす、と元気良く出て行った。


「じゃあ僕……ちょっと部屋に戻るから」


子供達を見送った後、マルスは1人自室へ戻った。
ソファに腰掛けて本を開くが、窓から入る日の光が予想外に暖かく、まるで春が来たよう。
暫く本を読んでいたにも拘わらず、ウトウトと微睡み始めた……が。

不意に声が聞こえたような気がして、マルスは辺りを見回した。
しかし見まわした所で誰も居ない。
一体なんだったんだろう……と辺りを見回し続けるうちに、ふと目を向けた窓の外、白い羽が舞っているのが目に入る。
鳥? と、疑問符を浮かべながら、マルスがそれを見続けていると。

一瞬、下から何かが飛び上がって来た。
本当に一瞬、見えただけなので何かは分からなかったが。


「(羽根の生えた人……だったような気がする)」


何が何だか分からずに、首を傾げるマルス。
すっかり眠気が覚めてしまい、また広間へ戻る事にした。


++++++


マルスが広間へ戻ると、遊びに行っていたハズのちびっ子達が何かを喚いていた。
本当だってば、とか、確かに居たもん、とか、必死で何かを主張しているようだ。
何事かと近くに居たリンクに尋ねると。


「何かチビ達がさ、天使を見たとか言ってんだよ」

「天、使……?」

「そうそう。真っ白い羽根が生えた奴が空を飛んで行ったって」


その言葉にマルスは息を飲む。
広間に居た大人達は、冗談か見間違いだろうと、天使については全く信じていないのだが……。
つい先程マルスも似たようなものを見てしまった。
確かに羽根が生えた人……だった気がする。

どうしても気になってしまったマルスは、そっと広間から抜け出して庭へと向かった。
風が無い事と日差しのお陰で小春日和。
自分の部屋から見えた辺りに来てみたが、やはり何もない。

……いや、違う。


「……羽」


真っ白な羽が少しだけ散らばっていた。
上を見上げれば間違い無く自分の部屋の窓が……。


「……?」


ふと、視界が暗くなった。
何かが自分の上に影を作っているようだ。
思わず太陽の方向を見たマルスの視界に入る、普通では信じ難い光景。
唖然としてしまい、とても避ける事など出来ない。

マルスの上に、
天使が降りて来た。


「うわぁ!」


人だ。
人が空から降って来た。

その人物は空中でバランスを崩したらしく、白い羽を撒き散らしつつ、何とかバランスを取ろうと必死に体勢を動かしている。
そのお陰か上空から降って来た割には衝撃が少ない。
しかし、それでもやはり、かなりの衝撃が来て、マルスはその人物もろとも地面へ倒れる。


「痛っ……!」

「わぁぁっ! すみません、ごめんなさい、怪我はありませんか!?」


慌てた声が聞こえ、マルスは痛む体を抑えながら上半身を起してその人物を見た。
その人物は、どことなくロイに似たような髪型の茶髪の少年で、かなり整った顔立ちをしている。
服は古代の神話を思わせるもので、背中には……。

羽根……。


「あの……」

「えっ。あ、あぁ、大丈夫だよ」


思わず彼に見入ってしまったマルス、声を掛けられた事で我に返った。
少年は大丈夫そうなマルスの様子にホッと息をついて笑顔を見せる。


「良かった……。……あの、ついでなんですが、ここってピーチ城ですか?」

「……そうだよ」


この天使(?)の少年はピーチ城に用があったのかと、マルスは目を見開く。
少年はますます笑顔になって、声を張り上げた。


「やっぱり、ここで良かったんだ……! 僕、今度からここでお世話になります、ピットって言います!」

「え……って事は、新しいスマブラファイター?」

「スマブラファイター? あ、確かに、来た手紙にはそう書いてありました」


少年……ピットが差し出した手紙、確かにこのピーチ城に招待する旨と、新しいスマブラメンバーとして迎える、と言う事が書いてあった。
また唐突に仲間が増えたものだと、マルスは苦笑しながら手紙を返す。
ピットはマルスに手を貸して立たせると、早速名前を訊いて来る。
その元気でハキハキした様子に好感を持って、マルスは気分良く名前を教えた。


「マルスだよ。同じスマブラファイターとして、これから宜しくね」

「マルスさんですね! こちらこそ、宜しくお願いします!」


言いながら頭を下げる彼を見ていると、その元気の良さと礼儀正しさが嬉しくなる。
しかしある事が気になり、マルスは彼に尋ねた。


「でも、一体どうして落ちて来たの?」

「あ……。それはですね」


聞けば始めは真っ先にピーチ城へ来たらしいが、本当にここでいいのか不安になり、慌てて近辺を確認しに行ったらしい。
その時、マルスや子供達が彼を目撃したと言う訳だ。
その後、やはりここがピーチ城だと確信した彼は戻って来たのだが、城上空で突風に煽られてバランスを崩し、マルスの上に落ちて来たそうだ。


「ほ、本当にすみませんでした。怪我が無くて良かったです」

「はは、もう大丈夫、気にしなくていいよ」


この礼儀正しさ、どこかの赤髪の生意気な後輩に見習って欲しい。
心の底から、マルスはそう思った……。


「じゃあピット、みんなに紹介するから行こうか。さっきから君の……天使の話で持ち切りなんだよ」

「え、本当ですか?」


言って、困ったような照れくさいような表情をするピット。
その様子に笑いながらマルスは彼を広間へと案内する。

それから暫くの間、他のファイター達から質問責めにされたり、色々とちょっかいを出されたピットだが、持ち前の明るさと素直さの為かすぐファイターの一員として馴染んだ。
そんな中、ピットが一番慕う先輩はマルスである。
初めに出会い、以来、色々と世話を焼いてくれるマルスに、ピットもよく懐いた。
マルスも、こんなに礼儀正しくて素直な後輩が出来て、嬉しくなったものである。
まぁ色々と比べられ、ロイが少しだけ いじけていたりするが……。

新しいファイターの加入にも、彼らの平和は揺るがないのだった。




*END*
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