色彩、降る降る


赤や橙や黄、頭上も足下も周りも暖色系で覆われた中に凛と際立つ寒色。
アイクは何気なく向けた視線の先で貼り絵のように浮かんだ恋人の姿に目を奪われ、言葉を失った。

スマブラファイター達が暮らすピーチ城の近くにある山は紅葉真っ盛り。
もみじ狩りに行こうなんて、主に豪華な弁当といつもより多い菓子類を期待した一部のファイターに押し切られ今に至る。
綺麗だとは思うが修行の足しにも腹の足しにもならない、別段興味も湧かないもみじ狩りに来させられ、アイクはつまらなさそうに歩いていた。

そんな中、ふと目を向けた先に居たのが彼。
アイクとは違い紅葉を楽しんでいるらしい彼は、鮮やかな暖色に包まれて嬉しげに目を細めている。
頭上や足下、身の回りや遥か後方まで色付いたもみじに囲まれ、寒色が貼り絵のように浮かんだ姿。
思わず見とれたアイクの視線に気付いたのか、マルスはアイクを見て笑みそちらへ歩み寄った。


「退屈そうだね」

「……あ、ああ、まあ。昼飯はまだなのか?」

「ふふっ、もうそろそろだと思うよ」


らしい、と思ったのか、こんな美しい一面の紅葉に囲まれても昼食の事しか考えていないアイクに笑いつつ答えるマルス。
白い肌も青い髪も青を基調とした装いも、周りの赤や橙や黄の暖色の中にあっては異様だ。
まるで彼の居る場所だけが異次元のようで現実味が全く感じられない。

隣に居ても異質に思える感覚に耐えられずアイクは確かな感触を求めた。
急に握られたマルスの手がぴくりと震える。
肩まで震えた気がして不味かったかと思ったが、マルスは再びアイクへ視線を向けると、にこり、破顔一笑。


「どうしたんだ、急に。寒い……わけじゃないよね、君は僕よりずっと寒さに強いから」

「本当は居ないんじゃないかと思った」

「……は?」

「あんまり現実味が無かったもんだから、つい」


ぽかんとするマルスに、暖色の中に際立つマルスの寒色が現実味を帯びていなかった事、
それで急に不安に苛まれた事を告げた………ら。


「あははははっ!」

「……笑うなよ」

「ご、ごめん。まさかアイクがそんな事を言うなんて思わなくて……。普段はどっしり構えているのに、意外な所で繊細になっちゃうんだね」


目尻に浮かんだ笑い涙を拭いながら、マルスは意外だと口にする。
アイク自身も、こんな下らない事で不安に苛まれるなど信じられなかった。
今までの自分では全く考えられない事、原因があるとすればそれは一つだ。


「あんたのせいだぞ」

「えっ?」

「あんたに出会って、こういう関係になって、だからそんな考えが浮かぶようになった。今までの俺では考えつかない」

「……えーっと」

「俺の心をこんな風に動かしたり、こんなに不安にさせたりしたのはお前が初めてだ、マルス」

「……それはどうも」


何だか凄い告白をされたような気がして返答に困ったマルスは思わず的外れな応えをしてしまう。
唖然としたマルスの妙な言葉に今度はアイクが笑い、何事かと視線を向ける他のファイター達も、笑いの出どころがアイクとマルスだと知って、いつもの事だと興味を無くした。

一人よりは楽しくなるだろうとマルスと一緒に歩き出すアイク。
つまらない紅葉もマルスを通して見ると心躍る物に変わるのだから不思議だ。
綺麗だねと言うマルスに、お前の方が、と言いかけて慌てて口を噤んだり。
いつの間にこんな陳腐な口説き文句が頭に浮かぶようになったのかと、アイクは一人苦笑した。


「また笑ってる」

「違う、今度は自分を笑ってるんだ」

「どうして?」

「お前が……、……いや、何でもない」

「そこまで言われたら気になるじゃないか!」


もう、と楽しげに笑いながら追求するマルス。
先に笑ったのはお前だろとアイクも微笑みつつ返すがマルスは引かない。
それを見た周りのファイター達も、またあいつらイチャついてるよと苦笑。
頭上は青空も見えない程の紅葉の屋根、それが剥がれ落ちて足下まで敷き詰められた暖色の絨毯。
その中に眩しく浮かび上がる恋人の姿は、紅葉など目にも入らないほど素晴らしい。
……いや、元々から紅葉などに興味は無いのだが。


「勘弁しろマルス、お前の見てくれに軽々しい口説き文句を言うような男と同じ事をさせる気か」

「……嫌な事を思い出させないで欲しいな」

「だったら言わせるな」


その美しい容姿から、女は元より男からも言い寄られる事のあるマルス。
街に出たりしようものならナンパに遭う事も。
それはもう口八丁でああだこうだ容姿を褒めて来るので、イヤミな話かもしれないが聞き飽きて嫌になってしまっていた。
第一、美しいだの可愛いだの言われても嬉しくない訳ではないが、何とも微妙な気分になる。
ましてや行きずりの男にそんな事を言われても逆に引いてしまう事さえあったり。


「君なら別にいいんだけどね」

「ん?」

「どんな歯の浮くような台詞を言ったって、君なら嬉しいよ」

「……どうあっても言わせたいのか、お前」


マルスの誘発するような言葉と表情に、アイクはまたまた苦笑い。
こうなると言ってやった方がいいのだろうかとマルスを見つめると、真っ直ぐに見つめ返された。
ふっと雰囲気が変わって、これは良いムードだと思った、瞬間。


「おーい、お昼ゴハンにするんだってさー!」

「でっかい重箱のお弁当だよー、美味しそうだよ早く食べようよー!」


良い所で呼びかけが入り、お互いに吹き出す。
行くか、と肩を並べて仲間達の元へ向かっていたら急に強めの風が吹き、美しく色付いた落ち葉が舞い上がった。
それに併せて木に繋がっていたもみじも、はらはらと落ちて来る。
ひんやりする風に舞い落ちる暖かな色彩たち。
その美麗さにマルスは元より、アイクも息を飲む。


「うわ、凄い! 一気に降って来る!」

「これは……圧巻だな」


大量に舞うもみじの中にあってもはっきりと確認できる愛しい姿。
また見とれていたアイクに気付いて、マルスはにっこり微笑んでみせた。
その時アイクはようやく、自分の姿も赤や橙や黄の暖色の中にあっては、はっきり確認できる事に気付いたのだった。


「……分かりやすいな。お前ほどじゃないが」

「だね」


赤、橙、黄、青、蒼。
どれだけ舞い落ち降り積もる色彩に隠れてしまおうとも、見つけ出せる。
だからもっと降れ、降って愛しい人を引き立てろと、面白半分に考える二人だった。




*END*

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紅葉が美しい季節です。
染まる山を見ていて今回のネタを思いつきました。
赤や橙や黄の中では青色ってめちゃくちゃ目立つよなあ、と。
アイクはあれだ、マントが赤いので次点。
やっぱりマントまで青いマルスが一番目立つんじゃないかと思ったり。

……そもそも青色って、陸上の自然界じゃなかなか無い色ですからね。
研究で作り出された青いバラって何か、青より紫って感じでしたし。
あっても毒とか? いや青色の花は割とあるか。青色の鳥とかも居るし。
そもそも巨大な割合を占める海や空が青いから、青色が自然界に少ないって印象は全く無いですね(汗)

当サイトのアイクはBLでも夢でも歯の浮くような台詞を真顔で淡々と口にする事が多いです。
でも実際は今回みたいな反応するのかなー、とか考えてみたりも。
キャラ崩しを出来るだけ無しで書いてみようかと挑戦した結果がコレだよ!
まあ普段は恋愛なんて微塵も興味ない、みたいな態度だからこそ、
いざ恋に落ちると燃え上がるのかなあ……って前も何回か言ったなコレ。

では、ここまでお読み下さり有難うございました!
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