プリンとエフラム2


また今日も、乱闘で大賑わいのスマブラファイター達。
エフラムも何戦か乱闘を終えてピーチ城に帰って来たところだ。
そこでいつものように、背後から微かな足音が聞こえて来た。
振り返ればいつものピンク色をした体。


「プリン、お前も乱闘を終えて来たのか?」


エフラムの質問に、ふるふると体を振って否定の意志を示すプリン。
最近プリンは乱闘せずに観戦する事が多かった。
プリンが観戦するのは、いつもエフラムの試合。
エフラムが戦う様を見たくて、自分の乱闘より観戦を優先させていた。

以前、朝食の際にエフラムと二人きりで交流してからというもの、プリンはエフラムに執着している。
エフラムはプリンの軽い体を抱え上げると、いつも槍を扱う力強い手からは考えられない程の優しさで彼女を撫でた。


「乱闘しないなら一緒に広間へ戻るか。それともダイニングへ行くか?」

「……広間」


抑揚少なく、一言ぽつりと呟いたプリン。
エフラムはそんな愛想の少ないプリンに気を悪くした様子を微塵も見せず、ゆったり微笑むと彼女を抱きかかえたまま広間へと足を進めた。

広間へ入るとまだ乱闘から帰ってない者が殆どなのか、広い室内はシンと静まり返っている。
居るのは優雅にお茶をしているらしい姫二人。
エフラムは姫達のテーブルからさほど離れていないソファーにプリンを座らせると、姫二人の方へと歩いて行く。


「ピーチ姫、ゼルダ姫、加減は如何だ?」

「あらエフラムご機嫌よう……とてもいい気分よ、何かご用かしら?」

「菓子か茶を分けて貰えないかと思ってな。プリンにあげるつもりなんだ」

「あら、プリン……」


姫二人が目をやると、どこか恥ずかしそうにジッと座っているプリンが。
彼女の気持ちを知っている姫たちは、微笑ましく思ってエフラムにティーカップと菓子を手渡した。
礼を言いプリンへ差し入れを持って行くエフラムの背中を見ながら、ピーチとゼルダは小声で話す。


「ゼルダちゃん、まさかエフラムったら、あんなにプリンと一緒に居るのに気付いてないのかしら」

「そうですね……エフラムは妹の面倒を見ている感じなのかもしれません。プリンが人の形をしていないのも一因かも……」


楽しそうに微笑みながらプリンの隣に座り、彼女の頭を撫でているエフラムを、姫二人は複雑な感情を混ぜて見ていた。

プリンはエフラムの事が好きだった。
女の子が近所の優しいお兄さんに好意を抱くようなものだが、確かに好きだという感情は本物だ。

プリンは普段からあまり話さず静かにしているので、プリンの想いを知るのはごく少数、ほぼ姫たちぐらいのもの。
他の誰よりプリンと一緒に居るエフラムは、薄々でも感づいているかと思っていたのだが。
エフラムには妹が居てよく世話を焼いていたので、プリンに対しても妹の世話を焼くような感情が出てしまうらしい。
姫たちの言う通り、プリンが全く人の形をしていない事も一因かもしれない。


「どうしたプリン、姫たちがくれたんだ、食べても構わないんだぞ」


エフラムが差し出した焼き菓子を、プリンは控え目に怖ず怖ずと受け取る。
隣に座る王子様にドキドキしてしまい、本当はプリンは菓子どころではなかった。


「……ピーチさん、あんなに親身に世話を焼いて下さったら、大抵の女の子は好意を持ちますよね」

「そうよねぇ……。エフラムってば本当に罪作りだわ」


ピーチとゼルダの会話は、至って一般論。
様々なものが合わさって言えない感情を、プリンはただ、心の中で燻らせる事しか出来なかった。


++++++


ある日のこと。
ゼルダが部屋で読書していると控え目なノックの音が鳴る。
現れたのはプリン。彼女は消え入りそうな程の小さな声で、驚くべき質問をして来た。


「……ゼルダひめ、人間になれる魔法、ありますか?」

「に、人間に……?」


なぜそんな事を言うのかと考えるゼルダだが、答えはすぐに出て来た。
エフラムだ。
プリンはきっと人間の女の子になってエフラムに想いを伝える気なのだろう。
少なくともポケモンの姿のままでは、これ以上相手にして貰う事は不可能だと悟ったらしい。
プリンはゼルダがシークに化身する魔法を見て、そんな魔法があるなら、ポケモンのような生き物が人間になれる魔法もあるのではと思った。

自分がシークになる魔法を応用すれば、困難だろうが出来ない事もないとゼルダは考える。
だが魔法とは時に思いもよらない害を齎すもの。
ポケモンを人間にするなんて、かなりの魔力をプリンに送らねばならない。
命を縮めたり、最悪の場合奪ったりする可能性もある。
プリンの想いは分かるが……みすみす死なせるような事など出来ないし、エフラムも望まないはずだ。


「プリン、あなたの気持ちは分かりますが、魔法とは危険でもあるのです。最悪あなたの命を奪ってしまう可能性も……」

「じゃあ、やっぱり……できない、ですか……?」

「残念ですけれど。死んでしまってはもうエフラムにも会えなくなります。嫌でしょう?」

「うん、いや……」


プリンも危険があると知り引き下がってくれる。
決してエフラムへの想いが弱い訳ではなく、彼を想うからこそ死ねない。
プリンが賢明な判断をしてくれた事に胸をなで下ろすゼルダだが、そうなればなったで、プリンが可哀想に思えてしまう。

伝える価値はあるのではないだろうか。
プリンは人ではないがエフラムなら例え想いを受け入れなくても、有り得ないと思ったり、まして馬鹿にしたりはしないはずだ。


「ねぇプリン、今すぐでなくとも構いません。そのままのあなたで、エフラムに想いを告げてみては」

「そのままの、わたし?」

「えぇ。偽りの姿より、真の姿で心の底からの想いを」

「……大丈夫かなぁ」

「例え受け入れて貰えなくても、心を込めて告げればきっと真剣な想いは伝わるはずですよ」


ゼルダのアドバイスを受けて、プリンはエフラムに想いを伝えてみようかと考えるようになった。
だがやはり本人を目の前にすると緊張して、うまく告げられない。
その後広間に戻ってエフラムに会い、話しかけられてもいつもの調子しか出せなかった。


「プリン、最近お前乱闘してないんだってな。俺と一緒にチーム組まないか」

「え……で、でも」

「心配するな。お前の事は必ず、俺が守るから」

「……」


相変わらず意識しない上での言葉一つ一つが、ときめきを運んで来る。
いつもこんな調子なら様々な女性を引っ掛けて大変だろうなと思いつつ、プリンはエフラムの乱闘の誘いを受けると、差し出された手を取った。
瞬間体が宙に浮き、気付けばエフラムの腕の中。
片手で胸の前で抱えるようにされて密着する。
見た感じより逞しい胸板に体を預けると、プリンの胸がどきどき高鳴った。


「よし、じゃあ行こうか。落っこちないようしっかり掴まってろよ」

「……うん」


いつかは、この零れ落ちそうな程に溢れる愛しい想いを伝えたい。
だが今はまだ。
この親密で和やかな関係に甘えていたいと思い、プリンは自分を抱えるエフラムに身を預けた。




*END*
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