プリンとエフラム


「……寝過ごした」


鳥がさえずり回る朝、ピーチ城の広間にエフラムは立ち尽くしていた。
辺りは、あの騒がしい連中が住んでいるとは思えないほど静まり返っている。
どうやら皆乱闘に行ってしまったらしい。
起こしてくれればいいのに、と心中で不満を洩らしながら、世界中で自分しか人間が居ないような静けさの中エフラムはダイニングへ向かった。


「あ、起きましたか。すぐに朝食をご用意致します」


この城の使用人(兼衛兵?)のキノピオがエフラムを見つけ厨房に走って行った。
どうやらここにも誰も居ないらしい。
諦めて席につこうとテーブルに向き直った瞬間、ピンク色の物体が視界に入る。
小さく丸く、どうやら朝食を食べているようで。
あれは、と思ってエフラムは席に近づいて行った。


「お前も寝過ごしたのか?」


声をかけた瞬間、そこに居た者がビクリと体を震わせる。


「そう恐がるな。お前は確か……プリン、だったか」


ポケモンの世界からやって来た妖精ポケモンは、パンを手に持ったままぎこちない動作で頷いた。
エフラムがプリンの正面の席に着くと、すぐキノピオが朝食を持って来る。
お互い無言で朝食を口に運んだ。
まだこの世界に来て間もないエフラムは、大勢の中ならまだしも、こうやって他のメンバーと2人きりでは上手く話せなかった。


「(王になる男が、これじゃいけないな……)」


大して親しくないのなら親しくなるよう努力するべき。
1人苦笑して、エフラムはプリンに声をかける。


「皆起こしてくれればいいのにな。そう思うだろ?」


やはり恐がっているのか、ビクリと体を振るわせた。
恐がらなくていいと宥めたり、折角仲間になったんだからファイターと仲良くなりたいと言ったり、できるだけ優しく声をかけるとようやくこちらを向いてくれた。


「……食べ終わったら、一緒に皆の所に行くか?」

「……」


元々無口なのかどうかは知らないが、先程から少しも喋らない。
だが、エフラムの言葉に確かに反応し、そして。
かすかに微笑み頷いてくれた。


「じゃ、皆に言う文句でも考えるか」


いつも物静かなプリンがクスリと笑う。
相変わらず今は殆ど誰も居ない城だが、心なしか、エフラムは先程より静けさを感じなくなっていた。




*END*
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