相棒の決意


マスターソードに退魔の力を甦らせる為、新しい賢者を探して海を駆けていたリンク。
立ち寄った島で自分を導いている舟、赤獅子の王に尋ね事をしてみた。


「あのさ、えっと、赤獅子はハイラルって国の王様なんだろ?」

「……まぁな」


ガノンドロフから逃れる為に再び入ったハイラルの城で、赤獅子はハイラル王としての正体を現した。
しかし、それがどうしたのかと、赤獅子はリンクの方を向く。


「王様って分かったんだしさ……いつまでも『赤獅子』なんて呼んでていいのかなって、思って」

「……」

「喋り方だって、このままでいいのかな?」


リンクが生きているこの時代、ハイラルは海底に封じられていて実質存在しない。
だから「国」や「王」というものがどういう意味を成すのか、彼には分からない筈なのだが……。
どうやら国や王の存在を、無意識の内に理解したらしい。

今はリンクを導く舟であるハイラル王、赤獅子の王は、今のままで構わないと未来を託された小さな勇者に告げる。
しかし遠慮しているのか、リンクはいつになく大人しい。
子供らしくもいつものリンクらしくもない反応に赤獅子は苦笑する。


「何を大人しくしておる。らしくないぞ」

「うん……」

「今のように、急に相棒によそよそしくされるのは敵わんからな」

「……?」


突然、何か妙な事を聞いたように、リンクが惚けた顔で赤獅子を見た。


「何だ?」

「相棒って……僕の事?」

「違うのか?」


逆に訊き返され、ますます惚けた顔をするリンク。
赤獅子と相棒だと思っているのは、自分だけだと思っていたらしい。
赤獅子はそれを聞き豪快な笑い声を上げる。


「それはとんだ杞憂だったな。……さぁ、いつまでも大人しくするな。まだ新しい賢者も見つかっていないのだぞ」

「いっつもそうやって急かす!!」

「何を言っておる! 急がなければならん状況であろう!」

「わーかってるよ!!」


赤獅子に飛び乗り、風のタクトで風向きを北に合わせる。


「? リンクよ、新しい賢者の居場所に心当たりでもあるのか?」

「うん、ちょっとね。さ、行こう、『相棒』赤獅子!」

「調子良くなりおって……」


赤獅子は微笑むと、真っ直ぐに進路を見据える。
リンクの持つゴシップストーンを通じ、この世界の人々を見てきた赤獅子。
最早ハイラルが無くとも生活はままなっている。
こんな所に何百年も前の王国が甦ったとしても、ただ困惑するだけだろう。

この戦いが終わったら赤獅子にはやるべき事がある。
帆を張り風に乗って進むリンクに、その考えは分からない。


「赤獅子!」

「何だ?」

「この戦いが終わったら、また一緒に島巡りしよ!」

「……どうしてだ?」


突然のリンクの提案に疑問符を浮かべる赤獅子。
リンクはニコリと笑い嬉しそうに声を上げる。


「だって赤獅子さ、いくら石で色んな物が見えるったって、実際に体感できる訳じゃないないだろ? だから、ちゃんと島の風を感じてほしいんだ!」


リンクは信じている。
この戦いが終われば赤獅子が海上でも元の姿に戻れるという事を。

……この戦いが終わっても、赤獅子が一緒に居てくれるという事を。


「……それもいいな」

「でしょ!? よし、頑張って行こーう!」


今はまだ、言う訳にはいかない。
この決意は。

嬉しそうに期待を胸にするリンクを乗せ、赤獅子は、かつての王国が沈んでいる広大な海を見渡した。




-END-
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