知りたい気持ち


「先生……」


いつものレイトンの研究室で。
仕事が一段落ついたレイトンに紅茶を出しながら、ルークは控え目に声をかけた。
いつも元気がいいルークだから、こんな風に大人しくなる時は何かあるのだと、考えずともすぐに分かる。

レイトンは普段より優しめに、何だいルークと笑顔を向けた。
ルークはそんな笑顔を見ると、上げていた顔を俯け黙り込んでしまう。
何か地雷でも踏んだかなと、内心少し焦りながらもルークが喋るのを待つと、彼は俯いたまま小さく口を開いた。


「先生は……知りたいと言う気持ちは大事だと思いますか?」

「勿論だよルーク、知りたいと言う気持ちが歴史を紐解き、謎を解明させるんだ。君も出された謎の答えは知りたいだろう」

「は、はい」

「どうしたんだい、何か知りたい事でも? 知識の探求は素晴らしい行為だよ」


何故か緊張しているらしいルークの気持ちを和らげようと言うレイトン。
だがルークは、自分の気持ちはそんな立派なものではない為、逆に言い出すのが恥ずかしくなってしまった。
いま自分が持っている知りたいと言う気持ちは、ただの嫉妬と虚栄心の積み重ねなのに。


「それとも、悩み事かな。私で良ければ話してもいいんだよ」

「……」


切り出してしまった以上言わない訳にもいくまい。
優しいレイトンの事だから、ルークの様子が変だと分かれば、解決するまで気にかけ続けてくれるだろう。
それでは迷惑になりかねない…ルークは小さな勇気を振り絞る。


「先生の昔の事が知りたいんです。話して貰えませんか?」

「私の? 構わないが、何故」


レイトンの質問に、ルークが再び言葉に詰まってしまった。
何気ない質問のつもりだったのだが、黙って話してやれば良かったかと後悔しかけたレイトンに、ルークの必死な声が届く。


「この前、街で先生の友達と会いましたよね。小さい頃の話とか、いっぱいして……」

「そうだったね、久し振りに会った旧友でね。すまない、ルークには退屈な時間だったか」

「いいえ! 先生の昔の事が聞けて楽しかったです。ただ……」


ただ、僕の知らない先生を良く知っている人が居て、悔しかったんです。


それがルークの主張だ。
今のレイトンであれば、1番よく知るのは自分だと言える。

しかし昔の事はルークには全く分からない。
そんなのは嫌だ、レイトンの事を1番よく知っているのは自分でありたい。
そんな嫉妬と虚栄心が、レイトンの事をもっと知りたいと言う探求へ繋がった。


「僕、先生の事、もっと知りたいんです。他の人に負けたくありません」


恥ずかしくなったのか、顔を赤くして俯いてしまったルーク。
レイトンはそんなルークを愛しく思い、優しく頭を撫でた。


「そうだね。折角だし、ルークに私の事をもっと知って貰おう」

「! 本当ですか!?」

「あぁ。ただ、昔の話だと曖昧な部分も多いだろうが……」

「構いません、先生の話が聞けるんだったら、嘘でも!」

「落ち着きなさいルーク。嘘では意味がないじゃないか」


興奮して言う事が滅茶苦茶になるルークに苦笑しつつ、レイトンは思い出を語り始める。

その話はやがて、ルークと言う愛しい存在に出会えた幸せの現在へと繋がるのだ。




*END*
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