剣士のとある朝


スマブラ界、ピーチ城の朝はいつも騒がしい。
ファイター達が朝食を食べたりしながら乱闘の予定を立て賑やかだ。
大体のファイターが朝食を終え、割と遅く起きた者が居残りしているダイニング。

そこに慌ただしい足音が聞こえて乱暴に扉が開かれた。
現れたのは、ろくに髪も整えず乱れた服装のロイ。
身だしなみを疎かにする彼をマルスが顔を顰めつつたしなめる。


「ロイ、せめて服装ぐらい整えたらどうなんだ。みっともない格好しないでよ」

「寝過ごしたんだよ! ステージ、神殿かポートタウン空いてる!?」

「残念だけど、どっちのステージも先約がある。ほら、それより君も朝食を食べた方が良い。一日のリズムが決まるからね」


のんびりしたマルスに若干イラつくロイだが、いつもの事なので気を取り直し席に着く。
ダイニングに居るのはマルスやゼルダなどの遅起き組が中心のようだ。
ロイが一緒に乱闘しようと思っていたリンクやアイクは早起き組で、もうとっくに乱闘へ向かったらしい。

ロイは内心尊敬している剣士と戦い、技を我が物にしようとしていた。
一方マルスは朝食を終えると、食事を待つロイへお先に、と微笑み、ピーチ城の中にある各ステージへの転送装置の部屋へ。

転送装置の部屋は円形のホールになっていて、三方の壁にシャッターが1つずつ。
手前にあるタッチパネルで参加ファイターやルール、ステージを決めるとシャッターが開き、中に4つある転送装置へ乗り込むシステムだ。
マルスが部屋に入った時、タッチパネルの前に一人佇む人物を見つけた。


「アイクさん? 乱闘に行ったんじゃなかったんですか」

「マルスか。いや、行ったは行ったんだが、ことごとく自滅されてな、戻って来たんだ。一緒に乱闘していたプリンとヨッシーは他の奴とまた行った」


プリンとヨッシー……きっと、辺りを転がり回って自滅したのだろう。
アイクはここで、剣の修行になる相手を待っていたらしい。


「それなら僕がお相手しますよ……と言うか、むしろ僕に稽古をつけるつもりで戦って下さい。傭兵として数多の戦を乗り越えたあなたに是非、胸を貸して欲しいと思って」

「本当にこんな時は堅苦しい奴だな。『俺と戦え』、その一言で充分だ」


そこは性格や育った環境の違いというものだが、生真面目なマルスに苦笑したアイクは、すぐにタッチパネルを操作して内容を決め、二人でステージへと出掛けた。
それから五分ほど後、転送装置の一つと装置がある部屋の扉が同時に開かれ剣士が現れる。
扉から現れたのはロイ、転送装置から現れたのはリンクとメタナイト。


「あっリンク、ちょうど良かった。今から乱闘して欲しいんだけど」

「いいけど、メタナイト卿も一緒になるぞ」

「えー?」


露骨に嫌な顔をしたロイをリンクは、本人が居るんだから遠慮しろと叱る。
ロイはメタナイトの強さも認めているが、騎士道精神あふれる生真面目な彼がどうも性に合わず、何となく敬遠していた。


「何だロイ、私が何か不味い事でもしたか?」

「そうじゃないけどさー。アドバイスとかも嬉しいと言えば嬉しいんだけど……」

「ロイは反抗期だから、メタナイト卿みたいな保護者的立場が鬱陶しい時期なんだよ、な!」

「なるほど、反抗期。ならば私も目くじらを立てるような事はすまい」

「そんな『青春だねー』みたいな目でオレを見るな!」


からかわれたロイはムキになりつつ、ぎゃあぎゃあと反論を重ねる。
リンクはそれに含み笑いをして、乱闘行くならさっさと行くぞと手招いた。
メタナイト卿が一緒な事を渋ったロイだが、早く乱闘したかったので無理やりに納得したようだ。


「今日も勝つぞ、そしたらアイクに挑戦する!」

「ロイ、アイクに勝ちたければ競り合いになった時の対処について……」

「メタナイト卿、ロイのやつ耳塞いでるよ」


++++++


それから昼も近くなって来た頃。
適当な所で乱闘を切り上げ広間へ戻って行く仲間達の波の中、行き違いやすれ違いになってアイクやマルスと全く乱闘できなかったロイが、ムスッとした様子で二人を出迎えた。
ロイの様子が違う事を気付いていながら、全く気にしていないアイクはしれっとした様子で挨拶する。


「確か今日会うのは初めてだよな、お早うロイ」

「お早うじゃない! マルスからも何か言ってやってよ!」

「アイクさん、もう今は時間的にこんにちはですよ」

「……そゆ事じゃなくてさ」


今日のロイは絶好調でリンクやメタナイトにも余裕で勝っていた。
この調子でマルスや、今の最大の目標であるアイクに勝とうと思っていたらしいが。


「オレのこの絶好調なバイオリズムをどうしてくれるんだよ! アイク、今からでも勝負!」

「残念だがロイ、俺は腹が減った。午後からならいくらでも相手してやる」


相変わらずの抑揚が少ない声と表情、食ってかかるロイをするりとかわしたアイク。
事も無げな様子で立ち去り際に彼を逆撫でする。


「……まぁ、調子に頼らなければ俺に勝てないとは、まだまだだな、お前も」

「なんだとー!」


立ち去るアイクとその後を追うロイ。
それを苦笑して見送りながら、マルスはメタナイトへ声を掛ける。
ロイがメタナイトを敬遠しているのをマルスは知っていた。
決して嫌っている訳ではなく、反抗期のようなものだろう、と予想を立ててはいたが。


「メタナイト卿、ロイは言う事を聞きましたか?」

「いや。だがロイは人の言う事に収まる男ではない。マルスも分かるだろう」

「人の言いなりにならないのと、忠告やアドバイスを鬱陶しがって敬遠するのは全く違う事だと思いますけど……」


マルスはメタナイトを尊敬しているから、ロイにも素直な気持ちで接して欲しいと思っていた。
彼から学べる事は色々あるのに……と、マルスは残念な気持ちだ。
そこへリンクが、何やら嬉しそうに割り込む。


「ま、少年の指導はこの辺りにしとこう。俺も最近剣士と乱闘してないからメタナイト卿に頼んでた所だったんだ。やっぱり剣士と戦うのは、剣士にとって重要だからな」


色々な相手と戦うのは、様々な状況に対応する為に大切な事。
だがやはり、剣士が剣士と戦うのは己の知識や技を増やす事に繋がる。

……果たしてロイが、そう考えて乱闘を挑んでいるかは全く不明だが。
いつも剣士に勝負を挑む辺り、単なるライバル意識だけかもしれない。


「ところでマルス、午後に予定が無いならハルバード見に行かないか? 修理が終わったからってメタナイト卿が誘ってくれたんだ」

「ハルバードに? 是非! 空を飛ぶ乗り物なんて、僕の故郷じゃ考えられないから珍しくて。卿、僕もご一緒させて下さい」

「あぁ。他の連中は完全にメンテナンスを終えてから誘うつもりだが。折角だからアイクとロイも呼ぶといい」

「あの二人……来るかな。ハルバードに乗れるんだったら来るよね」


話しながら、広間へと戻って行く三人。
見れば、まだ言い争っているらしいロイとアイクが先の方を歩いていた。


「おーいお前ら、メタナイト卿やマルスと午後からハルバード見に行くけど一緒に行くかー!?」

「えっハルバード!? 行く行く、あれ乗りたい!」

「折角だから俺も行くか。午後からだな」

「あぁ。1時に正門前で待ち合わせにしよう」


何だかんだ言って仲の良いらしい五人は、今日も言い合いながら時間を過ごしていくようだ。




*END*
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