ある休日の朝


もう日が高く昇りつつあるロンドンの街中を、1人の少年が息を切らして走っていた。
走りながらビッグ・ベンの時計台を頻りに見上げ、どうやら時間を気にしているようである。
疲れて時々速度を落としながら走り続ける少年の眼前には、やがて見慣れた大学が現れた。


「先生…もう起きていればいいんだけど……」


少年……ルークが呟く。

昨日、師であるレイトンの研究室に遊びに行った際、彼が手に入れた資料と睨めっこしている現場に出くわした。
頑固者の職人が持っていると噂されていたもので、考古学的にかなり重要な技術が記されているらしい。
口説き落としてようやく譲って貰ったんだよ、と少年のように目を輝かせるレイトンを見て、これは長くなるな、とルークは悟ったのである。

その日は邪魔をするまいと大人しく帰ったルークだが、今朝になって、今日はレイトンに予定があった事を思い出した。
レイトンが研究に没頭してしまうと一点集中の行動が凄い。
夜が更けていくのにも気付かず更に、気付けばそのまま寝落ちしていたりする。
ようやく手に入った資料に夢中になり、用事がある事を忘れていないか心配だった。
忘れていなくても寝過ごしている可能性は高い。


ルークはレイトンの研究室の前までやって来ると、山高帽子のマークが印象的な扉をノックする。


「先生、起きてますか? 先生!」


返事は無く、もう出掛けてしまったのかもしれないが……まだ寝ている可能性も否定できない。
ルークが扉に手を掛けるとあっけなく開く。
少し開いて顔を出し中を覗き込むと、ソファーの上の人物に気が付いた。

さっと顔色を変えたルークは慌てて部屋に飛び込み扉を閉め、ソファーの上で寝ていたレイトンに駆け寄る。


「先生、起きて下さい! もうすぐお昼ですよ!」


体を揺すってもレイトンはなかなか起きない。
ルークは窓辺に寄ってカーテンを開け、太陽の光を部屋に誘い込んだ。
すぐに眩しい光が部屋中へ射し込み、さすがのレイトンも眠い目を擦りながら起き上がる。
それを見たルークはすかさず駆け寄って、もう1度声を掛けた。


「先生っ、今日はベルガー商会の会長と会う約束でしょう!?」

「……ベルガー商会の? ルーク、それは来週だよ」

「えっ……」


全く考えていなかった事を言われて、一瞬我を忘れるルーク。
そんな筈は……とスケジュール帳を確認すると。

確かに、ベルガー商会の会長と会うのは来週だった。
自分の間違いに気付いた瞬間、ルークはさっと顔を青ざめさせる。
しかも休んでいたレイトンを無理に起こしてしまったと思い出し慌てて一歩離れ、頭を下げた。


「すみません先生! 僕、てっきり今日だと……」

「気にする必要は無いよルーク、私を心配してくれたんだろ?」


レイトンは本当に気にしてないのだが、そういう訳にもいかないらしいルークは見るからに落ち込んでしまった様子。
少し考えて、ルークの気分が直るよう提案をしてみた。


「こんな天気のいい休日に寝てばかりなのは勿体無いね。ルーク、一緒に出かけないか?」

「え?」

「嫌かい?」


嫌な訳などない。
自分を誘ってくれた事で、怒ってはいないのだとルークも理解した。

その日、ロンドンの街中を仲良く歩く彼らが目撃されたらしい。




*END*

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ちょっと間違いの訂正をば。

ビッグ・ベンの近くにあるのはレイトンの大学ではなく、シュレーダー博士の家でした。
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