夢占い


目の前にあるのは、怯え、それなのにどこか嬉しそうにしている見知った顔。
自分が何をやっているのか理解出来ないのに、自分自身を止める事が出来ない。
愛用の剣を手に持ち、その人物を……。

……思い切り、刺し貫いた。


「……!」


そこでいつも、アイクは目を覚まして飛び起きる。
この所よく見る悪夢だ。
忌々しげに息を吐き捨てて、流れた汗を拭い軽く深呼吸。
見たくない夢を何度も見せられては気分が悪い。
いい加減諦めて顔を洗おうとベッドから降り、部屋の扉を開くアイク。
……開いた瞬間、向こうから扉に手を掛けていたらしいセネリオが倒れ込んで来た。


「っと……」

「あっ……す、すみません」


抱き止められ、慌てて体を離すセネリオ。
何をやっていたんだと尋ねてみると、どうやらアイクが魘されているようだから来てみたらしい。


「……俺は別の部屋まで聴こえるくらいに魘されていたのか?」

「いいえ。何となく、そんな気がしただけです」

「そうか……わざわざスマンな。大丈夫だ」


アイクがそう言うとセネリオは嬉しそうに微笑んだ。

アイクは最近、この笑顔を殺している。
……いや、殺しているのかどうかは分からない。
ただセネリオの事を剣で何度も刺し貫いているのだ。
夢の中で。
1回で済む時もあれば、何度も何度も刺してしまう事もある。
そんな時、夢の中のセネリオは決まって、痛みと恐怖を浮かべながらも嬉しそうにしていた。


「完全に目が覚めたな。朝飯前に訓練でもするか」

「お供します」


至極当然にセネリオが付いて来る。
振り返らないが、その足音を聞けば満たされる気分になった。
夢の中とは言え、なぜセネリオを刺したのか。
疑問ばかりが浮かぶ。


++++++


やがて訓練を終えて一旦セネリオと別れた。
また顔を洗って砦の中を歩いていると、食欲をそそる匂いがして来る。
そちらへ足を向けるとオスカーとミストが朝食の準備をしていた。


「あ、お兄ちゃんお早う」

「朝食はまだだよ。あと少し待ってくれ」

「あぁ」


水でも飲もうと足を踏み入れるアイク。
ふと、テーブルの上に1冊の本を見つけ足を止めた。
夢占いの本だ。


「なぁ、この本……」

「あ、それ私のだよ。前に会った行商人のオジサンに貰ったの」

「ちょっと見せてくれ」


言った瞬間、ミストとオスカーが驚いたようにアイクを見た。
何だか妙な沈黙が訪れて、雰囲気的に少しだけムッとするアイク。
ミストもオスカーも悪気がある訳ではなく、ただ純粋に驚いているだけのようだが。


「え……だって、お兄ちゃんが夢占いに興味あるなんて信じられないもん!」

「悪いけど、私もミストと同じ意見だね」


別に夢占い自体に興味がある訳ではない。
セネリオを刺す夢を何度も見る意味が知りたい訳で。

とにかく借りるぞ、と夢占いの本を開く。
“剣で刺す”……“刺す”でいいかと決め、ページを捲り項目を探し出す。
“刺す”の項目を見つけてその夢が持つ意味を読んでみると……。


「……!?」

「? お兄ちゃん?」


アイクは思わず驚愕してしまった。
ただの夢占い。出た結果に縛られては意味など無い。
そう思おうとしても動揺してしまう。
何でもない、と平静を装いつつ、アイクは立ち去った。

……まさか、自分が。
セネリオに対して……。


「……アイク? どうかなさったんですか?」

「!」


こんな時にセネリオとバッタリ会ってしまった。
アイクは思わず硬直する。
“刺す”……その夢の意味は。

男性が、誰か(何か)を刺す夢を見た場合、その夢は性的な意味を持つ。
刺したものが人物で更に知っている人物ならば、その人物に対して、性的な欲求がある事を意味している。
つまりアイクはセネリオに対し、有り体に言うなら欲情していると言う事に。

思わずアイクは、セネリオの両肩を掴んで壁際まで追い詰めていた。
セネリオが驚き、戸惑いながら口を開く。


「あ……アイク?」

「……」


余計な事が考えられない。
ただ、目の前の身体が欲しい。
アイクは突き上げられるような衝動に駆られ、セネリオを壁際に押さえ付けたまま、顔を近づけた。
唇が触れそうな程の位置まで近付く。


「……!」


唇が触れる寸前アイクは我に返り、セネリオから離れた。
お互いにギクシャクしてまともに顔が見れない。
自分は、自分達は今なにをしようとしていたのか。


「……スマン」

「あ……いいえ……」


沈黙。2人とも動かない。
それを上手い事破ってくれたのは、朝食が出来た事を告げるミストの声だった。


「朝ご飯出来たよー!」

「……行くか」

「……はい」


何となくギクシャクした空気のまま、朝食の席へ向かう2人。
お互い、触れかけた唇が嫌に熱を持っていた。




ーENDー
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