海行く日々の一幕
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※拙作の風のタクト長編夢【Good bye my life】の番外編的内容です。
これ単体でも一応読めますが少々のネタバレ注意。
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喋る獅子頭の船首を持つ不思議な小舟・赤獅子の王に乗って島が点在する大海原を旅するリンクとノティ。
物資の補充をしようと立ち寄ったタウラ島に、見慣れぬ大きな船が停泊しているのを発見した。
「初めて見る船だ……テトラの船でもグラナティスの船でもないよね」
「というか海賊船じゃなさそうよあれ、多分 商船ね」
海賊とばかり関わって来たからか、大きな船を見るとついつい海賊のものかと思ってしまう。
まあ関りは無いだろうと特に気にも留めず町へ向かうと、通りでいつもお喋りに興じているおばさん達が声をかけて来た。
「あらノティちゃん、カフェバーのお仕事してないの?」
「あたし今ちょっと仕事を休ませて貰ってて……」
「そう言えば ここ最近居なかったわね。急に沢山のお客さんが来ちゃって店長てんてこ舞いみたいだから、てっきりノティちゃんも忙しくしてるんだと思ってたわ」
「え!?」
ノティは両親を失い生活費を稼ぐためにタウラ島のカフェバーで働いていた。しかしリンクと再会しガノンドロフに狙われている事が発覚し、身の安全の為にもリンクと旅立ったが、急な事だったのであまりにも突然やめて迷惑をかけてしまった。
店長はノティをとても可愛がってくれており、急にやめる時も深刻な様子を察して皆まで訊かずに快く送り出してくれた……恩返しのタイミングかもしれない。
「……ごめんリンク、あたしちょっと お店 手伝って来たいんだけど……」
「いいよ、こっちはやっておく。用事が済んだらカフェバーに行くから」
「ありがと、よろしくね!」
駆けて行くノティの背を見送っていると、リンクには言いようのない寂しさ……というか苛つきにも似た感情が湧き上がる。
ノティとは元々 故郷のプロロ島で共に暮らしていた幼馴染で、同年代が他に居なかった事もあり唯一無二の親友だった。
しかしノティは二年前に家族と共にタウラ島へ引っ越してしまい、文通はしていたものの再会までの間の彼女は知らない事の方が圧倒的に多い。
こうやってリンクの与り知らぬ所での生活と他者との関係を築き上げていた様子を見せつけられると、自分がノティの一番である、という自信が揺らいでしまいそうで……。
「なんでボクの知らないノティが居るんだろ……」
『リンクお前、少々 危ない方向に行っておらんか?』
「わっ!」
リンクの持つゴシップストーンを通じて赤獅子が声を掛けて来た。
時々、赤獅子にはこちらの言動が筒抜けな事を忘れてしまうリンクだったが、助言がタメになる事も多いので不満という程でもない。
『関係を長続きさせる秘訣は、二人で居るばかりでなく個人の時間も大切にする事だぞ』
「それとボクの知らない生活してたノティが居るのは別の話じゃないの?」
『……リンクお前……ノティの保護者か飼い主のつもりか?』
「そんなワケないじゃん、ボクはただノティの全部をボクに関係させたいだけ。ノティの事でボクが全くの無関係なんて許せないよ」
『…………』
頭痛がしたような気がして赤獅子は一つ溜め息を吐く。想いが通じ合っていない頃は見ていて微笑ましい程に『一生懸命な少年の初恋』といった様相だったのに、結ばれてからこっち、度の過ぎた言動をする事が出て来た。
このままではお互いの為にならない……と何とかリンクを諌めようとする赤獅子だが、どう示そうか言葉を選んでいる間に用事を終わらせたリンクがカフェバーへ向かい始める。
『リンクよ、今日は少しノティの望むままに過ごさせてやって、向こうから戻って来るのを待たないか?』
「終わったらカフェバーに行くって言ったんだから行くよ、それにボクの知らない働いてるノティも見なきゃいけないし」
“見てみたい”ではなく“見ないといけない”。
恐らく義務感ではなく、先ほど主張したノティの全てを自分に関係させたいという欲の一環だろう。
無理に止める事も出来ずにカフェバーへ入るリンクを不安な思いで見る赤獅子。ゴシップストーンを通じて周囲の様子を窺う事は出来るが当然ながら直接の手出しは出来ない。
はてさて言葉だけでリンクが止まってくれるやら……と少年相手に妙なほど恐々しながら様子を見ていると。カフェバーの扉をくぐり、メインフロアへ繋がる階段を登り切ったリンクの視界に飛び込んで来る許し難い光景。
「どうか、どうか私と共に来てくれないか!」
「……」
周囲を複数の客が取り囲む中、一人の青年がノティの手を両手で握り跪いている。
二十歳のグラナティスと同じか年下くらいかであろう風貌の青年がどう見てもプロポーズ中ですと言わんばかりの雰囲気の中、困惑した顔で跪く青年を見下ろすノティが小さく口を開いた。
「……えっと、あの、お気持ちは嬉しいんですけど……あたし、その……」
「慣れ親しんだ海域を遠く離れるのは不安だろう! しかし二人の愛があればそんな障害は何でもないはずだ! どうか受け入れて、共に……」
「ちょっとそこのお兄さん」
青年の言葉を遮る、怒気に満ちた少年の声。まだ高く可愛らしい声であるはずのそれに誰もが妙な悪寒を感じ、一斉にそちらを見る。
そこには不機嫌を隠そうともしないリンクの姿。ずんずん歩いて来るとノティの体を引き寄せ青年の手を無理やり振り払わせた。
「ノティはボクの事が好きなんだよ、諦めて帰ってくれない?」
「ちょ、リンク!」
「なんだよノティ、違うの?」
ノティがそれに答える前に、振り払われてムッとした様子だった青年が立ち上がり余裕の表情を浮かべた。
対照的に更に不機嫌になったリンクが敵意を隠そうともせず睨み付けると、それすら子猫の威嚇だと言わんばかりに得意げな態度を取る。
「少年よ、このように可憐なお姉さんに憧れる気持ちは分からんでもないが、君ではとても彼女に釣り合わな……」
「あの、合ってます」
「……ん?」
答えたのはリンクではなくノティ。
顔をほんのり朱に染めて、やや俯き気味でぽつぽつと。
「……あたし、この子の事が好きなんです。だから、その……ごめんなさい!」
カフェバーを覆う沈黙。青年は得意げな表情のまま固まっていたが、言われた事がじわじわ効いて来たのか次第に顔を落胆に歪めて行く。
「そん……そんな、こんなお子様のどこがいいんだ……!」
「あたしと2つしか変わらないんだけどなあ……まあ何と言いますか、その。前世から命を捧げるほど愛してました?」
「熱烈ゥゥ!!」
青年が勢いよく膝をついてしまった。
前世だの何だの、恐らくは冗談か諦めさせる為の詭弁だとしか思われないだろうが、そうまでして断りたいという事だけは伝わるはず。
しかし大ダメージを受けたらしい青年が膝をつき項垂れたまま動かないので、まだ納得して貰えていないと思ったノティが更なる追撃をかましてしまう。
「えっと、前世とか抜きにしても、この子こう見えて強いし勇気があってカッコ良くて絶対に助けてくれるって信頼があるしヤキモチ焼きな所もあって可愛いし」
「べた褒めェェ!!」
もはや床に頭を付けんばかりに全身で落胆を表す青年に、ノティからの賛辞を聞けて余裕が出来たリンクは面白い人だなと吹き出してしまう。
それが気に障ったか青年が顔を上げて何かを言おうとした時、彼の背後から中年男性が横柄に歩いて来る。
「娘よ、我々はあちこちで商売し富を築いている富豪だぞ。こんな島なら全てを買い上げられてしまう程にな」
「父さん……!」
どうやら青年の父親らしいが、要は自分達ならタウラ島くらい思い通りに出来ると脅迫している訳である。
再びムッとするリンクだったがノティの背中には冷や汗が流れた。自分のせいで島の人達に迷惑が掛かってしまうのは……。
「今日中には出発する予定なのでな、日暮れには色よい返事を聞かせてくれると良いのだが……。さあ行くぞ」
有無を言わせぬ強引さで青年を立たせると、中年男性は彼と仲間を引き連れてカフェバーを出て行ってしまった。
常連客だけが残り静まり返ってしまったカフェバーの中、リンクが心配げにノティを気遣う。
「ノティ……心配しなくても日暮れの前に島を出ればきっと大丈夫だよ」
「でも、もし奴らが島の人に酷い事したら……」
「そんな事は気にするなよ」
最後の言葉は、後に残った常連客。そちらを見れば他の常連客達も特に慌てる様子なく普段通りの態度だ。
「おれ達はこんな海で船乗りやってるんだぜ、ああいう奴らにゃ遅れは取らねぇよ」
「だ、だけど……」
「いーのいーの」
尚も心配の言葉を出そうとするノティを遮ったのは店長。彼女も何でもない様子でカウンターの中でカップを磨いている。
「ああいう手合いの相手は任せて。ノティだってまだ子供なんだから、守られていいのよ」
「店長……」
「よく分からないけど、そっちのボウヤと何か大変な事をしてるんでしょ? なのにこんな些細な事に煩わされる必要ないわ。さ、食器下げちゃって」
「あ、はい!」
迷惑をかけてしまうかもしれないのに、変わらぬ温かい態度の人々に胸が温かくなるノティ。その様子を見ていたリンクの心にもふわりと温かな風が吹き抜けたような気がした。
カウンターに座ってジュースを飲みながら てきぱき働くノティを見ていると、ここへ来る前にあった“知らないノティが居る事への苛つき”が消えて行く。先程のノティによる熱烈な告白とべた褒めも効いたのだろう。
日暮れ前には出た方が良いとなったのでリンクは一足先に赤獅子の元へ戻り、出航の準備をする。
それも終わり、まだ空は青いが念のため早めに迎えに行こうとカフェバーへ向かったリンク……だったが。
「ノティならもう帰ったけど……」
「え……」
店長に告げられた言葉に嫌な予感が広がる。
港と町を結ぶ道は2つあるので行き違っただけだと思いたいが……挨拶もそこそこに慌てて港へ駆け戻ったリンクの視界に映る、既に出港した富豪の船。
「まさかノティ……!」
赤獅子の元へ戻ったがノティの姿は無い。
息子のためにノティを脅迫していた富豪の船が既に出港している、もはやノティが捕らわれてしまったのは明白だ。
「乗れリンク、ノティを救いに行くぞ!」
「うん!」
赤獅子に乗り込み帆をいっぱいに張って追いかけるリンク。
一人にするべきじゃなかった、傍に居るべきだった……と悔やむのは助け出してからだ。
「待っててノティ、絶対に助けるから!」
++++++
一方ノティ。
カフェバーから帰る途中、富豪の仲間に囲まれ無理やり袋に詰められるという実に雑な扱いで誘拐されてしまった。
閉じ込められた船室の一室、狙われている状況で一人になるべきじゃなかった、リンクの迎えを待つべきだった……と悔やむのは早々に切り上げて、脱出の為に立ち上がる。
「前もグラナティスの船に捕まったけど、さすがに構造も違うっぽいんだよね……」
取り敢えずは入り口を壊せるか試さなければ。武器は仕事の為にリンクに預けてしまっていた……弓矢でどうこうするのは難しいのであっても役立ったかどうかは微妙だが。
しかし扉に手をかけようとした瞬間、急に鍵の開くような音がして勝手に開いた。そこに立っていたのはノティに熱烈なプロポーズをしていた青年。
「あっ……」
まずい、と血の気の引くノティだったが、青年は目の前に来ていたノティを見るとホッと息を吐く。
「よかった、怪我は無いな? こっちだ、早く」
「え」
青年はノティの手を引き、周囲を気にしながら船内を静かに歩く。
何のつもりか分からないが部屋から出してくれたので何も言えず黙ったままのノティに、青年は顔を向けないまま小声で口を開いた。
「是非とも君を連れて帰りたいが」
「……」
「少なくとも私は、嫌がる所を無理やりなんてのは好きじゃない。父さんは昔からああなんだ、金にものを言わせて……。金っていうのはそんな風に使うものじゃない」
予想だにしなかった言葉に、ノティは目を見開いた。
金で人を脅すような男の息子がそんなまともな信念を持っていたとは露ほども予想できでおらず、深い意味ではないが急に興味が湧いた。
「驚いた、あなたマトモなのね。あの父親とは大違い。どうやってそんな風に育ったの?」
「……母さん……もう亡くなってるけど、彼女もかつて君みたいに連れて来られたらしくて」
「えっ」
「そんな母さんの実家も商家だったんだ。信頼と人との繋がりを大事にする家で、母さんからその教えや商売の歴史を色々と教えて貰ったのだよ」
「そうだったの……」
「なのに父さんは詐欺紛いの取引や脅迫としか思えない行動を平気でするんだ。船員も弱みを握られてこき使われてる。私にもっと勇気があれば、彼らを解放できるのに……」
青年の言葉にノティは何も言う事ができない。
そんな環境で育ったのであれば、きっと周囲から恨み言などを聞く機会も多かっただろう。純粋な子供時代から父の無体と周囲からの怨嗟の声を知っているのであれば、その子供である彼に自責の念が生まれても無理はない。
しかし彼は小さな頃から父に虐待されて抑圧されており、なかなか逆らう事が出来ないという。
「私に出来る事と言えば、酷い扱いを受けている船員達を父の目の届かぬ所で気遣い、自分の自由になる金品の範囲で補償するだけ……」
「だけ、って、それだけ出来るのも凄いと思うけど。だって虐待されていたんでしょ?」
「暴力は殆ど無かったんだが……暴言や物に当たられたりはした。父は表面上は私に甘いが、それは私を操るためなのだ。君を誘拐したのも、私のためでなく自分のためだろう」
「ひぇ……」
その言葉に込められているであろう複数の意味に寒気が走る。
改めて、青年が助けに来てくれて本当に良かった。父に逆らえないよう恐怖を植え付けられているのであれば、こうしてノティを助けようとするだけでも相当な勇気が必要だっただろう。
「……あなた、思ったよりいい男ね」
「えっ」
そこで初めて青年が振り返るが、その目に映ったのは恋情でなく、慈愛に満ちた笑み。
一瞬の期待が青年から溶けて消えた。
ノティが浮かべた笑みはかつて、青年の母がしていた表情によく似ていたから。望まぬ事で辛かっただろうに、それでも息子である自分の事は間違いなく愛してくれていた母の。
「だけどあたしね、他に好きな人が居るの。さっきのあの子。あたしの運命なの」
「……そうか。……うん」
青年も薄い笑みを浮かべ、ノティの手を離すと再び前を向き歩き出す。
……その時、船倉の外……上部の甲板の方が俄かに騒がしくなる。様子を見に行った青年は、すぐに慌てた様子で戻って来た。
「さっきのあの少年! 彼が来ている!」
「えっ!?」
「どうする、君も行くかい!?」
「行く!」
どうやったのかは分からないが、船に追い付いて乗り込む事に成功したらしい。外にさえ出られれば妖精の羽を使って逃げられると思っていたが、この状況によっては戦わざるを得ない……。
甲板へ飛び出した二人の目に入ったのは、屈強な船乗りと対峙するリンクの姿。
「リンク! どうやってここに……!」
「無事だったんだねノティ! さっき偶然リト族の人が通りかかって、ここまで運んで貰ったんだよ!」
やはりリンクを見ると心から安心する。きっと彼なら何とかしてくれる、失敗する事があっても最後はきっと全てを良い方へ導いてくれる、そう信頼できる。
自分がやるべきは、少しでもそんな彼を助けて共にある事……。
と、感慨にふける時間は長く続かない。甲板の背後、一段高くなっている船室から忌々しい顔をした富豪が出て来た。
「騒がしいと思ったら侵入者か。さっさと始末しろ。……ところで」
富豪は船員達に命令した後、ぎろりと青年を睨み付ける。
……父親が息子に対してする表情ではない。
「おい。もしやその娘を逃がすつもりだったのか? 父に逆らうとは躾が足りなかったようだ」
「っ……」
手の届かない場所に居ても視線と声で委縮してしまう青年の姿は、虐待によって恐怖を植え付けられている事が手に取るように分かる。
腹が立って抗議してやろうと口を開きかけるノティだったが、一歩を踏み出したノティを青年が押しとどめた。
「と、父さん! あなたは間違っている!」
「……なんだと?」
富豪の眼光が鋭くなる。それに一歩引いた青年だったが、甲板の上でリンクと対峙していた船乗り達が一斉に青年を振り返った事にノティは気付いた。
ノティは青年と手を繋ぐと、頑張って! と告げるように顔を見つめる。そんな彼女を見た青年から、繋いだ手から恐怖心が薄れて消えて行くようで……勇気が沸き上がって行く。
「商売は信頼が第一! あなたのやり方では敵を作るばかりだ! あなたが潰した母さんの実家の商家、彼らのやり方を知らなければいずれ滅びる!」
「あの女からいらぬ入れ知恵をされているのだな。あれの実家は負けたのだ、つまりそのやり方は間違っていたという事だろうが」
「あなたの卑怯で悪質な手段で滅ぼされたに過ぎないじゃないか! 従業員も客も酷く扱って恨みを買って、そんな方法が長続きする訳がない!」
「生意気な、臆病者の小僧が……おい、何をしている」
富豪が青年から目を離し、甲板の方へ目を向ける。リンクと対峙していた船乗り達が揃って富豪の方へ歩いて来るが、青年は気づかぬまま。
目を離した父に無視されたと思ったか、やけになったように大声を上げた。
「そうやってあなたは、いつも私の存在を貶めて……! もう我慢ならない、私があなたの商売を引き継いで、この商家を真っ当なものにする!!」
「よく言ったぜ坊ちゃん!!」
そこでようやく気付いた青年が振り返った瞬間、船乗り達が一斉に富豪目掛けて押し寄せ、取り押さえてしまった。
「な、何をする貴様ら! 私に手を出せばどうなるか、分かっているのか!」
「オレ達はな、坊ちゃんが決心してくれるのをずっと待ってたんだぜ。オレ達をきちんと扱ってくれて、奥さんの商家の思想を継いだ坊ちゃんならきっと、この家をマトモに出来るだろうからな」
船乗り達は富豪が行った詐欺紛いの取引や強引な手段で安い賃金での労働を余儀なくされていたが、元々あまり裕福ではない土地や家の出身の者ばかりらしい。単に富豪を制圧した所で一時的な金は取り戻せても、長期的に見れば貧しい暮らしは変わらないだろう。
そこを富豪の血を引く正当な後継者である青年が決起してくれれば、故郷や家族のための金を稼ぎつつ酷い扱いからの脱却も出来る。周囲に誤解されないよう理不尽な契約の破棄も堂々と出来る。
中には青年の母の商家で働いていた所を無理に引き抜かれた者もおり、それも上乗せされて彼女の家の思想と血を継いだ青年への期待は大きかった。
ノティは呆気に取られている青年へ優しい笑みを向ける。
「商売は信頼が第一、さっそく証明されたわね」
「……あ……」
「ちょっと、いつまで手ぇ繋いでるんだよっ!!」
いつまでも繋がったままのノティと青年の手をリンクが無理やり引き剥がす。そのままノティの体も抱き着くようにして引き剥がすと、青年をキッと睨み付けた。
「その人達の言葉からして、お前は悪いヤツじゃなさそうだけど! ボクにとってはノティに恋してるヤツは全員敵だから!」
「リンク……あんまり出番なかったからって、八つ当たりはちょっと」
「さっきボクがヤキモチ焼いてる所も可愛いって言ってくれたよね! じゃあいいじゃん!」
「ううーん……」
やっぱりまだまだ子供だな、と苦笑するノティにつられて、青年もくすくす笑い出した。
青年はこれからが大変だろう。父親のせいで0どころかマイナス状態だろう商売の信頼を築き上げるのは容易ではないだろうし、いくら悪どい事をしていたとはいえ、長年商売をして来た父に比べれば初心者で足りない部分も多いはずだ。
しかし彼には支えてくれる仲間が居る。これからの物語は彼が紡ぐもの、リンクやノティの出番はここまでだ。
上空に待機してくれていたらしいリト族を呼んでリンクが彼に掴まる。
飛び上がったリンクを目で追っていたノティに青年が声を掛けた。
「向こうに浮かんでる小舟まで行くんだろう、送るよ」
「いいわ、あたし一人で行けるから」
「え」
青年がどういう事か訊ねる前に、背中にやや透明な四枚の羽を出したノティ。
呆気に取られる一同に説明する事なく飛び上がって、宙から声を掛ける。
「あなたならきっと立派な商人になれるわよ! 頑張ってね、縁があったらいつかまた会いましょ!」
笑顔で手を振り飛び去るノティにろくに反応できないまま、小さくなって行く彼女を見送っていた青年がぽつりと、一言。
「……妖精だったのか……どおりで……あんなに可憐な訳だ……」
妙な方向で納得して、改めて決心する。
きっといずれ、彼女に胸を張って会えるような商人になってみせると。
母とよく似た笑顔を向けてくれた彼女に。
++++++
「無事だなノティ、良かった……」
「ただいま赤獅子、心配かけちゃったね」
無事に戻り、いつものメンバーにホッとするノティ。
「それにしても あの人、名前すら聞けなかったなあ……」
「いいじゃん名前なんて、多分もう会わないよ」
「そうかな……まあどこかで運命が交わったらまた会えるだろうし、その時に教えてもらおう」
ノティと青年が手を繋いでいた事に怒ったリンクも、居なくなったら普段通りの機嫌に戻ったようだ。
けれど青年を勇気づけるためとは言え怒らせてしまったのは事実だし、ここはリンクへの想いを明確にして挽回しておかなければと、ノティは一計を案じる。
「リンク、あたしが好きなのはリンクだよ」
「……分かってる、それは疑ってない。さっきは怒鳴っちゃってゴメン」
「いいって、ただのヤキモチでしょ? ……だからお詫びね。ちょっとこっち向いて?」
なに? と振り返ったリンクの頬に柔らかな感触。
至近で感じた体温と息遣い、それが離れてリンクはようやくそちらを見た。
「……」
「えへ」
「…………」
暫しの静寂の後、「ずるいって、もーーーーーー!」と顔を赤くしたリンクの絶叫。
微笑ましい少年少女のやりとりに、やれやれと赤獅子は優しく息を吐いた。
*END*
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