あこがれ
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「あの……」
スマブラ界、ピーチ城の昼下がり。
珍しく乱闘にも行かず、メンバー達が長閑に過ごしていた広間の扉を開ける者が居た。
見ればDr.マリオの助手として働いている医療少女のセルシュ。
何だかオドオドした様子で、開きかけのドアの隙間から中を覗いていた。
「どうしたんだ? そんな所に居ないで来いよ」
ロイの呼びかけに、少々躊躇ってから広間に入って来たセルシュ。
仲間たちに注目されていると理解するや否や、深々と頭を下げる。
驚くメンバー達に彼女が言った事は……。
「ど、どなたか、わたしに戦いを教えて下さい!」
「えぇっ!?」
裏方で医療に専念するのが彼女とばかり思っていたファイター達は、そんな突然のお願いに酷く驚いた。
聞けば、何があるか分からない世の中、せめて自分の身は自分で守れるくらいにはなりたいと言う。
「確かに、セルシュは戦えないからね」
「そう言う事なら戦い方でも教えてやろうぜ」
マルスとマリオの言葉にメンバー達が頷き、セルシュは嬉しそうに笑ってお礼を言う。
かくして、セルシュの特訓が始まった。
「で、何の武器を使いたいかは決まってるのか?」
アイクに尋ねられてセルシュは黙り込んだ。
戦いとは全く無縁だった彼女、武器の事なんて全く分からないのだろう。
ファイター達は次々と、セルシュの使う武器を見繕い始める。
まずはゼルダが魔法を提案するが。
「魔法は……魔力が無いと使えませんね」
「うわー、魔法使うセルシュとか見たかったなー。魔女っ子プレイとか期待でき……」
アッサリと脱線するロイに一撃を叩き込んだフォックス。
彼はセルシュの傍に進み出て銃を勧めた。
「戦いに慣れてないんだったら遠距離武器が良くないか? 銃とか」
「あ……」
「それなら、弓とかいいと思いますっ!」
セルシュの返答が来る前に、突然ピットが話に割り込み弓を見せた。
ムッとしたフォックスは、弓は力が要るし銃の方が早く扱えるようになるだろ、と反論する。
でも……と更に反論しようとしたピットが全てを言う前に、セルシュが遠慮がちに口を開いた。
「あの……わたし、直接攻撃できる武器がいいです」
「えっ……」
またもや、セルシュの意外な言葉にメンバー達は驚く。
まぁ本人が望んでいるのなら、叶えてあげる方がいいだろうが。
フォックスの言う通り、実戦慣れしていないなら前衛の後ろから攻撃できる遠距離武器の方がいい気もする。
しかしセルシュは、我が儘をいってごめんなさいと謝罪するものの、直接攻撃の武器がいいと言って譲らない。
強く主張はしないが……、やはり直接攻撃の武器がいいようだ。
ならばどうしようかとメンバー達は更に考える。
「斧は重いだろうな。軽いやつもあるだろうが、大振りになりやすいから初心者には危険かもしれん」
「だよな、アイク。槍とかいいんじゃねぇ? 剣や斧より間合いを開けて使えるしさ」
ロイの提案に、それがいいと複数のメンバーが頷くが、セルシュは何かを言いたそうに俯いてしまう。
マルスがそれに気付き、同時に重要な事にも気が付いた。
「皆、槍もいいかもしれないけど誰が教えるんだ?」
「え」
そうだ、重要な事を忘れてしまっていた。
セルシュに戦い方を教えるのだから、その武器を使える者が居ないと話にならない。
アイクは剣と斧、マルスやロイは剣…と考えていっても、槍を使える者が居ないのはすぐに気付く。
そんな事にも気付けなかった恥ずかしさにメンバー達は黙り込むが、ぽつりと、ピーチが口を開く。
「と言うか、私たちは普通に剣使いが多いんだから、最初っから剣にすれば良かったじゃないの」
「……」
そんな事にも、気付かなかった……。
セルシュが使えそうな剣と言う事で、マルスが自分の細身の剣・レイピアを彼女に渡す。
後は誰に教えて貰うかだが。
レイピアを渡した直後、マルスが真っ先に名乗り出た。
「セルシュ、僕が教えてあげるよ。これでも戦争を勝ち抜いて来たからね」
確かに、教えて貰うのならば実力のある者に頼むのが1番いい。
じゃあお願い…と頼もうかとした瞬間、ロイが2人の間に割り込んだ。
「それならオレだって! 戦争を勝ち抜いたし、将軍だったんだぜ!」
「え、そうなんだ! 凄いねロイ」
思えばセルシュは、彼らが元居た世界でどんな事をしていたのか知らない。
ロイの言葉に感心して彼を賞賛するセルシュに、何となくムッとしたらしいアイクが割り込んで口を挟んで来る。
「それなら俺だって、将軍になった事ぐらいはある。俺は傭兵団の団長なんだ、ロイやマルスより遥かに多く戦ってきているぞ」
「へぇ、アイクって傭兵団長さんだったんだ!」
今度はアイクの方を賞賛するセルシュ、そんな彼女を見たロイとマルスが、突然セルシュを引っ張って外へ出たのはすぐだった。
他の剣使いには、口を挟む隙を与えずに……。
セルシュを引っ張って庭へ出たロイとマルス。
後を追って来たアイクも加わり、セルシュを前に睨み合いが始まる。
大方、セルシュに特訓してあげるのは自分だ…とでも言いたいのだろう。
「あ……あの……」
「悪ィなセルシュ、もうちょっと待っててくれ!」
挟もうと開いた口もロイに止められ、もう途方に暮れるしかない。
どうしようか迷っていると背後から軽い足音が聞こえてきた。
ロイ達3人は全く気付いていないようで、セルシュが恐る恐る振り返るとそこに居たのは……。
「メタナイトさん……!」
「セルシュ、まずは間合いを確認するんだ。どのくらいの距離ならば対象に当たるのか、分かっていなければ武器の意味が無い」
いつの間に庭へ来ていたんだろうと考えるが、彼が教えようとしてくれるのだから余計な事は考えるべきではないだろう。
確かに、直接だろうが間接だろうが、言うなら爆弾などの兵器だって相手に届かねば意味は無い。
それは腕の長さや刃の長さによって全く変わる。
取り敢えず手近にある柵を叩いてみようと、セルシュはレイピアを振り上げて思いっ切り叩き付けた。
……振り上げた瞬間、メタナイトが
「待つんだセルシュ!」
と、言ったような気もしたのだが……。
止める事など間に合わず、レイピアは勢い良く振り下ろされてしまった。
しかし剣を持った事など初めてのセルシュ、柄を握る力が足りなかったのか、レイピアは振り下ろされた勢いのまま彼女の手を離れて飛んで行った。
そしてセルシュをほったらかしにしてまだ言い争いを続けていた、ロイ・アイク・マルス達の中央の地面に思いっ切り突き刺さる。
「……」
「ごっ……ごめんなさい」
呆然とするFE3剣士。
彼ら以上に驚いて顔を青ざめさせるセルシュ。
暫く時間が止まってしまう。
その後、我に返った彼女が慌てて駆け寄り、地面に刺さったレイピアを抜こうと手をかけた。
「待って、セルシュ……!」
マルスが止めるのも間に合わず、セルシュは思いっ切り力を込めて(そうしないとビクともしない)レイピアを引き抜く。
……勢い良く抜けた剣は、刃が周りに居たFE3剣士スレスレに動いた。
再び呆然とする4人、隙を見てメタナイトがセルシュの手にあるレイピアを奪い、それでようやく時間が再び動く。
「お前、ひょっとして運動神経鈍いのか?」
「う……。多分、そうかもしれない……」
アイクに手の甲で軽く頭を叩かれ、セルシュは恥ずかしそうに俯いた。
まぁこれくらいならば、この先、鍛錬すれば何とかなりそうだが。
「わたし、よく何もない所で転ぶし階段で1段とばししたら絶対踏み外すし、この前は普通に庭を散歩してただけなのに、いつの間にかお堀に落ちてるし……」
「やめとけ」
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