クエスト日和
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「クエストをクリアすると経験値やらアイテムやらが貰えるよ」
「マジかやろう」
ネスの言葉にジュリアは即決で行動を決めた。
たまにある、乱闘をせずに過ごすファイター達の休息日。思い思いに一日を経過させるが、時折どうにもやる事が見付からずヒマだった。
ジュリアもその一人。ちょっと自主練して後は好きな事をやって過ごそうと思っていたのに、どうにもピンと来ない。だらだらネスと会話していたらゲームの話になり、流れで冒頭の言葉。色々とおかしいのは分かっているが、暇を潰せるのであればこの際何でもいい!
こうしてネスと二人、皆の悩みを解決し(て経験値とお礼を貰っ)ちゃおう作戦が開始された!
一番に見付けたのは、廊下の向こうから歩いて来るマリオ。わーっと駆け寄り左右から挟み撃ちにする。
「な、な、なんだお前らどうした!?」
「大変ネス、クエストマーク出てない! クエストがある人には何かしらマークが付くんだよね!」
「うーん……オッケーオッケー、システムが不親切でマークも何も付かないって事にしとこう」
「早くもクソゲーの予感!」
圧倒されてオロオロ二人を見るマリオなどお構いなしに会話する。しかし目的はクエスト受注とクリアだとすぐに思い出し、ずい、とマリオに詰め寄った。
「お、お、お?」
「何か困りごとはありませんかねぇ!」
「こま、困りごと?」
「僕とジュリアが華麗に解決しちゃうよ!」
「んな事 急に言われてもなあ、困りごとなんて……」
「何かあるでしょー、お腹空いたとかアレ見たいとかソレ欲しいとか!」
善意の訪問販売(悪質)。
ぐいぐい迫って来られ、マリオはいっそ恐怖を覚え始めるが、ジュリアとネスは気付かない。
「こーまりーごとっ! こーまりーごとっ!」
「……強いて言うなら、お前らに困りごとを訊ねられながら無理に迫られてる現状かな」
「分かった!」
元気よく返事をするや否や、ジュリアとネスはザザザっと後退りでマリオから離れて行く。城の廊下は長く、顔がはっきり見えない位置まで下がる事が出来た。その位置から相変わらずの元気な声を張り上げて。
「離れたよ! 解決した!?」
「お、おう……」
「テーテレッテー! クエスト【マリオの困りごと】を解決しました」
「ジュリアとネスは100の経験値を得た!」
「お手軽な経験値稼ぎだな」
マリオの気の無いツッコミに一切の反応を見せず、二人は再びザザザっとマリオに近付く。終わったと思っていた所への再びの襲撃に、今度はマリオが数歩後退った。
「マリオ、アイテム!」
「は?」
「クエストを解決したらアイテムとかお金とか貰えるでしょ!」
「これもう強盗だろ」
きらきらと瞳を輝かせて見つめて来る強盗は、無邪気なのか邪気の塊なのか分からない。
ここで拒否して逃げたらどうなるだろうか。追い掛けて来るだろうか。そもそも二人がクエストだの何だの言っているのが意味不明。
「今なんにも持ってない、あげられる物なんて無いぞ!」
「えー? 経験値だけぇー?」
「シケてやんの」
「帰りなさい」
これ以上は相手にして貰えないと分かるや否や、すごすご引き下がるジュリア達。しかし暇を持て余している以上たった一人だけで諦める気などさらさら無い!
次に二人はサロンへ行き、ソファーに座っているロイを発見。そーっと近寄り、ソファーの後ろへ回り込み……。
「ヘーイッ!!」
「うわっ!?」
大声を上げて背もたれの後ろから飛び出る。驚いたロイが手にしていた本を落とし、角が膝に直撃。地味だが痛い。
「いっっった!」
「何かお困りごとはありませんかい!?」
「は、な、なに!?」
「こ・ま・り・ご・と!」
善意の訪問販売(悪質)開始。
手加減など出来ない落下の衝撃が加わった本の角で膝を強打し、痛みに震えるロイなど知ったこっちゃない。マリオ同様、何が起きているのか分からず二人を振り返るロイはロクな返答も出来ない。
「困ってるでしょ、何かあるはず!」
「……ひ、膝……膝が痛い……」
「オッケーんじゃ行くよライフアップ!」
ネスが自前の回復系PSIをロイに掛けると、みるみる痛みが引いて行く。ホッと息を吐いたロイを二人は逃がさない。
「どうロイ、痛み引いた?」
「ひ、引いた」
「テーテレッテー! クエスト【ロイの怪我】を解決しました」
「ジュリアとネスは300の経験値を得た!」
「何やってるんだよ二人とも」
「クエストをクリアして経験値やらアイテムやらを貰うんだよ」
「……」
それはつまり、今から何かしらよこせという事に他ならない。
そもそもロイの膝が痛んだのは紛れも無くジュリアとネスのせいであって。何が悲しくて加害者に礼をしなければならないのか。
「さっきマリオはさあ、アイテムの一つもくれなかったんだよ。ねえジュリア」
「うんうん。あんまり見返りが少ないとクソゲー扱いされちゃう訳で。ロイは何くれるの?」
「……」
ロイは黙ってジュリア達を見つめた後、テーブルに視線を落とす。そこにはロイが持って来ていた本が数冊あり、その中の一冊を取るとジュリアに手渡した。
「はい」
「? 何の本これ?」
「道徳の本」
時間が止まる。
道徳の本と言っても教科書とか自己啓発本とか宗教書とかそう言った類ではなく、ただの小説なのだが。
手渡された本に視線を落とすジュリアと、隣から覗き込むネス。しかし数秒の後、バッと顔を上げると。
「やったー! 物もらったー!」
「ありがとロイ、また困った事があったら連絡してねー!」
「う、うん」
精いっぱいのイヤミだったが、気にならなかったのだろうか。ひょっとしたら全く気付かなかったのかもしれない。
せめて中を読んで悪質な善意の押し売りをやめてくれれば良いのだが……あの様子からして望み薄、というか読む前に売っ払う可能性の方が高そうな気がした。
城の中を歩き回った二人が次に目を付けたのは、廊下の窓の淵に座り、外を眺めていたピカチュウ。
そーっと近寄って後ろから……。
「お困りごとありませんかァー!?」
「うわーっ!?」
思いっ切り声を掛けたら落ちた。
どすん、という鈍い音とピカチュウの呻き声。数秒固まった後、二人は顔を見合わせ……。
「クエスト対象じゃなかったみたいだねジュリア!」
「そうねネス! んじゃ次のクエスト探しに行こうか!」
「ちょっと、二人ともーーーーッ!!」
窓の外から響くピカチュウの怒鳴り声に一瞬たりとも立ち止まらず逃げた。1階だしファイターだしこの程度なら怪我はしてない筈だ!
過去は振り返らない、前だけを見据えて生きる二人が次に目を付けたのは、廊下の窓を掃除しているルイージ。
綺麗好きな彼は、城仕えのキノピオ達が家事を請け負っているにも拘わらず、時折こうして自主的にやっていた。これなら何か困りごとがありそうだとうきうきで声を掛ける。
「やっほールイージ」
「ジュリア。ネスも一緒かい」
「何か困ってる事なーいー?」
「困ってる事?」
うーん、と少しだけ考えてから、近くに置いていたハタキを二人に手渡すルイージ。
「ん?」
「窓の水拭きしたいから、その前にハタキで軽く汚れを落としててくれない?」
「りょーかいしましたー!」
元気いっぱい返事をして受け取ったマスクを装着し、ルイージの進行方向に先回りする形で窓をはたく。
掃除は定期的に行われているようだけれど、こう広い城だと手が回るまでに時間が掛かるらしい。思ったより埃を吐き出す窓が面白くてジュリアとネスは景気よく作業を進めた。
「あはは、埃すっごい」
「はたくだけで綺麗になるレベルなんだもんね。これ、キノピオ達だけに任せてないで僕らもやった方がいいんじゃない?」
「かもしんない。でも掃除かあ、乱闘なら喜んでやるんだけど掃除はなァ……」
「大乱闘クリーニングブラザーズ」
「どこに乱闘要素があると言うのか」
「大掃除クリーニングブラザーズ」
「採用」
そう長い廊下でもなかったからというのもあるが、ぺちゃくちゃ話しながらだとあっという間に終わる。一面が綺麗になった廊下は心なしか、いつもより陽光が明るく入って来るようだ。
「テーテレッテー! クエスト【廊下の窓掃除】を解決しました」
「ジュリアとネスは500の経験値を得た!」
「終わったよルイージー!」
「お疲れさま、こっちもスムーズに終わりそうだよ。冷蔵庫に僕の名前が書いてあるジュースが何本か入ってるから、飲んでいいよ」
「おおお!? まさか何も言わなくても報酬アイテムをくれるなんて!」
「話が分かるね!」
「報酬アイテム?」
疑問符を浮かべるルイージに、経験値とアイテムの為、あちこちでクエストを受注している事を話す。
ルイージはそれを聞くと楽しそうに笑い始めた。
「あはは! 何か面白そうな事やってるね。それならジュースついでにキッチン行ったら? カービィが何かしてたよ」
「お、これは続き物のクエストかな?」
「それなら行ってみよう。じゃあねルイージ!」
「じゃあねー」
実に和やかにルイージと別れ、二人はキッチンへ。
そこではコック帽をかぶったカービィがボウルで何か泡立てている。飲食店の厨房にありそうな調理台の上には沢山の材料。
「ヘェーイ! カービィちゃん! カービィちゃん! スーパーデラックスカービィちゃん!」
「んー? ジュリアとネス?」
「何か困ってる事ない? 手伝うよ!」
突然訊かれ、泡立てる手を止めないまま、んー、と天井を見上げるカービィ。しかしすぐにボウルを置くと、二人の前の調理台に材料を次々乗せ始める。
「ネスは生クリーム泡立てて。全力で。半分はチョコクリームにするから、ジュリアも生クリームを手伝ってからチョコを湯せんで溶かして混ぜてね」
「もしかしてケーキ?」
「うん。今日のおやつはぼくが作ろうかなって」
「ぜひぜひ協力させて下さいな!」
三人で協力してケーキを作って行く。
そうしている間にジュリアとネスの心に芽生える、殊勝な意識。
「なんて言うか、報酬が無くても皆のためになる事するのも悪くないね」
「違うよジュリア、皆の笑顔が報酬だよ」
「お、かーっこいいネス!」
今までの被害を考えると、殊勝と言うよりは調子がいい、と言うべきだろうが、意識が変わったのは良い事かもしれない。
やがてケーキが焼き上がりデコレーションも終えると、すっかりジュリアとネスの心は慈善感情にすり替わっていた。
……と、思われたが。
「やっぱり行動に対して報酬は欲しいよねー!」
「みんなの笑顔が最高の報酬だけど~、それはそれ、これはこれ、ってね!」
カービィがぽかんとしている間に、ケーキを持ってサロンへ急ぐジュリアとネス。
姿が見えなくなってから、「ちゃんと報酬はカービィにもあげるからねー!」と叫び声が響く。
「……なにやってんだろ二人とも」
残されたカービィは疑問符を浮かべて言い、二人が開け放して行った扉を閉めて後片付けを始めるのだった……。
*END*
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