任務遂行!
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
とある組織に属している為にファイターとして登録されていないものの、もはや一員として認識されているセルシュ。彼らと生活を共にし乱闘し……と、ファイター扱いを受けている彼女はそれでも、正しくは一員ではない。
それを示すかのようにとある朝、ボスからとある指令が下された。通信端末に送られて来たそれを確認したセルシュは久々の指名にボスが自分を忘れていない事を知る。ボスは割と能天気な所がある為、本当に自分をファイターにして組織の人間である事を忘れているのではないかと心配していた。
「まあ本当に忘れられていたら、ボスに正座でもさせてたっぷり1時間は文句を言う所でしたけど。……一人のファイターの様子を観察、ですか」
指示された相手はロイ。彼に何があるのかは分からないが、下された指令は実行し完遂する、それが仕事だ。これからそれとなく彼の傍に居て様子を観察し、ボスへと報告しなければならない。
幸いにもファイター達とは友好関係を築けているので、特定の誰かと行動しても怪しまれはしないだろう。その中でもロイは最近特に仲良くなった相手だ。
朝食の為にダイニングへ行くと、既に多数のファイターが食事を摂っていた。その中にロイを見つけ、丁度 隣が空いていたので他のファイターに挨拶しつつそこへ向かう。
「おはようございます、ロイ。隣に失礼しますね」
「おはようセルシュ、どうぞ」
純粋に向けられる笑顔を見ると多少の申し訳なさが浮かぶが、自分の立場を反芻してその気持ちを抑え込む。無用な情は仕事の邪魔、自分まで組織の人間であるという立場を忘れる訳にもいかない。いや別にボスにも忘れられてはいなかったけれど、今日の今日まで忘れられていたという可能性も否定できないので。
ちらりと確認したロイの朝食は、ハムやチーズ、野菜などが挟まれたクロワッサンのサンドイッチに、コーンスープとゆで卵。特に異常は無い。侍従のキノピオに注文した食事を届けられ、セルシュはロイと会話しながら今日の予定を話した。
「ロイ、今日は久し振りにチーム戦しませんか? 最近は対峙してばかりでしたから」
「あ、さっき皆と話してたんだよ。これから暫く、連携強化の為に全員チーム戦しないかって。丁度良いしパートナーお願いしようかな」
何とも都合良く、当分の間の乱闘はチーム戦となったらしい。恐らくボスが何かしら根回ししたのだろうと思ったが当然、口には出さなかった。毎日毎回ロイと一緒には居られまいが、少しは共に行動する時間が増えるだろう。
朝食が終わると各々がパートナーと対戦相手を決め、乱闘用に用意された仮想空間のステージへ向かう。複数人でチームを組んでいる者達も居たが、ひとまずセルシュはロイと二人だ。ファイター達の中でも特に親しくなれた間柄である彼とは、戦う時もなかなかの連携を取れる。阿吽の呼吸と呼ばれるのも遠くないかもしれない。そうして親しければ親しい程、怪しまれる事も無く対象を観察できる。
……正直、ロイと仲良くなったのは任務など何の関係も無いので、多少の後ろめたさは消せない。組織の一員として表に出さず行動できていたが、心に燻るちくちくとした痛みはどうしようも無かった。それでも任務の放棄という選択肢はセルシュには無い。
翌日からはロイの方から誘って来てくれたので、一も二もなく受け入れる。
「セルシュ、良かったら今日もチーム組まない?」
「良いですよ」
「何か悪いね、僕ばっかり君と組んでるみたいだ」
「気にしないで下さい。私もロイと組みたいと思ってるんですから」
「……本当に?」
「ええ、私たちのコンビネーションで今日も上位を目指しましょう!」
そう言って微笑めば、彼は少しだけ頬を染めて笑みを返してくれる。一瞬ドキリとした胸に気付かない振りをして、今日もセルシュはロイの観察を行った。
そうしてチーム戦の日々を過ごしていたセルシュだったが、ある日の乱闘中、ふとロイの様子が目に入る。特にチーム戦ルールになってからは殆ど一緒に過ごしているので、目に入るも何も……と言った所だが、それでも確かに。
いつもと違う。今 動くだろうなと思った瞬間からワンテンポ遅れるし、時々立ち止まって一息入れる回数が通常より多い。顔色も態度もいつも通りなので傍目には分かり辛いが、ここ最近つぶさにロイを観察していたセルシュには平常との違いがすぐ分かる。
その日いくつ目かの試合が終わった直後、セルシュはロイに声を掛けた。
「ロイ。あなた調子が悪いんじゃないですか」
「え? そう? 別にいつも通りだけど。今の試合だって勝ったじゃないか」
「確かに勝ちました。ですが普段より動きが遅いし、止まる回数も増えていますよ」
「えっ」
言ってから、しまった、と思うセルシュだが遅い。そこまで細かく観察されていたなんて、良くて気味悪がられる、最悪は任務の内容がばれてしまうだろう。任務がばれるのを回避しても、気味悪がられて避けられる可能性が高い。
内心の焦りを表に出さないよう努め、セルシュは何も言わずにロイの言葉を待つ。
「そ、そんなに僕を見てたの?」
「それはまあ、折角のパートナーじゃないですか。相棒なんですから当然でしょう」
「相棒……相棒か、いいね、それ」
平然を装った苦し紛れの言い訳だったが、ロイは予想外に納得し、更には受け入れてくれたようだ。内心の焦りが安堵に変わり、セルシュは少しだけ気が大きくなってロイの手を取った。
「何かあるのでしたら遠慮なく言って下さい。相談もされないのは悲しいですよ」
「そうだね、僕とセルシュは相棒なんだから」
仕事でロイを観察している身、何かあっても相談されないのは悲しいなんて、よくいけしゃあしゃあと言えるなと自嘲するセルシュ。それでも言えないし、偽りとも言える相棒関係を解消する訳にもいかない。彼と仲良くなったのは任務など関係ないので猶更。
「ところで手が熱くないですか」
「……戦った後だから?」
「戻ったら医務室に行きましょう」
「はい」
有無を言わせぬ声音で了承させ、仮想空間である乱闘ステージから戻ると医務室へ直行する二人。
案の定、ロイに微熱が確認され、今日は大事を取って休む事になった。
寝る程ではないので大人しく座っているだけだが、状態が急変しては大変だと主張して、セルシュはロイの部屋にお邪魔している。2つあるソファーに別々に座り、銘々が本を読んだりして静かな空間だったが、ふとロイが口を開いた。
「にしてもセルシュ、よく僕の体調がいつもと違うって分かったね。僕自身すら気付かなかったのに」
「本人すら気付いていなかったんですか……」
「気付いてなかったよ。ちょっといつもよりすぐ熱くなるなってぐらいで。動きが遅いとか休む回数が多いとか、全く意識してなかった……」
納得された筈なのに蒸し返されてしまった。動きが遅いのも精々ワンテンポ程度だし、休む回数も数自体を把握していた訳ではないとはいえ、タイミングで分かったなどやはり気味が悪いだろう。そこは言い訳を出来るものでもないと思ったのでセルシュは素直に謝る。
「ごめんなさい、そんなにじっと観察されたら気分が悪いですよね……」
「いいや! 寧ろ気付いてくれて良かった。今は大して体調も悪くないけど、微熱だって後々、大きな病気に繋がるかもしれないし。休むだけで治るんなら良かったって話で終了だろ」
「そう言って貰えるなら良かった」
「謝って欲しい訳じゃないんだ。僕を見てたって事について訊きたいんだよ」
内心でギクリとしてしまうセルシュ。任務の事がばれてしまったのかもしれない、わざわざ特定の相手を観察なんて、普通やるものではない。
ボスからの指示は観察と報告のみで、特に何についてかの指定は無かったので、もしかしたらバレても問題の無い任務かもしれない。しかし知られても良い、という指定が無ければ対象にばれないようにするものだし、例え指定があっても観察されるなんて不快になりかねない行動、知られないよう気を遣うのが当たり前だろう。
どうにも言い訳のしようが無くなり、かと言って任務の事も話せないセルシュは言葉を探して……。
「ロイの事、もっと良く知りたかったんです!」
「えっ」
「もっとあなたと仲良くなりたくて! 知られるのが恥ずかしかったから口にも出せなくて!」
完全な嘘ではない。任務が来る前、ロイともっと仲良くなりたいと思っていたし、それを言うのが恥ずかしかったのも事実。
顔が熱い、微熱があっても顔色が変わらないロイより赤くなっている気がする。少しの間 沈黙が訪れて、しかしそれはロイの嬉しそうな声で破られる。
「そうなんだ……セルシュも、もっと僕と仲良くなりたいって思ってたんだ」
そこに浮かぶ笑顔は慈愛に満ちていて……いや違う。慈愛よりもっと、熱くて少し醜くて、重い何かが満ちている。
ロイは立ち上がるとセルシュの座るソファーにやって来て腰を下ろす。隙間があっても、触れてしまいそうな距離では意味を成さない。
「僕も、なんだ」
「え、えっ」
「僕ももっと、セルシュと仲良くなりたい。傍に居たい。許されるならもっと触れたい」
「え……えぇっ……」
「……少しだけ、いいかな」
「(あ、これ、駄目だ)」
嫌なのではなく、これ以上 進むと後戻り出来ないという意味で。しかしセルシュは拒否する事も出来ず、心のどこかで嬉しいと思っている事も自覚していて。明らかに友情とは違う意図で手を握られると、もう戻れない事を思い知らされてしまう。
その夜セルシュは、珍しく思いっ切り焦りながらボスに連絡を入れた。
「ボス!? 大変な事になりそうです任務対象と大変な事にっ! 任務に不必要なほど親密になりそうでっ!!」
『あ、よかった。やっと進展したか』
「……はい?」
『いやセルシュってばロイのこと好きな癖に踏み出そうとしないからお節介してみようと思って! 小さい頃からの君を見ている身としては応援したくもなるよね!』
「……。……じゃあ任務は……」
『セルシュにどうやってお節介しようか悩んでたら、そういやあの子ってうちの組織の一員じゃーんって思い出したんで、利用してみましたァ~』
「……それはつまり、私が組織の一員だって事、忘れてた訳ですか……?」
『え? うん』
瞬間 連絡を切るセルシュ。
その後ボスの元へ急行し、正座させてたっぷり1時間文句を言うセルシュの姿があったとか……。
*END*
1/1ページ