お帰りなさい
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「エリアーデ……。いま何て?」
「ですから、わたしもエリウッド様の旅のお供に加えて下さいまし!」
ここはフェレ城。
フェレ分家の一人娘であり、エリウッドの従妹であるエリアーデが、先程からエリウッドに縋っている。
今から約ひと月前に、フェレ家の当主でエリウッドの父親であり、そしてエリアーデの伯父でもあるエルバートが謎の失踪を遂げた。
不安が募る家や領内を見かねて、ついにエリウッドは父を探す旅に出る事を決める。
今は出発の準備を整えているところ。
そこへ話を聞きつけたエリアーデがやって来た。
彼女はエリウッドを見つけるなり、挨拶もそこそこに彼に本題を話す。
「エリウッド様、わたしも共に、エルバート様捜索の旅へ参りますわ!」
「……え?」
暫しの沈黙が訪れ、その後に冒頭の状況になってしまったという訳。
エリウッドは呆然とした後に戸惑いながらも口を開く。
「その荷物は……。まさかもう、準備万端?」
「ええ、勿論です」
エリアーデは程よい大きさの鞄に旅の準備を整えていた。
よく見れば格好も動きやすい旅装である。
余りの出来事に呆然とするエリウッドだったが、やっと我に返り、慌てて首を横に振った。
「駄目に決まってるじゃないか。危険な旅になるかもしれないんだ」
「だからです。エルバート様が心配ですし、それにエリウッド様お1人が危険な思いをされるなど……。身につまされますわ、耐え切れません!」
「マーカスも居るから」
「供は多い方がよろしいではないですか」
エリアーデは1歩も引く気が無いようだ。
この見た目の穏やかさに似合わぬ頑固さはフェレ共通なのかもしれない。
エリウッドは、どうすれば分かってくれるのかと困惑してしまう。
「頼むよエリアーデ、言う事を聞いてくれ」
「いくらエリウッド様のお言葉でも、聞くわけには参りません」
「……君を危険な目に遭わせたくないんだよ」
「そ、それはわたしも同じ事ですわ」
エリウッドが真剣な表情で気遣ってくれる事に流されそうになりつつも、エリアーデは何とか持ちこたえて食らいつく。本当に引き下がる気は無い。
2人の時間が止まり、お互いを見つめ合ったまま動かなくなった。
その止まった時間を動かしたのは、エリウッド。
困ったようにエリアーデの肩に手を置いて、少し寂しそうな表情をする。
「エリアーデ、本当に頼む。フェレに残ってくれ」
「いやです……。エリウッド様を黙って見送るしか出来ないなんて」
本当に命を賭けた危険な旅になるかもしれない。
絶対に口に出したくは無いが、万が一、という事だってある。
そんな事にさせたくない、エリウッドを護りたい。
しかしエリウッドは困ったような切ないような顔のまま、エリアーデが本当は考えたく無い事を口にする。
「もし、この旅で僕と父上が死んでしまったら」
「そんな……っ、エリウッド様!」
「聞いてくれ!」
縁起でもない事を言うエリウッドを止めようとするエリアーデだが、エリウッドは逆に止めると続きを話す。
言わなければならない、きっとエリアーデは分かってくれる。
そんな期待と信頼がエリウッドにはあった。
「勿論、父上と生きて帰るつもりだよ。でも万が一……が無い訳じゃない。そうなったら兄弟も居ない僕だ。君の父上がフェレの当主になって、一人娘の君が世継ぎとなる」
「……!」
確かにそうだ。
フェレ当主エルバートの弟であるエリアーデの父、そして一人娘の自分。
万一の時、フェレを継がなければならない。
「僕と父上、そして君までが死んでしまったら……叔父上の後、誰がフェレを継ぐんだい?」
「……それは」
「君は、フェレを護って欲しいんだ。僕よりも、ね」
エリウッドの言う事は当たり前に正しい。
貴族の姫として、家の為、領地の為に生きなければならないのだから。
しかしそれでもエリウッドについて行きたい。
自分の知らない所で彼が危険な目に遭う、最悪死んでしまうなんて、あって欲しくはない。
「わたし……。わたし、怖くて仕方がありませんの。もしエリウッド様の身に何か起きたらと思うと……」
「エリアーデ……」
「どうしても、ご一緒させて戴けないのですか?」
泣きそうなエリアーデの必死な言葉にエリウッドも心を痛める。
つい了承してしまいそうになるが、やはり彼女にはフェレに残って欲しい。
自分が帰って来られるように大切な故郷を守って欲しい。
エリウッドが愛する故郷を護る、それはエリアーデにとっても意味ある事。
彼が安心して帰って来られる場所は必要だ。
しかし行き先の見えない旅、エリウッドを心配する気持ちは募る一方。
不安そうな顔で見つめて来るエリアーデの頭にそっと手を置いて、エリウッドは優しく微笑む。
「大丈夫。万が一なんて言ったけど、きっと無事に帰って来るから」
「本当に、そう約束して下さいます?」
「あぁ。大事な従妹を悲しませたくは無いからね」
信じるしかない。
彼を信じて、自分は彼の帰る地で待ち……いつか彼の帰還を笑顔で迎える。
そうするしかない。
「分かりました。わたしはエレノア様をお助けして、このフェレの地を護る事に専念しますわ」
「有難う、エリアーデ。これで安心して旅立てるよ」
微笑むエリウッドに切なくなりつつも、エリアーデも彼に笑顔を返した。
本当にどうなってしまうのか分からないエリウッドの旅。
それを見送り、状況も分からない離れた地で待つ事しか出来ないのは辛い。
だが自分の役割はこれなのだとエリアーデは静かに目を閉じた。
彼が帰る事を信じフェレの地を護る。
いつか帰還した彼を、笑顔で出迎えられるように。
やがて旅立つエリウッド。
彼を見送るエリアーデ。
この旅でエリウッドは予想だにしない出来事に遭遇し、やがて大陸の命運をかけた戦いに身を投じるのだが……。
それはまた、別の話。
エリアーデはただ、彼の故郷、そして自分の故郷でもあるフェレを護り、いつでも彼が帰還していいようにしておくだけ。
++++++
やがてエルバートの訃報がフェレへ届き、葬儀が終わる頃エリウッドが帰って来た。
ただしベルンへ向かう道すがら休息の為に立ち寄っただけらしいが、それでもエリアーデは充分に嬉しかった。
エルバートの訃報を聞いた時は身を切られる想いで、更にエリウッドの事が益々心配になってしまったのだが、彼はこうして無事でいる。
フェレに一時帰還した日の夜、彼はエリアーデを尋ねて来た。
「エリアーデ」
「エリウッド様……。ご無事で何よりですわ、安心しました」
心底嬉しそうに、ニッコリと微笑むエリアーデ。
しかしすぐ表情を悲しげなものに変えて切なそうに口を開く。
勿論、話題は亡くなったエルバートの事だ。
「エリウッド様、エルバート伯父様の事は……。わたし、何と申してよいのか……」
「大丈夫だよエリアーデ、悲しくない訳じゃないけど、僕は大丈夫だから。気を遣わないで」
微笑んでくれるエリウッドにエリアーデも再び笑顔になる。
エリアーデ自身も親しんだ伯父、悲しくて暫く涙が止まらなかったが、彼の心中はきっと自分より悲しみに沈んでいる筈だとエリアーデは考える。
しかしこの気丈な様子。
次なる戦いが待っている彼には落ち込む暇など無い。
「エリウッド様、本当にお強いんですのね。わたし、こんな過酷な旅をされるエリウッド様に、頭の下がる想いですわ」
「何を言ってるんだよ、こっちこそ君がフェレを護っていてくれるから安心して戦えるんだ。君には本当に感謝している。エリアーデ……有難う」
「そんな、勿体無い……」
フェレに残って正解だったと思うエリアーデ。
彼が安心して戦えるようにするには、やはり後ろからきちんと援護しなければならない。
それは彼の身の安全に繋がる。
「エリウッド様の愛される故郷は、きっとわたしが守り抜いて見せますわ。どうか安心して旅をなさって下さいまし」
「エリアーデ……」
強い意志を込めてエリウッドを安心させるように言うエリアーデ。
頼れる守護者のような、優しい庇護者のような。
そんなエリアーデへエリウッドはついに、彼女に伝えようと、この旅の間……いや、昔から思っていた事を告げる。
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