ビジョンブレイク
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スマブラファイター達がよく訪れる、海上の街。
長い長い橋を渡った先にあるそこは、常連な戦士達の影響で武器を持っていても通報される事は無い。
シュルクは、他の剣士達が持つものとだいぶ違う己の剣……モナドを所持して街へ出るのは不安だったが、仲間達に用心を促された結果、こうして携えたまま そこそこの人通りがある歩道を歩いていた。
たまにちらりと視線を向けられる事はあっても、特に何か言われたり騒がれたりはしないので一安心だ。
「えーっと、ジャンクショップはどこだっけ」
車通りの多い道を横目に摩天楼から見下ろされる街は、なかなか迷い易い。
歩道の隅に佇む地区の案内板を頼りに歩くものの、目的地は未だ見えない。
仲間のファイターに場所は教えて貰ったが、遠慮せず地図でも描いて貰えばよかったかと少々後悔。
機械いじりや細かい作業が得意なシュルクは、お節介焼きな性格も相まってよく修理を頼まれる。
家電やら玩具やら、中には元の世界では見覚えの無いものも多く、この際中古品でも手に入れて練習しようという算段だ。
ツールやパーツ等も入手・補充しておけば、いざという時に慌てずに済む。
歩き続け、設置された案内板が次の地区を描写し始めた頃、地図に目的のジャンクショップを見付ける。
迷子にならなかった事にホッとして足を速めようとした瞬間、ドクン、とシュルクの心臓が脈打った。
そしてすぐ目に浮かぶ、白黒映画のように頼り無い色彩の映像。
しかしそれは現実と相違ないレベルでリアルだ。
鳴り響くクラクション、観衆の恐怖に満ちた悲鳴、シュルクの歩く先には、歩道に突っ込んで来た大型トラックと、それに無惨にも潰された少女の姿。
その惨状に息を飲んだ瞬間、視界に色彩が戻る。
「(今のはビジョン!? どうして、いくらモナドがあるからって視える訳が……。いや、それより今は視えた女の子を探さないと!)」
景色は間違いなく今シュルクが居る通りだった。
大型トラックは歩道のどこにも見当たらないが、シュルクの10mほど先を歩く人物が、トラックに潰された少女と同じ髪型・髪色。
やがて前方の車道からけたたましいクラクションが鳴り響いた刹那、シュルクはその人物へ向け走り出す。
「キミ、危ないっ!!」
「えっ!?」
振り返った少女は、“トラックに潰されていた”少女と全く同じ顔。
突き飛ばさんばかりの勢いで走り寄ったシュルクは少女の手を掴み、無理にその場から更に前方へ移動させる。
次の瞬間、ハンドル操作でも誤ったのか大型トラックが勢いを保ったまま歩道に突っ込んで来る。
そしてまさに先程まで少女が歩いていた場所が、大型トラックに占拠されていた。
「あ……」
「怪我は無い? 大丈夫?」
「は、はい」
少女は呆然とトラックを見ていて、シュルクが事前に事故を感知した事に関しては気にする余裕が無いようだ。
まあシュルクは少女の背後に居た上、未来視から実現まで間が空かなかったので誤魔化しは容易いだろう。
「有り難うございます……あの、ごめんなさい。今は何も無くて、お礼が出来そうにないです」
「気にしないで。別にお礼を貰う為に助けたんじゃないからさ」
「せ、せめて連絡先を教えて下さい。後でお礼に伺いますから」
「大丈夫、本当に気にしなくていいよ。じゃあ僕は急ぐから、もう行くね」
尚も引き止めようとする少女を躱し、シュルクは足早に現場を立ち去る。
気を使わせるのは悪いし、早くジャンクショップに行きたかったのも事実だ。
「(それにしても、どうしてビジョンを視る事が出来たんだろう?)」
ビジョン……未来視は、何でもかんでも予知できる魔法のようなものではない。
それに基本的にはシュルクが元居た世界でしか使えないものの筈だというのに。
帰ったら詳しく調べようと考えるが、今はジャンクショップに行くのが先だ。
野次馬に囲まれないうちに喧騒を離れ、ひっそりとした通りへ入ったシュルク。
道はやや広めで、それなりに解放感がある。
ジャンクショップは割と目立つ位置にあり、大まかな場所さえ分かればすぐに発見可能だったようだ。
店に入り、製品や部品を見ていると誰かが来店する。
何気なく向けたシュルクの視界に映ったのは、先程事故から助けた少女。
あ、と思ったが向こうはシュルクに気付いていないようだし、特に声を掛けたりはしない……のだが、商品を見ながら彷徨いていたら、途中から少女と店長の会話が聴こえて来た。
「やっぱり、無理ですか」
「力になれなくてすまんねお嬢ちゃん、専門の時計店で無理なら諦めるっきゃない」
今シュルクが居る位置とレジのあるカウンターは割と近い位置にある。
会話内容が気になり振り返ったシュルクは、店長が少女に懐中時計を手渡すのを目にした。
時計の修理なら経験がある。
自分なら何とか出来るかもしれないと思ったシュルクは、少々躊躇いがちながらも少女に近寄った。
「ちょっと、いいかな」
「え? あ、あなたはさっき助けてくれた……」
「突然ごめんね、会話が聞こえちゃって。もしかして時計を直したいの?」
「は、はい。代々受け継いでる懐中時計なんですが、時計店でも造りが特殊すぎて直せないって言われて。パーツ自体が無いそうなんです」
「ちょっと見せて貰える? 何とか出来るかも」
「え? で、でも……」
遠慮半分、不審半分といった反応だろうか。
まあ当然の反応かな、とシュルクが苦笑していると、ジャンクショップの店長が助け船を出してくれる。
「なあ兄ちゃん、あんたスマブラファイターかい?」
「え、はい。そうです」
「やっぱり! たまにウチに来るんだよファイター。お嬢ちゃん、この人ファイターだから信用して大丈夫だ。万一の時はウチからピーチ城に苦情出すさ」
「……ファイター?」
「ん、知らないか? ひょっとしてこの街は初めてなのかな。神様によって異世界から召喚されたって人達さ、よく事件を解決してくれたりするんだぜ」
「い、異世界、ですか」
言っている事は正しいが、そんな事を言ったら益々怪しまれてしまうだろうに……。
……とは、援護してくれている店長には言えない。
少女は少し考え込んでいる様子だったが、意外にすぐ時計を渡してくれた。
一部のファイター達が常連で(シュルクも彼らに店を教えて貰った)、お得意様の頼みならとツールやパーツを提供してくれる事に。
店の一角にテーブルと椅子を借りて、シュルクは作業を始めた。
……が、同じく椅子を借りて向かい側に座った少女がじっと見つめて来るので、どうにも気になってしまう。
「え、と、僕の顔に何か付いてる?」
「! すみません……」
「はは、まあキミにとって僕は不審人物なんだし、大事な時計を預ければ不安にもなるか」
「いえ、そうではなく……あの、あなたのお名前は? 私はハルといいます。この街からだいぶ離れた、寝台列車に乗って行く町に住んでいるんです」
「僕はシュルク。店長さんの言う通りスマブラファイターに属してるよ。って、ハルは知らないんだったか、ファイター」
「はい。あの、異世界から来たというのは本当なんですか?」
「信じて貰えるかは分からないけど本当だよ。歴史も文化も認識も、何もかも違う世界から来た仲間だって居るんだ。楽しいよ」
少しだけ顔を上げ、笑顔でハルに告げるシュルク。
彼女がどんな顔をしているか気になってちらりと見ると……予想外の表情に、唖然としてしまった。
ハルは悲しげに眉を寄せ、泣きそうではないものの悲哀の感情を持っているのは間違い無い。
何か気に障る事を言ってしまったかと慌てたシュルクは、手を止めて心配そうに声を掛ける。
「ハル……? どうかしたのかい?」
「いえ……。異世界か、すごいなぁ」
力無く言うハルが気になってしまい、シュルクの作業が疎かになる。
パーツを落とした音で慌てて我に返り、時計の修理を続けるような有様だ。
どうしてだか、ハルの事が気にかかる。
特に彼女に対して何か思う所がある訳ではない。
容姿はまあまあ可愛らしいものの飛び抜けて美少女ではないし、特に突出した部分は確認できなかった。
もちろんシュルクは相手を容姿だけで判断したりはしないが、こうも気になるなら何かしら他者と違う部分がある筈だと思われるのに、それが何か分からない。
悶々とした気持ちを抱えたまま、シュルクは作業を続けた。
店長が気を使い空調を調節してくれたり、環境的には至れり尽くせり。
3時間ほど掛かってしまったが、パーツさえ何とかなれば後は楽な作業だった。
懐中時計が針を刻み始めるのを確認した瞬間、店長を含めた3人で手を取り合って喜んでしまったほど。
「直ったー! ちゃんと動くよハル、一応確認してくれないか」
「すごい……大丈夫みたいです。有り難うございますシュルクさん、もう完全に諦めていたので……」
「バラした複数のパーツを繋ぎ合わせて時計用のパーツにしちまうなんて、器用な事すんなあ。しかも時計自体の造りもかなり特殊だってのに」
「いえ、時計自体の修理は簡単でしたよ。パーツが問題だっただけで」
「こりゃあ時計屋が商売あがったりだな、この辺で開業だけはしてくれるなよ」
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