恋は偉大な盲目である
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
Nemo in amore videt.
ネーモー・イン・アモーレ・ウィデト
誰も恋に於いて(ものを)見ていない
それ即ち、“恋は盲目”
++++++
降りしきる雨の中、寄り添って走る二つの影がある。
大きなマントを傘代わりに二人で持って雨を凌いでいるが、この激しい雨では余り意味は無かった。
どこか雨宿りできないかと森の中を走っても、雨は容赦なく木々の間を狙って下まで降りて来る。
「姉貴、転ぶなよ」
「分かってるわよアイク!」
案外抜けた所のある姉をからかいではなく本気で心配しながら、アイクは前を見据えて走り続けた。
もうアイクは23歳、以前より更に身長が伸びた彼に歩幅を合わせるのは、とっくに身長の伸びなど止まっているマキアートには辛いものがある。
それでなくともマキアートは少々身長が低めなのだ。
もうちょっとゆっくり行こうよと提案するマキアートだが、アイクは決して首を縦には振らない。
「姉貴が風邪引くぞ。俺は頑丈だから構わんが」
「分かったわよ……でも雨宿り出来る所なんてないじゃないの」
「探せばあるはずだ、どっかの洞穴でも……」
そう言い、走りながら辺りを見回したアイク。
ふと右の前方にこんな森の奥には不釣合いなものを見つけた。
だんだん近付けばそれはハッキリと大きな屋敷だという事が分かった。
小さ目の城にも見えるほど立派だったが、窓は硬く閉ざされ、壁には蔦が絡み付いている。
よもや誰かが住んでいるなどとは思えない。
あそこで雨宿りしよう。
そう思ったアイクが何も言わずに方向転換したため、マキアートは転びそうになってしまう。
すぐさま支えてくれたアイクへ文句を言う前に、大きな屋敷が目に入って驚いた。
「えぇっ……なんで、こんな森の中にこんな立派な屋敷があるの……?」
「分からん。とにかく行くぞ姉貴、雨宿りしよう」
「ちょっ、アイク青年、誰かが住んでたらどうすんのよ!」
「言えばいいだろ、雨宿りさせてくれって」
何の遠慮も躊躇いもなく屋敷へ近付くアイク。
確かに、蔦が絡みつき色褪せた壁は人がすんでいるとは思えない。
大きな入り口の扉に手をかけると軋んだ音を立てながらゆっくり開いた。
中に明かりは無く薄暗いが視界に困る程ではない。
柔らかな絨毯、美しいシャンデリアに壁際に飾ってある鎧や武器、それらの物はしっかりしているが埃塗れで色褪せている。
きっと何十年……下手したら何百年も前に、住人など居なくなっているのだろう。
アイクとマキアートは休める部屋を探したが、どの部屋も鍵が掛かっていた。
「扉ぶっ壊すぞ」
「やめんか!」
とんでもない事を言い出す弟にマキアートは慌てて彼を止めた。
今は人など居なくとも、いつか誰かが帰って来るかも知れない。
人様の家を借りるのだから壊すのはマズいだろう。
仕方無しに開いている部屋を探すと、2階のとある一室に鍵が掛かっていなかった。
中に入ると広い寝室のようで、これも埃に塗れているが、大きなベッドやソファーなど休むのに申し分ない物は揃っている。
取り敢えずびしょ濡れの服をどうにかしなければ。
アイクはクローゼットの中から、重ねられたシーツの下の方にあった為に埃にやられていないブランケットを3枚取り出した。
1枚をベッドに持って行き、埃塗れのものと取り替える。
残りの2枚を持ってマキアートの方に戻るととんでもない事を口走った。
「脱げ、姉貴」
「……は?」
「脱げと言っている」
とんでもない事を言われ、ポカンとしてアイクを見つめるマキアート。
考えずとも濡れた身体を乾かす為だというのは分かる。
そうしなければ風邪を引いてしまう。
しかし姉とは言え女に向かって、堂々と「脱げ」とは……。
どうしようも無くじっと黙り込んでいると、近付いてきたアイクがマキアートの服に手を掛けた。
そのまま脱がされそうになりマキアートは大声を上げて抵抗する。
「いやーっ! 変態! スケベっ!」
「風邪引くだろ、大人しくしろ!」
「1人で出来るから、取り敢えず部屋から出てってよ!」
「俺も身体拭きたいんだ」
「そんな事言って、ついでにあたしの裸見たいだけなんじゃないの!?」
「よく分かったな」
「ええええ! 冗談だったのに!」
「どちら様?」
言い合いの途中、突然響いた知らない声に、ぎょっとしたマキアートとアイクが入り口の方を振り返った。
見れば二十歳前後であろう青年がランプを手に立っている。
まさか人がいるとは思わなかった2人。
少々驚いた顔をして固まっていたがすぐにマキアートが頭を下げた。
「ご、ごめんなさい! 人がいるなんて思わなくて……雨宿りを……」
「すまんが、雨が止むまででもここに居させてくれないか?」
慌てふためくマキアートとは裏腹に、遠慮もなく堂々と言い放つアイク。
そんなふてぶてしい態度の弟に軽く蹴りを入れて睨み付けると、マキアートは見知らぬ青年の方を窺う。
青年はマキアートの顔を見て驚いたように目を見開いていた。
が、すぐに持ち直しにっこりと微笑んだ彼は、どうぞ好きなだけ滞在して下さいと微笑む。
身長が高く筋骨隆々としたアイクとは正反対の、線の細い、物腰柔らかな青年だった。
彼は、おや、と呟くと嬉しい申し出をしてくれる。
「どうやら、既にずぶ濡れみたいだね。お風呂と服をお貸しするよ」
「えっ……そんな、そこまでして頂かなくても……勝手にお邪魔したのに」
「気にしないで。滅多に人なんて来ないから、客人が珍しいんだよ。世話を焼かせてくれないか」
こっちだよ、と案内してくれる青年。
ちょっと躊躇ったが、服が乾くまで裸でいなければならないのも嫌だ。
そう思ったのはマキアートで、青年の言葉に甘える事にした。
お風呂だー、と嬉しそうに微笑んで青年の後へついて行くマキアートをアイクも追いかける。
そしてマキアートに向かって小さく一言。
「一緒に入るか」
「バカッ!」
再び、軽く蹴りを入れられるアイクだった……。
++++++
やがて(もちろん別々に)入浴を済ませた2人。
屋敷の主人らしい青年に持て成され食事までご馳走して貰った。
ただ雨宿りをさせて貰えれば良かったのに、何だか至れり尽せりで悪い気までして来る。
青年は##NAME2##という名らしい。
マキアートは##NAME2##に礼を言うが、
アイクは怪訝な顔で質問をする。
「なぁあんた、こんな辺鄙な森の奥に立派な屋敷なんか建てて、何をやっているんだ。家族は居ないのか?」
「ちょっとアイク、失礼でしょ」
「いえいえ」
##NAME2##は気を悪くした様子も無く、ちらりとマキアートの方を見てから話し始めた。
彼は何百年も前からこの森に居を構える一族の末裔で、昔は家族とともに暮らしていたらしい。
だがある日突然、家族が行方不明になってしまったそうだ。
屋敷の使用人も一人残らず居なくなり、他に行く当てのない##NAME2##は仕方無く屋敷に残っているそうだ。
掃除もロクに出来ないので、荒れ放題なんでだよ……。
と苦笑しながら話す彼はどこか寂しそうだった。
こんな森の奥で突然誰も居なくなるなど、どれだけ心細かったのだろうか。
マキアートはいたたまれなくなって、悲しそうな表情で呟くように口を開く。
「それは……寂しいでしょう」
「ええ。だから貴方達が来て下さって、少しは気が紛れたよ」
再び嬉しそうに微笑んだ##NAME2##は、マキアートの方をじっと見ている。
何事かと首を傾げたマキアート。
彼はそれに気付いて思ったままを言う。
「マキアートさん、だったね。貴女は、とても美しい方だ」
「えっ!」
突然の誉め言葉にマキアートは頬を微かに染めた。
そんな事などなかなか言われた事は無く、免疫の無い彼女は上手くあしらう事が出来ない。
少々顔を俯けて、嬉しいような照れたような顔でもじもじしている。
……アイクが眉間に皺を寄せ、不機嫌な表情をしていたが……、隣に居るマキアートにその事は分からない。
##NAME2##は照れた様子のマキアートに微笑みながら更に続ける。
「しかし貴女は旅人だ。また去ってしまうと思うと悲しいよ。風のようにやって来て、風のように去る……。まるで風の女神(セルシュリア)のようだね」
「えええっ、いえ、そんな……あはは……」
「行くぞ、姉貴!」
照れて嬉しくなるマキアートとは裏腹に、不機嫌が高まっているアイク。
我慢の限界が来て突然席から立ち上がると、マキアートの手を掴み無理やり引っ張って行く。
マキアートの力では抵抗しても敵う訳など無く引き摺られるしかなかった。
困ったような笑顔で##NAME2##に手を振り、すぐにアイクへ文句を言う。
それを笑顔で見送った##NAME2##。
ふっと表情を消して、彼もまたどこかへ立ち去った。
1/4ページ