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「悪いけど皆、暫く乱闘禁止」
マスターハンドから突然の通達があったのは一週間前。
ファイター達は住んでいるピーチ城に設置されている転送装置を使い、仮想空間である各ステージで乱闘を行う。その仮想空間に多少の不具合が起きたようで、それが直るまでは乱闘が出来なくなった。
血気盛んなファイター達は現実の方で乱闘していたが、仮想空間とは違い後に残る怪我をしてしまう上に周囲への被害もある状況では、思いっ切り暴れられない。自然と規模も小さくなって今や鍛錬程度の意味しか無くなり、本気で参加する者は居なくなってしまった。
常にファイターランキング上位に陣取るツワモノ娘ジュリアも、機を見ては参加していたが熱量が保たない。今日も参加はそこそこに自主練に切り替えた後、城前の緑溢れる丘でごろんと寝転び、呆けたように空を眺めていた。
「はー……ヒマだなぁ……」
「退屈そうだね、ジュリア」
呟いた所にやって来たのはリンク。寝転んだジュリアの隣に腰を下ろし、気の抜けた様子の彼女に苦笑する。
「やる気出ない?」
「思いっきり戦えないしねー……。仲間と怪我上等の戦いも私はやりたい派だけど、気にする人も多いし」
「特にジュリアは女の子だから、無暗に傷つけるのもちょっとね」
「関係なくない?」
「気にする人も居るって事だよ」
「まあそうか」
気にする人に強要するのもまた違うだろう。ジュリアは気にしなくても、ジュリアに傷を付けた本人の心を傷付けてしまう事だってあるのだから。
リンクは改めて寝転んだままのジュリアを見る。その様子はやる気が出ないというよりは、元気が出ないという風にも見える。
彼女は常日頃から自分の存在意義は戦いだと言っており、それが無くなれば価値が無いと思っている節がある。何か戦闘や鍛錬以外の趣味でもあれば気が晴れるだろうが……。
と、考え、リンクは一つ思い浮かべた。
「ジュリア、何も予定が無いなら少し出掛けないか?」
「どこへ?」
「どこでも。出掛けること自体が目的とも言えるな」
「???」
「少し待ってて、借りて来る」
借りるって何を、と訊ねる前にリンクは立ち上がり走り去る。どこへ行ったかも分からないし放置も出来ず、暫くの間呆然と待っていると、静かな近辺に響く音。あれこれ、と思った矢先に現れたリンクは。
「え、それ、バイク……?」
なんとバイクに乗って来ていた。そう言えばリンクはマリオ達と一緒にレースに出ていたなと思い出すジュリア。
乗って来たバイクは二人乗りが出来る大きなもので、初めて間近で見るジュリアは楽しそうに声を上げる。
「これ運転できるの? 乗っていいの!?」
「勿論、その為に借りて来たんだよ。まあマスターに訊いたらすぐに出してくれたんだけど」
「そんな事できるのあの人? 腐ってもこの世界の神だね……」
腐っているかどうかはさておき、心の中で感謝して有難く乗らせて貰う。
ヘルメットをリンクから受け取って装着し、後部のシートに乗ってリンクの胴に腕を回す。
「バランス大丈夫そう? 無理だって思ったらいつでも言えよ」
「はーい。そんじゃゴーゴー、どこでもリンクの行きたい所に連れてってね」
「了解。じゃあしっかり掴まって!」
轟く排気音、風を切って進む感覚、すぐにスピードが乗って徒歩では決して味わえない爽快さが全身を満たし、ジュリアのワクワクは止まらない。
「きっもちいいー! いいなーリンク、こんな趣味 独り占めしてたの?」
「してた訳じゃないよ、ただジュリアが元気無いから、これなら気分も晴れるかなって」
「サイコー! もっと遠くまで行こうよ!」
「それならここらで一番高い山の上まで行こうか、ほらずっと先の方に見えてるだろ。展望台があったから」
風音とエンジン音に阻まれないよう声を張り上げて、二人は自然と笑顔を浮かべて会話する。お互いの顔は見えないものの、上擦る声から楽しさは十分に感じ取れた。
空は晴天、風は弱風、気候も温暖、絶好のバイク日和。道はしっかりとアスファルトで舗装されているが、周囲は山々に囲まれ時折 川や池、湖なども現れ、視界が開けて爽快な丘や平原が見える事も。溢れる自然の中のドライブは退屈も沈んだ心も忘れさせてくれる。
そうして堪能していたジュリアだったが、ふと自分の現状を客観視してみた。
「(んん? あれ私、今、だーいぶリンクに密着しちゃってるね……)」
バイクの上、後部シートに座りリンクの胴に腕を回してしがみ付いている。リンクの背中と自分の体がぴったりくっ付いており、改めて意識すると少し恥ずかしくなってしまった。
「(リンクは特に気にしてないみたいだな。まあ別に良いけど。……いや良いか?)」
女としてちょっと悔しい気がしなくもない。けれど折角 自分を元気付けようと行動してくれたのに、余計な言動をして拗れさせるのも愚かだろう。
ただ悔しいのも事実なので、少しだけ強めに自分の体を密着させてみた。
「……!」
「(おや)」
少しだけリンクが体を強張らせたような気がする。単に力を入れたせいで苦しくなっただけかもしれないが、そこまでは力を込めていないし、彼も外見のイメージよりしっかりした体付きなので大丈夫だとは思う。
ちょっとは意識してくれたのかな、なんて思う事にして、余計に入れた力を元に戻したジュリア。リンクは特に何を言うでもなかった。
やがて山道に入り、段々と標高が上がって行く。木々の切れ目から景色を眺める事が出来るが、ジュリアはそちらを見ようとしない。見晴らしの良さそうな地点に差し掛かると下を向いて視線を逸らす。
「ジュリア、もう景色良いけど見てる?」
「まだ! 頂上に展望台あるんでしょ、そこから見る!」
「お楽しみは取っておく派か。じゃあちょっと急ごう」
苦笑したリンクが少し速度を上げる。過剰には飛ばさないが、山道に入ってから弱まっていた向かい風が再び強くなった。
そして辿り着いた頂上の展望台。またしてもうっかり景色を見ないよう俯くジュリアの手をリンクが引いて、展望台の上まで導く。
「階段終わったよね、もういい?」
「まだ、端まで行ってから……。……いいよ、顔上げて」
バイクに乗り始めてからワクワクがずっと継続しているジュリア。眼下に広がる景色を認識した瞬間、それは最高潮に達した。
「うわーっ! 凄い!」
近辺で最も標高の高い山頂に造られた展望台。眼下には山々が広がり、来る途中にバイクで通った川や池、湖、丘や平原も見下ろす事が出来る。そして遠くにピーチ城が見え、更に向こうへ視線をやると海が現れ、長い長い橋を渡った先にあるファイター行きつけの海上都市の影もうっすらと見えた。
「こんな場所あるなんて知らなかった! ピーチ城見えてるじゃん、あっちからもここ見えるかな!?」
「見える筈だよ。意識してないと気付かないくらい小さいと思うけど……」
「知ってたらもっと来てたのにー……。でもリンク有難う、こんな良い場所教えてくれて!」
にっこり笑顔を向けて来るジュリアに、リンクはホッとした表情を見せる。
乱闘が禁止になってからというもの暇そうにしていたジュリアだが、その中にリンクが見出した“元気が無さそう”というのもきっと間違いではなかっただろう。今の彼女には確かに、乱闘が禁止になってから消えていた明るさが戻っている。決して日頃から目に見えて沈んでいた訳では無いが、乱闘をしていた頃とは違っていた。
「あのさ、ジュリア」
「んー?」
「ジュリアは、戦わない自分には価値が無いって思ってなかった?」
「えっ、何でそれを……」
「思ってたみたいだね」
ビシッと言い当てられ言い訳が出来ない。
確かにジュリアはリンクの言う通りの思考だった。ファイターランキング10位以内から動いた事が無い程のツワモノで、そればかりで……。他に特別 好きな事も得意な事も無かったジュリアにとって、戦いこそが全て。それが出来ない自分には何も残らないと、そう思っていた。
「俺はジュリアから戦いを取っても何も無くなる訳じゃないと思うよ。でも自分でそう思ってしまうなら、他の何かを作ってみようよ」
「それでバイクに?」
「それはジュリアの気が晴れるかもって選んだだけ。でも戦い以外に目を向ける切っ掛けになっただろ」
「なったなった。こんなに爽快で楽しい事が、戦い以外にあるなんて思ってなかったよ。戦いを捨てる気は無いけど……バイク、いいかも」
「色んな場所に行けるしね。思わぬ発見があって人生潤うかもよ」
「そうね。まさに今日、今、それがあった訳だから」
初めて見るこの展望台からの景色。小さな事かもしれないが、まさに思わぬ発見で人生が潤っている。
自分の芯である戦いを変えたり捨てたりする必要は無いが、リンクの言う通り、たまには他に目を向けると視野が広がって、戦いの方も満ち足りるかもしれない。
「というかバイクだよ、気に入っちゃった!」
「そんなに喜んで貰えたなら嬉しいよ。もしジュリアさえ良かったら、また一緒に出掛けない?」
「いいね! よし、頑張って免許取ろう。リンクと並んでツーリングなんて行けたら最高だもん」
「えっ」
「えっ?」
リンクから誘ってくれたのだから色よい返事が来ると思ったのに、何故か彼は唖然とした顔。
あれ、何かマズイこと言ったかな、誘われたんだから“一緒に行けたら”って言っても大丈夫だよね?
……なんてジュリアが疑問でぐるぐる考えていると、リンクが少し気まずそうに顔を逸らして。
「俺は、いいけど」
「何が?」
「二人乗りで」
「…………んん~?」
それは、どういう意図で。
自分が誘った趣味で勉強なんてさせたくないと思ったのかもしれないが、そんな遠回しな気の使い方をする場面だっただろうか。
……もしや真っ直ぐに受け取っていい話か。
「二人乗り、したいの?」
「……好きな子の傍に居たいとか、出来るならちょっとくっ付きたいとか、思うのは当たり前だろ」
「……。……へぁ」
間の抜けたような声が出てしまった。よく見るとリンクの頬がほんのり赤い。少しムッとしたような表情で顔を逸らしている彼に、今、告白され……。
「……リンク、顔 赤いじゃん……」
「ジュリアだって今、凄いぞ」
「えっウソ」
「ほんと」
「うわわ……」
ちらりと視線を向けたのだろう、自分の顔も熱くなっている所を見られ、焦り過ぎて変な声しか出ない。
しかしこうして好意を伝えられて悪い気はしないし、それどころか。
ジュリアは一つ息を吐くと躊躇いがちに口を開く。
「免許は絶対に取るよ」
「……そうか」
「そんなガッカリした顔しないで。別に免許あったって、二人乗りしてもいいでしょ」
「えっ」
リンクが逸らしていた視線を顔ごと勢い良くジュリアに向ける。やはりジュリアはリンク以上に顔を赤くしていて、しかし嬉しそうで。
「次のデートも、運転よろしく」
「……了解!」
リンクは今日一番の笑顔と声で答えた。
*END*
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