願掛けパズル
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マキアート宛に届いた荷物を預かっていたマルスは、サロンに姿が見えないので彼女の部屋を訪れた。
ノックをするとすぐに返事があったが、扉を開ける為に近付くような足音は聞こえず、「どうぞー」と声が掛かる。手の離せない作業でもやっているのだろうか、出直した方が良いだろうかと少しだけ躊躇うが、何にしても確認が先だ。
出来るだけ静かに扉を開けたマルスは、部屋にマキアートの姿が見えず面食らう。少し視線を彷徨わせてからすぐ下方に見慣れた蒼い髪を発見して目線を下げると、そこにはマキアートが俯せに寝転んだまま上体だけ起こしており……。
「……何やってるんですかマキアートさん」
「見ての通り、ジグソーパズルだよ」
ヨガマットだろうか、皺が出来ないよう硬目のシート状のマットを敷き、その上でジグソーパズルを組んでいる。にしても大きい。横の辺なんて150cm程、縦の辺も100cm以上はあるだろう。
「大きいパズルですね。何ピースあるんですか」
「4000」
「4000!?」
マキアートはパズルを組むのに注力しており、一切マルスの方を見ずに答えていた。ピースの山を入れた箱の中から一つずつ合うピースを探し……探すだけでもだいぶ時間が掛かるし、見つけ出したそれが合うとも限らない。思わず見入っていたマルスに、マキアートは相変わらず彼を見ないまま。
「ところで何か用事があって来たんじゃないの?」
「え……あ、そうでした! マキアートさん宛の荷物を預かっていたんです」
「私宛の?」
そこで初めてマルスの方を見たマキアート。マルスが持っていたのは箱ではなく、中にクッションが付いた封筒タイプの荷物入れで、届いたのはあまり大きな物ではなさそうだ。
気付いたマキアートが何故か動揺し始めたように見える。疑問符を浮かべるマルスに、ありがとね、と素早く言いパッと荷物を取ってしまった。その焦りようが気になったが、女性だし男性には見られたくない物でも頼んだのだろうと自己完結。
用事も終わったので出て行こうかと思ったが、マキアートは受け取った荷物をチェストに仕舞い、すぐに開ける様子は無い。それならば構わないかと、マルスはマキアートにある提案をした。
「マキアートさん、僕も参加させて下さい」
「え?」
「そのジグソーパズル、一緒にやっても構いませんか?」
それにもマキアートは一瞬 焦ったように見えたが、すぐに持ち直したようで、いいよ、と返答。見ているだけで気が遠くなるピースの山から一つ一つ丁寧に選び組んで行くその作業が、参加できるならさせて貰いたいと思うほど神秘的なものに見えたマルス。実際はただの遊びな訳だが……。
マキアートの横(と言っても大きなパズルなのでそれなりに隙間は空いている)に座り込んで、二人の間に置かれたピース入りの箱から合う物を探し始める。そんな二人を包むのは静寂。しかし当然 気まずいようなものではなく、精神を落ち着けてくれる心地いい静けさ。
ジグソーパズルは定石通り外周から埋められている。一番外側はピースの1辺ないし2辺が直線のために他より分かり易いからだ。そこから段々と内側に向かって組んで行くのだが、何せ大きくてピースも多いパズルだから時間が掛かる。
「ここまでにどのくらい時間かかったんですか?」
「外周ぐるっと埋めるだけでも6時間はかかったよ」
「ろ、6時間……」
「まず4000ピースから合うものを探し出すだけで時間かかるからねぇ。まあ後半になるほどピースの山が減るから楽になるよ」
日にちを跨ぎ何十時間もかけて完成させるレベルのもののようで、よくこんな大きなものに挑戦する気になったものだとマルスは思う。しかしふと、手伝えばその時間ずっとマキアートと二人きりで居られるなと、マルスの頭を過る下心。
「完成まで手伝いに来ても良いですか?」
「いいの? 助かるー、好きでやってるけど苦労はするからね」
もちろん態度には出さなかったが、マルスは心の中だけで思わずガッツポーズ。会話も何も無いが暇している訳ではないので嫌にならない。それにマルスはこういう静かな時間も好きなので、それをマキアートと二人きりで過ごせるなら幸せだ。
空いた時間は二人でジグソーパズルに興じるが、乱闘だのトレーニングだの住んでいる城の生活当番だので、あまり時間を割ける訳でもない。こつこつと組み立てて行った一週間後、マルスはパズルの絵柄を見てある事に気付く。外周から少しだけ進んだ下側、手にしたピースには見覚えのある、人ではない小さな足。
「あれ、これ……ピカチュウの足に見える……」
「あ、ついにバレた。そっち、そろそろ風景からファイターに切り替わる位置だと思ってたよ。人数多いもんね」
「もしかして以前に撮った集合写真ですか?」
「そ。好きな写真やイラストをジグソーパズルにしてくれるサービス見つけてね、全員で写ってる写真で作ってみたの」
マキアートはこの世界で出会った仲間達をとても大切にしている。そんなファイターならば他にも大勢居るが、彼女の場合は少し事情が違っていて。
「ファイターの仲間たちが完成するなら、俄然 やる気も出ますね」
「そうだねー。でもって最後のピースを填めて完成させた瞬間、私は塵となって消えるのです」
「えっ」
最初にジグソーパズルをしている彼女を見た時と同じように、マキアートはマルスを見もせずパズルを組みながらあっけらかんと言った。マルスが思わず手を止めマキアートを見つめていたら、少ししてようやく視線に気付きそちらを向く。
少し駄々を捏ねる子供のようにも見える、悲しそうな嫌そうな表情をしたマルス。それを見てようやく、慌てたように首と手を横に振るマキアート。
「ウソウソウソ、言ってみただけ!」
「……で、す、よね」
「そうそう、ちょこーっと悲劇のヒロインぶってみたくなっただけだよ!」
「良かった……マキアートさん、あなたのそういう冗談は冗談にならないんですから、本当にやめてください……」
「うん、ごめんね」
そこで会話が切れ、ジグソーパズルに取り掛かる二人。再び訪れた沈黙は今までと違い、少々気まずさを孕んでいる。
マキアートはスマブラファイターではない。マキアートという人物は本来、ファイターとして存在する筈の無い人物で、ここにこうして居るのは“バグ”のようなもの。創造神であるマスターハンドやクレイジーハンドですら彼女の存在理由を把握し切れていないので、本当にいつ塵のように消えてもおかしくなかった。
マルスのピースを組む速度が明らかに落ちている。冗談だと、彼女がそう笑って言ってくれたのに。不安定で謎多きマキアートの存在が、冗談を冗談で済ませてくれなかった。このジグソーパズルが完成したら、マキアートは消えてしまう……。
「(そんな事、ある訳がない。マキアートさんの冗談なんだから……)」
「……なんかゴメンね、マルス君」
「え?」
「私の無神経な冗談で悲しそうな顔させちゃって。マルス君は優しいんだから、こうなるの分かる筈なのに……」
「あ、顔に出てました?」
「出てたよー。……言い訳だけどさ、冗談にして吐き出さないと不安だったんだ」
いつか何の前触れも無く忽然と消えてしまうかもしれない。前向きで明るく振舞っていても常にその悪い予感が付き纏う。誰とも仲良くならず、関わらずに過ごすなんてそんな事、マキアートには出来なかったものだから。
「マキアートさん……」
「あ、あーもうやめよっ、こういう暗い話はしちゃダメだ! そうだ願掛けしようよ!」
「願掛けですか?」
「うん。このジグソーパズルが完成したら願いが叶うの。私はこれからもファイターの皆と過ごせますようにって祈るよ、マルス君は?」
「……じゃあ……秘密にしておきます」
「えーなんで?」
「さっきの冗談のお返しで」
「うっ、何も言い返せない」
マキアートがわざとらしく大げさに衝撃を受けてみれば、互いに笑いが零れて気まずい雰囲気が解けて行く。
『このジグソーパズルが完成したら、マキアートとの仲を進展させたい』
それがマルスの掛けた願い。深い仲になれますように、なんて願わなかったのは、マルスの恋に不慣れな性格のせいだ。
それからもこれまで通り、空いた時間に二人きりでジグソーパズルを組んで行くマキアートとマルス。じわじわと埋めて行き、ひと月ほどが経っただろうか、全身が完成したファイターも増えて来た頃。そこまで行くと慣れによる油断も出て、飲み物なんて飲みながら作業していた二人。
作業+飲み物……作業の内容が何であれ、嫌な思い出がある人も多いだろう組み合わせ。そう、やってしまったのである。
「あ、あぁーーーっ!」
使っていたのは、一応 倒れないように考慮した安定感のあるマグカップ。マキアートが少し離れた所に置いていたペットボトルからおかわりを注いだ後、戻って来て座ろうとした瞬間、バランスを崩し手から零れ落ちそうに。
幸いにも全量ぶちまけるのは避けられたが、少し零れて一部に掛かってしまう。すぐさま拭くが被害を免れなかった部分もあり、それがよりによって……。
「ごごごごめん、ほんとごめんマルス君!」
「あぁー……見事に」
マルスが写っている場所だった。
マルスの居る部分が丸ごと、そこ以外は零れた量などの問題か被害の跡は無いという、いっそ見事なしくじり様。被害を受けたマルスのピースの端に他のファイターもギリギリ映り込んでいるが、それもほんの少し。まさにマルスだけが被害に遭ってしまった。
「どどどどうしよう! 折角ここまで組んだのに!」
「こういうのって制作したメーカーに頼めば新しいピースを送って貰えませんか? あ、オーダーメイドだから難しいかな……」
「……」
そこでマキアートが黙り込んだ。やらかした事への気まずさ……とは違う雰囲気の何かにマルスが疑問符を浮かべると、すっくと立ち上がり壁際のチェストへ。
中から取り出したのは、いつかマルスが持って来たマキアート宛の、封筒タイプの荷物入れだ。それを無言でマルスに手渡して来る。
「? マキアートさん?」
「それ、中にマルス君部分のピースが入ってる」
「え」
慌てて開けると、確かに中にはジグソーパズルのピースが数個。手に取って確認してみれば間違いなくマルスの部分だ。しかもそれ以外のピースは入っていなさそう。
「……あの」
「……」
「どうして僕の部分のピースだけ追加で注文しているんですか?」
「……」
顔を逸らし完全に黙秘の態勢。立ったまま座ろうとしないので、仕方なく濡れたピースを外し組み始めるマルス。たまにマキアートがそうしていたように、彼女の方を見ず話し始める。
「マキアートさん。こんな事されたら僕、期待してしまうのですが」
「……」
「これは良い方に受け取っても構いませんよね? 呪いとかそういう方向性じゃない事を祈ってます」
「呪うわけないじゃん!」
「それじゃあ良い方に受け取りますよ」
また沈黙。あまりにマキアートが動かないのでさすがに気になったマルスはそちらを見た。視線の先には、困ったような顔を真っ赤にして視線を逸らしているマキアート。その表情の意味を、逸らした視線の先の想いを、分からないマルスではない。
「……願掛け、完成前に叶ったどころか、飛び越してしまったじゃないですか」
こっそり呟いて。
それを聞き逃さなかったマキアートによって静けさが破られ、それはやがて明るく前向きで、そして甘いものへと変わって行くのだった。
*END*
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