6章 王女失格
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弓使い達が住む長閑な村に、不釣り合いな戦いの音が響いている。
借りた部屋で休んでいたエリウッドは、その騒音に怪訝な顔で窓を見た。
ベッドから起き上がって窓の方へ歩こうとした時、ルミザが慌てて部屋に飛び込んで来て、エリウッドはへたり込む彼女を気遣いながら問う。
「姫、一体何が起きているのですか?」
「それが、賊が入り込んで来て……村の人たちと戦闘に!」
ルミザは、エリウッドにウィリデや賊の事を話す。
それを聞き終わるや否や、エリウッドはレイピアを掴んで駆け出した。
一体どこへ行くのかと問うルミザに、自分も戦ってくると告げる彼。
それを聞いた彼女は必死になって引き止めた。
まだ病み上がりだというのに、戦って来るなんて無茶だ。
しかしエリウッドも、世話になった村人達が戦っているのに放っておけないという。
エリウッドの強い言葉に息を詰まらせるルミザ。
本当に、出来る事が何も無いのは自分だけなのだと……思い知ってしまう。
「待って……行かないでエリウッド、お願い……」
「姫……」
エリウッドの腕に縋り、必死に引き止める。
そんな彼女を見て、いたたまれない気持ちになったのか、戦いに行くのをエリウッドは諦めた。
確かに、ルミザの護衛は必要だろう。
ベッドの縁に座り俯いて落ち込むルミザを、エリウッドは慰めもせずに、ただ寄り添っているだけだった。
ここで慰めてしまえばそれだけ彼女が惨めになると分かっているのだ。
ルミザは今、必死で、自分に出来る事は何か、少しでも手伝える事は無いかと探している。
しかし…。
武器も魔法も扱えず、何か特別な知識があるわけでもないルミザ。
考えれば考えるだけ悩みは深くなっていく。
戦いが始まってそれほど時間は経っていないだろうが、喧騒は止む気配が無く、本当に戦いは終わるのかと不安になった。
何も出来ないまま時間が過ぎるが、ふと、外から聞き覚えのある声が響く。
呻くような、どう考えても苦しんでいるような声だ。
「今の……は……」
「ロイっ……!」
思わず立ち上がりレイピアを手にするエリウッド。
しかしルミザを放ってはおけないと思ったのか、少し硬直した後、再びルミザの横に座る。
その横顔は、弟を心配する苦しみに満ちていて……。
「……行ってあげて」
「え?」
「行ってあげて、ロイに何かあったのかもしれない! 有難う、私の方はもう、大丈夫だから」
突然のルミザの言葉にエリウッドは、それでいいのかと動揺する。
しかし彼女も頑なに譲らず、行ってあげてと繰り返していた。
エリウッドは少しだけ迷った挙句、すぐに戻りますから絶対に出ないで下さいと言い残し戦いへ出て行った。
レイピアを手に飛び出すエリウッドを見送り、深く息をついたルミザはベッドへ仰向けに倒れる。
何も出来ないのならば、せめて他の者の障害になるような事をしたくない。
エリウッドがロイを心配して共に戦いたいと思うのならば、それを引き止めるような事はするべきではないのだ。
いきなり1人になり不安で仕方ないが、そんな我が儘は言っていられない。
何か武器になるものは無いかと探り、昨日プリシラに貰ったリブローの杖を見つけた。
それをしっかりと抱いて……ルミザは祈る。
++++++
一方、村で戦う者達。
接近されると滅法弱くなる弓の弱点を突かれぬよう、接近戦に長けている者達が積極的に前へ出て敵を引きつけている。
特にオスカーは槍、弟のボーレは斧と、元々そちらが本職らしく、その働きには目を見張るものがあった。
ロイもそれに混じり、好戦していたのだが。
「おい、大丈夫か!?」
ウィルに支えられ、腹から脇腹にかけて出来た深い傷を庇いながら、ロイは戦場から少々離れた場所へ座り込んだ。
血は止まる様子が無かったが、押さえて余り動かなかった事でマシになって来たようだ。
しかし相当な痛みは一向に消える気配は無く、ロイは汗を滲ませながら必死に耐えていた。
「ウィル、サンキュー。オレはもう大丈夫だから皆の援護に行っていいよ」
「いや、まだ危ないって。傷薬……くそっ、無い」
突然の襲撃だった為に、傷薬など治療の準備が不完全だった。
とにかく、既に避難している村人たちの元へロイを連れて行こうと、ウィルが屈んで肩で支えようとする。
……と、急に2人を暗い影が覆った。
何事かと振り返った瞬間、「ウィル、危ない!」と声が上がる。
いつの間にか、背後に賊がやって来て斧を振り上げようとしていた。
反射的、間を開けて弓を構えようと思ったウィルだが……ロイを置いていていいのかと思い直し、反応が遅れてしまう。
それが命取りとなってしまい、斧は彼の眼前へと迫る。
ロイが飛び出そうとした瞬間、斧を振り上げていた賊の動きが止まった。
直後斧を手放して倒れ、その背後にはレイピアを構えたエリウッド。
「兄貴っ! 寝てなよ、それにルミザ様は!?」
「もう体は大丈夫だ。姫には許しを戴いた」
血が付いた剣を振るいながら歩み寄り、礼を言うウィルに微笑んで頷くエリウッド。
だがロイの傷を発見して血相を変え、座り込んで肩を貸そうとする。
「ロイ、早く治療しないと。掴まってくれ」
「あ、エリウッドさん、ロイなら俺が運びますから」
エリウッドさんは皆の援護をお願いします、
と言うウィルに、エリウッドも頷いて前線へと駆け出した。
戦況は、村人たちが押しているようである。
弓は接近戦が出来ないとは言え、地の利を活かして上手く攻撃していた。
この分だと、村人たちの勝利も近そうだ。
しかしそれでウィリデが易々と引き下がる訳は無く。
折角見つけた復讐の対象を何とか奪えないかと考えを巡らせる。
ルミザを攫おうにも村人たちの向こうに居る為、なかなか近付けない。
焦るウィリデだが、そんな彼女の視界に、新たに赤い髪の青年が入った。
あれは、緑の巫女である、姉ウィリデの意識を盗み見た際、ルミザに寄り添うように付き従っていた男だ。
瞬時にして、ウィリデの頭にある考えが浮かぶ。
ウィリデは2、3人の賊へ、自分の近くに隠れているよう指示する。
そして戦いに紛れながら駆けると、エリウッドの傍までやって来た。
そのまま、戦っていた賊が近寄るタイミングに合わせ……。
「きゃああっ!!」
顔を俯けて隠しながら、悲鳴を上げた。
案の定、村人が襲われているのかと思ったエリウッドは、彼女を助けに飛び込んで来る。
賊を斬り、エリウッドは俯いて震えるウィリデに優しく声を掛ける。
「大丈夫かい?」
「え、ええ……」
ゆっくり顔を上げるウィリデ。
その顔を見て、エリウッドはルミザから聞いた緑の巫女の双子の妹の事を思い出した。
慌てて離れようとする前に、ウィリデは隠し持っていたナイフを振るい、彼の体を斬りつける。
レイピアで応戦しようとするエリウッドだが、その時、ウィリデの指示によって隠れていた賊が彼に襲い掛かった。
「エリウッドさんっ!!」
気付いたレベッカの叫びは、1人部屋に隠れていたルミザにも届く。
「エリウッド……!?」
明らかに不吉な空気。
堪らなくなったルミザが部屋から飛び出せば、体を深く斬り裂かれ、片腕を賊に掴まれつつグッタリとしたエリウッドが目に入った。
彼らの横ではウィリデが勝ち誇った顔をしている。
戦いは止まっており、静けさが逆に恐ろしい。
「あら、お姫様。なんにも出来ないんだから隠れていればいいのに」
「エ……エリウッドを放して」
見下して来るウィリデのわざとらしい言葉には反応せず、ルミザはエリウッドの解放を要求する。
だが、ウィリデがそれで要求を呑む訳が無い。
代わりに彼女が要求して来たのは勿論。
「ねぇお姫様、何かを手に入れたいなら、それ相応の代償が必要よね」
「……なに、を……」
「なにって、惚けてるの? 察しが悪いの? アンタに決まってるじゃない」
ビクリと体を震わせ、怯えた顔をするルミザ。
しかしエリウッドの傷は深く、早く処置をしなければ命が危ない。
迷いに迷って泣きそうになったルミザの耳に強い調子の声が聞こえた。
「ダメだルミザ様!」
ロイだ。
治療をして貰ったのか……やけに回復が早い気がするが、向こうからやって来たロイが叫んだ。
「やらなきゃいけない事があるんだろ!? 一時の感情に惑わされたりしたら駄目だよ、姫様は生きないとっ…!」
彼の言う通りだ。
ルミザには、邪神を倒して祖国を救わねばならない使命がある。
もう王族が自分1人しか居ない以上、自分がやらなければならない。
その為に、こうやって旅をしている。
しかし。
エリウッドを絶対に失いたくは無い。このまま迷っていては、彼は死んでしまいかねない訳で。
だがウィリデについて行けば、どんな惨い事をされてしまうだろう。
「……姫」
「……!」
迷うルミザの耳にエリウッドの声が届いた。
それはか細い、力無いものだったが、静まり返った辺りには充分聞こえる。
「あなたは……生きなければなりません。辛かろうとも……王女として……」
「……」
王女?
1人では何も出来ない自分が王女の器だろうか。
本来は民や国を守らねばならないと言うのに、それすら出来ず、ただ臣下……友人に守られるばかりの自分が、そんな。
ロイは相変わらず、駄目だ聞くなの一点張り。
彼だって兄に助かって貰いたいハズだ。仲の良い兄弟、本当はきっと。
その証拠とでも言うべきか、ロイの声はどことなく震えていた。
それに、エリウッド。
まだ旅を始めて数日だが、王城を脱出する時からずっと寄り添って、守り励ましてくれていた。
何より幼い頃からの友人である彼を見殺しになど出来る訳が無い。
エリウッドの出血は止まらず、もう猶予など残ってはいない。
ウィリデにどんな惨い事をされるのかと考えれば恐ろしいが、本来、自分は邪神の生け贄になるハズだった。
すっかり忘れていた、この命はもう、一度死んだようなものなのだと。
父母、兄や姉、弟妹達、家臣や国民達……そして、エリウッド、ロイ、ヘクトルには、申し訳ない。
国よりも自身の友人を取るなど、王女にあるまじき事。
「分かりました、あなたについて行きますから……エリウッドを放して」
私は
王女失格だ
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