4章 大森林
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朝。
森の清涼な空気の中、気分良く目覚めたルミザ。
木漏れ日をいっぱいに浴びて大きく背伸びする。
エリウッドと挨拶を交わして夜中の事を思い出した。
夜中は交代で見張りをしたので、何度も寝起きしているのだ。
不安ではあったのだが、よく眠れたのでよかった。
街で買っておいた食料で朝食を済ませる。
王宮暮らしだったルミザにとって、こんな生活は初めてだ。
しかし意外に抵抗は無かったし、すぐに慣れた。
「姫には、本当に不自由な事ばかりで……申し訳ありません」
「どうしてエリウッドが謝るのよ。仕方ない事だし、抵抗も無いわ」
それに、こうやって色んな土地に行き、王宮に居ては絶対に体験出来なかった事をするのは何だか楽しさも感じる。
不謹慎なので絶対に口には出さないが。
少し朝靄が掛かった森の中、ウィアに乗って出発する2人。
この泉の北方面に緑の巫女であるウィリデが居るらしい。
それらしい方へ進むが、どんどん木々が生い茂って進み難くなる。
こんな所に住んでいるのだろうか?
「姫、降りましょう。頭上が枝と葉だらけで……」
「そ、そうね。歩いた方が良さそう」
もう何度、枝や葉に衝突してしまったか。
ゆっくり進んでいたとは言え、これ以上馬に乗って進むのは難しい。
足元も既に道とは呼べないものになっていた。
ルミザの前をエリウッドが歩き、ルミザは愛馬を隣に進む。
足が覆い隠されてしまう程に伸びた草むらは、来る者を拒んでいるようだ。
身を隠すにはもってこいの場所、やはりこの先に巫女が居るのか。
こんな所まで来て徒労に終わらなければいいけど、と苦笑しながら進む彼ら。
やがて突然木々が途切れ生い茂る木々に囲まれた空間に着いた。
広くはないが、ひと家族が過ごすには充分な広さ。
ふと目をやった方に、家が建っていた。
あれが緑の巫女・ウィリデの家だろうか?
家に入るためノックしようとしたルミザ達に、誰かが声を掛ける。
「どなた?」
「あ……」
そこに居たのは、繁る森に紛れるような明るい緑色の髪をした少女。
身長が低く顔も幼く、少し驚いた表情は彼女を更に幼く見せていた。
12、3歳程度に見える。
「あなたがウィリデさんですか?」
「はい。……あの、まさかラエティア王国第4王女のルミザ様……?」
「そうです」
返事を聞いた瞬間、ウィリデの顔が明るくなる。
高く可愛らしい声、太陽のような無邪気な笑顔はやはり幼かった。
「お待ちしておりました! 私どもの神よりお告げがあってからずっと……」
はしゃぐようにルミザの手を取ると、家の中へ招き入れる。
何だか微笑ましい。
ウィリデはルミザとエリウッドを座らせると奥の部屋から小さめの宝石箱を持って来た。
中から、緑色をした美しい球体の宝石……マテリアを取り出す。
ルミザ様に渡すよう神から仰せつかりましたというウィリデ。
黄のマテリアと同じ濁りのない透き通った球体は、見ているとふっと落ち着くような気がする。
「有難うございます、ウィリデさん。マテリア、確かに受け取りました」
「良かった……」
微笑むウィリデ。
彼女を見ていると、フラウムの時と同じ疑問がより強く浮かぶ。
何故、巫女になったのか。
……いや、きっと彼女もフラウムと同じく、ある日突然宣告されたのだろう。
それより疑問なのは、今の彼女の生活だ。
嫌に静かな家だが、家族は居ないのか、どうやって暮らしているのか。
ウィリデは、そんな疑問を浮かべるルミザに気付いたのか、笑顔を崩さずに口を開く。
「ルミザ様……私の事が気になりますか?」
「あ、ごめんなさい」
「いいえ」
ウィリデはさして気を悪くした様子も無く、しかし、少し寂しそうに訥々と語り始めた。
ウィリデもフラウムと同じくある日突然巫女の役目を授かったと言う。
しかし既にその時、両親は亡かった。
ウィリデが10歳の時、賊に襲われ亡くなったらしい。
ウィリデは両親の遺言に従い、この場所に隠れ住んでいたそうだ。
怯えながら暮らしていたが、巫女になってからは虹の神や聖神が付いていると怖くなる事は無かった。
最近は王都まで出掛ける事も多いので、街人が彼女の存在を知っていた……と言う訳だ。
「神々が付いている……」
「はい。私が独り、賊の蔓延るこの森に居て無事なのは……神々のご加護です」
もしかしたら、それも何か大きな力による思考の操作かもしれない。
こんなに信じ込んでいるウィリデに、そんな事は言えないが。
ウィリデは、更に続ける。
「それに、このサルトゥス大森林が私を護って下さるんです」
「大森林が?」
「はい。ルミザ様も、お困りの時は大森林の御言葉を聞いてみて下さい。大森林は虹の神や聖神に敵対しない者を、悪いようには致しません」
この大森林に噂される神秘を、ウィリデは躊躇う事なく信じていた。
ここまで……心の底から信じられるなんて、幼い彼女が崇高な女神のように思えて来る。
否定せずに受け入れてみる事で何か新しい境地が開ける事がある。
何より、こんなに信じている彼女を否定するような事はしたくない。
そんなルミザにウィリデは嬉しそうに微笑んだ。
すると、横からこそりとエリウッドが口を挟む。
「姫、次はどうしますか? 一部とは言えカネレにルネス軍が来ているからには、長居は出来ませんよ」
「あ、そうね……。でも、ここからじゃ東のドルミーレ王国にしか行けないんじゃないかしら?」
カネレは国土の70%を森林が占めているが、その周りを更に険しい山々に囲まれている。
西のラエティアか、東のドルミーレにしか抜ける事が出来ない。
……となれば、次の目的地は自然とドルミーレ王国に来まる。橙の巫女マールムがどこかに居る筈だ。
ウィリデが教えてくれた。
「ドルミーレへ向かうのでしたら、ここから東へ進んで下さい。王都から随分北ですし軍には見つかり難いでしょう。お気を付けて下さいね」
「分かりました。有難うございます」
マテリアを手に入れ、ウィリデと別れた2人。
彼女の家を出て、東へ向かって進み出す。
……少し進んだ所で、背後から誰かがやって来た。
「……!」
「エリウッド?」
気配に気付き、エリウッドが後ろへ振り返る。
思わず、つられて振り返ったルミザが見たのは……。
「あなた……また…!」
「……遅かった。いや、間に合ったのか?」
昨日、昼間に襲われ、夜には伝説のある泉で出会った赤髪の傭兵だった。
レイピアを手にルミザの前に立ち塞がるエリウッドを全く気にしていないのか、彼は剣を抜こうともしていない。
一体何の用なのか不安な面持ちで彼を見ていると、彼はすぐに口を開く。
「ウィリデとか言う小娘に会ったのか」
「!?」
どうして彼がその事を知っているのか。
まさか、知り合い……?
だったら何だとレイピアを構えつつ威嚇するエリウッドを鼻で笑い、彼は驚くべき言葉を口にした。
「何も知らないようだから教えてやるが、あの小娘、賊と通じているぞ」
「え?」
「賊と話しているのを何度か見た」
あの、ウィリデが?
当然信じられる訳などある筈もなく、ルミザはすぐに言い返す。
そんな事がある筈ない。
しかし、それも一笑に付した赤髪の傭兵は、更に言葉を続けた。
おかしいと思うはずだと。
あんな少女が何故、賊の横行する大森林に独りで住んで無事でいるのか。
それは……神々と大森林の加護。
何も知らない者にそれを言っても取り合ってはくれないだろう。
しかしその筈。あるいは運がいいとも考えられる。
そんな希望を打ち崩すように男は言葉を続けた。
「最近はどの村も警備を強化しているし、国民や旅人も注意を細かく払っているからな。賊としても獲物がなかなか手に入らないんだ」
「……何が言いたい」
睨み付けるエリウッド。
男は、ちらりとルミザに視線を向けると、薄く笑いながら答えた。
「高く売れるだろうな。いい所で育った女なら尚更」
「……!」
「大方、富豪か貴族の娘……と言った所だろう」
人身売買は違法だが、今でも非合法で頻繁に行われている。
借金を返せなくなったり生活費が無くなったりして身売りした者や、賊に攫われた者等が主な商品だ。
特に若い女は慰み者にもなる為、富豪や貴族の間で人気だった。
元からいい育ちをしていれば、躾の手間を掛けずに人前に出せるので更に高値が付く。
そして、更に。
「その女は、悪くない器量をしている。……それに、男を知らなさそうだ」
「な……!」
不躾な発言に、怒りと羞恥で顔を染めるルミザ。
それを見た男は、どこか愉しそうにからかい始める。
「何だ。まさか、その従者に足を開いたのか? まぁ、報酬が金品で払えないと言うのならそれも有りだな」
「貴様……! ルミザ様へのそれ以上の侮辱は許さない!」
自分とルミザの関係をからかわれ、エリウッドは本気で怒る。
自分のような者がルミザと関係を持つなど、例えでも赦されないと思っていた。
男はからかうのに飽きたのか、話題を戻す。
器量も悪くなく、いい育ちで更に生娘ともなれば相当な高値で売れるだろうと。
ウィリデが本当に賊と通じているのなら、今、自分達はかなり危険な状況に置かれている事になる。
獲物が少なくなってきている昨今、相当な高値で売れそうな獲物が目の前に転がって来て、みすみす逃すなんて考え辛い。
ウィリデから勧められた道は王都からかなり北で隠れる場所も多く、ルネス軍から逃れるのには恰好の道だ。
しかしそれは、人目につき難く賊が隠れるにも最適の場所だと言う事。
もしウィリデが、安全な道を勧める振りをしながらルミザ達を陥れようと企んでいたとしたら。
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