17章 襲来
名前変換
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海原女神マレを讃える祭の初日、ルミザ達を待っていたのは青の巫女との邂逅。
レウム・アルクス……いや、元の名であるミカヤと呼ぶべきか、美しい銀髪の娘は笑顔を浮かべ何でもない様子で立っていた。
「ルミザ様がいらして下さるのをお待ちしていました。サザ、マテリアを」
「ああ」
ミカヤの言葉に、サザが綺麗な小箱を取り出す。
中にはエスタースから望む青海を閉じ込めたかのような、深い青色の宝玉。
ミカヤはそれをルミザに手渡し、そのまま手を握りながら微笑んだ。
何だか、握られた手から心を透かし見られているようでドキリとしてしまう。
別に何も悪どい事や不純な事は考えていないので慌てる必要は無いのに、何故か緊張して冷や汗が流れそうな感覚に陥ってしまった。
時間が止まったようになったが、テティスが割り込んだので長くは続かない。
「ミカヤがルミザ様の探していた巫女だったなんて。凄い巡り合わせじゃない、これって運命ね! わざわざ占いしてもらう間でもなかったわ」
「……実はわたし、今なぜか占いの能力を失っているんです」
「え、どうして……?」
少し視線を下げて困った風に言うミカヤに、ルミザ達は疑問符を投げる。
なんでもここ数日、何度も試みているのだが全く反応が無いらしい。
どうやら彼女の“占い”とは、ネブラでアトスに行って貰った神託と似たもののようだ。
しかし何にしても目的である青の巫女は見付かったのだから占って貰う必要は無くなった訳だ。
心置きなく、次の目的地へと足を運べる。
「ルミザ様達は、これから如何なさいますか?」
「実は仲間の一人がエスタースの領主様にお世話になっていまして。祭りが終わるまではお仕えしたいと言っているので、それまでは滞在するつもりです。その後は北のロクイー王国へ」
「でしたら祭りを楽しんで行って下さい。わたしはまだ巫女としての仕事があるので、あまりご一緒できないのは残念ですが……」
勿論、マテリアが手に入ったからにはこの国でやり残した事など無いし、ヘクトルの気が済むまでのんびりと祭りを楽しむつもりだ。
祭りが終われば紫の巫女とマテリアを求め、極寒のロクイー王国へ行かなければならないし、今のうちに体を休めておきたい。
するとサザが、ちらりとルミザの方を見てからミカヤに話し掛けた。
「遊びたいんだったら、俺から領主に話を付けるから行って来れば? 年に数日なんだしサボっても……」
「違うわサザ、年に数日だからちゃんとしなきゃ。国王様だっていらっしゃるのよ」
「でも他の奴らは遊んでるし、せっかく待ってた王女様も来たんだし……」
「祭りで仕事をしている人なら他にも大勢居るわ。それに巫女の役目は納得して引き継いだんだから」
「サザと言ったか、お前自分がミカヤ殿と一緒に過ごしたいだけじゃないか?」
サザとミカヤの話の途中、エフラムが面白そうに微笑みつつ割り込んだ。
その明け透けな言葉にサザがバッとエフラムを見やり、そのまま気まずそうに視線を反らしてしまう。
何だか微笑ましくて、ルミザはふと、気になっていた事を訊ねてみる。
「あの、ミカヤさん。もしやあなたがご自分の名を忘れていないのは、彼のお陰が大きいのでは?」
「えっ? 名前を忘れるというのは一体……?」
ルミザは、今まで会った巫女は新しく与えられた名に馴染み、本来の名を忘れてしまっていた事、名を忘れたのは呼んでくれる者が居なくなったかららしい事を話した。
きっとエルフィンの母であるドルミーレ王妃も、自分の名を忘れてないだろう。
するとミカヤは照れ臭そうにサザを見やり、その通りですと頷いた。
「正直、レウム・アルクスという青を司る名を頂いてから、ミカヤという名に違和感を覚えるようになったんです。幼い頃から慣れ親しんで来た自分の名なのに、おかしいですよね」
「いいえ、今までお会いした巫女もそう言っていましたから」
「……でもそうなってから、サザが何度もわたしの名を呼んでくれて。お前はミカヤだ、青の巫女である前にミカヤという一人の女なんだって」
周りの者はミカヤが聖神や虹の神・巫女の事を話しても信じてくれなかった。
元々占いが得意なので、そんな神秘的な少女の言う事だから何か意味があるかもしれないとは思っていたらしいが、何かの例えだと思ったらしく、そのまま本来の言葉を真剣には取り合ってくれなかったそうだ。
そんな中、ミカヤの言葉を信じ受け入れた上で、支え続けてくれたサザ。
彼も初めは戸惑ったけれど、ミカヤが周りを不安にさせてまでデタラメを言うとは思えなかったらしい。
「ミカヤは占いが得意だったから。自分が発した言葉によって、下手をすれば相手の人生を左右するって事ぐらい理解してる」
「だから、彼女の言葉を信じられたのか……」
エリウッドが感慨深そうに頷き、絆が深そうな二人を微笑ましげに見つめる。
二人は幼い頃からずっと一緒だったらしい。
そして、これからも。
本格的に照れ臭くなったらしいサザがミカヤの手を引き、じゃあまた、と去る。
それを見送ってから、ルミザ達も宿へ戻る事に。
その途中、出店が並ぶ通りを歩いていたルミザはふと、ある店に目を止めた。
美しい装飾品が並んでいるが、サイズが規格外に大きいものが多い。
エリウッド達に告げて見に行ってみると、どうやら馬用のアクセサリーらしい。
それを聞いたロイが、不思議そうに口を開く。
「馬にこんなもん必要なのか? 金持ちの道楽じゃあるまいし無意味じゃ……」
「あら、このリデーレ王国では長く付き合いたい愛馬には、こんなプレゼントを贈る風習があるのよ」
テティスの解説に、ルミザは自らの愛馬を思い浮かべながら目の前の装飾品をじっと見つめる。
そして、遠慮がちに一言。
「……あの、無駄遣いは良くないって分かっているのだけど……」
++++++
「ただいまウィア! 見て、綺麗な首飾りでしょう」
宿に戻ったルミザは、真っ先に馬小屋へ預けた愛馬ウィアの元へ。
買った装飾品は走り回る馬用のためか頑丈さを重視した造りになっており、脆い本物の宝石などは使用せず硬度のある鉱石に加工を施したものだった。
故に綺麗な見た目に反して意外と安く、仲間達も購入を快く承諾してくれた。
まあ仲間達は、今まで付き合ってくれたウィアへの礼も兼ね、例え多少高くても購入するつもりだったそうだが。
ルミザが首飾りをウィアに付けてあげると、彼女は嬉しそうに鼻を鳴らす。
本当に意思の疎通が出来ているのではと思える程に賢い子だ。
「本当に巻き込んでしまってごめんねウィア、おまえは無関係だし、今頃は城で悠々と暮らせていたかもしれないのに」
ルミザが申し訳なさそうに言うと、ウィアは叱咤するように軽く嘶く。
あまり怒っている風ではない……強いて言うなら“無関係”と言った事に対して怒っている感じか。
馬小屋の中を仕切っている柵へ前向きに寄り掛かりながら、ルミザはすぐそばにあるウィアの鼻を撫でる。
こうしていると、自分の国を追われた亡国の姫であるという立場が嘘のような気さえしてしまう。
もちろん、王家最後の生き残りとなった以上、その立場を放棄する事など許されないが。
ミカヤが普通の少女としての祭日を放棄し、海原女神の巫女としても虹の巫女としても働いているのを見ると、自分だけではないのだと思えて勇気が湧く。
ただ、こうして何事も無い静かな時間に居るうちは、普通の少女として過ごしても罰は当たらないはず。
ふと、ミカヤもサザと居る時は普通の少女なのだろうかと想像するルミザ。
あの二人は想い合っている様子が見て取れ、初々しさも相まり実に微笑ましい。
ああいう相手がいるなんて正直、羨ましくもある。
「ねえウィア、私にもあんな素敵な関係になれる人が現れるかしら。やっぱり王女だから国益を考えた政略結婚しか許されないとは思うのだけど……。その相手と偽りの関係しか築けない訳じゃないわよね?」
大体の物語で政略結婚は悲劇の象徴で、虐げられている所を颯爽と王子様や騎士様が助けに来るけれど。
現実はそこまで極端ではないかもしれないと、ルミザは自分に言い聞かせる。
例えばルネス家と強く繋がる為にエフラムと婚姻したり、民の支持を得る為に有力貴族であるエリウッド達の誰かと婚姻すれば……。
「や、やだ、私ったら何を考えてるんだろ……。じゃあウィア、そろそろ部屋に戻るからね。ゆっくり休んで疲れを取って」
ルミザは両手でウィアの鼻の辺りを包むと、ゆっくり頬擦りして愛情表現。
そして笑顔で手を振り、馬小屋を後にしたのだった。
++++++
翌日、祭り二日目。
これを目当てに集まっている者も多いらしく、海上に埋め立てる形で造られている、ドルミーレのコロセウムに似た特設会場は人でごった返していた。
武術大会。
腕自慢が競い会うこの大会は、リデーレ国王が観戦する事もあって大陸各地から野心家が集っていた。
この試合で好成績を残せば城仕えも決して夢ではないし、実際王家の要職に就く者の中には過去に武術大会で健闘した者が居るらしい。
ロイとエフラムは選手として出場する為、控えの場所へ行ってしまった。
ルミザはエリウッドと二人、テティスが用意してくれた特別な指定席で観戦をする事に。
人が溢れ返っている自由席とは違いゆったりと場所が確保されていて、座る場所も単なる段差ではなく柔らかな椅子が置かれている。
「さすがに屈強な人が多いみたいね……ロイ達は大丈夫かしら」
「彼らなら大丈夫ですよ、きっと善戦してくれます。ロイもエフラム王子も、それに、……ヘクトルだって」
エリウッドがヘクトルの名前を出す直前、少しどもってしまったのをルミザは聞き逃さなかった。
付いて来ると彼自身が決断してくれたのは嬉しいが、失われた記憶を取り戻した訳ではない。
これから一緒に過ごして新たな思い出を築けば良いとは思っても、今までの積み重ねが消え去った衝撃と悲しみは簡単に消えない。
そんなエリウッドに気付いたルミザだが、敢えて慰める事は言わなかった。
幼い頃からの大親友を失ったも同然の彼に必要なのは、悲しみを同じくする心だろう。
「ヘクトルの記憶が戻ってくれたら良いのにね。また一緒に過ごせるのは嬉しいけど、やっぱり寂しいわ」
「……ルミザ姫もですか。僕も同じです。どうしても寂しくて……」
エリウッドは悲しそうに顔を歪めて俯くが、ややあって顔を上げると引き締めて会場を見据えた。
その瞬間、響くドラ。
他と仕切られた一際豪華な席に、護衛を引き連れたリデーレ国王が現れる。
傍にはミカヤも控えていて、観客が静まり返ったのを確認すると王の言葉が始まる。
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