14章 秘めたるもの
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ルミザ達がネブラに来てから4日目の朝。
突然光魔法を使えた2日前から、更に魔力の安定を目指して魔道士達に教えを請うていたルミザ。
あの謎の魔法発動から順調に精進した彼女は、バランスやコントロール力を一定以上身に付け、ついに今日、大賢者に報告する事となった。
「お早うルミザ様、大賢者の所に行くんなら付いて行くけど」
「お早うございます、ロイ、エリウッド、エフラム王子。折角だけれど、魔道士の皆さんがついて来て下さるらしいの。あまり大人数でお邪魔するのも悪い気がするし……」
「そうか、それは残念だ。じゃあ今日も俺達は鍛錬という事で……」
エフラムがそう言い終わらないうちに入口のドアがノックされる。
エリウッドが扉の前に立ち、誰か尋ねようとする前に向こうから名乗った。
「セネリオです。どうやら安定したようですので、魔法を教えに来ました」
「セネリオ様!? わざわざ出向いて下さるなんて」
突然やって来たセネリオを招き入れるルミザ。
光魔法を感じ取り、魔力の操作が安定したのを見計らったそうだ。
何も告げていない筈なのにそんな事が分かるなんて、大賢者の為せる技だろうか。
セネリオはルミザの手を取り、祝詞を告げる。
「あまねく光彩の瀑布よ、この者に降り注ぎて、大いなる叡智を与え賜え」
その瞬間辺りが眩い光に包み込まれ、更なる輝きが流星の如く降り注いだ。
それらは全てルミザとセネリオに集まり、やがてルミザに吸収される。
一瞬だけ苦しくなってぎゅっと目を閉じたルミザだがそれはすぐに終わり、後には体中を温かい物が満たしてホッと息を吐けるような安心感が湧いて来た。
「元々の素質がありましたから、これで光魔法を完全にものに出来た筈。大きな魔法を使うには力不足ですから、まずは簡単な光魔法の呪文や使い方をお教えしましょう」
「はい。セネリオ様、宜しくお願い致します」
どんどん進んで行く魔法修行に、ルミザは心が弾むような思いだ。
思いの外あっさりと光魔法を授けられて少し拍子抜けな側面もあるが。
そんなルミザを見てセネリオは少し冷たげな表情を浮かべる。
嘲っている訳ではなく、どことなく複雑そうな何とも言えない表情だ。
「ルミザ……そんなに、聖神を信じているのですか」
「えっ……。そうですね、私、恥ずかしい事に邪神や聖神の存在は、最近まで夢物語程度にしか認識していませんでした。この旅に出て、虹の巫女様達に出会って、聖神様の事も意識できたんです」
邪神を倒し、世界を守った聖神の話を思うと、自分も彼のように国や民を守りたいと考える。
聖神のような大いなる力があったならと分不相応な願いさえ出るが、手本にする分には構わない筈だ。
セネリオはそんな彼女へ何かを確認するように、抑え目に口を開く。
「聖神と、その娘。あまり文献は残っていませんが、どうも聖神の娘には子供が居たようですよ」
「え? それは初めて聞きました。聖神様の姫に御子が居たなんて……」
「聖神の娘は、その子供を下界へ捨てたそうですが」
唐突に、水流を見送ったような何でも無いような感覚でとんでもない情報が齎された。
セネリオの話によれば、聖神の娘が産んだ子は災いを呼ぶとして天の国からこの地上へ突き落とされたらしい。
その子は死んだのか……聖神の血筋であれば生きていると思われるが、親に捨てられたとあってはショックが大きいだろう。
「天より落つる子……ただ生まれて来ただけだというのに、災いを呼ぶからと捨てられたのです」
「聖神様の姫が、まさかご自分の御子を捨てるだなんて」
「僕が嘘を吐いているとでも言うのですか?」
「い、いえ、決してそんなつもりでは……」
セネリオが嘘を吐いていると思いたくなど無い。
だが、まさか聖神の娘ともあろう人が自らの子を下界に捨てるとは……。
捨てられた子は、この大地で何を思い生きているのだろうか。
ひょっとしたら旅をしていれば、いつか会う事が出来るかもしれないが。
……その瞬間、ルミザの脳裏に何かが浮かんだ。
記憶の水底は鏡のように磨き上げられ、覗き込んでも自分が映るだけ。
手繰る記憶は自分が体験したものばかりの筈なのに、なぜか今、水底に映っているのは自分が知らない筈の記憶。
痛い、苦しい、悲しい。
やめて。
やめて。
やめて。
「ルミザ」
「あ……」
記憶の水底より更に下、溺れそうになっていた所へセネリオが手を差し伸べた。
その顔は先程までの複雑そうな表情ではない、優しげな慈悲に溢れた表情。
やはり親近感がある。
初めに出会った時に感じた事だが、ルミザはセネリオが自分と近しい存在だと思えてならない。
「疲れましたか?」
「あ、いえ、大丈夫です。魔法を教えて下さい」
気を取り直し、本格的に光魔法を教えて貰う事に。
大賢者の出現に驚いたのはルミザばかりではない。
いつも鍛錬している建物へ行くと、周りの魔道士達も驚いて姿勢を正す。
「うわわ、何で大賢者様がここに来てるの!?」
「ちょ、ちょっとユアン、抑えて抑えて!」
ひそひそと話しているつもりらしいユアンとルゥを一瞥もせず、セネリオはさっさと本題に入る。
魔法を使うには、主に呪文を唱える“詠唱法”と、魔印や魔法陣を描く、つまり俗に印を切ると言われる“描仕法”の二つが存在する。
ただ描仕法は印を切ると同時に詠唱せねばならず、詠唱法に慣れなければ行使するのは非常に困難。
それ以前に描仕法は魔力が足りない者が詠唱を補う為にする物で、魔力がある者が使うのは正当ではない魔法を使う時や、あとは魔力の消費を遅らせるという理由しかない。
なので、セネリオ曰くなかなかの魔力を持っているらしいルミザは、必然的に詠唱を学ぶ事に。
消費を後回しにするような誤魔化しより、使う魔力の消費を抑える練習をした方が為になる筈だ。
ルミザが以前に放った光の矢、それを練習する為セネリオが手本になる。
「神の射手よ、審判の矢を放ちて制裁を下し賜え!」
やや早口で素早い詠唱だが、ルミザは確かに、魔力が美しい波紋のようにセネリオの手先へ集中し放出されたのを感じた。
しかも放たれた光の矢は壁に当たる直前で綺麗に掻き消える。
ただ放出するだけではなく、体を離れた魔力でさえも正確にコントロールしたのだ。
速い。呆然と見ていたルミザはセネリオに、やってみて下さいと声を掛けられようやく我に返る。
集中し、同様に手を差し出して詠唱を試みた。
セネリオのように素早く詠唱しても魔力を操作できる自信が無かったので、一言一言、噛み締めるように呪文を唱えた。
「神の射手よ、審判の矢を放ちて制裁を下し賜え!」
唱えつつ、今まで散々練習した魔力の放出の仕方を思い出してやってみる。
するとまるで呪文に乗るように魔力が光の矢の形を取り放出された。
放たれた魔法はセネリオがマジックシールドで受け止めてくれる。
「出来た……! セネリオ様、私、出来ました!」
「あなたには素質がありますからね。ですが、このままでは実戦で使い物になりませんから、もっと素早く出来るよう鍛錬しましょうか」
「はい!」
嬉しい、とにかく嬉しい。
それ以外に言葉が出ない。
ついに魔法が本格的に自分のものになり始めて心が踊る気分になる。
まだ実戦で人を傷付ける覚悟は出来ないが、やはり守られてばかりの自分から脱却できる可能性を得られたのは嬉しかった。
それから更に練習を続けるが、なかなか上手く行ってくれない。
ある程度速く詠唱出来るようになったが、まだまだ実戦で役には立たない。
「なかなか上手くいかないものですね」
「魔法の名前を唱える事が出来ればすぐに魔法が発動するので、詠唱より遥かに早いのですが。相当な魔力の器が必要ですし、発音が難しすぎるので困難でしょうね」
「地道にやるしかない、という事ですか」
「……まぁ、あなたなら不可能ではありませんよ」
何だか意味深だが、やはり真面目に練習して基本を身に付けるべきだろう。
基礎を疎かにしては、いざという時自身に足下を掬われかねない。
途中で休憩したりセネリオや魔道士達から魔力を分けて貰ったりしながら練習を続ける。
目の前に差し出された強さの切っ掛けを、易々と諦める気は無かった。
その頃のエリウッド達は。
ネブラに来てからと同じように三人で手合わせしていたのだが、エフラムの様子が少しおかしいのを気にし、エリウッドが問い掛けていた。
「エフラム、最近なにかを考え込んでないか? 僕達に出来る事があるなら言って欲しいんだ」
「あぁ……。貴国を侵略した我が国……叔父上の事を考えていたんだ。なぜ友好国のラエティアに侵略したのか、ルミザ王女が目的だったらしいが一体彼女に何の用があったのか。何かの手掛かりになるかもと以前の叔父に異変は無かったか思い出そうとしているんだが、なかなか、な」
エフラムは、武人としても王族としても優秀な叔父を尊敬していた。
ひょっとすると父より尊敬していたかもしれないと今となっては思う。
そう言えば、父と叔父は仲が良くなかったのかもしれない、と、以前二人が何かの口論をしているのを見掛けた事のあるエフラムは考えていた。
父への意地か、熱心な聖神の信者である父が主催していた生誕祭や感謝祭に叔父が参加している姿を目にした事が無い。
そんな大陸全土で行われる一般的な恒例行事にまで敵意を引き摺っていたのだろうか。
ルミザの話では巫女は各国に一人ずつ居るらしいので、いずれルネス国にも行かねばならない。
その時に真実を知れるだろうかと、エフラムは一人緊張していた。
1/2ページ