11章 王国の夜明け
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
王都下町の出身であるらしい2人の少年、エディとレオナルドに道案内を任せ、ルミザ達は狭い路地を駆ける。
先程から右に曲がったり左に曲がったり、足元もあまり良くない為に大変なのだが、そのお陰か闇は追って来ない。
「レオナルド、この辺でいいんじゃないか?」
「そうだね。皆さん、一旦隠れましょう」
2人横に並ぶのがやっとな階段を降りると、2m程度の木が立ち並んで垣根を作り出す道に入り込んだ。
両側を囲まれてまた狭い道だが、やがて先に建物の壁に囲まれた狭い空き地が目に入る。
どうやら、全て建物の裏や側面の壁らしいが。
そのうち1つの壁にだけ、明らかに後から付けられた小さなドアがある。
招き入れられると、そこは隠れ家的な小さな家だった。
「ここは一体……?」
「おれとレオナルドの家だよ、ここなら多分見つからないだろ」
話を聞けば、この辺りの建物は殆どが空き家で打ち捨てられており、身よりを失った者や流れ者が住み着いているらしい。
辺りは静まり返っているので闇が追いかけて来ている可能性は低いだろう。
今のうちに今後の作戦を考える事にした。
「とにかく逃げ回るにしても、いずれはバレッダを何とかしなければな」
「あいつねぇ。ルミザを執拗に狙ってたみたいだけど何で?」
「それは多分……私がラエティアの王女だからよ」
ルミザは、王妃が今まで逃げなかった理由と、それがバレッダが自分を狙う理由だと教えた。
それを聞いたエフラムとワユは、まず王妃が橙を司る巫女のマールムであるという事実に驚く。
王妃マールムは、申し訳なさそうに頭を下げた。
「申し訳ありません。聖神のお告げがあったとは言え、私が今まで逃げなかったばかりに、ルミザ様を危険な目に……」
「王妃様っ、そんな勿体無い! 危険は承知で旅に出たのです、どうかお上げになって下さい……!」
巫女である彼女が聖神を信じるのは当たり前の事。
それよりも、聖神のお告げというのが気になる。
ラエティアの第4王女が真に救いを齎す……。
つまり、きっとまだ、自分に出来る事がある筈。
「王妃様、何か私に出来る事は無いでしょうか。お告げがあったのなら、きっと何かが……」
「なぁ、さっきから一体、何の話してるんだよ」
突然、話に割り込んで来る声がした。
見れば、自分達を案内してくれたエディが不思議そうな顔をしている。
レオナルドが、非常に慌てた様子でエディを押しとどめた。
「エディなに割り込んでるんだよ! ごめんなさい、僕達の事はお気になさらなくて結構ですから」
「……おや」
エルフィンが、エディの前に立ちはだかったレオナルドの顔を見つめた。
ようやく彼をマトモに見たらしく、まじまじと見つめて口を開く。
後ろで一つに編まれた金の長髪がエルフィンの柔和な顔に浮かぶ皺を目立たなくさせているが、怪訝な表情は隠せない。
「あなたは……。レオナルドといいましたか、どこかでお会いしたような覚えがあるのですが」
「……いえ、多分、人違いだと思います」
「……そうですか」
それ以上は追求せず、エルフィンは話を中断してすみませんと終わらせる。
気を取り直し、王妃が心当たりを思い出そうと考え始めた。
「邪神の闇には光が有効なのですが…。生憎と、光魔法を扱える者が居りませんから」
「ねぇ王妃様、大賢者様なら光魔法を教えて下さるんじゃないですか?」
王妃の隣に座るララムが明るく言い放つ。
王妃の話によると、大陸の南にあるリデーレ王国の北方に広がるワスティという名の砂漠に、賢者や魔道士の住む里があるらしい。
そこの大賢者ならば、光魔法を教えてくれるという話だが…エフラムが首を振って否定した。
「今の俺達にそんな暇などないだろう、まさかここを放っておく訳にもいかない」
「えぇーっ、いい考えだと思ったんだけど!」
「ララムさん、この件が解決したら、そこへ行ってみますから」
ルミザがララムを宥めるように言い、絶対ですよと彼女が返す。
さて、ではどうやってバレッダを倒すべきか。
あの闇を何とかしなければ、バレッダに傷を負わせる事さえ難しそうだ。
そこで、ふとエルフィンが何かを思いつく。
「母上、バレッダの闇は魔法なのですか?」
「ええ。あの闇魔法に対抗するには、光魔法が……」
「光魔法が無くとも、あの闇を何とかする事ならば可能です」
その提案に、誰もが身を乗り出してエルフィンの言葉の続きを待った。
エルフィンは、必要な物がありますと前置きをしてから言葉を紡ぐ。
「サイレスの杖があれば、闇魔法も封じる事が可能でしょう」
「サイレスの杖?」
「え?」
サイレスの杖、の言葉に真っ先に反応したのは、何故かレオナルド。
エルフィンに注目していたルミザ達は、たちまちレオナルドに注目する。
レオナルドはすぐにハッとして口を押さえ、軽く頭を下げてしまった。
どうやら、何があったか答える気は無いらしい。
エディが、何だよレオナルド! と説明を求めるが、それでも彼は黙る。
気を取り直しサイレスの杖を使う方法を検討するものの、肝心の杖が無い。
「それじゃあどうしようもないじゃないの。ルミザが杖を使えるから、杖さえあれば何とかなると思ったのに!」
「そうね、何か他の方法を考えましょう。やはりバレッダの闇魔法を封じなければ話にならないのかしら」
「……あの」
また別の方法を考え始めたルミザ達に、レオナルドが声を掛けた。
今度は何かとそちらを向くと、少し待っていて下さいと2階へ行く。
少しして戻って来た彼の手には、一本の杖が。
「レオナルド君……? まさか、その杖は……」
「……サイレス、という名前の杖みたいです」
「何だと!?」
エフラムの怒鳴り声に驚いたのか、レオナルドがビクリと体を震わせる。
レオナルドに乱暴するなと怒鳴り返すエディへ代わりに謝り、ルミザはレオナルドに説明を求めた。
その杖はレオナルドの母が死ぬ数日前に、とても偉い賢者様から授けられた杖だから、その日が来るまで大事に持っていなさいと言って渡した物らしい。
その日とは何の事か分からないが、それについて彼の母は何も言わなかったそうだ。
だから僕が判断します、どうか使って下さいと彼は言う。
ルミザはレオナルドの申し出に、正直迷った。
魔杖は使いすぎると壊れる事がよくある。
もし、彼の母の形見である杖を自分が使い、壊してしまったら……。
だがレオナルドは、使って下さいと譲らない。
エディもそんなレオナルドを後押しする。
「あのさ、レオナルドが使ってくれって言ってるんだから、気にすんなよ。と言うか、コイツがこんな積極的に首突っ込むって珍しいしな」
「……エディ、それって何のつもりで言ってる?」
「前向きに首突っ込むレオナルドとか珍しいなーって、褒めてる」
それは果たして、褒めているのだろうか……。
とにかく、本当に良いのであれば遠慮などしている場合ではないだろう。
ルミザ達は、再びバレッダに挑戦する事にした。
エディとレオナルドも案内を続けてくれる事になり、お言葉に甘える。
王妃とララムはレオナルド達の家に隠れて貰い、ルミザ達はバレッダを目指して下町を駆ける。
きっとまだ、闘技場に居る筈……と考えていたが。
「ルミザ様、あれはバレッダでは!?」
エルフィンの言葉に前方を見ると、確かにバレッダが立っていた。
慌てて立ち止まりサイレスの杖を構えるルミザ。
だが、杖が発動するよりも早く、バレッダの体を纏う闇が幾つもの筋になり、襲い掛かった。
エフラムが手槍をバレッダ目掛けて投げると、奴は足元に刺さった槍に気を取られて隙が出来る。
ひとまず体制を立て直す為に下町を出る事にした。
「って、大通りに出ちゃっても大丈夫なの!?」
「この状況では仕方ありません、民たちが逃げている事を祈りましょう」
周りの住民達に被害が行かないか心配するワユの言い分は尤もだ。
応えるエルフィンも、どことなく不安そう。
またレオナルドとエディに案内して貰い大通りに出ると、いつも大勢で賑わうそこは人通りもまばらになっていた。
ルミザを庇うように陣を組み、襲い来るバレッダの闇を迎撃する。
「ルミザ王女、早くサイレスの杖を!」
「はい!」
闇の筋より遅れて大通りへ出たバレッダに、ルミザはサイレスの杖を構えて祈り始める。
杖の装飾が光を集めて行き、やがて掲げられた杖はバレッダを包み込む魔封じの陣を放った。
バレッダが喉を押さえて前かがみになり、襲い来る闇の筋が消え去ると、奴を包んでいた闇さえも全てが消えてしまう。
「やりっ! 大成功じゃないルミザ!?」
「ええ、奴は魔法を封じられたようです。さぁ、魔封じが解ける前に……!」
魔封じが解ける前にバレッダを捕らえなければ。
ルミザ達は、しゃがみ込んだまま悔しそうに睨むバレッダへ近付く。
ワユが素早く剣を取り上げて、ルミザは丸腰になったバレッダへ告げた。
「……もうよしましょう。このままでは、あなたの命を奪う事になりかねません。あなたには裁きを受ける義務と権利があります」
バレッダも抵抗を続けて殺されるより、正当に国の裁きを受ける方がいいだろう。
ルミザはそう判断し、一歩を踏み出してバレッダに寄りつつ告げた。
だが奴はルミザを睨み付け、苦しそうに何かを言おうとしている。
「………」
「え?」
「ルミザ王女、バレッダの奴はサイレスの杖で口が利けない。早いところ軍に引き渡そう」
エフラムの言う通り、ぐずぐずしていると魔封じの効果が切れかねない。
そうね、と応え、バレッダを見ながら1歩後ろに下がろうとした瞬間。
バレッダが突然、懐から素早く短剣を取り出した。
それが何かを確認する間も無く、奴はルミザへと襲い掛かる。
「ルミザ姫っ!!」
突然、聞き慣れているが随分と久し振りに感じる声に名を呼ばれた。
ハッと気付けば、バレッダの体を手槍が貫いていて、奴は呻きつつ倒れる。
奴の背後から貫かれているのを見ると、誰かが向こうから手槍を放ったらしいが……。
ルミザ達が一斉にそちらへ目を向ける。
誰あれ? と疑問符を浮かべるワユの隣で、ルミザは驚きに目を見開いていた。
白馬に跨り、手槍を放ったままの姿勢で静止している赤髪の青年。
その後ろには、青年と良く似た顔の少年が相乗りしていた。
「ルミザ様っ、怪我は無いか!?」
そう、紛う事は無い。
彼らは間違い無く、よく知る幼なじみの親友。
「エリウッド、ロイ!」
たった5日前に別れたばかりなのに、とても懐かしく思える2人。
すぐに駆け寄り、馬を降りた彼らは心底嬉しそうにルミザへ寄り添う。
「姫……! ご無事で何よりです、僕の為に、申し訳ありませんでした」
「いいの、いいのよエリウッド。私、また無事に会えただけで嬉しい……」
「オレも、折角ルミザ様に会えたのに、また離れちゃって悔しかったんだぜ!」
「ロイも会えて嬉しいわ。無事で良かった……!」
再会を喜び合う3人。
やがてエリウッド達の背後から、新たに3人の人物が現れる。
それはカネレ王国で世話になった赤髪の傭兵レイヴァンと、彼を捜していたプリシラ・ルセア。
話を聞けば、ルミザを捜して旅立ったエリウッド達を追い、共に彼女を捜していたらしい。
レイヴァンが妹や家臣と再会できた事を喜ぶルミザだが、心配事が。
「レイヴァンさん、……あの、ウィリデさんはどうなさいましたか?」
「すまない、奴には逃げられたんだ。あの執着っぷりだと、また何かを企んで仕掛ける可能性がある」
またいつか、彼女と対峙しなければならない日が来るのだろうか……。
不安げな顔をするルミザの前にプリシラが進み出て一礼をし、次いで彼女の背後のエフラム達に視線を向けた。
瞬間、エルフィンを見つけて驚き、頭を下げる。
1/2ページ