俺の嫁がラスボスなんだが
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主人公設定:-----
その他設定:前半ギャグ後半シリアス、少しだけ下ネタ注意。
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勇者の印を持って産まれて来たジュストは、当たり前のように勇者として育てられ、当たり前のように魔王退治の旅に出ました。
戦士? 魔法使い? 僧侶? いいえ居ません、一人です。
しかし気にしない。かの有名な竜クエストだって初代は一人旅なんだから。
各地でそれっぽい敵を倒しそれっぽい秘宝を集め、ジュストは魔王城へ辿り着くと難なく門番を倒し、城へ侵入……と言うか勢い的には突入します。
それを最上階の玉座の間から、それっぽい水晶を通して監視する魔王。
魔王の名はディアナ。
「フフフ……勇者め、ジュストとか言ったか。我が城まで来れた事は褒めてやるが、貴様の快進撃もここまでよ。精鋭たる我が配下の前に敗れ去るがいい!」
ぶっちゃけ旅路で始末する筈だったジュストに根城まで攻め込まれているのだから余裕ぶっこいている場合ではないのですが、ラスボスという存在は得てしてこんなものです。
それにディアナの言葉は完全な強がりでもなく、根城だからこそ強力な配下を連ねているのは確かな事。
その精鋭をジュストの旅路に差し向ければ良かったんじゃないか、というのは言わないお約束です。
一方魔王城を突き進むジュストは、謎解きがてらにザコ戦や中ボス戦で着実にレベルを上げ、魔王との戦いに備えていました。
何だかんだで今までの旅路は楽なものではなかったのですから、魔族を束ねる魔王との戦いには備え過ぎという事も無いでしょう。
彼の願いは世界平和。
世界を平和にした上で……。
「さっさと帰って寝てぇ……」
……のんびり暮らす事でした。
別にジュストは世界を守るだとかいう絶対的な使命感は持っていません。
彼はただ、故郷の家族や村人達を助けたいだけ。
そのついでに世界を守るだけなのです。
「しかし魔王……ディアナとか言ったか、どんなバケモンなんだろうな。ブッ飛ばし甲斐のあるヤツにして欲しいぜ、ここまで苦労して旅して来たんだ」
ずんずんと突き進み、遂に玉座の間へ辿り着いたジュストは何の躊躇いも見せずに勢い良く扉を開きます。
「魔王ッ! とっととテメェを倒し帰って寝るぜ!」
「遂にここまで来てしまったかジュストよ、憐れな。道中で死んでいれば、最上の恐怖を味わう事も無かっただろうになあ……」
その涼やかな美しい声に、化け物を想像していたジュストは息を飲みます。
玉座から立ち上がって歩を進めたディアナを、巨大な窓から取り入れられた月明かりが照らしました。
浮かび上がる魔族の王、ディアナの容姿。
その妖艶な美しさを確認した瞬間、まるで時間が静止したかのようにジュストの動きが止まりました。
何も言えなくなったジュストを、ディアナは美しい顔を妖しく歪めながら嘲笑います。
「ククッ……恐ろしさのあまり声も出せなくなったか。憐れだ、実に憐れだ。弱く卑小な人間よ、私に楯突いた事を後悔しながら死んで行くがよい!」
巨大な鎌を振り上げたディアナは、固まったまま動かないジュストへ勢いをつけて飛び掛かります。
瞬時に我に返ったジュストは飛び退いて避け、すぐにディアナが放った魔法を避けると間髪を入れず一気に間合いを詰めました。
予想外の勢いに一瞬だけ怯んだディアナ。
飛び退く間を与えずにその腕を掴んだジュストは、ディアナが振り払おうとする前に口を開くと。
「好みだ……」
「は?」
至極真面目な顔で、決戦の場に相応しくない言葉を放ったのでした。
今度はディアナが、まるで時間が静止したかのように動かなくなります。
油断させる為の言葉かと思いきや、ジュストはディアナが呆然と動かなくなってからも攻撃はしません。
「何だクッソ、おいフザケんな! 普通ラスボスはバケモンだろうが、こんな美人だとか聞いてねぇぞ!」
「は、な、貴様、気でも違ったか! 宿敵との戦いの場で何を考えている!」
「しかも微妙に服の露出度が高い! テメェ思春期ナメてんじゃねぇぞ、犯されてぇのかビッチが!」
「ひっ……! こ、この下半身脳の猿め! というか貴様本当に勇者か!? 取り敢えずその汚らわしい手を私から離せ!」
「誰がこんな美人逃がすかぁあぁあぁ!!」
ジュストはディアナが隙だらけな事にようやく気付き、魔王の魔力を奪い取る宝玉を押し付けました。
ハッとした時には遅く、魔力を奪い取られたディアナは己の肉体能力のみで勝負しなければならなくなります。
……で、片腕を掴まれている現状、逃げる術の無いディアナはアッサリジュストに引き寄せられ、思い切り抱き締められてしまいました。
「と言う訳で、ひとまず城まで連行させて貰う」
「ふざけるなあぁっ! 離せ、殺されてたまるか!」
「死なせる訳ねぇだろ勿体無い。気絶でもしてろ」
ジュストはディアナの鳩尾を殴り付け、気絶させてしまいます。
そして万一魔王城が崩された時などに面倒な脱出イベントが起きないよう持たされていた、ワープ用アイテムを使い王城へ一瞬で戻りました。
人間の王城へ連れて来られてしまったディアナ。
王の前、周りには沢山の兵士、隣にはジュストが居る状態で縛られ膝をついているディアナは、屈辱のあまり体が沸騰しそうでした。
「貴様ら、どうせ私を捕らえて乱暴する気なんだろ! エロ同人みたいに、エロ同人みたいに!」
「そうですが何か?」
「おのれぇぇぇ!!」
反抗的なヤツを調教して行くのは堪らんのぅ、と王が下卑た笑いを浮かべた辺りで、それまで黙っていたジュストが急に魔法を発動させ、爆音を辺りに響かせました。
突然の事に驚き静まり返ったのを確認すると、ジュストは何事も無かったかのように王へ話し掛けます。
「おい、魔王を倒したら褒美を貰えるって話だったな?」
「もちろん与えよう。何が欲しい、金銀財宝にキャワユイ女の子付きの別荘など思うがままじゃぞ! あ、国とかワシの命に関わりそうなのは無しで」
「いらねぇよンなもん。あぁ、金は欲しいな。このビッチは高くつきそうだ」
「……ん?」
「魔王を貰う、っつってんだよ。金も副賞って事でそれなりに戴くぜ」
勇者ジュストの主張に、王も周りの兵士達も呆気に取られてしまいました。
中には女魔王調教の夢を奪われ露骨にガッカリしている者まで居るようです。
ちなみに王も露骨にガッカリしていました。
「考え直してくれんかのうジュストよ。ワシ魔王が美人で、しかも生け捕りに成功したと聞いて楽しみにしておったんじゃー」
「ジジイが発情してんじゃねぇよ、年齢考えろ」
「まだまだ現役じゃ、しかもそこまで歳ではない!」
「とにかく俺はもう決めたんだ。ディアナは戴いて行くぜ、文句は言わせねぇ」
「うおぉ……【快楽に墜ちた女魔王~調教の果てに】の夢が潰えてしもうた!」
「……何だそのよくあるAVとかエロゲっぽい文章は」
「撮影して売り出そうかと」
「死ね」
最後の言葉はディアナです。
言った瞬間、王や周りの兵士達から睨まれてしまいますが、こんな色ボケジジイどもを見ていると馬鹿馬鹿しい気しかしません。
「(私はこんな世界を支配しようとしていたのか……。正直いらんわ)」
今更です。
報酬のお金は後日に相談となったようで、ジュストは王から馬車を貰い受けるとひとまずディアナを連れて故郷に帰りました。
途中の町で普通の服を買って着せ、村へ辿り着くとディアナの縄をほどきます。
魔力を奪われているディアナは手を握られるとしぶしぶ従い、ジュストの後を付いて行きます。
そんな二人に村人達が駆け寄り、大歓迎を受けました。
「お帰りジュスト、よく無事に帰ってくれたねぇ!」
「さあさあ、早くお袋さんに元気な顔を見せてやんな!」
さして住人の多くない村、100人も居ない村人達はあっと言う間に集まります。
そうなると当然、ディアナの話題も出る訳で。
「ところでジュスト、その別嬪さんは誰だい?」
「あぁ、俺の嫁だ。可愛いだろ」
「……はあぁ!?」
嫁だとか可愛いだとか、恋愛的な意味で初めて言われたディアナは頭が付いて行きません。
配下の魔物達はディアナの機嫌を取ろうと口々に誉めたりはしていましたが、こんな風に対等な目線で言われた事は無いのです。
そうか、立派な嫁さん見付けて来たなあと村人達が益々盛り上がり、収拾がつかなくなりそうな雰囲気。
そこは道具屋の老婆が、ジュストも疲れているのだからと場を納め、早く家へ戻るよう促してくれました。
村人達の喧騒を抜け、二人きりでジュストの家を目指します。
「やっぱ村はまだ寒いな、雪の季節じゃないだけマシだが。おい、寒くないかディアナ」
「……は、っ、なに」
「ボケッとしてんな、寒くないかって訊いてんだ。……冷たいじゃねぇか、これでも着てろ」
上着を脱ぎ、ディアナにかけてやるジュスト。
こんな事も男にされた覚えの無いディアナは、心臓がうるさい程に高鳴り顔も熱くなって頭が混乱しそうでした。
もちろんディアナの機嫌を取ろうと気を使う部下なら幾らでも居たのです。
しかし、こんなぶっきらぼうで偉そうな、対等な態度を味わうのは初めてな上、ご機嫌取りとは違う気遣いは胸が暖かくなります。
「……何を企んでいる」
「あ?」
「先程から胸が苦しいのだ、体も熱いのだ! よもや何かの攻撃を仕掛けた訳ではあるまいな貴様!」
あまりに頓珍漢なディアナの言葉に、ジュストは思わず吹き出し笑ってしまいました。
何がおかしい! とムキになるディアナの肩を叩いて落ち着かせたジュストは、目線を真っ直ぐに合わせると挑戦的に口角を上げ。
「ディアナ、俺はテメェを必ず恋に落としてやるぜ」
「……、……は!?」
「もう片足ぐらい突っ込んでそうだがな。我慢できなくてそっちから俺を求めるようにしてやる」
「……!!」
ニヤリと笑んだ自信満々の言葉に、遂に頭がくらくらして来たディアナ。
本当にそうなりそうなのが悔しいやら嬉しいやら。
ジュストは再びディアナの手を取ると歩き始め、やがて家に帰りつきました。
扉を開けると中には少しやつれた女性が居て、ジュストを確認するなり駆け寄って抱き付きます。
「ジュスト! あぁ、お帰りなさいジュスト! あなたが無事で本当に良かった……!」
「……ただいま、お袋。少し痩せたな、ちゃんと食わねぇとぶっ倒れるぞ」
「食べる、食べるわよ! 今日はご馳走を作らなきゃ、張り切るから期待しててね!」
「ああ」
母に手を取られ、ジュストは再会を噛み締めます。
やがてジュストの母が入り口に突っ立っているディアナを見付けました。
彼女は、と訊き、嫁だと事も無げに言ったジュストを少し呆然と見て、やがて満面の笑みになります。
「まあ、まあまあまあ! こんなに美人なお嬢さんを!」
「(お、お嬢さん……正直、見た目と違ってそんな年齢ではないのだが)」
「お名前は? ジュストとはどこで知り合ったの? この子ったらモテるのに誰とも真剣に付き合わないから心配してたのよ!」
「え、あ、う……」
「お袋、そいつ殆ど人と接した事の無いヤツなんだ。あんまり詰め寄んな」
「あら、そうだったの。ごめんなさいね、長旅で疲れたでしょうし、ゆっくり休んでちょうだい」
返事も名乗りも出来ないディアナに気を悪くした様子も無い母親は、ジュストに言ってディアナを部屋へ案内させます。
辿り着いた部屋は、世界を救った勇者には余りに似つかわしくない平凡なもの。
ジュストが荷物を片付けている間、ディアナは部屋を見回ったり窓から村の景色を眺めたりしました。
静かで、長閑な村。ディアナが生まれ育ったのは魔界の片隅、ここと似たような田舎です。
前代の魔王が気紛れに手を出し、孕んだまま捨て置かれたのがディアナの母。
彼女は前代魔王から逃れるように田舎へ移り、ディアナを出産しました。
そんな生まれなど知る由の無いディアナは母と平凡に暮らし、そして……数年後、前代魔王の側近に見付かります。
もう数百年は前、前代魔王が勇者に敗れ、血を引いた者達も同様になりました。
反撃の手懸かりを探し一時的に大人しくなった魔族は、前代魔王の血が残っている事を知ったのです。
前代魔王直属の配下の者達はディアナを新たな魔王に仕立て上げようとし、渡すまいと抵抗した母親は……。
「おいディアナ、起きろ」
「っ!?」
「飯できたってよ。食うか?」
いつの間に眠っていたのか、ディアナはベッドで寝こけていました。
目の前には普段着のジュストが居て、妙に照れてしまったディアナは慌てて起き上がります。
「貴様が私を?」
「述語を言え述語を」
「……すまん」
ベッドに寝かせてくれたのか訊きたかったディアナですが、恐らく彼でしょう。
その事に対する礼か、ちゃんと話さなかった事への謝罪か曖昧になるよう返答し、ディアナはそれ以上何も言いませんでした。
連れられて席に着いた食卓は、少し手の込んだ田舎料理のオンパレード。
ジュストは久々の慣れた食事とばかりに次々と食べて行きます。
ディアナも手を付けてみると、それはどこかで食べた事のあるような味。
初めて食べる筈なのに、まるで……今は亡き母が作ってくれた味に似ていて。
「ディアナちゃん、お口に合うかしら?」
「っ、え」
「あぁ、名前はジュストから聞いたのよ。ディアナちゃん綺麗で良い所のお嬢様っぽいから、田舎料理でちょっと恥ずかしいわ」
「い、いや、美味い。その、……母が昔、作ってくれた味に似ている」
その言葉を聞いたジュストの母は喜びましたが、ジュストはまるで珍獣でも見たかのような表情。
少々ムッとしたものの、世界を支配せんとした魔族の王がそんな事を言うなど、想像できないのも無理からぬ事でしょう。
「ジュストから聞いたの、もうあなたにはご家族も故郷も無いって。私を母だと思って、この村を故郷だと思って良いんだからね」
「っ……!」
それを聞いたディアナの目から、涙が零れました。
故郷に似ていると思った村を、懐かしい味の料理を作る暖かい女性を、拠り所にしても良いだなんて。
涙を流し始めたディアナを見てジュストは驚き、代わりに母親がディアナを抱き締めて慰め、これは旦那さんの仕事よ、とジュストをたしなめたり。
食事の後 部屋に戻りながら、ジュストがディアナの方を見ずに話し掛けて来ました。
「母親、居たんだな。故郷もあったのか」
「居るしあるに決まってるだろう。貴様は私を何だと思ってるんだ。もう、どっちも無くなったが」
「魔族は人間と違うと思ってたんだよ。……悪かったな、適当に家族や故郷が無くなったなんてお袋に説明したが、まさか本当とは」
「……いい、別に。本当の事だ」
その言葉が寂しげで、俯けて見えない顔が心配で。
ジュストはただ、容姿だけ見てディアナを連れ去るような真似をしましたが、何だかディアナの事を知りたくて堪らなくなりました。
なぜディアナが魔王の地位になど就いていたのか、ひょっとしたら不本意なものだったのではないかと、想像は止まりません。
しかし、部屋に着く頃にはすっかり落ち着きました。
言えずに悶々とするなど全く自分らしくない、気になるなら訊けばいいのですから。
「ディアナ、テメェの事を色々と教えてくれ」
「……なに?」
「見てくれだけ惚れ込んで連れて来ちまったが、段々と本気になって来たぜ。知りたい事があるなら俺も教える。長い付き合いになりそうなんだ、お互いを知るのは悪くねぇだろ」
「…………」
この男は何故、こんな事を恥ずかしげも無く言えるのか。
今まで忘れていた、辛すぎて無理やり記憶の底に押し込んでいた優しい懐かしさに連続で触れたディアナは、すっかり大人しくなってしまいました。
魔王としての矜持はどうしたとか、失った配下の仇討ちもしないのかとか、責められる要素は幾らもあります。
しかし余りに懐かしく、そして心の片隅でずっと欲しがっていた暖かな優しさは、ディアナを“腑抜け”にするには充分だったのです。
腑抜け……それでも構わないのではないかと、ディアナは思うようになりました。
万が一、ジュストや周りの者達に何かあった時のための強さを保っていれば、後の日常生活では腑抜けてしまっても大丈夫だと。
……それを、許して欲しいと、そう思うようになりました。
「……おい、ジュスト」
「ん?」
「テストしてやろう、与えられる機会に感謝するがいい」
「はぁ? 何を言い出す」
「貴様が、っ、この私の夫たり得る人物か見極めてやろうと言っているのだ! せいぜい気張って、私に認められるよう努力するのだな!」
「馬鹿だろテメェ」
「貴様ァァァ!?」
ひょんな事から始まった、どこか悪どさのある勇者と悲しい過去を持つ傲慢魔王の共同生活。
平和の訪れた世界の片隅に蒔かれた、小さな種が芽吹いたようです。
-END-
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