俺の嫁がラスボスなんだが
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勇者の印を持って産まれて来たジュストは、当たり前のように勇者として育てられ、当たり前のように魔王退治の旅に出ました。
戦士? 魔法使い? 僧侶? いいえ居ません、一人です。
しかし気にしない。かの有名な竜クエストだって初代は一人旅なんだから。
各地でそれっぽい敵を倒しそれっぽい秘宝を集め、ジュストは魔王城へ辿り着くと難なく門番を倒し、城へ侵入……と言うか勢い的には突入します。
それを最上階の玉座の間から、それっぽい水晶を通して監視する魔王。
魔王の名はディアナ。
「フフフ……勇者め、ジュストとか言ったか。我が城まで来れた事は褒めてやるが、貴様の快進撃もここまでよ。精鋭たる我が配下の前に敗れ去るがいい!」
ぶっちゃけ旅路で始末する筈だったジュストに根城まで攻め込まれているのだから余裕ぶっこいている場合ではないのですが、ラスボスという存在は得てしてこんなものです。
それにディアナの言葉は完全な強がりでもなく、根城だからこそ強力な配下を連ねているのは確かな事。
その精鋭をジュストの旅路に差し向ければ良かったんじゃないか、というのは言わないお約束です。
一方魔王城を突き進むジュストは、謎解きがてらにザコ戦や中ボス戦で着実にレベルを上げ、魔王との戦いに備えていました。
何だかんだで今までの旅路は楽なものではなかったのですから、魔族を束ねる魔王との戦いには備え過ぎという事も無いでしょう。
彼の願いは世界平和。
世界を平和にした上で……。
「さっさと帰って寝てぇ……」
……のんびり暮らす事でした。
別にジュストは世界を守るだとかいう絶対的な使命感は持っていません。
彼はただ、故郷の家族や村人達を助けたいだけ。
そのついでに世界を守るだけなのです。
「しかし魔王……ディアナとか言ったか、どんなバケモンなんだろうな。ブッ飛ばし甲斐のあるヤツにして欲しいぜ、ここまで苦労して旅して来たんだ」
ずんずんと突き進み、遂に玉座の間へ辿り着いたジュストは何の躊躇いも見せずに勢い良く扉を開きます。
「魔王ッ! とっととテメェを倒し帰って寝るぜ!」
「遂にここまで来てしまったかジュストよ、憐れな。道中で死んでいれば、最上の恐怖を味わう事も無かっただろうになあ……」
その涼やかな美しい声に、化け物を想像していたジュストは息を飲みます。
玉座から立ち上がって歩を進めたディアナを、巨大な窓から取り入れられた月明かりが照らしました。
浮かび上がる魔族の王、ディアナの容姿。
その妖艶な美しさを確認した瞬間、まるで時間が静止したかのようにジュストの動きが止まりました。
何も言えなくなったジュストを、ディアナは美しい顔を妖しく歪めながら嘲笑います。
「ククッ……恐ろしさのあまり声も出せなくなったか。憐れだ、実に憐れだ。弱く卑小な人間よ、私に楯突いた事を後悔しながら死んで行くがよい!」
巨大な鎌を振り上げたディアナは、固まったまま動かないジュストへ勢いをつけて飛び掛かります。
瞬時に我に返ったジュストは飛び退いて避け、すぐにディアナが放った魔法を避けると間髪を入れず一気に間合いを詰めました。
予想外の勢いに一瞬だけ怯んだディアナ。
飛び退く間を与えずにその腕を掴んだジュストは、ディアナが振り払おうとする前に口を開くと。
「好みだ……」
「は?」
至極真面目な顔で、決戦の場に相応しくない言葉を放ったのでした。
今度はディアナが、まるで時間が静止したかのように動かなくなります。
油断させる為の言葉かと思いきや、ジュストはディアナが呆然と動かなくなってからも攻撃はしません。
「何だクッソ、おいフザケんな! 普通ラスボスはバケモンだろうが、こんな美人だとか聞いてねぇぞ!」
「は、な、貴様、気でも違ったか! 宿敵との戦いの場で何を考えている!」
「しかも微妙に服の露出度が高い! テメェ思春期ナメてんじゃねぇぞ、犯されてぇのかビッチが!」
「ひっ……! こ、この下半身脳の猿め! というか貴様本当に勇者か!? 取り敢えずその汚らわしい手を私から離せ!」
「誰がこんな美人逃がすかぁあぁあぁ!!」
ジュストはディアナが隙だらけな事にようやく気付き、魔王の魔力を奪い取る宝玉を押し付けました。
ハッとした時には遅く、魔力を奪い取られたディアナは己の肉体能力のみで勝負しなければならなくなります。
……で、片腕を掴まれている現状、逃げる術の無いディアナはアッサリジュストに引き寄せられ、思い切り抱き締められてしまいました。
「と言う訳で、ひとまず城まで連行させて貰う」
「ふざけるなあぁっ! 離せ、殺されてたまるか!」
「死なせる訳ねぇだろ勿体無い。気絶でもしてろ」
ジュストはディアナの鳩尾を殴り付け、気絶させてしまいます。
そして万一魔王城が崩された時などに面倒な脱出イベントが起きないよう持たされていた、ワープ用アイテムを使い王城へ一瞬で戻りました。
人間の王城へ連れて来られてしまったディアナ。
王の前、周りには沢山の兵士、隣にはジュストが居る状態で縛られ膝をついているディアナは、屈辱のあまり体が沸騰しそうでした。
「貴様ら、どうせ私を捕らえて乱暴する気なんだろ! エロ同人みたいに、エロ同人みたいに!」
「そうですが何か?」
「おのれぇぇぇ!!」
反抗的なヤツを調教して行くのは堪らんのぅ、と王が下卑た笑いを浮かべた辺りで、それまで黙っていたジュストが急に魔法を発動させ、爆音を辺りに響かせました。
突然の事に驚き静まり返ったのを確認すると、ジュストは何事も無かったかのように王へ話し掛けます。
「おい、魔王を倒したら褒美を貰えるって話だったな?」
「もちろん与えよう。何が欲しい、金銀財宝にキャワユイ女の子付きの別荘など思うがままじゃぞ! あ、国とかワシの命に関わりそうなのは無しで」
「いらねぇよンなもん。あぁ、金は欲しいな。このビッチは高くつきそうだ」
「……ん?」
「魔王を貰う、っつってんだよ。金も副賞って事でそれなりに戴くぜ」
勇者ジュストの主張に、王も周りの兵士達も呆気に取られてしまいました。
中には女魔王調教の夢を奪われ露骨にガッカリしている者まで居るようです。
ちなみに王も露骨にガッカリしていました。
「考え直してくれんかのうジュストよ。ワシ魔王が美人で、しかも生け捕りに成功したと聞いて楽しみにしておったんじゃー」
「ジジイが発情してんじゃねぇよ、年齢考えろ」
「まだまだ現役じゃ、しかもそこまで歳ではない!」
「とにかく俺はもう決めたんだ。ディアナは戴いて行くぜ、文句は言わせねぇ」
「うおぉ……【快楽に墜ちた女魔王~調教の果てに】の夢が潰えてしもうた!」
「……何だそのよくあるAVとかエロゲっぽい文章は」
「撮影して売り出そうかと」
「死ね」
最後の言葉はディアナです。
言った瞬間、王や周りの兵士達から睨まれてしまいますが、こんな色ボケジジイどもを見ていると馬鹿馬鹿しい気しかしません。
「(私はこんな世界を支配しようとしていたのか……。正直いらんわ)」
今更です。
報酬のお金は後日に相談となったようで、ジュストは王から馬車を貰い受けるとひとまずディアナを連れて故郷に帰りました。
途中の町で普通の服を買って着せ、村へ辿り着くとディアナの縄をほどきます。
魔力を奪われているディアナは手を握られるとしぶしぶ従い、ジュストの後を付いて行きます。
そんな二人に村人達が駆け寄り、大歓迎を受けました。
「お帰りジュスト、よく無事に帰ってくれたねぇ!」
「さあさあ、早くお袋さんに元気な顔を見せてやんな!」
さして住人の多くない村、100人も居ない村人達はあっと言う間に集まります。
そうなると当然、ディアナの話題も出る訳で。
「ところでジュスト、その別嬪さんは誰だい?」
「あぁ、俺の嫁だ。可愛いだろ」
「……はあぁ!?」
嫁だとか可愛いだとか、恋愛的な意味で初めて言われたディアナは頭が付いて行きません。
配下の魔物達はディアナの機嫌を取ろうと口々に誉めたりはしていましたが、こんな風に対等な目線で言われた事は無いのです。
そうか、立派な嫁さん見付けて来たなあと村人達が益々盛り上がり、収拾がつかなくなりそうな雰囲気。
そこは道具屋の老婆が、ジュストも疲れているのだからと場を納め、早く家へ戻るよう促してくれました。
村人達の喧騒を抜け、二人きりでジュストの家を目指します。
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