竜の石
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
フレリア王国。
ルネス王女エイリークは兄エフラムの救出に成功し、フレリア王子ヒーニアスも帰って来た。
そして、
エイリークはロストン、
ヒーニアスはジャハナ、
エフラムはグラド。
それぞれの道へ進む準備をしていた。
++++++
「姉様」
妹のミルラが話し掛けて来てエルゥは目を向けた。
彼女はどこか心配そうで不安そうで、きっとあの話題だろうと分かったが、一応尋ねてみる。
「ミルラ、どうしたの?」
「姉様は、本当に闇の樹海に帰られるのですか?」
かつて魔王を封じた魔殿がある闇の樹海。
そこはエルゥとミルラの故郷でもある。
各地に魔物が出没しているという事実。
闇の樹海も魔物だらけになっているかもしれない。
父1人に大変な思いはさせられないと、帰るつもりのエルゥ。
「大丈夫……おとうさんは、強いです」
「だとしても大変なのは変わらないでしょ?」
「はい。でも……姉様は、それでいいのですか?」
一体ミルラが何を言いたいのか、エルゥは少しも分からず首を傾げる。
ミルラは一呼吸置いてから、少し嬉しそうに告げた。
「姉様は、エフラムと一緒に居たいんじゃありませんか?」
「ミ……ミルラ!」
エフラム王子。
さ迷っていた自分達姉妹を助けてくれた人。
ミルラはエルゥの態度から、きっとエフラムの事が好きだと感じ取っていた。
ズバリ言い当てられるとは思わず、言い淀むエルゥ。
姉様がエフラムと結婚したら、エフラムは私のおにいちゃんですね……なんて言うミルラに、エルゥは返答に困ってただ苦笑していた。
まさか、義妹にバレていたとは……他の仲間達にバレていなければいいが。
「おとうさんが心配なら、私が樹海に帰ります」
「ミルラは竜石を探さないといけないでしょ。樹海には私が帰るから」
でも、と引き止めるミルラを宥めて、エルゥは彼女と別れた。
フレリアの城は広い。
エルゥは迷いそうになりながら、なんとか中庭に出る。
頭を冷やしたかった。
ミルラの言う通りエルゥはエフラムの事が好きだが、相手は王子。
言う事が出来ず、ただ憧れるしかない。
想うだけの恋は想像以上に辛く、エルゥがやり場の無い溜め息をついた瞬間。
「エルゥ?」
突然、いつも焦がれている声がした。
振り返れば愛しい人。
「こんな所で何をしているんだ?」
「エフラムこそ」
「寝る前の散歩だ」
エフラムは明日、グラドに乗り込みに行く。
ひょっとすると戦いの好きな彼も彼なりに緊張しているのだろうか。
事前に他の仲間達に話していたので、エルゥが闇の樹海に帰る事はエフラムも知っている。
ミルラの事をお願いね、とエルゥが言うと、任せろ、と力強く告げる彼。
彼ならばミルラを預けても安心だとホッとする。
しかしそれっ切り、会話が途絶えた。
気まずくなった雰囲気を打破するきっかけが見つからず、エルゥは視線を下げる。
が、不意にエフラムが話しかけて来た。
「エルゥ……、話がある」
「なに?」
「この戦いが終わったら、ルネスに来て欲しい」
「は……?」
突然の頼み事に困惑するエルゥ。
ルネスに来いと言われても、自分が何かしたのかと疑問に思ってしまう。
どうして、と訊ねると、エフラムは少しだけ躊躇ってから口を開いた。
「単刀直入に言おう。お前の事が好きなんだ」
あまりにサラリと言い放った為、理解するまでに時間がかかるエルゥ。
今、彼は何と言ったか……。
好きだとか聞こえたが、誰を……お前とは自分の事だろう、きっと。
エフラムに、好きと言われた……自分が、今?
余りの展開に妄想が幻聴となって聞こえたのではないかと焦る。
エフラムは顔を上げたエルゥを見つめ、切り出した。
「お前に初めて会った時、お前はミルラを護ってボロボロだった」
竜石を失ってしまったミルラ。
エルゥは人相手に竜石を使うのを好まない為、昔から使えた闇魔法を駆使し、襲い来る兵士や荒くれからミルラを護っていた。
「あ、あれね。あんな汚い所見られたなんて、恥ずかしいな」
「確かにお前は傷だらけで、血や泥で汚れ切っていた。だが……」
そこで一旦言葉を切り、一呼吸置くエフラム。
「だが、それでもミルラを護ろうと俺達を睨み付けてくるお前を……」
大事な家族を護ろうと、瞳に強い意志を湛えて最後まで抗おうとする。
確かにあの時の彼女は、ボロボロで酷く汚れていたけれど。
「……美しいと思った。あの時のお前の強い瞳が忘れられない」
戦闘中、余裕が出来れば真っ先に目で追っていた。
無事だろうか、生きているだろうか心配で、ピンチに陥っていればすぐに助けに行きたくて。
戦いの最中何度も彼女を助け、また助けられ……。
いつしか、何も言わずにお互いの背中を任せられるようになっていた。
「エルゥ、俺は必ずグラドに勝って、お前を迎えに行く。お前さえ嫌じゃなければ、だが」
「……」
「俺と一緒になる事を前提に、ルネスに来てくれないか?」
「きゃっ!」
突然、2人のものではない別の声が聞こえる。
2人が驚いてその方向を見ると、ミルラを連れたエイリークが居た。
どうやら体を動かした拍子に、段差に躓いてしまったようだ。
「エイリーク……」
「す…すみません、兄上、エルゥ。盗み聞きするつもりでは無かったのですが……」
畏縮するエイリークの横では、ミルラが嬉しそうに笑っている。
何だかその笑顔に少々後ろめたい思いになってしまうエルゥ。
ミルラはそれを実に忠実に実行してくれた。
「エフラムから言ってくれたんですね」
「なに……?」
「姉様も、エフラムと同じ事を望まれていました」
「ミルラ!!」
ミルラに突っかかって行こうとしたエルゥは、エフラムによって引き止められる。
真摯な眼差しに見つめられて身動き出来ない。
どうしてもエルゥの口から聞きたいらしいエフラムは放してくれそうにない。
そして彼女の口から肯定の言葉が出るのには、そう時間はかからなかった。
おめでとうございます、と早速お互いの家族に祝福され、照れくさくなる2人。
「エルゥ、ありがとう。俺は必ずお前を迎えに行くからな」
「……分かった。待ってる」
エフラムを信じて微笑むエルゥ。
幸せな雰囲気に、みんな嬉しさでいっぱいだ。
「でも苦労するかもしれませんよ、エルゥ……。……いえ、義姉上ですね」
……あねうえ。
突然出て来たその単語に一瞬、頭が真っ白になってしまう。
あねうえ、エイリークの義姉。
そしてエフラムの義姉、な、訳ではなく。
エフラムの………。
「ま、待って! 気が早いよエイリーク!」
「何だエルゥ、その気は無いのか?」
俺はその気なんだが、とエフラムが憤慨の表情を作る。
エルゥは焦るが素直に言うのは照れくさい。
微妙に視線をずらしながら、あるけど……と小さく言う。
何だかおかしくて笑い合う4人。
これからの戦いにも希望が持てる気がして、次へ進む勇気となった。
この戦いが終われば、ここに居る4人はきっと家族となる。
新しい生活への期待に胸を膨らませ、翌日、彼らはそれぞれの道へと旅立って行った。
1/2ページ