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何故か突然スマブラの世界にやって来た、アイクの姉マキアート。
空気も文明も何もかも違う世界にやって来た事で体調を崩したのか、3日目でついに寝込んでしまっていた。
「うーわー、あたし自分がこんなすぐ体調崩すタイプとは思わなかったなぁ……」
「仕方ない。俺だって暫くは体調が優れなかったし、他の奴らもそうだったって言ってた」
特にマキアートは、いわゆる中世ファンタジーの世界からやって来た。
この辺りは空気も綺麗なのだが、街の方から多少は排気ガスだの何だのが流れて来る。
そんなものに慣れていないのではアイクの言う通り仕方ないだろう。
マキアートはつまらなそうに天井を見上げて溜め息をついた。
「暫くは大人しくしとかなきゃダメか。つまんないの」
「無理して悪くする訳にもいかんだろう、大人しく寝てろよ」
それだけ言い残すとアイクは医務室を立ち去っていく。
……立ち去る直前、仕事をしていたDr.マリオに、「姉貴に妙な真似するなよ」と、釘を刺して……。
その言葉に溜め息を吐いて手で顔を覆うマキアート。
まず有り得ない恥ずかしい勘違いを堂々と口に出してくれた弟が憎らしい。
ドクターは苦笑しつつ、そんなマキアートに声を掛ける。
「シスコンな弟を持つと苦労するよな。あれじゃあ気安くボーイフレンドも作れないだろ」
「はは……」
いつだったかアイクは突然あんな風になってしまった。
マキアートに近付く男には(相手にその気が無くとも)先手を打って牽制し、何とかして遠ざけようとする。
そんな、あそこまで弟に慕われるような事をした覚えのないマキアートには、一体どうしてこうなったのかと違和感と疑問ばかりが浮かぶ。
……そうやって弟の事を考えていたマキアートの耳に、自分を呼ぶ声が届いた。
すぐに医務室へ入って来た人物は……。
「あ、マルス君」
「マキアートさんが寝込んだって聞いて……大丈夫ですか?」
「ん。大した事ないよ」
笑顔で応えるマキアートにホッとしたマルスは彼女の傍へ歩み寄る。
瞬間、ドクターが何かを閃いたように手を打った。
「マキアート、いい機会じゃないか。アイクが居ない隙にボーイフレンドと親交を深めておけよ」
「え?」
「つー訳でマルス、マキアートの看病は任せた!」
「え!? ちょっと、ドクターっ!」
突然一方的に言葉を投げつけたドクターは、後をマルスに任せ、返事も来ぬうちに医務室を後にした。
マキアートもマルスも唖然とするばかり。
マキアートを看るべきドクターが居なくなり放置も出来ないマルスは、彼女のベッドの横に椅子を持って来て腰掛けた。
すぐ、マキアートが済まなさそうに話しかけて来る。
「ご、ごめんねマルス君」
「構いませんよ、暇してた所だったし。……あっと、別に暇だったからマキアートさんのお見舞いに来たって訳じゃないんですが」
逆に自分のフォローを始めるマルスにマキアートはクスリと笑う。
その笑顔を見て落ち着いたのだろう、マルスは弁解じみた自己フォローを終わらせた。
マキアートさんが寝込んだと聞いた時は驚いたと言うマルスにマキアートは、あたしって具合悪くして寝込むような女には見えないからねーと苦笑。
しかしマルスは真面目な表情でゆっくり首を振る。
本当に心配だったんですと、真摯な眼差しをマキアートへ向けた。
一瞬その視線に胸を高鳴らせたマキアート、何だか急に恥ずかしくなって目を逸らす。
そんな彼女を不思議に思いつつ、マルスが彼女の額に手を添えた瞬間。
「姉貴、ピーチ姫から菓子を貰って……」
お菓子が入った籠を持ったアイクが、医務室に入って来た。
マキアートの額に手を添えているマルスを見て時間が停止してしまう。
「……何やってるんだ?」
「え、な、何って。別に見た通りですけど。マキアートさんに熱出てないかなって計って……」
明らかに怒り出したアイク。
マルスは彼が怒っている理由が分からず、ただ狼狽えていた。
アイクはずかずか歩いて来ると、引っ込みがつかなくなってマキアートの額に当てられっぱなしのマルスの手を強引に引き離す。
何となくムッとしたらしいマルスが、彼を無視して再びマキアートの額に手を添えた。
「おいっ!」
「ん、熱は無いみたいですよ。良かったですねマキアートさん」
「良かったぁ、寝てばっかじゃつまんないもん」
マキアートはアイクの怒りを特に気にしていないようで、じっとしている事が苦手な自分を気遣ったマルスに素直に喜ぶ。
アイクはそれで更にイライラしてしまうのだが、ハッキリ言わなければ彼女には伝わらない。
「……姉貴。ほら、ピーチ姫から貰って来た菓子だ。食えよ」
「あ、サンキュー。ちょっと小腹が空いてたんだよね」
マキアートがお菓子の入った籠に手を伸ばすと、横から自然な動作でマルスが割り込んだ。
小分けになっている、チョコクリームを挟んだ薄いクッキーの袋を開けて彼女に差し出す。
どうぞ、と頬笑みを向けたマルスにマキアートは、紳士だねと明るい笑顔。
お菓子の袋を開けて中身を渡すのを紳士と形容していいのかは不明だが。
まぁ、つまりは誉めたいのだろう。
マルスも調子に乗って「光栄です、姫」なんて言いつつ恭しく礼をする。
マキアートは更に機嫌を良くして、マルスの持つクッキーを受け取ろうと手を伸ばすと……。
突然アイクがマルスの手にあるクッキーをぶんどり、マキアートの口に無理矢理押し込んだ。
「むぐっ! らにすんろ!?(何すんの!?)」
「美味いか」
「ん……美味しい!」
怒っていたマキアートも、お菓子の美味しさに鎮まってしまう。
姉貴は昔から色気より食い気だからな、とアイクは、このスマブラ界に居る他の誰も知らない情報を口にした。
姉弟で小さい頃から一緒に居た余裕が彼にはある。
が。
それに少しムッとしたらしいマルスが、割り込むようにしてマキアートに語り掛けた。
「マキアートさん、僕いつか貴女に、僕の世界へ遊びに来て欲しいんですよ」
「マルスの世界? いいね面白そう! テリウスとは違うんだろうなぁ」
「そうでしょうね。いつも同じじゃ飽きるでしょう、実現できたらいいですね……」
その会話を、アイクもムッとした表情で聞いている。
何か今の「いつも同じじゃ飽きるでしょう」と言う言葉、小さい頃から一緒だった事を自慢したアイクへの言い返しに聞こえる。
それにマルスの、故郷へ来て欲しい発言はプロポーズみたいなものだ!
※明らかに考えすぎ
取り敢えずお菓子で小腹を満たしたマキアートは、大きく背伸びをして就寝準備に入る。
「うーん、あと少しだけ大人しくしてるかぁ。無茶して拗らせるのも何だし」
「寝てた方がいいですよ。僕が付き添いますから」
ドクターも居ない状態なのでマルスの申し出は非常に有り難い。
だがしかし、いくら色気より食い気なマキアートとて、寝顔をじっくり見られるのは流石に恥ずかしかった。
まして相手が年頃の男の子なら恥ずかしさも倍増である。
「あー……。いいよいいよ、もう気分はスッカリ良くなったしさ。寝てる所をジッと見られるのも恥ずかしいし……」
「そうですか、なら仕方ないですね。行きましょうアイクさん」
突然退出を促されてアイクは面食らいつつも不満そうにした。
だがマルスは、女性が恥ずかしがってるんだから聞いてあげないと、と強く意見する。
まぁ別に危険は無さそうなので、1人にしても大丈夫かもしれないが。
姉の傍に留まろうとするアイクにマルスは強い口調で退出を要求する。
やがて彼は渋々マキアートの傍を離れ、マルスと共に医務室を後にした。
残されたマキアートは、これで安心して眠れると思った……のだが。
「やっぱ……、寂しい」
病気の時は、普段より強く孤独を感じるものだ。
やっぱり少しくらい恥ずかしくても、彼らに留まって貰えばよかったかと後悔し始めた矢先。
「姉貴」
「えっ……アイク!」
アイクがこっそりと戻って来てくれた。
正直に嬉しくなって、すぐに彼を招き入れる。
どうやらアイクは、マキアートが寂しがっていると見抜いたようだ。
「昔に熱を出した時もそうだったよな。親父たちも丁度居なくて、寂しいから一緒に寝ようって姉貴が言い出したんだ」
「あー、あったね、そんな事。だって本当に心細かったんだもん」
思い出話に浸る2人だが、そこそこにして休め、とアイクがマキアートを寝かせようとする。
マキアートも弟が相手なら恥ずかしくないのか、すぐベッドに横になった。
アイクがゆっくり頭を撫でて来るが、彼女にしては珍しく文句も抵抗も無い。
「へへ、なんか、子供の頃に戻ったみたい」
「……そうか」
アイクとしては、子供の頃みたいなどと言われるのは些か不満なのだが。
こうやって特別な事をしなくてもマキアートの傍に居られるのは、弟だからこその役得と言うものだろう。
子供の頃みたいだと言われるのも、小さな頃から一緒に居ると言う証で。
「……これからもずっと一緒だからな、姉貴」
「え? 何よ急に、びっくりするじゃない」
突然なアイクの発言に驚いて、軽く笑いながら応えるマキアートだが……。
アイクは真剣な表情をしていて冗談と言う訳でもなさそうだ。
マキアートもそれに気付いたのか軽い雰囲気を消しつつ、しかし明るい笑顔は崩さずに口を開く。
「うん。まぁ姉弟だからね……。一緒よ、ずっと」
姉弟だから。
やはり、まだ自分達はそうでしかないのだとアイクは強く思い知る。
しかし今はまだ、このままでいい。
一般の男と女の間にある面倒な気の使い合いをしなくても関係は変わらない。
何も考えずとも傍に居られるのが幸せで心地いいから。
やがて眠りに就くマキアートの手を、アイクはずっと握りしめていた。
*END*
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