Challenger
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この日を一日千秋の思いで待っていた、と言えば大袈裟かもしれない。
しかしカイリは、確かに長らく心の中で待ち望んでいたのである。
カイリはスマブラファイター達と戦う事になった。
勿論敵としてではなくファイター達にとっての目標としての存在だ。
そして今日、カイリは初めて実際に戦う。
「カイリ」
「あ、マスターハンド」
「君に挑戦する権利を得たファイターが現れたよ、初試合だね」
「いよいよ来たかあ……。シンプル戦の隠しボスとして、恥じない戦い方をしなくちゃね!」
カイリは目の前にモニター画面を出現させ、自分がファイター達と戦える条件を確認する。
今日からこれを日課にしようと考えていた。
そうすれば自分がどんな立場か……、常に強く在り、ファイター達が目標とする位置にいなければならない立場だと再確認できるから。
内容:シンプル
難易度:ゲキむず
条件:ステージ11までを9分以内にノーコンティニューでクリアし、後に出現したマスター&クレイジーを倒す
「よし、行こう!」
カイリは目の前の転送装置に乗り乱闘ステージの終点へ降り立った。
ファイター達は最近すっかり乱闘に慣れ、マスター&クレイジー撃破を達成した者も多くなった。
早い話、目標が無くなりかけていたのである。
そこでマスターとクレイジーは新たな目標として、クレイジー以上の隠しボスを用意したのだった。
そして作り出された存在がカイリである。
乱闘ステージの終点に降り立ったカイリは、初めての挑戦者を見た。
それは蒼い髪をした無骨な剣士……アイクだ。
アイクはカイリを見るなり、少々驚いた様子。
「女……?」
「なあに? マスター&クレイジーより更に強いって聞いたボスが、まさか女なんかでガッカリした?」
「いいや。ボスが右手で最初の隠しボスが左手、なら次の隠しボスは足か何かが出て来るのかと思っていたからな」
「なによ、それ」
カイリはアイクの発想に思わず笑ってしまう。
しかしここからは真剣な戦いとなる。
歴戦のファイターならば、相手が女だからと言って手を抜くような真似はすまい。
「私はカイリ、よくぞ来た挑戦者よ。全力で掛かって来るが良い!」
「……!」
雰囲気が一瞬にして緊迫したものになる。
かくして戦いは始まったのだった。
結果は……ストックを3つ残していたにも拘わらずアイクの惨敗だった。
アイクはステージに戻って来るとカイリと戦士としての握手を交わす。
「強いな、さすが難易度ゲキむず専用の隠しボスといった所か」
「まあ折角の隠しボスが弱くちゃ張り合い甲斐が無いでしょう。また技を磨いて挑戦しに来てね」
そう言って笑うカイリはどう見ても、マスターやクレイジーと同じ存在だとは思えないアイク。
自分達と同じ、異世界から召集されたファイターのような気がしてしまう。
「あんたは、この仮想空間からは出ないのか?」
「え、出れないわよ、私はあなた達の新たな目標となるべくマスターに作られたんだもん。終点でファイターと戦うのが私の存在意義なの」
「そうか、乱闘ステージの外の世界には、色んな物があるんだが」
「えっ、何それ! ねえ、良かったら外の世界の話を聞かせて!」
目を輝かせるカイリを見ていると無下に断る事も躊躇われる。
時間なんて幾らでもある事だし、アイクは外の世界の事を話し始めた。
日が昇り、暮れ、沈み夜が来て、また日が昇る。
花が咲いて枯れ、季節が変われば同じ場所でも景観や気温や湿度が変わり、季節ごとの食べ物や動物が代わる代わる現れる。
そんな当たり前の事でさえ、乱闘ステージ、特に終点から出られないカイリには夢のようだった。
自然の話や様々な土地、まだカイリも会った事が無いファイターの話。
その全てにとても楽しそうに耳を傾ける。
「で、折角用意した料理をカービィが食べてしまって大騒ぎになってな、また遠くの街まで買い出しに行ったり大変だった。実は俺もこっそりつまみ食いしたんだが、少しだったからバレなかったな」
「あはは、酷い! バレたら大変じゃないの?」
「まあ大丈夫だろう、その時はその時だ」
「おーい二人とも、シンプルの挑戦者が現れたから、そろそろ話はやめにしてくれないかー?」
話の途中で現れたマスターハンド。
どうやらシンプルでマスターへの挑戦者が現れたらしい。
難易度はふつうで、カイリの出る幕はない。
「じゃあ、そろそろ帰るとするか。カイリ、また強くなって来るぞ」
「待ってるよアイク!」
戦いは勿論の事、また外の世界の話を聞きたい。
カイリはそんな期待を込めて、帰るアイクを見送った。
++++++
それから2ヶ月ほど経ち、カイリへの挑戦権を得るファイターも増えた。
アイクの3日後にカイリへ挑戦したリンクが、今度の隠しボスは可愛い女の子だったと言い触らしたので、ファイター達のモチベーションが上がったらしい。
だがそんな中でも、一番定期的にカイリに挑戦するのはアイクだ。
週に2回は必ず難易度ゲキむずを選び、見事カイリへの挑戦権を得る。
まあまだ一度も勝利できていない訳だが……。
そしてカイリも、アイクの挑戦が他の誰より楽しみになっていた。
ファイターの中でもトップクラスの強さな上、会う度に実力を上げている。
そして何より戦った後にアイクと話すのが楽しくてしょうがないのだ。
そして今日もアイクはカイリへ挑戦し、惜しい所で敗れた所である。
「くそっ、もう少しだったんだがな」
「でもアイク格段に強くなってるじゃない。前はストック3つでも惨敗してたのに、今は私も負けそうだったもん」
「次に来た時は絶対に勝ってやるから覚悟していろよ、カイリ」
本当にそうなりそうな気がして、自分ももっと技を磨かなければと気を引き締めるカイリ。
段々と差を縮められているのだが、このまま負ける気などさらさら無い。
まあそれはそれとして。
「アイク、今日も外の世界の話を聞かせて!」
「その事なんだがな、カイリお前、この際ここから出てみないか?」
「えっ……。でも私ここから絶対に出ちゃ駄目だって、マスターハンドに言われてるから行けないよ。それに挑戦者が来るかもしれないし」
「ファイターの奴らもお前に会いたがってるんだ。まだ会った事の無い奴も居るし、会った奴も戦いしかしてないし」
だからファイター全員で示し合わせて、今日は挑戦には来ないらしい。
ファイター達が自分に会いたがってくれている事、何よりずっと憧れだった外の世界へ出られる事に、カイリは好奇心を抑える事が出来ない。
一日だけならと、カイリはマスターハンド達に内緒で外の世界へ出る事にした。
乱闘ステージから出る転送装置にアイクと乗る。
ドキドキと高鳴る心臓、絶対に乱闘ステージから出ては駄目だとの言い付けを破ってしまうからか、緊張してしまって思わずアイクの手を握ると、アイクは何も言わずに握り返してくれた。
転送装置の光に包まれ、ふっと体が消える感覚。
次の瞬間には移動してピーチ城に着いていた。
……アイクが異変に気付いたのは、すぐだった。
確かにカイリの手を握っていたのに、急に感触が消えてしまう。
驚いて隣を見ると、苦しそうに座り込んだ彼女は消えかけた映像のようになっていて、手を差し伸べても触る事が出来ない。
「おい、カイリ!」
「なに、っこれ……っ」
「どうなってるんだ、消えかかってる……!?」
仲間達の元へ連れて行きたくとも、乱闘ステージへ帰したくとも、触れる事が出来ないので抱える事さえも出来ない。
カイリは段々とノイズが掛かった映像のようになって行き、やがて口を動かしているのに声も聞こえなくなってしまった。
「カイリ、消えるな! 俺はただお前に、この世界を見せたくて……!」
アイクの悲痛な叫び声に気付いた仲間達が次々と集まって来る。
やがて騒ぎが伝わったのかマスターハンドがやって来て、カイリを乱闘ステージへ強制転送させ事なきを得た。
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