夢と現
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※拙作のスマブラ長編夢【グランドホープ】の番外編的内容ですが、これ単体でも一応読めます。
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「きつーい、あつーい」
「大人しく寝てなよ……」
まるで夢小説のヒロインのように異世界転移して、任天堂キャラも住んでいる未来都市にやって来て暫く。
色々あってアパート(50階建ての高層)で一人暮らしをしていた私は、運悪く発熱で寝込んでいた。ピカチュウが居てくれてほんと助かった、独身恋人なし一人暮らしの病気って寂しいからね!
「バイト先には病欠の連絡しといたからね」
「助かる、ほんと有難うピカチュウ……!」
「有難いと思ってるなら早く寝て治すんだよ。……しかしボク一人じゃ碌に面倒も見られないな……」
買い物ならネットで注文すれば配達してくれる。だけど小さなピカチュウでは万一があった時に対応できないかもしれない。
まあ一人暮らししてる人は全員そんな危険がある訳で、寧ろ私はピカチュウが居てくれるだけ幸せだ。
「いいよピカチュウ、居てくれるだけで」
「うーん……」
「じゃあ寝るね、おやすみー……」
いい加減に具合の悪さが悪化して来たので、大人しく寝る事にする。発熱で疲れていたのかすぐに睡魔が襲って来て、私は程無く眠りに落ちた。
それからどれくらい寝ていたのか、私は誰かの話し声で目を覚ます。ピカチュウがどこかに電話してるのかな……ぐらいに呑気に思っていた私は、目を開けた時 真っ先に綺麗な蒼が飛び込んで来て疑問符を浮かべる。何だっけコレと思いながら上体を起こすと、その正体に気付き一気に固まった。
私のベッドの横、椅子を持って来て座っているその人物は。
「……アイク、さん……?」
「起きたかコノハ」
あれっ。
あれあれあれあれ。
あれーーーーーっ。
「私もしかして幻覚見るほど熱出てる?」
「どうだピカチュウ」
「んー……熱はさっきより下がってるね。あー良かった」
いつの間にかピカチュウが私の脇に体温計を挟んでいたらしく、温度表示を見て安堵の意図を吐く彼。
っていうか私、今めちゃくちゃパジャマなんですよねえ。ピカチュウが体温計を使う為か首元がはだけていてヨレヨレだし。熱が出て寝込んでいたからだらしない髪と顔の筈だし、当然ながらスッピンで何なら顔も碌に洗っていなくて。そんな所を憧れの任天堂キャラかつ超絶男前のアイクさんに見られている訳で。
「コノハ、気分は悪くないか?」
「今すごい絶望を味わってる」
「大丈夫か……まだ具合が悪いなら看ててやるから寝てろ」
待て待て待て待て。
これ以上 恥をかかせないで頂きたい。
こんな酷い状態の私を見られた上、更に見続けると申すのですか。凡顔凡人の私だって夢女だし一応は乙女な心を持っているのですよん。
「もう大丈夫ですピカチュウも居ますのでご足労頂いて申し訳ないですお仕事でお忙しいでしょうにほんとすみませんお帰り下さい」
「これもしかして追い出されようとしてるか?」
「コノハは嬉しくて照れてるだけだよ。ねーっ」
ピカチュウの「ねーっ」から妙な圧を感じるのは気のせいだろうか。
嬉しいかって問われれば確かに、アイクが付き添ってくれるとかそれドコの夢小説なの嬉しいーってなるけど、私は夢小説や乙女ゲームの主人公みたいな美少女ではない訳で。病中かつ寝起きの酷い状態を見られてノーダメージな訳が無い。
「……アイクさん呼んだのピカチュウ?」
「うん。ボク一人じゃコノハに何かあった時に不安だし、頼りになってコノハがときめく人物って言えば彼かなっと」
「ヘェーーイ!」
ときめくって言っちゃってるんじゃないよ確かにときめくけどバレたくないに決まってるでしょおぉぉ!!
不安になってアイクを見ると、彼は笑顔を見せて小さく笑っている。こんな時にこんな格好を見られて絶望していたのに、その姿を見ただけでキュンとしてしまった。現金すぎるぞ自分。
「そうか、コノハは俺をそういう風に思ってくれてるのか」
「いややややや、あ、いやって別に否定じゃなくて、確かにその何というかその通りなのですがちょっとあのその、心臓が持たないと言いますか落ち着けないと言いますか」
「そんな事ないだろ、俺をよく見ろ」
よく見ろったってよく見たら余計に心臓うるさくなって落ち着けないに決まってるでしょ自覚無いのかこのイケメンがっ!!
なんて心中で悪態をついてみても逆らえない。恐る恐る視線を合わせてよく見てみると、ふと不思議な安心感に包まれる。
……あれ、なんか落ち着いて来た。
「……何かしました?」
「何も」
そうだよね、何もしてないよね。
アイクをじっと見ていると落ち着いて、心が穏やかになって。頼れる人って見てるだけで落ち着けるんだろうか、凄いね……。
「喉は乾いてないか? 冷蔵庫に何か……」
「あ、それならペットボトルのスポーツ飲料があるので」
「持って来よう」
私の部屋はワンルームだけどそこそこ広く、玄関から廊下を通って部屋に入る。ちょっとL字っぽくなってて玄関からすぐベッドとか生活空間が見えないの有難いよな~、トイレとお風呂も廊下の方にあるから部屋がスッキリしてるし。これ40平米以上はあるんじゃないかな……契約してくれたのピーチ姫だし広さ分からんけど。
同室にあるキッチンは一応ベッドとの間をシェルフで仕切っていて、冷蔵庫に行ったアイクの動きはよく見えない。
「大したものありませんけど、お腹空いたら何でもつまんで良いですよー」
「大丈夫だ、腹は減ってないし独居病人の蓄えを減らすほど無体な事はせん。水ぐらいは貰うかもしれんが」
独居病人って言われた。一字違わず正解だけど。
アイクはすぐにペットボトルのスポーツ飲料を持って来てくれる。お礼を言いつつ手を差し出したけど、私の手に来ると思ったペットボトルはアイクの手の中で蓋を開けられた。あら蓋 開けてくれたのね優しい……と思ったのも束の間、そのまま飲み口を口元に持って来られる。
「んぇ?」
「飲むんだろ?」
「……」
私の口に突き付けられた飲み口。その飲み口のペットボトルを持っているのはアイク。
……飲ませて、貰えと?
「……えっと」
「どうしたコノハ、熱があるし汗もかいてるだろうし、水分補給はしておけ」
「そこまで重病人では……」
「はい飲むー」
「ピカチュむぐっ」
突然 横からピカチュウが入って来て、ぐいっとペットボトルを私の口に押し込んだ。突っ込んだらすぐ離れてしまい結局アイクに飲ませて貰う形になってるけど……。
いやこれ恥ずかし過ぎんか!? なんかちょっと口から零れてるし!
「ぷはっ」
「もういいか? 足りないならもう少し……」
「だい、大丈夫です、もう十分」
「そうか。サイドテーブルに置いておくから、また飲みたくなったら飲めよ」
最初からそれで良かったのでは。
アイクは私の濡れた口と零れて顎に伝った水分を指で拭うと、ペットボトルの蓋を閉めてサイドテーブルに置き……。
待て。
今アイクさん何した?
私の口と顎を自分の指で拭いた??
つまり私の唇と、ついでに顎も、ばっちり触られ……。
「……今の、やめといた方がいいですよ」
「何を?」
「わ、私の、口、指で拭いたの……いや私は別に怒りませんよセクハラだ何だと騒ぐ気は無いんで。だけど、他の人だと通報されかねないので……」
「じゃあ心配は無いな。お前にしかせん」
私めっちゃ熱あるみたいだなァァーーッ!!
これあれじゃん夢じゃんドリームノベルじゃない方の寝てる時に見る夢じゃん多分現実の私は今頃高熱で魘されながら寝てるんでしょーーーッ!!
とか叫びたくなるのを必死で抑えた。絶対に熱とか関係なく顔が赤くなってるだろうなと思うと、恥ずかしさで更に熱くなる悪循環。
ふと横を見るとピカチュウがにやにやとこちらを見ていた。おのれピカチュウよくも貴様グッジョブ後で覚えてろよ有難うこんな恥ずかしい思いをさせるなんて嬉しいな。
怒りと感謝が混ざって自分の感情がどこにあるのか分からない。そこで完璧にキャパオーバーを迎えた私は、もう全てを忘れて寝る事にした。
「すみません、寝ます」
「ああ、暫くは居るつもりだから安心して休んでろ」
「イビキかいたら問答無用で叩き起こして下さい」
「俺は気にせんぞ」
「私が恥ずかしくて嫌なので」
「分かった」
布団を被って目を閉じる。少々寝付き辛さを感じていると、アイクが布団の上から優しく叩いて寝かしつけてくれる。心地良い強さとリズムに、次第にうとうとし始めた。
たまに心臓に悪いけれど何だかんだ、居てくれると安心するし落ち着く。目を瞑って眠りかけながら、建前があまり利かない状態でついアイクと会話してしまった。
「いつまで、居てくれますか」
「少なくともお前が快くなるまでは」
「じゃあ快くならなくていいかも、なんて……バカだな私、なに言ってるんだろ」
「お前が快復しても傍に居てやりたい所なんだが」
「ふふ……意外とタラシなんですかアイクさんって」
「こんな事、コノハにだけだ」
「やばい惚れそう」
「良いぞ、惚れても」
小さく笑って優しく言うアイクの声も、既に子守唄のように感じてしまう。
あぁもうダメだ、寝る。
おやすみなさい、なんて小さく言うと、おやすみ、って返してくれるのが嬉しくて。私はその幸せに包まれたまま、眠りに落ちた。
*END*
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