降参です!
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一体なにがあったのだろうと、マキアートは怪訝な表情を浮かべていた。
と、いうのも、今朝から弟兼恋人のアイクが、妙にそわそわした様子で自分を見て来るからだ。
別に何か特別な事をした覚えはなく、いつも通りに日々を過ごしているつもりなのだが。
あの暴走気味な弟の事、普通にしていても何かいちゃもんを付けて来るに違いない。
「(そうよ。この間だってあたしはいつも通り魔道書の黙唱をしてただけなのに、姉貴が色っぽい雰囲気を出してるのが悪いとか、勝手に言った挙げ句押し倒して来たし……)」
そんな事を考え、何だか情けなくなったマキアートは溜め息を吐いて恥ずかしい追憶を押し込めた。
アイクに何があったかは知らないが次こそは奴の我が儘に付き合わないと、そう強く心に誓う。
まだ感じる落ち着きの無い視線をかわし、その場から立ち去るマキアート。
久し振りの休暇に、今日は暇を持て余しつつノンビリ過ごすつもりでいる。
「(でもやっぱり何かあったのかなぁ……。あいつ自分の事に関しては、あんまり甘えたりしないから気になるな……)」
マキアートは、アイクがあの妙な視線をやめたら訊いてやろうと決め込んだ。
その日の昼下がり。
洗濯物などの雑事を終えたマキアートは、ミストとヨファがばたばたと慌てて食材をキッチンへ運んで行くのを見つけた。
こっそり付いて行ってみれば、オスカーが夕食の準備をしている。
入り口に突っ立ってその様子を見ていたが、何だかいつもより料理が豪華な気がして来た。
気になって、キッチンに入り問い掛けてみる。
「ねぇ、今日はちょっとご馳走じゃない? 嬉しいけどさ、あんまり意味なく無駄使いしたらセネリオに怒られちゃうよ?」
「やだお姉ちゃん、忘れちゃったの? 今日はお兄ちゃんの誕生日なんだから、セネリオは怒んないって」
「……へっ?」
誕生日?
アイクの?
ハッとして、今日が何月何日だったか思い出す。
間違い無い、確かに今日はアイクの誕生日で……。
彼がそわそわしてマキアートを見ていたのは……。
「うっわ、やっばい、すっかり忘れてた!」
「はは、最近忙しかったから仕方ないよ。思い出したならいい、ちょっと手伝ってくれないかな」
オスカーの申し出に慌てて手伝うマキアート。
だが、こんな事をしている場合ではない気がする。
……なんか、嫌な予感が。
その日の夕食は最近仕事続きだった傭兵団を和やかにさせてくれた。
だがマキアートは、恐らくこの後待ち受けているであろう事を考えると、せっかく料理上手なオスカーが腕を奮ってくれたご馳走も気楽に味わえない。
ささやかなアイクの誕生日祝いを終えた後、逃げるように自室へ戻る。
が、恐怖の時間は思ったよりすぐやって来た……。
「……姉貴」
「わっ! ややややあアイク青年、お誕生日、誠におめでとうございます」
「何を畏まっているんだ? ほら、俺の目を見ろよ」
「見たら逃げられなくなるからお断りします」
「見なかろうが逃がす訳ないだろ。姉貴は俺のものなんだ、今すぐ欲しい」
可能な限り目を逸らしていたマキアートに堂々と近寄り、アイクは強引に肩を掴んで彼女を押し倒す。
誕生日を忘れていた引け目もあってか、マキアートが上げた悲鳴は、実に控え目で意味ない物だった。
「どうせ俺の誕生日を忘れてたんだろ。記念には姉貴を貰うからいいとして……地味にヘコんだぞ」
「……なんか、本当にごめん。言い訳だけど最近忙しくって……っつーか」
“記念には姉貴を貰う”?
「あ、えっと、その、あのねアイク青年……」
「謝っても無駄だ。だって姉貴が俺の誕生日を忘れていようがなかろうが、姉貴を貰うつもりだったからな」
「いや、だから……」
「欲しい。姉貴が欲しい今すぐ欲しい、姉貴を全部愛したい、今すぐ」
押し倒した状態のまま至近距離で見つめつつ、真っ直ぐな言葉で想いを伝えて来るアイク。
恥ずかしくなって顔を朱に染めながら、マキアートは何かを言おうとする。
だがアイクはそれを許さず、マキアートに唇を重ね口答えを封じてしまった。
それから後は……もうアイクに与えられる愛情と快感に、いっぱいいっぱいで抵抗など不可能になるマキアートだった……。
翌朝、やたら疲れたようなマキアートと、何やら血色の良いアイクが、1つのベッドの中でだらだらと惰眠を貪っていた。
「あ、あんたねぇ……。誕生日だからって、調子に乗らないでよね」
「誕生日だからじゃない、姉貴が可愛いからだ。愛しすぎる姉貴が悪い」
「また責任転嫁!? 図体ばっかり大きくなって本当に子供なんだから!」
「姉貴に対してだけな」
何か妙な特別扱いだが、それでも心の隅で嬉しく感じるのだから、確かに自分も悪いかもしれない。
自分にだけ甘ったれる大きな弟にマキアートは、たぶん一生勝てないだろうなと、心中で白旗を上げた。
*END*
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