二人だけの秘密
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
平日の夕方、エプロンをつけた秀一とラウラは、大量のじゃがいもを前に両手を広げた。
「……これより、コロッケ作りを開始します。執刀医は赤井秀一、指導医は篠宮 ラウラです。よろしくお願いします。」
「ご指導よろしくお願いします。」
まるで手術を始める時のような口上を述べたラウラは、思った以上にノリノリな秀一を見て笑った。秀一は親しい間柄限定だが、意外とノリがいいのだ。
「まぁおふざけは置いておいて〜。まずじゃがいもの皮を剥きまーっす」
「…全部か?」
「当たり前じゃない。折角作るんだから多めに作って明日の朝も食べるのよ。」
「わかった。」
言い出しっぺの秀一に抗う術はない。
スーパーの惣菜コーナーで売っていたコロッケを見て、「コロッケは作ったことがないな」と思ったのだ。料理の楽しさを充分に知っている秀一は、当然自分の手で作ってみたいと思った。
それを隣にいたラウラに言うと、ラウラはいい笑顔でじゃがいもを一袋カゴの中に入れた。
中サイズ5個のじゃがいもの皮をひたすら剥き続ける。全ての芽を丁寧にくり抜き、土で手やじゃがいもが汚れるのを水で流しながら剥き続ける。まずこの時点で思うところがある。
「そしたら火が通りやすいように切って、茹でる!」
「わかった。全部潰すんだろう?」
「そうよ。でも微塵切りはやめてね? 微塵切りしたかったら後でやらせてあげるから♡」
そう言ってラウラが持ち上げたのは、丸々とした玉ねぎだ。秀一は苦い顔をして見せた。
秀一は奴に散々苦しめられてきた。奴の目潰し攻撃は非常に厄介で、ゴーグルをしても意味がないのだ。鼻呼吸をすれば涙点から攻撃され、目を開けようものなら針に刺されたような痛みが走る。対処法とすれば、浅い口呼吸か呼吸を止めることだけだ。慣れれば微塵切りでない限り大丈夫なようだが、修行が足りない秀一はラウラのように目をぱっちりと開けて薄切りすら出来ない。
まさに秀一の天敵である。(※違います)
「Dammit!」
しかも今回はよりにもよって微塵切りである。悪態のひとつやふたつ、吐きたくなるのも無理はない。
「……Oh!!」
「あっはははは!!」
やはり目にきたのか、腕で目を押さえて唸る秀一に、ラウラの笑いが止まらない。
大抵のことは涼しい顔して終わらせる秀一が、まさか玉ねぎに苦しめられているとは誰も思うまい。この姿を知っているのはラウラだけである。
「……終わったぞ…」
数分後の秀一は、歴戦の戦士のように眉間に深い影を作っていた。
「じゃあこれをバターで炒めます。その次はひき肉ね。」
「わかった。」
熱したフライパンにバターを入れ、なじませてから微塵切りした玉ねぎを入れる。焼き色がついてきたら挽肉を入れ、塩胡椒などの調味料を入れて味を整える。
そうしている間にじゃがいもが茹で上がるため、マッシャーで潰していく。
「芋の形が残っている方がいい? それともなめらかな方がいい?」
「なめらかな方が好みだ。」
「じゃあ頑張って!!」
ボウルに入っているじゃがいもは原型をとどめている。つまり、なめらかには程遠い。
「……ホォー」
これを潰していくのである。だがマッシャーを使っていることと、じゃがいもがかなり柔らかくなっていることもあり、時間もかからず潰すことに成功した。
「じゃあひき肉たちと混ぜるよー。そしたら成形ね!」
混ぜ合わせていくと、ようやくコロッケに近付いてきた気がした。だが、本番はここからである。
「成形するんだけど、多分まだ熱いから冷まします! その間にお味噌汁作ろっか!」
「了解した。」
獲物を前にした状態でのおあずけである。ごはんを前にしてラウラの許可を待つバディの気持ちがわかった気がした。同時にバディはラウラの許しがないと絶対に食べないので、素直にすごいなと秀一は思った。もちろん秀一もラウラの許可なく次の工程にはいけないので、大人しく味噌汁を作る。
味噌汁ができる頃にはタネもすっかり冷めていた。まずはラウラが手本を見せる。
「小判型にするの。ハンバーグと同じね。そしたら一度このお皿に置いてね。」
「揚げないのか?」
「衣をまだ付けてないもん。」
「…あぁ、そうだったな。」
秀一は揚げ物こそ初めてではないが、パン粉を使った揚げ物はやったことがない。唐揚げの片栗粉くらいしか経験がないのだ。故に秀一はこの先絶望することとなる。
「よし、じゃあ揚げよう!」
用意されたのは三つの皿。それぞれ小麦粉、溶き卵、パン粉が入っている。
「……みっつ…だと!?」
「あれ、知らなかった? トンカツとかも同じだよ。エビフライも。」
「……、」
唐揚げに片栗粉をつけるだけで指も作業台も粉まみれ、下手したらコンロにまで粉を撒き散らす秀一には、どう頑張っても綺麗にできる自信がなかった。小麦粉だけならまだいい。その後に溶き卵とパン粉が待っているとは一体どういうことだ。
そんな弱音を口に出さずに飲み込んだ秀一は、勢いのまま小麦粉をつけたコロッケを溶き卵の海にダイブさせた。
「溶き卵ちゃんとつけないとパン粉が付かなくて、そうするとそこだけ焦げるから気を付けてね」
だがつけすぎるとパン粉の中に卵が落ちる。うまくいかない。秀一は両手をコロッケと同じようにコーティングしながら、ようやく一個目のコロッケを鍋に入れた。
「……ようやく一個、か…」
秀一の視線の先には皿に積まれたコロッケたち。衣を纏って揚げられるのを今かと待ち構えている。
「……手伝ってくれ。」
「あはは!! いいよ、初めてのコロッケなんてこんなものよね」
「ラウラもそうだったのか?」
「うん。秀一と同じように両手をコーティングしながらやってたよー。」
ラウラは左手を溶き卵、右手をパン粉係にすると、手際良く衣をつけていった。左から右に次々とコロッケが流れていく。
秀一は一度手を洗い流すと、ラウラと同じように左手と右手を分けて動かした。ラウラのようにはいかないが、最初よりも随分とスムーズに揚げられるようになった。だがこれでも揚がったコロッケを鍋から取り出す手が足りないので、そこはラウラが行った。
「「いただきます」」
粉まみれの作業台を片付け、爪の中にまで入った粉を取り除き、洗い物したことによって詰まった排水溝を軽く掃除し終わった頃には、秀一はある決意を固めていた。
「……コロッケは二度と作らん。」
秀一の決意は相当固いため、きっとこれは秀一が作った最初で最後のコロッケとなるだろう。
20/20ページ
